王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

30 VS.雷龍王

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 雷龍王は私たちに目が合った瞬間、口を大きく開いた。
 今まで以上の濃密な魔力が凝縮されバチバチと音を立てて放たれる。

「ブレスっ!?」

 私は咄嗟に防御系の魔術を使おうと杖を構えようとした。だが、一瞬早く前に出たカレナは、巨大なブレスを一瞥すると、剣を両手で青眼に構えて目にも止まらない速さで振り下ろす。雷龍王のブレスは左右真っ二つに分かれて人がいない建物へと激突した。
 地面を轟かすような揺れと音が私たちを襲う。

「サングレア様。塔の外側を調べてもらえませんか?ここで戦うよりも相手が逃げてくれることに越したことはありません」

 カレナは雷龍王を睨みつけながら言葉にする。
 街中では、こちらの周りに配慮するために全力の攻撃を放つことができない。逆に敵の攻撃からは極力守らなければならず相当不利になる。いくらカレナの実力でも全ての人を守ることは厳しいはずだ。

「私はこのままカレナさんの支援にまわります」

「わかりました。お二人ともお願いします!」

 サングレアは少しだけ悩む様子を見せたが、次の瞬間には頷くいて塔の方へ駆け出して行った。何か言いたいことはあったのだろうが、塔を調べるのなら一番詳しく動きやすいサングレアが適任だ。

「あなたもサングレア様の方へ向かっていいのですよ?正直なところ、あなたを守りながら戦うことは難しい」

「自分の身は自分で守れるのでご心配なく。それから、私はティアです」

 そういえば名乗っていなかったなと思った私は名前を告げてからカレナの隣に立つ。態々、私がラティアーナだと告げるつもりはない。それでも、かつての騎士とこうして並んで戦うのは、少しだけ不思議な気分で嬉しく感じる。

「ティア……わかりました。ですが自身の身は大切にしてください。危なくなったら逃げてくださいね」

 私はカレナの言葉に「わかっています」と短く答えて魔力を集めていく。防御系の術式を構築して待機状態にして相手の様子を窺うことにした。雷龍王が大きな動きを見せない間に準備を進めていく。

「……来ます!」

 雷龍王はカレナを警戒しているようで重点的に狙いをつけようとする。先ほどのようなブレスによる攻撃ではなく、巨体を利用して爪や足、尻尾などをたたき付けようとしてきた。

 カレナは街に被害が出ないように空へ跳躍する。空中を素早く飛び回り雷龍王の死角へ入り込み剣を振り下ろす。

「流石に硬いですが……全く効かないということはなさそうです」

 カレナの斬撃は鱗や甲殻に阻まれて薄っすらと傷つけるに留まった。硬くで斬りにくいならと、剣で狙う先を鱗や甲殻の隙間へ変える。
 これには雷龍王であっても無傷とはいかないようで徐々に傷を与えていく。だが、雷龍王の体躯を考えれば微々たるものだろう。
 カレナもそれを理解しているようで一度斬った場所を狙い続けることにしたようだ。しかも急所になりそうな頭や顔、首、心臓など狙いを満遍なく斬ることで、攻撃する場所を読まれにくくしつつ、有効打を与えるつもりだろう。

「私も負けていられないかな……」

 私の今の魔力出力では攻撃も防御も不可能。だからこそ、時間をかけて魔術を行使し続けて特定のタイミングで凝縮させる手段を取ることにした。
 魔術を行使して、いくつもの氷の剣を造って自身の周囲の地面へ展開していく。
 魔力で作り上げた氷は術者であれば後から変化させることも動かすことも可能。内包している魔力が消えるまでは残り続ける氷の剣は、足りない火力を補うための武器であり燃料にもなりうる。
 そして、カレナの動きに合わせて氷の剣を撃ち放った。放たれた氷の剣は、狙い通りカレナが傷つけた箇所に刺さると内包した魔力を炸裂させる。魔力による爆発と炸裂した氷の刃による二重の攻撃だ。

 雷龍王は私たちの攻撃に苛立ちを覚えたらしく、膨大な雷の魔力を巨大な体躯に纏わせる。

 次の瞬間。

 雷龍王はバチバチと轟かせ、光芒とともに姿を消した。
 気付いたときには、凄まじい轟音が響き、カレナが壁に叩きつけられていた。

 私は急いでカレナの元に駆け寄る。

「カレナ!?」

「ぐぅ……すみません……」

 カレナの右腕はぼろぼろな状態になっていて赤く染まっていた。
 チラッと雷龍王に目を向けると片翼を失い肩まで届くような深い傷を負っていた。傷口からは大量の血が流れていてその場から私たちを睨み付けている。
 どうやら、カレナは片腕を犠牲にして翼を斬ったようだ。

「少しだけ待ってて」

『プレアデス。魔力制限解除と演算同調……お願いできる?』

『ティア本気?今の貴方が全力を出したらほぼ即死よ?』

『大丈夫。策はある』

 私はイメージしたものをプレアデスに送った。私の考えを察したプレアデスは呆れながらも『わかったわ』と委ねてくれた。

「演算同調。魔力制限解除」

 プレアデスと制御力だけを同調し抑えてもらっていた魔力を解放した。
 これであれば扱う魔力自体は私のものだが、制御力は私とプレアデス二人分。かなりの精密操作もできるはずだ。

 魔力糸を魔力回路にあわせて張り巡らせて……疑似魔力回路を形成」

 言葉にすることでプレアデスと息を合わせ、イメージをより具現化させる。身体の中に魔力糸を通すという荒業に痛みが襲い掛かるが、強力な意思を持って無視することにした。

「ふぅ……何とかなったかな」

 体内に張り巡らした魔力糸に魔力を流し身体強化を行使してみる。通常の6割くらいの出力だが、とりあえずは成功だ。

『おそらく数分しか維持できないから気をつけて』

『分かってる。ありがとうね』

 ほんの一時でも全力に近い力を出せれば十分だった。それに今回は一人ではない。

「腕の治療をするわ」

 私はカレナの右腕に触れると治癒魔術を重ねて行使する。地属性と水属性の魔術でぼろぼろになった皮膚や砕けた骨を結合し血液の流れを正常に戻す。
 その状態で聖属性の魔術を行うことで、ほぼ完治するまでの治癒が可能となる。

「三属性の同時使用での治癒……ですか」

 カレナは右手を開いたり閉じたりしながらも信じられなさそうに言葉にする。

「私だけじゃ力不足だからね。申し訳ないけどカレナにも戦ってもらうわ。それから予備の剣を二本貸してくれない?」

「構いませんが……」

 カレナは騎士の頃から常に予備の剣を複数持ち合ういていた。それは今でも変わっていないようで、魔法袋から取り出した二本の剣を受け取る。
 当時の近衛騎士団で使われていたラティアーナの紋章を刻んだ剣を見て、思わず懐かしさがこみ上げてくる。

「ありがとう……さて、行こうか!」

 私とカレナは雷龍王に向かって再び仕掛けた。
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