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第12章 私を見つけるための旅
42 夜の街
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「おい、起きろ。店を閉める時間だ」
「ん……」
頭の上から響いてきた声に釣られて顔を上げると呆れたようなマスターの顔が目に入る。実際には眠っていたわけではないが、酔いつぶれているように見えるのだろう。
「全部で銀貨1枚だ。いまさらだが払えるのか?」
私の目の前には空のグラスが5個並んでいる。全部が同じお酒でロックとストレートを交互に飲んでいたわけだが、地元の銘酒なだけあって中々の値段だった。
「ふぁい……これでぇ」
腰のポーチから銀貨をマスターに渡して店を出ようと立ち上がる。けれど、想像以上に足元が覚束無いようでふらふらとしてしまった。
どうやら、ラティアーナだった頃と違って今の私の身体は、そこまでアルコールに強くないらしい。
「おいおい、ふらふらじゃねえか……これ以上遅くなると何があるかわかんねぇぞ?」
「大丈夫れす」
「本当かよ……」
マスターが呂律が回らない私を心配そうに見つめるなか、私は酒場を後にした。
外に出ると綺麗な夜空が出迎えてくれる。時間が遅いせいか人が全くいなくて街灯も消えている。月も雲に隠れていて真っ暗で静かな様相だった。冷たい空気が火照った身体には気持ちよく感じる。
「ふぅ……これでよしと」
聖属性と雷光属性の魔術を自身に行使して神経の働きを整える。元々は麻痺や睡眠などの神経毒に対抗するために習得した魔術だがアルコールに対しても同じく有効だ。
この手の魔術は精密な魔力制御が必要なため、本来は酔った後で使うことは難しい。だが、魔力の制御を常に行い続け、この魔術を人よりも多く使ってきた私であれば意識を失わない限り発動することが可能だった。
酩酊感を軽減させた私は、宿に向けてゆっくりと歩いていく。歩きながら考えるのは、先ほど酒場で集めた情報だ。
結論から言えば、あの酒場は普通のお店だった。聞こえた話によれば客もマスターも人相が悪かっただけで裏の人間ではなさそうだ。恐らくは、ただの冒険者か仕事終わりの兵士がほとんどだろう。だが、噂程度であっても興味深い話を聞くことができたのは大きい。
数年に一度、神隠しとも呼ばれる街の人間が行方不明になることがある。
冒険者が行方不明になることが度々起きていて、最近ではその頻度が増えている。
悲しいことに、どちらも割りとありふれた内容だ。だが、噂となって酒場で語られるのも冒険者が行方不明となるのも、どことなく不自然な気がした。
そのようなことを考えながら、細い路地を歩いていると路地の出口付近に男たちが立ち塞がった。
「……どいてもらえませんか?」
「そりゃあ、できない相談だ」
前に三人後方から近付いてくる気配が二つ。路地裏に入ったくらいから一定の距離を開けて追ってきていたことを考えると、この五人は恐らくグルなのだろう。
「嬢ちゃん、夜遅くに外に出ちゃ駄目ってママに習わなかったか?」
「しかも酒場で夜遊びか。とんだ悪ガキじゃねえか」
「よくよく見れば意外と可愛い顔してるぞ?こりゃあ、遊んでやってもいいかもな……」
男たちは下品な笑みを浮かべながらもナイフを見せびらかすように片手で構えた。後ろにいた男たちもナイフを片手に徐々に近付いてくる。
「衛兵を呼びますよ」
「意味ねえよ。魔術でここの声が周りに聞こえないようにしてるし、お前はこの街の住民でもないんだろう?だったら一人くらいいなくなったところで誰も気に留めない。もし誰かが衛兵に言ってもちょっと探したくらいで終わりだ」
「私は明日から孤児院にお世話になることになってます。それに私を襲ったところで何もならない、はずです」
「んあ?酒場で遊んでたってことは金を持っているだろう?それに、それだけ可愛い顔してるんだ。楽しませてもらおうじゃねえか」
男たちの口ぶりからして、ただの旅人を狙った犯罪者だろう。足捌きも素人同然であるし裏の人間でもなさそうだ。であれば彼らが捕まったところで私の調べ物に不都合はなく、むしろ街の人たちのためになるだろう。
「……だったら夢のような時間をあげるわ」
魔力を探ってみると拙い風の結界のような物が張ってある。完全な遮音することはできていないようだが、多少の音は誤魔化せそうだ。
私は闇属性の魔力を結界内に薄っすらと広げていく。まるで水の中に絵の具がゆっくりと溶けていくように、ゆっくりじわじわと侵食させる。
「あ!?なに言ってんだ?」
「一日くらいの良い夢を、そして楽しい監獄生活のプレゼントよ」
「なに……を」
「んな……」
男たちは途端に目を虚にして膝の力がガクッと抜けたかのように崩れ落ちた。四人が意識を混濁させる中、最後の一人だけが何とか顔を上げて私を睨みつける。
「てめぇ……なにを、しやがっ…た!?」
「これは願望を見せて眠らせる精神干渉系の魔術。次に目覚めたときには、ここで私と話したことは忘れているから安心していいわ。おやすみなさい」
最後の一人が崩れ落ちた瞬間、風の結界が霧散していく。
「さて、とりあえず詰め所に捨て置くとして余罪でもあればい良いけど……」
私のことは、あまり他人に知られたくはない。一先ずは、魔法袋の中にあったロープを使って男たちを縛り上げると詰め所の門の前に放り投げた。
