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第12章 私を見つけるための旅
35 故郷
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「ようやく国境線を越えましたね」
私たちの目の前には横に長い壁が広がっていて、門の前には大勢の人が並んでいた。
ここはウィスタリア侯爵領の領都にあたる国境都市。
エスペルト王国とエインスレイス連邦の交通の要所のうちの一つでもある。
「ティア様?調子悪いですか?」
私が呆然と景色を眺めているとカレナがしゃがみ込んで額に手を当ててくる。道中では何度か熱を出して長めの休みをもらうことが多かったせいか随分と過保護になったらしい。
「だ、大丈夫よ……問題ないから」
私はカレナの手が触れたことでハッと現実に引き戻される。心配そうな表情を向けるカレナに、私は慌てて大丈夫だと手をはたはたと振った。
「ただ……久しぶりに国境壁を見て……本当に帰ってきたんだなぁって」
およそ10年ぶりのエスペルト王国。
ラティアーナとして19年近く過ごし、恐らくは今の私が生まれたであろう場所。たとえ、どれだけ経ったとしても私にとって故郷であることに変わりはなかった。
とても感慨深く感じるが、その理由は久しぶりに見る景色だけではない。
「それに、この結界を通り抜けて繋がったときの感覚も懐かしいから」
「確か国境線近くまで範囲内……って、繋がっているのですか!?そもそもまだ使えるものなのですか!?」
「本来は死んでしばらく経つと登録が消えるはずよ。ただ、王鍵は魔力じゃなくて魂を登録しているらしいから……」
カレナもかなり驚いているが、驚いているのは私も同じだ。
魂を登録している王鍵は、本人が死んでからしばらく経つと自動的に登録が消える。そして最高位の権限を持つ人が消えた場合は、次に高い権限を持つ人に譲渡される仕組みになっていた。
「ティア様の魔力はラティアーナ様と似ていても少し違いますが魂は同じだから登録が残っている、ということですか?」
「私も王鍵の詳しい仕組みまでは知らないから憶測だけどね……」
以前と同じように軽く念じただけで王鍵に繋ぐことができた。感覚的には全ての機能が使えるようだ。しかし、リーファスと私の二人が最上位の権限を持っているのは本来ありえないことだ。もしかしたらバグのようなものかもしれない。
「ティア様、そろそろ」
「そうね。この辺りで別れましょうか」
私の当面の目的は大きく分けると、欠けた魂をどうにかして健康な身体を手に入れること、かつての愛刀たちを取り戻すこと、私の出生に関する情報を集めることの三つだ。
私は、ただの一般人であるティアとして行動する。そのため騎士爵を持っているカレナと一緒にいると不自然だろう。
だから、入国審査を受けて普通の旅人として入国しなくてはならないし、国境近くには王国の諜報員が情報収集をしていることが多いため、カレナと離れて動くつもりだ。
「これをどうぞ。何かあればいつでもご連絡ください。必ず駆けつけますので」
「ええ。その時はよろしくね」
カレナからカード上の通信用魔術具を受け取った私は、そのまま入国待ちの列に加わった。
およそ半刻ほど待つと、順番がやってくる。
「身分を証明できる物は持っていますか?」
「はい……どうぞ」
「……Dランク冒険者ですか。どうしてエスペルト王国へ?」
冒険者ギルドカードを見た兵士は少しだけ驚いた様子で問いかけてくる。
「冒険者として旅をしているのと、友人の故郷らしいので」
「エスペルト王国のどちらに向かう予定ですか?」
「国内の色々な場所を見たいですが、まずは王都に向かおうと思っています」
エスペルト王国の入国審査は、いくつかの簡単な質問に答えるだけで入国を拒否されることはほとんどない。しかし、審査で嘘の答えをすると軍の諜報部の監視対象と見なされてしまうため注意が必要だ。
というのも、国境や都市を出入りするときに使う門は魔術具も兼ね備えていて、通過した人の魔力を登録する機能がある。エスペルト王国の国民であれば住民登録と照合されるし、他国の人間でも過去の履歴と照合される。そして、入国した人物の足取りも全て記録されているわけで、審査の内容と相違している場合は他国の諜報員や良くない考えをしている人物と見做されるわけだ。
それから2、3個質問に答えると特に問題なく通される。兵士に入国料として銀貨1枚を渡して、門を抜けてウィスタリア領都の中に入る。
「懐かしい……そんなに変わってない」
ウィスタリア領都は、私が居た時代から大きく変わっていないようだった。流石に見知らぬ店に変わっていたり人が多くなっていたりはしているが、街の雰囲気や空気のようなものはあの頃のままだ。
しみじみと周りの景色を懐かしんでいると鐘の音が聞こえてくる。昼間の間だけ鳴る時間を告げる音だ。
時を告げる鐘は、王鍵の仕組みを一部使っていて王城にある時計の魔術具と各都市が同期している。そして、鐘の音も全ての都市で同じになっている。
