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第12章 私を見つけるための旅
31 サングレアの提案
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私は二本の剣を使って敵の攻撃を避けながら舞うように斬り続け、カレナは敵の攻撃を斬り飛ばしながら大打撃を与えていく。
私もカレナも仕掛け続けるが、互いに言葉を交わさなくても動きが理解できる。無理に合わせるのではなく、無意識に協調できるのだ。
いかに強大で強固な雷龍王とは言えども鱗は傷付き、それなりに血を流していた。
だが、致命傷には程遠く逃げる気配もない。このまま長期戦を繰り広げれば先に力尽きるのは私の方だろう。
次の手を考えていると、生暖かいものが口の中に入り鉄の味がした。思わず口元を拭うと手の甲が赤く染まっている。
恐らくは、私の限界が近い合図だろう。魔力糸を魔力回路の代わりにしていても身体への負担が減るわけではない。むしろ魔力回路以外は負担が大きくなるくらいだ。
『ティア……』
プレアデスの心配そうな声に『わかってる』とだけ短く答えた。
雷龍王の防御は破れかかっている状態だ。一瞬でも動きが止まれば私の一撃で防御を突破できる。突破さえできればカレナがなんとかしてくれると信じている。
「お待たせしました!」
次の一手を考えているとき、近くの建物の屋根の上から杖を掲げたサングレアが大きな声で叫んだ。同時に雷龍王の頭上に巨大な術式が顕現する。膨大な魔力と共に現れたそれは、強大な重力を発生させて雷龍王を地面へ抑えつけようとする。
それは天重封撃と呼ばれる最上級に分類させる重力魔術。動きを封じるだけでなく重力の奔流で叩き潰すためのものだ。並みの魔物であれば原型を留めないのだが雷龍王であれば耐えられるらしい。それでも、少なくとも片翼の状態では動くことは難しいようだ。
「カレナ!」
私は言葉の裏に最後は任せたと思いを乗せて叫びながら前に出た。地面に刺さっている氷の剣を全て魔力へと還元し、二本の剣にできる限り纏わせていく。
そして、跳躍した勢いを全て乗せて二本の剣を交差するように振り払った。氷冷属性の魔力を纏った大きな斬撃は、繰り広げてきた攻防の中で重点的に狙っていた首の鱗の中まで斬り裂き、内部から氷の刃があふれ出す。
「流石……ですね」
カレナはティアの一撃を見て笑みを浮かべると構えていた剣を横に薙ぎ払った。身体の全てを使って放たれた一閃は、ティアが斬った場所と寸分違わない場所を静かに両断する。
ズシンと重い音と共に雷龍王が崩れ落ちた。
『プレアデス。魔力制限をお願い……』
『……抑えたわ。魔術を解除していいわよ』
私は体内に張り巡らせていた魔力糸を徐々に解除していく。下手に糸を抜いてしまうと血管や神経を傷つけてしまうため注意が必要だ。
『疑似魔力回路消失……同調解除』
全ての魔力糸が無くなったことを確認した私は、力の制御を手放すと同時に仰向けに倒れこんだ。
身体への負担はそれなりに大きかったが短時間だったため鼻血が出たくらいで大きな傷を負うことはなかった。どちらかといえば魔力演算を最大限使い続けたせいで疲労感が凄まじいせいで起き上がれないだけだ。
「お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫ですよ……ちょっと疲れただけですから」
仰向けになって、はぁはぁと息を整えているとカレナが心配そうな顔で傍に寄ってきた。そして私の全身を満遍なく見て怪我がないことを確認するとホッと安心したように息を吐く。
「一先ずは安心しました。サングレア様もお怪我はありませんか?」
「わたくしも問題ないですよ。お二人のご協力もあって塔に仕掛けられていた物も対処できましたから、これ以上被害が大きくなることもないでしょう」
サングレアが調べたところ、塔の外壁には雷龍の卵を使った香が置いてあったらしい。
龍種というのは鼻が良く効くもので、遠く離れていても匂いをかぎ分けることができる。特に自身の卵や子供などには敏感で、下手に刺激すると凶暴化するのだ。
今回の場合は、雷龍の卵が盗まれたように見せかけられていたのだろう。雷龍にとってみれば盗まれた卵を奪い返しに来ていただけだ。
その原因がなくなったのだから雷龍の群れがこの街を襲う理由そのものがない。
そもそも龍は誇りが高い生き物だ。基本的に群れを作らないが、一際強力な個体がいる場合だけ群れを作る。だが、頭がいなくなってしまえば群れそのものが消失するため、他の個体のために何かをするということがない。
「お二人とも本当にありがとうございました。本来であれば国としてもてなすべきなのでしょうが……」
「私は偶然通りがかっただけです。それに高位冒険者として当然のことをしただけですから」
「分かっています。平時ならともかく今のセルスト王国の事情に、お二人を巻き込むわけには行きません。そこでご提案があるのですが……」
サングレアの提案は、王女としての権限で一時的に転移門の規制を解除して私とカレナをエインスレイス連邦まで送ってくれるというものだった。
しかも転移門の利用料を免除してくれるだけでなく、今回の報酬として金貨3枚ずつをくれるという破格な対応だ。
通常は街の危機を救った者には賓客として祭典に招待され褒賞が与えられることが多い。そうなると長時間拘束されてしまうだけでなく、高位の王侯貴族が囲いこもうとしてくる可能性もある。