そのまま誰にも見られないように気配を消すように宿へと戻った。
「ん……」
頭の上から響いてきた声に釣られて顔を上げると呆れたようなマスターの顔が目に入る。実際には眠っていたわけではないが、酔いつぶれているように見えるのだろう。
「全部で銀貨1枚だ。いまさらだが払えるのか?」
私の目の前には空のグラスが5個並んでいる。全部が同じお酒でロックとストレートを交互に飲んでいたわけだが、地元の銘酒なだけあって中々の値段だった。
「ふぁい……これでぇ」
腰のポーチから銀貨をマスターに渡して店を出ようと立ち上がる。けれど、想像以上に足元が覚束無いようでふらふらとしてしまった。
どうやら、ラティアーナだった頃と違って今の私の身体は、そこまでアルコールに強くないらしい。
「おいおい、ふらふらじゃねえか……これ以上遅くなると何があるかわかんねぇぞ?」
「大丈夫れす」
「本当かよ……」
マスターが呂律が回らない私を心配そうに見つめるなか、私は酒場を後にした。
外に出ると綺麗な夜空が出迎えてくれる。時間が遅いせいか人が全くいなくて街灯も消えている。月も雲に隠れていて真っ暗で静かな様相だった。冷たい空気が火照った身体には気持ちよく感じる。
「ふぅ……これでよしと」
聖属性と雷光属性の魔術を自身に行使して神経の働きを整える。元々は麻痺や睡眠などの神経毒に対抗するために習得した魔術だがアルコールに対しても同じく有効だ。
この手の魔術は精密な魔力制御が必要なため、本来は酔った後で使うことは難しい。だが、魔力の制御を常に行い続け、この魔術を人よりも多く使ってきた私であれば意識を失わない限り発動することが可能だった。
酩酊感を軽減させた私は、宿に向けてゆっくりと歩いていく。歩きながら考えるのは、先ほど酒場で集めた情報だ。
結論から言えば、あの酒場は普通のお店だった。聞こえた話によれば客もマスターも人相が悪かっただけで裏の人間ではなさそうだ。恐らくは、ただの冒険者か仕事終わりの兵士がほとんどだろう。だが、噂程度であっても興味深い話を聞くことができたのは大きい。
数年に一度、神隠しとも呼ばれる街の人間が行方不明になることがある。
冒険者が行方不明になることが度々起きていて、最近ではその頻度が増えている。
悲しいことに、どちらも割りとありふれた内容だ。だが、噂となって酒場で語られるのも冒険者が行方不明となるのも、どことなく不自然な気がした。
そのようなことを考えながら、細い路地を歩いていると路地の出口付近に男たちが立ち塞がった。
「……どいてもらえませんか?」
「そりゃあ、できない相談だ」
前に三人後方から近付いてくる気配が二つ。路地裏に入ったくらいから一定の距離を開けて追ってきていたことを考えると、この五人は恐らくグルなのだろう。
「嬢ちゃん、夜遅くに外に出ちゃ駄目ってママに習わなかったか?」
「しかも酒場で夜遊びか。とんだ悪ガキじゃねえか」
「よくよく見れば意外と可愛い顔してるぞ?こりゃあ、遊んでやってもいいかもな……」
男たちは下品な笑みを浮かべながらもナイフを見せびらかすように片手で構えた。後ろにいた男たちもナイフを片手に徐々に近付いてくる。
「衛兵を呼びますよ」
「意味ねえよ。魔術でここの声が周りに聞こえないようにしてるし、お前はこの街の住民でもないんだろう?だったら一人くらいいなくなったところで誰も気に留めない。もし誰かが衛兵に言ってもちょっと探したくらいで終わりだ」
「私は明日から孤児院にお世話になることになってます。それに私を襲ったところで何もならない、はずです」
「んあ?酒場で遊んでたってことは金を持っているだろう?それに、それだけ可愛い顔してるんだ。楽しませてもらおうじゃねえか」
男たちの口ぶりからして、ただの旅人を狙った犯罪者だろう。足捌きも素人同然であるし裏の人間でもなさそうだ。であれば彼らが捕まったところで私の調べ物に不都合はなく、むしろ街の人たちのためになるだろう。
「……だったら夢のような時間をあげるわ」
魔力を探ってみると拙い風の結界のような物が張ってある。完全な遮音することはできていないようだが、多少の音は誤魔化せそうだ。
私は闇属性の魔力を結界内に薄っすらと広げていく。まるで水の中に絵の具がゆっくりと溶けていくように、ゆっくりじわじわと侵食させる。
「あ!?なに言ってんだ?」
「一日くらいの良い夢を、そして楽しい監獄生活のプレゼントよ」
「なに……を」
「んな……」
男たちは途端に目を虚にして膝の力がガクッと抜けたかのように崩れ落ちた。四人が意識を混濁させる中、最後の一人だけが何とか顔を上げて私を睨みつける。
「てめぇ……なにを、しやがっ…た!?」
「これは願望を見せて眠らせる精神干渉系の魔術。次に目覚めたときには、ここで私と話したことは忘れているから安心していいわ。おやすみなさい」
最後の一人が崩れ落ちた瞬間、風の結界が霧散していく。
「さて、とりあえず詰め所に捨て置くとして余罪でもあればい良いけど……」
私のことは、あまり他人に知られたくはない。一先ずは、魔法袋の中にあったロープを使って男たちを縛り上げると詰め所の門の前に放り投げた。
そのまま誰にも見られないように気配を消すように宿へと戻った。
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