ラティアーナだった頃は、ほぼ毎日聞いていた音に漸く故郷に帰ってきたのだと感じた。
私たちの目の前には横に長い壁が広がっていて、門の前には大勢の人が並んでいた。
ここはウィスタリア侯爵領の領都にあたる国境都市。
エスペルト王国とエインスレイス連邦の交通の要所のうちの一つでもある。
「ティア様?調子悪いですか?」
私が呆然と景色を眺めているとカレナがしゃがみ込んで額に手を当ててくる。道中では何度か熱を出して長めの休みをもらうことが多かったせいか随分と過保護になったらしい。
「だ、大丈夫よ……問題ないから」
私はカレナの手が触れたことでハッと現実に引き戻される。心配そうな表情を向けるカレナに、私は慌てて大丈夫だと手をはたはたと振った。
「ただ……久しぶりに国境壁を見て……本当に帰ってきたんだなぁって」
およそ10年ぶりのエスペルト王国。
ラティアーナとして19年近く過ごし、恐らくは今の私が生まれたであろう場所。たとえ、どれだけ経ったとしても私にとって故郷であることに変わりはなかった。
とても感慨深く感じるが、その理由は久しぶりに見る景色だけではない。
「それに、この結界を通り抜けて繋がったときの感覚も懐かしいから」
「確か国境線近くまで範囲内……って、繋がっているのですか!?そもそもまだ使えるものなのですか!?」
「本来は死んでしばらく経つと登録が消えるはずよ。ただ、王鍵は魔力じゃなくて魂を登録しているらしいから……」
カレナもかなり驚いているが、驚いているのは私も同じだ。
魂を登録している王鍵は、本人が死んでからしばらく経つと自動的に登録が消える。そして最高位の権限を持つ人が消えた場合は、次に高い権限を持つ人に譲渡される仕組みになっていた。
「ティア様の魔力はラティアーナ様と似ていても少し違いますが魂は同じだから登録が残っている、ということですか?」
「私も王鍵の詳しい仕組みまでは知らないから憶測だけどね……」
以前と同じように軽く念じただけで王鍵に繋ぐことができた。感覚的には全ての機能が使えるようだ。しかし、リーファスと私の二人が最上位の権限を持っているのは本来ありえないことだ。もしかしたらバグのようなものかもしれない。
「ティア様、そろそろ」
「そうね。この辺りで別れましょうか」
私の当面の目的は大きく分けると、欠けた魂をどうにかして健康な身体を手に入れること、かつての愛刀たちを取り戻すこと、私の出生に関する情報を集めることの三つだ。
私は、ただの一般人であるティアとして行動する。そのため騎士爵を持っているカレナと一緒にいると不自然だろう。
だから、入国審査を受けて普通の旅人として入国しなくてはならないし、国境近くには王国の諜報員が情報収集をしていることが多いため、カレナと離れて動くつもりだ。
「これをどうぞ。何かあればいつでもご連絡ください。必ず駆けつけますので」
「ええ。その時はよろしくね」
カレナからカード上の通信用魔術具を受け取った私は、そのまま入国待ちの列に加わった。
およそ半刻ほど待つと、順番がやってくる。
「身分を証明できる物は持っていますか?」
「はい……どうぞ」
「……Dランク冒険者ですか。どうしてエスペルト王国へ?」
冒険者ギルドカードを見た兵士は少しだけ驚いた様子で問いかけてくる。
「冒険者として旅をしているのと、友人の故郷らしいので」
「エスペルト王国のどちらに向かう予定ですか?」
「国内の色々な場所を見たいですが、まずは王都に向かおうと思っています」
エスペルト王国の入国審査は、いくつかの簡単な質問に答えるだけで入国を拒否されることはほとんどない。しかし、審査で嘘の答えをすると軍の諜報部の監視対象と見なされてしまうため注意が必要だ。
というのも、国境や都市を出入りするときに使う門は魔術具も兼ね備えていて、通過した人の魔力を登録する機能がある。エスペルト王国の国民であれば住民登録と照合されるし、他国の人間でも過去の履歴と照合される。そして、入国した人物の足取りも全て記録されているわけで、審査の内容と相違している場合は他国の諜報員や良くない考えをしている人物と見做されるわけだ。
それから2、3個質問に答えると特に問題なく通される。兵士に入国料として銀貨1枚を渡して、門を抜けてウィスタリア領都の中に入る。
「懐かしい……そんなに変わってない」
ウィスタリア領都は、私が居た時代から大きく変わっていないようだった。流石に見知らぬ店に変わっていたり人が多くなっていたりはしているが、街の雰囲気や空気のようなものはあの頃のままだ。
しみじみと周りの景色を懐かしんでいると鐘の音が聞こえてくる。昼間の間だけ鳴る時間を告げる音だ。
時を告げる鐘は、王鍵の仕組みを一部使っていて王城にある時計の魔術具と各都市が同期している。そして、鐘の音も全ての都市で同じになっている。
ラティアーナだった頃は、ほぼ毎日聞いていた音に漸く故郷に帰ってきたのだと感じた。
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