私はもちろんのこと、恐らくカレナもそのような面倒ごとは避けたかったのだろう。私が頷くとカレナも同意して、サングレアの提案に乗ることにした。
私もカレナも仕掛け続けるが、互いに言葉を交わさなくても動きが理解できる。無理に合わせるのではなく、無意識に協調できるのだ。
いかに強大で強固な雷龍王とは言えども鱗は傷付き、それなりに血を流していた。
だが、致命傷には程遠く逃げる気配もない。このまま長期戦を繰り広げれば先に力尽きるのは私の方だろう。
次の手を考えていると、生暖かいものが口の中に入り鉄の味がした。思わず口元を拭うと手の甲が赤く染まっている。
恐らくは、私の限界が近い合図だろう。魔力糸を魔力回路の代わりにしていても身体への負担が減るわけではない。むしろ魔力回路以外は負担が大きくなるくらいだ。
『ティア……』
プレアデスの心配そうな声に『わかってる』とだけ短く答えた。
雷龍王の防御は破れかかっている状態だ。一瞬でも動きが止まれば私の一撃で防御を突破できる。突破さえできればカレナがなんとかしてくれると信じている。
「お待たせしました!」
次の一手を考えているとき、近くの建物の屋根の上から杖を掲げたサングレアが大きな声で叫んだ。同時に雷龍王の頭上に巨大な術式が顕現する。膨大な魔力と共に現れたそれは、強大な重力を発生させて雷龍王を地面へ抑えつけようとする。
それは天重封撃と呼ばれる最上級に分類させる重力魔術。動きを封じるだけでなく重力の奔流で叩き潰すためのものだ。並みの魔物であれば原型を留めないのだが雷龍王であれば耐えられるらしい。それでも、少なくとも片翼の状態では動くことは難しいようだ。
「カレナ!」
私は言葉の裏に最後は任せたと思いを乗せて叫びながら前に出た。地面に刺さっている氷の剣を全て魔力へと還元し、二本の剣にできる限り纏わせていく。
そして、跳躍した勢いを全て乗せて二本の剣を交差するように振り払った。氷冷属性の魔力を纏った大きな斬撃は、繰り広げてきた攻防の中で重点的に狙っていた首の鱗の中まで斬り裂き、内部から氷の刃があふれ出す。
「流石……ですね」
カレナはティアの一撃を見て笑みを浮かべると構えていた剣を横に薙ぎ払った。身体の全てを使って放たれた一閃は、ティアが斬った場所と寸分違わない場所を静かに両断する。
ズシンと重い音と共に雷龍王が崩れ落ちた。
『プレアデス。魔力制限をお願い……』
『……抑えたわ。魔術を解除していいわよ』
私は体内に張り巡らせていた魔力糸を徐々に解除していく。下手に糸を抜いてしまうと血管や神経を傷つけてしまうため注意が必要だ。
『疑似魔力回路消失……同調解除』
全ての魔力糸が無くなったことを確認した私は、力の制御を手放すと同時に仰向けに倒れこんだ。
身体への負担はそれなりに大きかったが短時間だったため鼻血が出たくらいで大きな傷を負うことはなかった。どちらかといえば魔力演算を最大限使い続けたせいで疲労感が凄まじいせいで起き上がれないだけだ。
「お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫ですよ……ちょっと疲れただけですから」
仰向けになって、はぁはぁと息を整えているとカレナが心配そうな顔で傍に寄ってきた。そして私の全身を満遍なく見て怪我がないことを確認するとホッと安心したように息を吐く。
「一先ずは安心しました。サングレア様もお怪我はありませんか?」
「わたくしも問題ないですよ。お二人のご協力もあって塔に仕掛けられていた物も対処できましたから、これ以上被害が大きくなることもないでしょう」
サングレアが調べたところ、塔の外壁には雷龍の卵を使った香が置いてあったらしい。
龍種というのは鼻が良く効くもので、遠く離れていても匂いをかぎ分けることができる。特に自身の卵や子供などには敏感で、下手に刺激すると凶暴化するのだ。
今回の場合は、雷龍の卵が盗まれたように見せかけられていたのだろう。雷龍にとってみれば盗まれた卵を奪い返しに来ていただけだ。
その原因がなくなったのだから雷龍の群れがこの街を襲う理由そのものがない。
そもそも龍は誇りが高い生き物だ。基本的に群れを作らないが、一際強力な個体がいる場合だけ群れを作る。だが、頭がいなくなってしまえば群れそのものが消失するため、他の個体のために何かをするということがない。
「お二人とも本当にありがとうございました。本来であれば国としてもてなすべきなのでしょうが……」
「私は偶然通りがかっただけです。それに高位冒険者として当然のことをしただけですから」
「分かっています。平時ならともかく今のセルスト王国の事情に、お二人を巻き込むわけには行きません。そこでご提案があるのですが……」
サングレアの提案は、王女としての権限で一時的に転移門の規制を解除して私とカレナをエインスレイス連邦まで送ってくれるというものだった。
しかも転移門の利用料を免除してくれるだけでなく、今回の報酬として金貨3枚ずつをくれるという破格な対応だ。
通常は街の危機を救った者には賓客として祭典に招待され褒賞が与えられることが多い。そうなると長時間拘束されてしまうだけでなく、高位の王侯貴族が囲いこもうとしてくる可能性もある。
私はもちろんのこと、恐らくカレナもそのような面倒ごとは避けたかったのだろう。私が頷くとカレナも同意して、サングレアの提案に乗ることにした。
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