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第12章 私を見つけるための旅
47 進化の証
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「はぁはぁ……ここまで来れば大丈夫じゃろ。すまんが少しだけ休ませてくれ」
「ああ……申し訳ないが俺も少し休みたい」
レイヤとルイスの二人を救出した私たちは少し離れた場所にある岩陰に身を潜めていた。
二人を抱えて全力で走っていたギルドマスターは、体力的に限界がきたようで肩で大きく揺らしながら息を整えている。
隣で岩によりかかりながら休んでいるアルトも戦闘で気を張っていたせいか消耗が大きいようだった。
「最後の魔術は目くらましの効果もありますが、ある程度の魔物であれば倒しきれるはずです」
あの戦いで、私が最後に使った魔術は聖属性の上級に分類される広範囲殲滅魔術で、肉体を壊すことなく魔力によるダメージを与えるものだった。今の私の魔力では発動に時間を掛ける必要があるが、隠れ家に置いてあったラティアーナの魔力が込められている宝石を使うことで瞬時に発動させていた。
「だが、あれくらいではディザスター・ディストラベアは倒せんじゃろう。このまま逃げ切れることができればいいんじゃが……」
「……難しいかもしれませんね」
ディザスター・ディストラベアの放つ凶悪で強大な気配が近くをウロウロとしていた。一度捕まえた獲物か縄張りに入り巣を荒らした私たちか、もしくはその両方を狙っている可能性もある。
「レイヤとルイスの身体はどうだ?もし目が覚めれば逃げやすくなるんじゃないか?」
アルトが期待する目で私を見るが無理だと首を横に振る。
「無理だと思います。簡単に治療はしましたけど、傷以上に衰弱がひどいです。できる限り早くきちんとした治療を受けさせないと」
意識を失っているレイヤとルイスの二人は、顔色がとても悪く呼吸も浅い状態だ。聖属性の治癒魔術でも失った血はすぐには戻らず、ここまで衰弱していると体力の回復も難しい。命の危険が大きいわけではないが安心できる状態でもなかった。
「仕方あるまい……上手く隠れながら深域を出ることができれば……」
「いや、どうやらもう手遅れみたいですね」
ウロウロしていた気配が私たちの元に向かってゆっくりと近づいてくる。それは強烈な殺気を撒き散らしていて私たちの存在に気づいたのだろう。
「仕方あるまい。逃げれんのなら戦うしかないじゃろうて。アルト、お前がレイヤとルイスを守れ」
ギルドマスターはそう言葉にすると大きな魔力を全身に纏う。そして、仕込み杖からレイピアを抜いて剣先に魔力を収束させていく。
同時に私も魔術を複数展開する。
辺り一体の大気中に漂う魔力を私の元に集束させて氷へと変換し長さが二メートルにも及ぶ槍を生成した。
「来るぞ!」
私たちの高めた魔力に反応したのかディザスター・ディストラベアが木々を飛び越えて上空から降ってくる。
ギルドマスターは空を一瞥し振り下ろされた爪に向かってレイピアを突き出した。
「ぬんっ!?」
ギルドマスターのレイピアは、ディザスター・ディストラベアの爪を砕いて腕にまで深々と突き刺さる。だが、ディザスター・ディストラベアとまともに迎撃したギルドマスターも無事ではすまなかった。後方に大きく吹き飛ばされて大木に衝突した彼は、辛うじて原型を留めている右腕をぶら下げて苦悶の表情を浮かべている。
私はそれを一瞥すると発動させていた魔術を放った。生成した大きな氷の槍を高速で回転させて弾丸のように撃ち出す。
ディザスター・ディストラベアは咄嗟に身体を捻り、心臓を穿つはずだった氷の槍は僅かに狙いを逸らし左肩を貫くだけに終わった。
私は跳躍して大きく下がると、近くでヨロヨロと立ち上がろうとしているギルドマスターの様子を窺った。
「正面からでは無理そうですね。まだ動けますか?」
