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第12章 私を見つけるための旅
39 ウルケール男爵領
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痕跡を残さないように役所を去った私たちは、人目につかないように気を付けつつも街の外へ出た。そのまま近くにある森まで下がると、魔法袋の中から携帯用テントを取り出して魔避けの魔術具と一緒に設置する。
「ここで朝まで休もうか……はい」
「ありがとう。これも意外と美味しいわよね」
「本来はそのまま食べるものだけど、工夫しているからね」
プレアデスに渡したのは携帯用の食料だった。
冒険者や兵士たちにとっては必需品で商会でも買うことができるものだが、この10年近くで大分進化したらしい。前までは、水分が取られて食べづらくお湯で割っても味が薄くて美味しくなかった。しかし今の携帯用食糧は、濃いめの味が付いていて、そのままでも硬い煎餅くらいの食感だ。お湯に溶かせば普通のスープのようになり食べやすくなる。
そして、私はスープ状にした後で香辛料と保存用のパンを加えることで味と満腹感を追加していた。
食事を終えると、テントの中で夜が明けるまで睡眠をとり、陽が昇ると同時に西に向けて出発した。
道中は森などもあったが最短距離を突き進み、4日後にはウルケール男爵領の領都に到着することができた。
日が暮れる前に領都に入った私たちは、街の中でもそれなりの大きさがある宿の二人用の広い部屋を長期で借りることにした。窓からは街の様子を一望することができて、領城や教会など街の主要な施設を見渡すことができる。街を調べる上で立地的にも良い場所だ。
「ここからは時間をかけて調べることになりそうだね」
ウルケール男爵領を訪れたのもミアが住んでいるという理由だけだ。それ以外の情報が全くない状態では、一つ一つ情報を集めていくしかないだろう。
「私の方で孤児院の資料を探れば良いのよね?」
「ええ……7年以上前に孤児院にミアさんがいた記録があるか確認して欲しいかな」
プレアデスなら実体化しないままでも資料を確認することができる。結界が張っている領城や精霊関係に強いであろう教会の中は避けるとして、孤児院に置いてあるものを確認するだけならプレアデスにお願いするのが確実で安全だった。
「わかったわ。しばらくの間、離れているから何かあったら念話でね」
プレアデスは実体化を解くと夜の街に消えていった。
翌朝。
陽が昇るくらいの時間に目が覚めた私は、宿の朝食を食べてから街へと繰り出した。
ウルケール男爵領は隣のルークス子爵領と同様に小麦などが主な産業になっている領地だ。全体的に気候が良く川なども適度にあって水も豊富にある。いわゆる穀倉地帯と呼ばれる場所だ。
そのため領都には農作物を主に扱う商会が多く立ち並び、比較的閑静な地方都市となっていた。
大通りを歩いているとすれ違う人々から様々な視線が向けられているように感じる。見知らぬ人が歩いているからなのか、幼い少女が冒険者の格好をしているのが珍しいからなのかは分からない。けれど、悪意や敵意は感じなかったので、周りの視線を気にする必要はないだろう。
若干、気まずい思いをしつつも街の中央から正門の中間にある冒険者ギルド支部へ向かった。
ギルドに着いて扉を開けると、職員や冒険者たちの視線が一斉に私に向けられる。
他のギルドであれば大抵が侮蔑か心配するような視線だが、ここでは街の人たちと同じで戸惑いのような印象を受ける。
「……ご用件はなんでしょうか?当ギルドでは未成年者の冒険者登録はできませんが……」
今の私の格好は学園に通うより前に作った戦闘用の服だ。魔力で染めた糸とミスリル金属の糸で編んだ服なため動きやすさと頑丈さを兼ね備えているが、一般の人には動きやすそうな服にしか見えない。
武具も服の下に隠れている魔法袋や換装用の腕輪の中に仕舞っていて、受付嬢からは冒険者登録をしたい少女にしか見えなかったのだろう。
「ギルドの規約では年齢は関係なかったと思いますけど……」
それよりも気になったのは未成年ではギルドに登録できないということだ。あまりにも幼いと登録できないことはあるが、基本的に会話が成り立っていれば登録を拒否されることはない。
「冒険者ギルドではなくご領主様の命ですね。ここウルケール男爵領では、孤児も含めた子どもたちの保護に力を入れています。基本的には成人するまで危険な仕事をさせないようにお達しが出ているのです。保護者が一緒であれば例外もありますが、子どもだけでの登録は認められていません」
「他の場所で冒険者登録していた場合は依頼を受けることはできますか?」
私はそう言って冒険者ギルドプレートを取り出して見せた。プレートを見た受付嬢は驚いたかのように目を開く。
「王都を拠点にしているランクDですか……」
実は王都の冒険者ギルド支部で活動拠点の変更を申請していた。この申請は義務ではないのだが、いつまでも登録したセルスト王国ギルセリアでは不便だからだ。
「旅の資金を稼ぐためにも依頼を受けたいのですよね」
「……既に冒険者の場合は依頼を受けていただくことは可能です。ですが、孤児院や役所に行けば未成年向けの安全な日雇いの仕事もありますよ。最近は冒険者たちが魔物に喰われることも増えてますから、できれば街の中で仕事することをおすすめします」
「……わかりました。そっちに行ってみます」
