王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

22 護衛依頼

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「私はサングレアです。皆様、本日は護衛依頼を受けてくださってありがとうございます。どうかよろしくお願いします」

 セルスト王国の王都へ出発する日の朝。
 冒険者ギルド支部の裏庭では出発前の顔合わせが行われていた。
 今回の依頼をしたサングレアと名乗った金髪の女性は、簡素なワンピースを着ている。親しみやすさを覚える一方でどこか高貴な雰囲気を併せ持つ人だった。

「私はお嬢様の付き人をしているアルマだ。少しは剣も嗜んでいるので有事の際は私のことは後回しで構わない」

 次に挨拶をしたのはアルマと名乗った銀髪の女性だった。外套で隠れてはいるが、簡単な鎧を身につけていて腰には剣が携えていた。

 依頼をした二人の後は護衛をする私たちが順番に挨拶をすることになった。ランクが高い順にそれぞれのリーダが前に出る。

「俺はBランクパーティ、レッドロアのリーダを務めるレイだ。魔術は簡単なものくらいしか使えないが、武器を使った任せて欲しいと思う。今回は総指揮も務めさせていただくので、あわせてよろしく頼む」

 レッドロアは6人構成のパーティのようだ。全員が重厚な鎧と大きな剣や槍を携える重戦士のような格好をしている。

「Cランクパーティのブルーガーデン、リーダ、レビンです。水魔術を得意としているので援護などはお任せください」

 対して、ブルーガーデンは4人構成のパーティだった。全員が胸当てなどの簡単な防具を身につけていて、杖だけでなく腰には短剣や盾なども携えている。魔術が主体のようだが護身術くらいはできるのかもしれない。
 近距離特化と魔術主体のパーティ。この二つが一緒に組むのであればバランスはかなり良さそうだ。

「私はDランク冒険者のティアです。魔術全体を得意としています。治癒系も使えるので怪我をした際は声を掛けてもらえるとありがたいです」

「これで全てのパーティの紹介が終わったかな。では出発前の最終確認と準備を行おうか」

 レイはそう言ってセルスト王国の地図を広げると場所を指し示した。

「ギルセリアと王都は、それぞれここだ。間には大きな山が広がっているのもあって普通は迂回する道を辿る。街道沿いにいくつかの街を経由すれば、おおよそ一月かかるだろう」

 地図によれば大きな山がいくつか横に繋がっているようだ。これをまともに避けるのであれば国を横断するのに近いだろう。セルスト王国自体は小国だが、それなりの距離になりそうだ。

 だが、依頼書にはできる限り短い日数、最短距離で王都に行きたいと記載されていた。つまりは正攻法では行かないということ。

「だがそれでは日数がかかりすぎる。それに、こちらの事情で申し訳ないのだが、道中はあまり街に寄りたくはない。したがって山と山の間を抜ける道を通りたいと考えている」

 レイの横でアルマがそう補足した。アルマが示した場所は、森や峡谷のようになっているようだで、地図では一応道が細々と書かれている。

 明らかに獣道のようで本当に馬車が通ることができるのか不安しかない。

 レビンも同じことを考えていたのかアルマに向かって問いかけた。

「この辺りは道といえるものがなかったはずです。歩きならばまだしも、馬車で通り抜けるのは難しいのでは?」

「問題ないはずだ。私たちが使う馬車は少し特殊で悪路であっても走ることができる。人や馬が通ることができる道なら大丈夫さ」

 通常使われている馬車と違って車輪や軸足付近には様々な加工がしてあるらしい。一部には魔術も使われていて揺れの軽減や強度の補強もされているそうだ。

 それから少しの間、私たちはアルマも交えて互いの得意とする戦闘方法について共有した。
 陣形なども魔術を得意とするブルーガーデンを馬車の近くに、武具による近接戦闘を得意とするレッドロアを外側に配置し、さらに数人が少し距離を開けて哨戒を行うことになる。
 私はサングレアやアルマと共に馬車の中に乗りこみ護衛を行うことになっている。もしも両パーティの間を抜かれたときの保険的な役割を担うことになる。



 そして、私たちは出発したわけだが旅自体は思ったよりも順調だった。
 森に入るまでは街道沿いを通るため魔物や盗賊などと遭遇することはなく平和そのもの。森に入っても馬車がガタガタと揺れるくらいだ。たまに魔物が襲ってくるがレッドロアとブルーガーデンの両パーティは流石の一言だった。全く危なげなく魔物を撃退している。

「魔物ってあのような怖い姿をしているのですね……皆様、凄いです。あのような魔物相手に一歩も引かずに戦うなんて」

 馬車の中では最初に挨拶を交わしたときから誰も口を開かなかったため静寂な時間が流れていた。
 そんな時、馬車の窓から外の様子を眺めていたサングレアは囁くような小さな声で呟いた。

「……冒険者ですから。魔物と戦うことが仕事のようなものです」

 何も反応を示さないのもどうかと考えて話してみるとサングレアは驚いたような視線を向けてくる。
 もしかしたら無意識に言葉に出していただけなのかも知れない。

「ティアさんも魔物とは戦うのですか?」

「そうですね……依頼を受けたときや街の外を移動するときは避けて通れないですからね。サングレアさんは魔物を見るのは初めてですか?」

「お恥ずかしい限りですが……最近まで王都の外に出たことがありませんでしたから」

 サングレアが顔を赤くして俯きながら話す傍らで、アルマの鋭い視線が私を捉える。どうやらサングレアのことを名前で呼んだのが許せないようだ。

 私はそのような二人の様子を見て中途半端に隠さなければいいのにと考えていた。
 予想が正しければサングレアは良家の子女どころではなく高位の貴族令嬢か王女の可能性が高い。セルスト王国のことを詳しく知っているわけではないが、サングレアの所作は王侯貴族のなかでも位が高い人のものだ。簡素な格好をしていても仕草や雰囲気までも変えられるわけではなく王侯貴族と接したことのある人なら気付くだろう。
 そして、外套の隙間から一瞬だけ見えたアルマの鎧と剣。それらにはセルスト王国の国章が刻まれているようだった。基本的には国章を刻んだものを持ち歩けるのは、国直轄の組織に属しているか貴族かのどちらか。サングレアとアルマは主従関係のようだし、貴族もしくは騎士を従者にできる人間は大分限られている。

 そんなわけでサングレアたちの正体に薄っすらと気付いているが誰も言及しているわけではない。あくまで私が個人的に察しているだけなため、アルマの抗議の目はスルーすることにした。

「街の外は危険が多いですからね。生まれ育った街から出ない人も多いと思いますよ。サングレアさんは、どうして王都を出てギルセリアに来たのですか?」

「……どうしても行かなければならない理由があって、自由に動けるのが私だけだったからですね」

 サングレアは自信をなさげにしながらも、その言葉からはどこか芯が通っているかのように感じた。
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