「問題ない……まだ左手も両足も頭も全身も残っておる。たとえ、この老骨が朽ちようとも……お主たちだけは必ず街まで届けるとも!」
ギルドマスターは額に汗を浮かべながらも、雄叫びを上げながら向かってくるディザスター・ディストラベアを止めようと立ち塞がる。振り下ろされた右手に対してギリギリのところで横に跳んで避け、無事な左手で殴りつけた。
しかし、硬い表皮を傷つけることはできずに拳が真っ赤に染まり腕が変な方向に折れてしまう。
けれど、ギルドマスターは脂汗を流しながら笑みを浮かべた。
「つぅ……流石に拳では歯が立たぬか。じゃがっ!」
「ええ。ありがとうございます」
ディザスター・ディストラベアはほんの数秒だけ動きを止めた。それは、戦いにおいては致命傷となる時間で、仕掛けた側にとっては十分な隙となる。
私は杖の先に魔力を集めた。ディザスター・ディストラベアの胸の近くを目掛けて、集めた魔力ごと杖の先を叩きつけるようとする。同時に下級の加速魔術や重力魔術を行使して遠心力を加速させ、さらに力のある言葉を呟いた。
それは大陸の共通語ではなく桜花皇国の言葉の源流となったもの。プレアデスに少しずつ教えてもらっている精霊の言葉だ。
「重撃」
魔力が乗った精霊の言葉は、見えないだけで大気中の至る所に存在している自我を持たない下位精霊に魔力と指向性を与えることになる。
これこそが桜花皇国で霊術と呼ばれているものだった。
かつて紫陽が使った霊術と同じ効果をもたらしたこれは、杖にかかる重さを倍加させる。いくつもの力が乗じた杖は、罅が入りながらもディザスター・ディストラベアの胸に陥没させた。
ここにきて初めて悲鳴のような雄叫びが上がった。
そして、杖の先に込めた魔力を一気に解放する。ローエンディッシュから教わった魔力の波長を変えることによる攻撃。浸透と反発によって、私の魔力をディザスター・ディストラベアの体内に送り込み敵の魔力と反発させて内部から破壊する一撃だ。
これらは、私が生まれ変わってから数多の出会いの中で身につけてきた進化の証でもある。
次の瞬間。
私の想像以上の魔力が体内から吹き上がり、膨大な魔力が炸裂し、私は浮遊感に包まれた。
「ああ……申し訳ないが俺も少し休みたい」
レイヤとルイスの二人を救出した私たちは少し離れた場所にある岩陰に身を潜めていた。
二人を抱えて全力で走っていたギルドマスターは、体力的に限界がきたようで肩で大きく揺らしながら息を整えている。
隣で岩によりかかりながら休んでいるアルトも戦闘で気を張っていたせいか消耗が大きいようだった。
「最後の魔術は目くらましの効果もありますが、ある程度の魔物であれば倒しきれるはずです」
あの戦いで、私が最後に使った魔術は聖属性の上級に分類される広範囲殲滅魔術で、肉体を壊すことなく魔力によるダメージを与えるものだった。今の私の魔力では発動に時間を掛ける必要があるが、隠れ家に置いてあったラティアーナの魔力が込められている宝石を使うことで瞬時に発動させていた。
「だが、あれくらいではディザスター・ディストラベアは倒せんじゃろう。このまま逃げ切れることができればいいんじゃが……」
「……難しいかもしれませんね」
ディザスター・ディストラベアの放つ凶悪で強大な気配が近くをウロウロとしていた。一度捕まえた獲物か縄張りに入り巣を荒らした私たちか、もしくはその両方を狙っている可能性もある。
「レイヤとルイスの身体はどうだ?もし目が覚めれば逃げやすくなるんじゃないか?」
アルトが期待する目で私を見るが無理だと首を横に振る。
「無理だと思います。簡単に治療はしましたけど、傷以上に衰弱がひどいです。できる限り早くきちんとした治療を受けさせないと」
意識を失っているレイヤとルイスの二人は、顔色がとても悪く呼吸も浅い状態だ。聖属性の治癒魔術でも失った血はすぐには戻らず、ここまで衰弱していると体力の回復も難しい。命の危険が大きいわけではないが安心できる状態でもなかった。
「仕方あるまい……上手く隠れながら深域を出ることができれば……」