どちらにせよ、ただの庶民が仕事を全くしないのは不自然なこともあり何かしらはするつもりだった。孤児院で仕事を受けることができるのなら調査も兼ねて一石二鳥でちょうど良い。
そう考えた私はお礼を告げてから冒険者ギルド支部を後にした。
「ここで朝まで休もうか……はい」
「ありがとう。これも意外と美味しいわよね」
「本来はそのまま食べるものだけど、工夫しているからね」
プレアデスに渡したのは携帯用の食料だった。
冒険者や兵士たちにとっては必需品で商会でも買うことができるものだが、この10年近くで大分進化したらしい。前までは、水分が取られて食べづらくお湯で割っても味が薄くて美味しくなかった。しかし今の携帯用食糧は、濃いめの味が付いていて、そのままでも硬い煎餅くらいの食感だ。お湯に溶かせば普通のスープのようになり食べやすくなる。
そして、私はスープ状にした後で香辛料と保存用のパンを加えることで味と満腹感を追加していた。
食事を終えると、テントの中で夜が明けるまで睡眠をとり、陽が昇ると同時に西に向けて出発した。
道中は森などもあったが最短距離を突き進み、4日後にはウルケール男爵領の領都に到着することができた。
日が暮れる前に領都に入った私たちは、街の中でもそれなりの大きさがある宿の二人用の広い部屋を長期で借りることにした。窓からは街の様子を一望することができて、領城や教会など街の主要な施設を見渡すことができる。街を調べる上で立地的にも良い場所だ。
「ここからは時間をかけて調べることになりそうだね」
ウルケール男爵領を訪れたのもミアが住んでいるという理由だけだ。それ以外の情報が全くない状態では、一つ一つ情報を集めていくしかないだろう。
「私の方で孤児院の資料を探れば良いのよね?」
「ええ……7年以上前に孤児院にミアさんがいた記録があるか確認して欲しいかな」
プレアデスなら実体化しないままでも資料を確認することができる。結界が張っている領城や精霊関係に強いであろう教会の中は避けるとして、孤児院に置いてあるものを確認するだけならプレアデスにお願いするのが確実で安全だった。
「わかったわ。しばらくの間、離れているから何かあったら念話でね」
プレアデスは実体化を解くと夜の街に消えていった。
翌朝。
陽が昇るくらいの時間に目が覚めた私は、宿の朝食を食べてから街へと繰り出した。
ウルケール男爵領は隣のルークス子爵領と同様に小麦などが主な産業になっている領地だ。全体的に気候が良く川なども適度にあって水も豊富にある。いわゆる穀倉地帯と呼ばれる場所だ。
そのため領都には農作物を主に扱う商会が多く立ち並び、比較的閑静な地方都市となっていた。
大通りを歩いているとすれ違う人々から様々な視線が向けられているように感じる。見知らぬ人が歩いているからなのか、幼い少女が冒険者の格好をしているのが珍しいからなのかは分からない。けれど、悪意や敵意は感じなかったので、周りの視線を気にする必要はないだろう。
若干、気まずい思いをしつつも街の中央から正門の中間にある冒険者ギルド支部へ向かった。
ギルドに着いて扉を開けると、職員や冒険者たちの視線が一斉に私に向けられる。
他のギルドであれば大抵が侮蔑か心配するような視線だが、ここでは街の人たちと同じで戸惑いのような印象を受ける。
「……ご用件はなんでしょうか?当ギルドでは未成年者の冒険者登録はできませんが……」
今の私の格好は学園に通うより前に作った戦闘用の服だ。魔力で染めた糸とミスリル金属の糸で編んだ服なため動きやすさと頑丈さを兼ね備えているが、一般の人には動きやすそうな服にしか見えない。
武具も服の下に隠れている魔法袋や換装用の腕輪の中に仕舞っていて、受付嬢からは冒険者登録をしたい少女にしか見えなかったのだろう。
「ギルドの規約では年齢は関係なかったと思いますけど……」
それよりも気になったのは未成年ではギルドに登録できないということだ。あまりにも幼いと登録できないことはあるが、基本的に会話が成り立っていれば登録を拒否されることはない。
「冒険者ギルドではなくご領主様の命ですね。ここウルケール男爵領では、孤児も含めた子どもたちの保護に力を入れています。基本的には成人するまで危険な仕事をさせないようにお達しが出ているのです。保護者が一緒であれば例外もありますが、子どもだけでの登録は認められていません」
「他の場所で冒険者登録していた場合は依頼を受けることはできますか?」
私はそう言って冒険者ギルドプレートを取り出して見せた。プレートを見た受付嬢は驚いたかのように目を開く。
「王都を拠点にしているランクDですか……」
実は王都の冒険者ギルド支部で活動拠点の変更を申請していた。この申請は義務ではないのだが、いつまでも登録したセルスト王国ギルセリアでは不便だからだ。
「旅の資金を稼ぐためにも依頼を受けたいのですよね」
「……既に冒険者の場合は依頼を受けていただくことは可能です。ですが、孤児院や役所に行けば未成年向けの安全な日雇いの仕事もありますよ。最近は冒険者たちが魔物に喰われることも増えてますから、できれば街の中で仕事することをおすすめします」
「……わかりました。そっちに行ってみます」
どちらにせよ、ただの庶民が仕事を全くしないのは不自然なこともあり何かしらはするつもりだった。孤児院で仕事を受けることができるのなら調査も兼ねて一石二鳥でちょうど良い。
そう考えた私はお礼を告げてから冒険者ギルド支部を後にした。
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