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第12章 私を見つけるための旅
21 新しい戦い方
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シータの合図と同時に右手に持つ杖に魔力を徐々に流して魔力弾を生成していく。
身体にかかる負担を抑えるためにも魔力の出力を上げたり急激な出力の増減は避けたかった。だからこそ、微量ながらも常に一定量の魔力を放出し続けて、大気中の魔力を取り込んだ魔力弾として自身の周囲に留めて置く。さらには余った魔力を糸状に加工して足元へ広げていくことにした。
「砲撃型の魔術使いか……時間を掛ける分だけ手に負えなくなりそうだ。こちらからも仕掛けさせてもらうぞ!」
ラルフの姿がぶれるように消える。次の瞬間、斜め後ろから槍が迫りくる気配があった。
私は瞬時に魔力弾を魔力盾へと構築しなおすと槍の軌道を遮るように盾を張る。
立て続けに槍と盾が激突する音と衝撃が鳴り響いた。
「っ……なかなか難しい」
身体強化を使わずに戦うのは思いのほか感覚が違ってくる。膂力や身体の強度がそのままなのは良い。問題は相手の動きを捉えられないことだ。
「よく防ぎ続けるもんだ」
「私も……余裕はありませんよ」
ラルフの槍術はなかなかのものだった。
素早い速度で流れるように移動しつつ鋭く正確な突きを放ってくる。時折、遠心力をのせた豪快な一撃も混じっていて防ぐためには様々な方向を気をつけなければならない。
目だけでは相手の動きを追う事が難しかった。であれば音や気配、魔力と言った視覚以外を研ぎ澄ませる。
「死角からの攻撃も完璧に対処するか!?」
「はぁはぁ……ぎりぎりですけどっ……ね!」
僅かとはいえ常時魔力を放出し続けて大気中の魔力ごと制御下に置き続けるのは、精神的にも疲れるが体力的な負担が大きかった。あまり長い間、これを続けるのは難しいだろう。
何度目かの魔力の盾と槍が激突したタイミングで私は仕掛けることにする。
ラルフが槍を突き刺した瞬間、穂先を目掛けて魔力盾を展開した。今までであれば正面から受け止めるだけだったが今回は一つ手を加えている。
「むっ!?」
槍と衝突した魔力盾は、そのままくるりと回転するように動いて槍の軌道を別の方向へといなす。それによって体勢を崩したラルフは、踏みとどまろうと足に力を入れた。
ラルフの片足に重心が掛かった瞬間、加速魔術を発動させた。いつもは私が跳躍する時に併用して初速を上げるのに使っているがタイミングさえ合えば他人にも使うことができる。
ラルフの身体は体勢を整えるどころか宙に飛び上がる。慌てた表情で着地しようとするが足が地につかない状態ではどうしようもないだろう。
「これで終わりです」
私は留めておいた魔力弾の全てをラルフに向けて放った。十近くの魔力弾は光芒を流しながらラルフに着弾した瞬間炸裂した。
「そこまで!試験は終了です!」
シータが叫んだ終了の合図と同時にラルフが落下してくる。なんとか片手をバネにして転がりながら着地するが、引き攣った笑みを浮かべて「マジか……」と呟いていた。
私も魔力の制御を徐々に外していくと力を抜く。ほっと息を吐きつつも二人の方に視線を向けると、シータがラルフの元へ近づいて手を貸していた。
「ラルフさん大丈夫ですか?」
「ああ……大きな怪我はしていない。だが、最後の攻撃は焦ったぞ」
「私も驚きましたよ。ティアさんも大丈夫ですか?」
「少し疲れただけなので大丈夫です」
体内に意識を集中させるが魔力回路が悪化した様子はなかった。体力も含めて身体を鍛える必要はあるが、新しい戦い方は問題なさそうで少し安心する。これなら負担を極力減らした状態で戦闘をこなすことが可能だろう。
「では試験の結果だが……Cランクの上位に当たる俺がここまでやられたんだ。最初からDランクまで上げてもいいと思うがシータはどうだ?」
「そうですね。私から見てもティアさんの魔術はかなりのものだと思います。良いと思いますよ」
