王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

41 ウルケール領の孤児院

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 ウルケール男爵領の領都にある孤児院は、全部で五つあるそうだ。内一つは教会、二つが男爵家、残り二つが有志によるものらしい。

 その中で私が向かったのは、領城の近くにある男爵家が運営する一番大きな孤児院だった。
 孤児院の門は閉まっていて周囲に人影は見当たらなかった。だが、中に人の気配はあったため門の脇についていたドアノックを鳴らしてみる。すると、少ししてから白髪混じりのおじいさんがやってきた。歳のせいか動きは少しゆったりとしているが、意外と隙がない動きだ。魔力のほうもそれなりに持っているようだった。

「おや……何かお困りですかな?」

「ここで、仕事を紹介してもらえると聞いて来ました」

 私がこの街に来たばかりだということ、身近な人がいなくて一人で行動していること、冒険者ギルドで孤児院に行けば安全な仕事を受けることができると聞いたことを簡単に伝えた。
 全てを聞いたおじさんは「なるほど……」と呟くと笑みを浮かべる。

「私たちの使命は全ての子どもたちを守ること。貴方を歓迎しましょう」

 おじさんはそう言葉にして門をゆっくりと開けてくれた。おじさんに付いて進んでいくと、手入れされた庭を抜けて建物の中に入る。
 孤児院の建物は、昔ながらの造りだがとても綺麗になっていて、一番奥にある部屋に案内された。

「では改めて。私は、ここの孤児院長を務めているライゼと申します。それで仕事を探しているということでしたな?」

「ええ。この街にいる間の路銀を稼ぐことができればと」

「ふむ。正直なところ安全な仕事がないわけではありませんが……宿代まで含むと足りないでしょうな」

 ライゼの話では私くらいの歳の子が街の中で受けることができる仕事は、農作業の手伝いや配達、掃除のような比較的簡単な仕事らしい。一応、文字の読み書きが出来れば給金が高い事務作業の手伝いや書類整理もあるそうだが、雇い主と面識がないと難しいそうだ。

「こちらには、どれくらい滞在する予定で?」

「まだ、決めていませんが長くても一月くらいでしょうか」

 一月もあれば領地内の全ての孤児院を調べるくらいはできる。今の手掛かりがミアだけで、新しい情報が何もで出てこないのであればダラダラと長く滞在するつもりはなかった。

「でしたら滞在している間だけで構いません。幸い院内に空いている客室もありますし食事を提供することもできます。代わりに冒険者として子どもたち教えてあげていただけないでしょうか」

 どうやら、孤児院では魔術だけではなく簡単な護身術や街の外での歩き方も教えているそうだ。魔術に関しては領地としても魔術を扱える人材は貴重なため魔術士を派遣してくれるらしいが、それ以外の人は孤児院として用意する必要がある。
 今までは街の外でも活動できるEランク冒険者に依頼を出していたようだが、私であれば戦闘もできるDランクだ。
 滞在期間中の食事や教えた日の報酬を追加したとしても冒険者を雇うよりは安くすむらしい。

 そして、ライゼの提案は私にとってもありがたいことだった。プレアデスが調べてくれている孤児院の記録に加えて、知っていそうな人に聞くことができるのは大きい。

「こちらこそ、よろしくお願いしたいです」

「では、少し細かい話だけ先に済ませましょうか」

 それから私とライゼは色々な話をした。
 私からは簡単な身の上話や冒険者として子ども達に教えられること、ライゼからは孤児院の状況や子ども達のこと、ウルケール男爵領のこと、領都周辺の状況などだ。

 気が付いたときには陽が薄っすらと色が付く時間になっていて、翌朝に再び伺うことを伝えて孤児院長室を後にした。

「こんにちは!」
「こんにちは」

 私よりも年代が上の子どもたちは、昼間は仕事などで外にいる。夕方になって街から帰ってきたようで、昼間は見なかった子たちと見かけるようになった。
 皆、元気いっぱいに挨拶をしてくれて私も笑顔で挨拶を返した。

「みんな、元気で良いですね」

「ええ。これが当たり前の光景になれることを願うばかりです」

 ライゼが子どもたちを見る目には、どこか哀愁漂っていた。

「ではティアさん。また明日会いましょう……比較的治安が良いこの街ですが、暗くなると旅人を狙う賊がでます。くれぐれも気をつけてください」

「分かっています。では、また明日に」

 ライゼと別れ孤児院を後にした私は、街の繁華街の方へ歩みを進める。夕方は酒場など飲食店が込みだす時間だ。昼間とは客層も異なり酔っている人間が多いこの時間は、情報を集めやすい時間でもあった。
 それにライゼの言葉通り夜遅くになるに連れて危険が多くなってくる。それこそ、ただの酔っ払いや喧嘩っ早い人間だけでなく暗殺者や盗賊なども出やすい時間なため裏の人間と接触しやすくもあった。

 街の中を少し歩き回っていると路地裏にある少し暗い酒場を見つけた。扉を開けて中に入ると人相が悪そうな男たちが騒ぎながら酒を飲んでいた。
 カウンターへ近付いていくと男たちが私に気付いたらしく不躾な視線を投げてくる。だが、特に気にする素振りも見せずにマスターの元へ向かった。

「嬢ちゃんのみたいな奴が来るとこじゃない……さっさと帰るんだな」

「私はお酒を飲みに来たの。バーボンのロックを頂戴」

 お酒は大人が飲むものではあるが、エスペルト王国も含めて年齢制限がかかっている国はほとんどない。
 一般的な平民であれば家族が飲ませないであろうが家を出ている冒険者であればお酒を飲む人も少なくはなかった。

 ちなみに高位の貴族や王族ほど幼い頃から飲酒をする習慣ある。ラティアーナだった頃も各地域の特産となるお酒からウォッカのようなものまで一通り嗜んでいる。

「ふん……どうなっても知らんぞ」

「どうも」

 怪訝な顔をしたマスターからグラスを受け取った私は、ちびちびとお酒を口に含みながら周りの会話を聞こうと耳を澄ました。
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