王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

34 世界のバランス

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「そう……そんなに勇者がいるのね」

「三カ国とも一斉に発表したので間違いないと思います。そのせいで同盟自体も見直しを求める人がいくらか現れましたし難しい状況だそうですよ」

「勇者のことってどれくらい知られているの?」

 私が勇者を知ったきっかけは、ミタナハル王国のドラストとの会話だ。エスペルト王国の歴史書には載っていなかったが、全ての資料や文献を読んだわけではないためエスペルト王国がどれくらい勇者を知っているのか分からない。

「精霊教から通達があったので……勇者が膨大な魔力と超常的な身体能力を持ち、特定の力を象徴としているらしいです。ただ、各々がどのような力を持っているかまでは分かっていません。それもあって私たちは一度勇者たちを調べるために出向く予定でした」

 カレナはエスペルト王国に戻った後、アルキオネやフレアと合流して共にグランバルド帝国も含めた周辺国に潜入し勇者たちの情報を集める予定だそうだ。
 元々、冒険者として修業をしながらも他国の情報を集めることも同時に行っていたらしい。

「勇者の潜在能力はかなりのものだわ。前に炎の勇者と戦った事があるけれど、単純な炎としてではなくて別の力も含んでいるように見えたの」

 かつて戦った瑠偉は金色の炎による自己治癒を行っていた。炎系の魔術や魔法でさえも治療系の力を扱うことはできていない。であれば、あの力は炎を象徴しつつも別の力が干渉していると考えた方が良いだろう。

「私たちも詳しくは知らないのですが勇者には概念干渉系の力を行使できるようです」

「概念干渉?」

 言葉の意味はなんとなく察することができるが概念干渉の定義が分からない。そのまま聞き返してみるとカレナは難しそうな表情で悩む素振りを見せた。

「これも精霊教が一方的に伝えてきたものなので詳しくは分かりませんが……通常の魔術、例えば炎熱系にしろ治癒系にしろ魔力を使って物に干渉しますよね?」

「炎熱系の魔術だったら物を燃やすし治癒も身体を治すからね……」

 魔力を炎にしても魔力を燃料として炎を発生させても物に触れると燃やしたり溶かしたりする。そして、奇跡に感じる治癒も同じだ。地属性や水属性の治癒は、身体の傷を塞ぐ効果がある。聖属性の治癒も、人の持つ回復効果を爆発的に高めることで傷を癒す。どちらも物理的な干渉を伴うものだ。

「対して概念干渉系の魔術は物に物理的な干渉を伴わないか、物理法則を超越することが可能だそうです。魔術であれば空間転移や重力系統の物があたるようですね」

 空間転移の魔術は完全に解明されているわけではないが、ある程度の仕組みは分かっている。
 同じ大きさの領域を二箇所指定しその二つの領域同士を亜空間を通して入れ替える。領域を指定する時は距離が影響するが繋げた後は距離がゼロにするイメージだ。
 そして、重力系統の魔術も詳しい原理までは分からないが引力に干渉し方向を変えたり力の増減を行うことができる。

「既存の法則から離れるってこと?」

「恐らくは……少なくとも特別な力を持っていると考えた方が良いと思います」

「となると彼も……まだ力の全てを使っていないのね……」

 瑠偉が見せた能力は燃やすことと破壊、治癒だけだ。カレナの話が正しいのならもっと別のことまでできることになる。

「勇者がもし持てる力の全てを完璧に制御できたとしたら……下手をすれば太古の獣や悪魔に並ぶ、もしくは越える可能性もあるかもね。そんな勇者がエスペルト王国の周辺国だけにいるのなら……この先何が起こるか予想もできないわ」

 勇者の存在自体が大きな力として、それこそ国一つを相手取るくらいの影響を齎すかも知らない。今まで絶妙に保たれていた国同士のバランス、世界の秩序がいとも簡単に崩れる可能性すらあり得るわけだ。

「なのでエスペルト王国も色々な派閥で意見が分かれています。リーファス陛下は現状維持としていますが、半数近い貴族は属国であるドラコロニア王国の勇者をエスペルト王国に迎え入れるべきだと意見すらもあるくらいです」

「かつての敗戦国で属国になったとはいえドラコロニア王国から勇者を取り上げれば反発はかなり高まるでしょうね。かと言って勇者があちらにだけいるとなれば属国関係を破棄して完全に独立することも……あるいは立ち場を逆にしようとするかもしれない、か」

 エスペルト王国とドラコロニア王国の関係に変化があるのなら大きく影響を受けるのはエインスレイス連邦もだろう。元々、資源の関係で両国に頼っている部分のあるエインスレイス連邦も勇者という力を得たことで、どう動くか予想もできない。

「今のところは誰も動きを見せていませんが……少しでも何かが起きると一気に事が動くかも知れませんね」

 カレナとの会話で世界の情勢がなんとなく見えてきた。もうやら、想像していたよりも事態は複雑になりつつあるようだった。



 その後、私とカレナは宿で二日ほど体を休めてからエスペルト王国への帰還の道につくことにした。
 ここからエスペルト王国の国境までは乗合馬車を乗り継いだ場合は10日ほどかかるが、カレナがいる今であれば最短距離で進むことで大幅に日程を短縮することもできる。
 とはいえ私の体調のこともあるため休みを多めに取る旅路となる。

 それから7日後の朝。

 私とカレナはエスペルト王国のエインスレイス連邦との国境にある街。ウィスタリア侯爵領の領都にある国境門に辿り着いた。
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