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第12章 私を見つけるための旅
43 孤児院の子どもたち
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翌朝になって鐘の音で目が覚めた私は、朝食を食べてから宿を引き払った。
ライゼとは時間の約束まではしていない。そのため孤児院へ向かいつつも、昨日襲ってきた男たちがどうなったのか確認してみようと少し遠回りをすることにした。
「……ん?」
詰め所の正面入り口付近を歩きながら様子を窺うが、当然男たちの姿はどこにもない。それ自体はもちろん想定通りだ。しかし、男たちの魔力を感じることができないことは不自然だった。
詰め所には魔力を遮るような壁はなく、集中すればここからでも中の人間の魔力を薄らと感じるくらいはできる。特に風の結界を張っていた男は他よりも魔力量が多く、魔力制御が大雑把なため感知しやすい。
男たちの仲間がいて助けに来たのだろうか。
次に同じようなことがあれば追跡用の魔術でも仕掛けておこうかと考えて、そのまま孤児院へ向かうことにした。
孤児院の門に着いてドアノックを鳴らすと、昨日と同じようにライゼが出迎えてくれた。
「ティアさんお待ちしておりました……荷物はそれだけですかな?」
「ええ。魔法袋の中に仕舞っていますから」
「随分と優れた物をお持ちなのですね」
魔法袋は作成者の魔力量や技術、素材の質などで容量が大きく変わってくる。私が持っている物は、王国の筆頭魔術士が作成した最高クラスの物だ。そのため容量は格段に大きく簡単に手に入れることができるものではない。
客観的に考えると私の年齢や境遇に対して、持っている物や技術、経験の全てが物凄く不自然で釣り合いが取れていないだろう。
「……師事していた冒険者から譲っていただいたものなので」
そこまで考えた私は、ストーリーをでっち上げることにした。冒険者同士の繋がりや師事関係などは公表している者もいれば誰にも言わない者もいる。であれば、10年以上前にいたSランク冒険者ティアが消息を絶ったあと、秘密裏に私を育てていたとしても筋を通すことができる。
「なるほど。少し納得しました」
ライゼは少しの間思案した後に、どこか腑に落ちたような顔をした。
「すみません。少し立ち話になってしまいましたね。中へ案内します」
ライゼは申し訳なさそうに謝ると、孤児院の客室へと案内してくれた。通された部屋は六畳くらいの空間にベッドやテーブルが置いてある質素な部屋だ。むしろ孤児院の部屋にしては広いほうだろう。
「良い部屋ですね」
「ここは管理棟ですからな。基本的に私や職員のように孤児院を管理する者たちが住まう建物ですので必要な物は一通り揃ってます。他の部屋についても案内しましょう」
それから食堂や浴室といった共同で使うような場所を案内してもらい、一通り回った後は私が教える予定の子どもたちの様子を見に行く。
今の時間は教室でエスペルト王国で使われている言語を学んでいるらしい。
「ここでは9歳から12歳までの全部で8人ほどで子どもたちが様々なことを学んでいます。あちらにいるリル先生が天の日から地の日までの週五日ほど、基礎となる勉強を教えていますね」
窓から見えるリルと呼ばれた先生は、真面目な印象を受ける壮年の男性だ。
教室からは優しそうな声で聞こえていて、魔術具となっているボードとペンを使って板書している。生徒たちも教科書とボードを見ながら真面目に学んでいる。
「……専門的な内容も学ぶんですね」
平民向けの学校では、あくまで日常生活に必要とされる内容を中心に学ぶ。だが、目の前の教室では文官や貴族たちが使うような難しい言い回しや単語なども教えていた。
「ええ。この子たちには縁というものが、あまりありませんから。孤児院としての繋がりだけでは限界もありますし、最後は自身の力で掴まなければなりません」
一般的に店や商会が直接人を雇うのは知己の間柄であることがほとんどだ。それ以外の見知らぬ誰かを雇うとなればギルドを経由して条件に見合った人物を紹介してもらうことになる。
過去に働いた経験があるならば問題ないが、働いた経験もなく基礎的な学力しかなければ紹介されることはまずないだろう。孤児院ではそういった事も考えて仕事の経験や勉強を教えているそうだ。
「では顔合わせだけでも済ませましょうか」
ライゼはそう言った後「失礼しますよ」教室の中に入っていく。私もライゼを追う様に教室の中へ入ると子どもたちから好奇心が含まれる視線が向けられる。
そのような中で一人、リルだけは私の話を聞いていたようで興味深いような顔をしていた。
「授業中にすみませんね。今の内に紹介だけでもと思いまして。構いませんかな、リル先生?」
「もちろんです」
リルは一つ頷いて少し隣へとずれた。そこに私たちが立ちライゼが私の紹介をする。
「ありがとうございます……コホン。こちらは今日から少しの間、孤児院の管理棟に滞在することになったDランク冒険者のティアさんです。短い間ですが、冒険者として街の外や魔物などを教えてもらうことになっています」
「ティアです。よろしくお願いします」
「「「……」」」
簡単に挨拶をして反応を窺うが子どもたちはポカンとしていた。ほんの少し経つと所々から「ええっ!?」といったような声が聞こえてくる。
「静かにしなさい」
ライゼの言葉でざわめいていた教室が一瞬で静寂に包まれた。
「確かに、歳だけで見れば君たちとそう変わりません。しかし、世の中には歳だけで考えてはいけないこともあると知っているでしょう?ともかく、三日後の週明けから教えてもらう予定です。いいですね?」
「「「よろしくお願いします!」」」