「いや、どうやらもう手遅れみたいですね」
ウロウロしていた気配が私たちの元に向かってゆっくりと近づいてくる。それは強烈な殺気を撒き散らしていて私たちの存在に気づいたのだろう。
「仕方あるまい。逃げれんのなら戦うしかないじゃろうて。アルト、お前がレイヤとルイスを守れ」
ギルドマスターはそう言葉にすると大きな魔力を全身に纏う。そして、仕込み杖からレイピアを抜いて剣先に魔力を収束させていく。
同時に私も魔術を複数展開する。
辺り一体の大気中に漂う魔力を私の元に集束させて氷へと変換し長さが二メートルにも及ぶ槍を生成した。
「来るぞ!」
私たちの高めた魔力に反応したのかディザスター・ディストラベアが木々を飛び越えて上空から降ってくる。
ギルドマスターは空を一瞥し振り下ろされた爪に向かってレイピアを突き出した。
「ぬんっ!?」
ギルドマスターのレイピアは、ディザスター・ディストラベアの爪を砕いて腕にまで深々と突き刺さる。だが、ディザスター・ディストラベアとまともに迎撃したギルドマスターも無事ではすまなかった。後方に大きく吹き飛ばされて大木に衝突した彼は、辛うじて原型を留めている右腕をぶら下げて苦悶の表情を浮かべている。
私はそれを一瞥すると発動させていた魔術を放った。生成した大きな氷の槍を高速で回転させて弾丸のように撃ち出す。
ディザスター・ディストラベアは咄嗟に身体を捻り、心臓を穿つはずだった氷の槍は僅かに狙いを逸らし左肩を貫くだけに終わった。
私は跳躍して大きく下がると、近くでヨロヨロと立ち上がろうとしているギルドマスターの様子を窺った。
「正面からでは無理そうですね。まだ動けますか?」
「問題ない……まだ左手も両足も頭も全身も残っておる。たとえ、この老骨が朽ちようとも……お主たちだけは必ず街まで届けるとも!」
ギルドマスターは額に汗を浮かべながらも、雄叫びを上げながら向かってくるディザスター・ディストラベアを止めようと立ち塞がる。振り下ろされた右手に対してギリギリのところで横に跳んで避け、無事な左手で殴りつけた。
しかし、硬い表皮を傷つけることはできずに拳が真っ赤に染まり腕が変な方向に折れてしまう。
けれど、ギルドマスターは脂汗を流しながら笑みを浮かべた。
「つぅ……流石に拳では歯が立たぬか。じゃがっ!」
「ええ。ありがとうございます」
ディザスター・ディストラベアはほんの数秒だけ動きを止めた。それは、戦いにおいては致命傷となる時間で、仕掛けた側にとっては十分な隙となる。
私は杖の先に魔力を集めた。ディザスター・ディストラベアの胸の近くを目掛けて、集めた魔力ごと杖の先を叩きつけるようとする。同時に下級の加速魔術や重力魔術を行使して遠心力を加速させ、さらに力のある言葉を呟いた。
それは大陸の共通語ではなく桜花皇国の言葉の源流となったもの。プレアデスに少しずつ教えてもらっている精霊の言葉だ。
「重撃」
魔力が乗った精霊の言葉は、見えないだけで大気中の至る所に存在している自我を持たない下位精霊に魔力と指向性を与えることになる。
これこそが桜花皇国で霊術と呼ばれているものだった。
かつて紫陽が使った霊術と同じ効果をもたらしたこれは、杖にかかる重さを倍加させる。いくつもの力が乗じた杖は、罅が入りながらもディザスター・ディストラベアの胸に陥没させた。
ここにきて初めて悲鳴のような雄叫びが上がった。
そして、杖の先に込めた魔力を一気に解放する。ローエンディッシュから教わった魔力の波長を変えることによる攻撃。浸透と反発によって、私の魔力をディザスター・ディストラベアの体内に送り込み敵の魔力と反発させて内部から破壊する一撃だ。
これらは、私が生まれ変わってから数多の出会いの中で身につけてきた進化の証でもある。
次の瞬間。
私の想像以上の魔力が体内から吹き上がり、膨大な魔力が炸裂し、私は浮遊感に包まれた。
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