孤児院長のライゼの影響は大きいようだった。子どもたちも完全に信じたわけではないようだが、一先ずは納得したところで無事に顔合わせを終えることができた。
ライゼとは時間の約束まではしていない。そのため孤児院へ向かいつつも、昨日襲ってきた男たちがどうなったのか確認してみようと少し遠回りをすることにした。
「……ん?」
詰め所の正面入り口付近を歩きながら様子を窺うが、当然男たちの姿はどこにもない。それ自体はもちろん想定通りだ。しかし、男たちの魔力を感じることができないことは不自然だった。
詰め所には魔力を遮るような壁はなく、集中すればここからでも中の人間の魔力を薄らと感じるくらいはできる。特に風の結界を張っていた男は他よりも魔力量が多く、魔力制御が大雑把なため感知しやすい。
男たちの仲間がいて助けに来たのだろうか。
次に同じようなことがあれば追跡用の魔術でも仕掛けておこうかと考えて、そのまま孤児院へ向かうことにした。
孤児院の門に着いてドアノックを鳴らすと、昨日と同じようにライゼが出迎えてくれた。
「ティアさんお待ちしておりました……荷物はそれだけですかな?」
「ええ。魔法袋の中に仕舞っていますから」
「随分と優れた物をお持ちなのですね」
魔法袋は作成者の魔力量や技術、素材の質などで容量が大きく変わってくる。私が持っている物は、王国の筆頭魔術士が作成した最高クラスの物だ。そのため容量は格段に大きく簡単に手に入れることができるものではない。
客観的に考えると私の年齢や境遇に対して、持っている物や技術、経験の全てが物凄く不自然で釣り合いが取れていないだろう。
「……師事していた冒険者から譲っていただいたものなので」
そこまで考えた私は、ストーリーをでっち上げることにした。冒険者同士の繋がりや師事関係などは公表している者もいれば誰にも言わない者もいる。であれば、10年以上前にいたSランク冒険者ティアが消息を絶ったあと、秘密裏に私を育てていたとしても筋を通すことができる。
「なるほど。少し納得しました」
ライゼは少しの間思案した後に、どこか腑に落ちたような顔をした。
「すみません。少し立ち話になってしまいましたね。中へ案内します」
ライゼは申し訳なさそうに謝ると、孤児院の客室へと案内してくれた。通された部屋は六畳くらいの空間にベッドやテーブルが置いてある質素な部屋だ。むしろ孤児院の部屋にしては広いほうだろう。
「良い部屋ですね」
「ここは管理棟ですからな。基本的に私や職員のように孤児院を管理する者たちが住まう建物ですので必要な物は一通り揃ってます。他の部屋についても案内しましょう」
それから食堂や浴室といった共同で使うような場所を案内してもらい、一通り回った後は私が教える予定の子どもたちの様子を見に行く。
今の時間は教室でエスペルト王国で使われている言語を学んでいるらしい。
「ここでは9歳から12歳までの全部で8人ほどで子どもたちが様々なことを学んでいます。あちらにいるリル先生が天の日から地の日までの週五日ほど、基礎となる勉強を教えていますね」
窓から見えるリルと呼ばれた先生は、真面目な印象を受ける壮年の男性だ。
教室からは優しそうな声で聞こえていて、魔術具となっているボードとペンを使って板書している。生徒たちも教科書とボードを見ながら真面目に学んでいる。
「……専門的な内容も学ぶんですね」
平民向けの学校では、あくまで日常生活に必要とされる内容を中心に学ぶ。だが、目の前の教室では文官や貴族たちが使うような難しい言い回しや単語なども教えていた。
「ええ。この子たちには縁というものが、あまりありませんから。孤児院としての繋がりだけでは限界もありますし、最後は自身の力で掴まなければなりません」
一般的に店や商会が直接人を雇うのは知己の間柄であることがほとんどだ。それ以外の見知らぬ誰かを雇うとなればギルドを経由して条件に見合った人物を紹介してもらうことになる。
過去に働いた経験があるならば問題ないが、働いた経験もなく基礎的な学力しかなければ紹介されることはまずないだろう。孤児院ではそういった事も考えて仕事の経験や勉強を教えているそうだ。
「では顔合わせだけでも済ませましょうか」
ライゼはそう言った後「失礼しますよ」教室の中に入っていく。私もライゼを追う様に教室の中へ入ると子どもたちから好奇心が含まれる視線が向けられる。
そのような中で一人、リルだけは私の話を聞いていたようで興味深いような顔をしていた。
「授業中にすみませんね。今の内に紹介だけでもと思いまして。構いませんかな、リル先生?」
「もちろんです」
リルは一つ頷いて少し隣へとずれた。そこに私たちが立ちライゼが私の紹介をする。
「ありがとうございます……コホン。こちらは今日から少しの間、孤児院の管理棟に滞在することになったDランク冒険者のティアさんです。短い間ですが、冒険者として街の外や魔物などを教えてもらうことになっています」
「ティアです。よろしくお願いします」
「「「……」」」
簡単に挨拶をして反応を窺うが子どもたちはポカンとしていた。ほんの少し経つと所々から「ええっ!?」といったような声が聞こえてくる。
「静かにしなさい」
ライゼの言葉でざわめいていた教室が一瞬で静寂に包まれた。
「確かに、歳だけで見れば君たちとそう変わりません。しかし、世の中には歳だけで考えてはいけないこともあると知っているでしょう?ともかく、三日後の週明けから教えてもらう予定です。いいですね?」
「「「よろしくお願いします!」」」
孤児院長のライゼの影響は大きいようだった。子どもたちも完全に信じたわけではないようだが、一先ずは納得したところで無事に顔合わせを終えることができた。
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