どうやら冒険者登録時の試験で認定される一番上のランクがDということらしい。
ランク制度そのものも私が知っているものとは変わっていて、Fランクがゴブリンやオーガなど割と溢れた魔物の依頼を複数人で受注可、Eランクが単独で受注可、Dランクはもう少し脅威度が高い魔物の依頼受注や護衛依頼への参加ができるそうだ。
「ティアもDランクでいいか?もし不安があるならEに下げることもできるが……」
当初の予定ではランクを上げないつもりだったが、これはこれで良いように思えた。
元々は商隊や乗合馬車などで街から街へ渡り歩こうと考えていたが、護衛も兼ねていれば資金繰りが大分楽になる。ランクが高いと国や領主が抱え込もうとすることもあるが、最低でもBランクを超えなければ目立つことは少ない。
「Dランクで構いません。それでお願いします」
「分かった。では残りの手続きを行おう」
そして地下の試験場から受付の場所まで戻った私は、少しの間待っているように言われた。近くではラルフとシータが受付嬢に試験の結果を伝えていて何らかの作業をしているようだ。
「ティアさん。お待たせしました」
受付嬢に呼ばれてカウンタに向かうと、登録が終わったらしく銅製のプレートを渡してくれる。
「これで登録は完了です。他に質問などありますか?」
「実は故郷に帰りたいんですけど……エスペルト王国方面への護衛依頼ってありますか?」
「そうですね……他国への護衛は一度王都へ向かったほうがいいと思います。王都までの護衛はありますが……少し珍しい形での依頼ですけどお受けになりますか?」
受付嬢はそう言って一枚の依頼書を見せてくれた。内容は馬車で移動する二人を王都の入り口まで護衛すると書かれている。依頼自体は良くあるものだが、下の方に特化事項が書かれていた。
「希望として女性が一人以上欲しいですか?」
「はい。こちらの依頼は護衛対象が女性なので……馬車の中で守る人が一人欲しいそうです。他には既にBランクやCランクのパーティが受注しているのでティアさんでも問題ありません」
報酬が一人当たり小金貨三枚というのは破格の金額だ。馬車を持っていることといい、よほどの裕福な家の出か貴族のお忍びかはわからない。もしかすると他の依頼よりも狙われる可能性はあるかもしれないが、依頼を受けている冒険者が多いのなら少しは安心できそうだった。
「わかりました。受けさせていただきます」
「ありがとうございます。では先方には伝えておきますので二日後の朝一にこちらにお越しください」
私は冒険者ギルド支部を後にすると依頼が始まるまでの間に準備をすることにした。
身体にかかる負担を抑えるためにも魔力の出力を上げたり急激な出力の増減は避けたかった。だからこそ、微量ながらも常に一定量の魔力を放出し続けて、大気中の魔力を取り込んだ魔力弾として自身の周囲に留めて置く。さらには余った魔力を糸状に加工して足元へ広げていくことにした。
「砲撃型の魔術使いか……時間を掛ける分だけ手に負えなくなりそうだ。こちらからも仕掛けさせてもらうぞ!」
ラルフの姿がぶれるように消える。次の瞬間、斜め後ろから槍が迫りくる気配があった。
私は瞬時に魔力弾を魔力盾へと構築しなおすと槍の軌道を遮るように盾を張る。
立て続けに槍と盾が激突する音と衝撃が鳴り響いた。
「っ……なかなか難しい」
身体強化を使わずに戦うのは思いのほか感覚が違ってくる。膂力や身体の強度がそのままなのは良い。問題は相手の動きを捉えられないことだ。
「よく防ぎ続けるもんだ」
「私も……余裕はありませんよ」
ラルフの槍術はなかなかのものだった。
素早い速度で流れるように移動しつつ鋭く正確な突きを放ってくる。時折、遠心力をのせた豪快な一撃も混じっていて防ぐためには様々な方向を気をつけなければならない。
目だけでは相手の動きを追う事が難しかった。であれば音や気配、魔力と言った視覚以外を研ぎ澄ませる。
「死角からの攻撃も完璧に対処するか!?」
「はぁはぁ……ぎりぎりですけどっ……ね!」
僅かとはいえ常時魔力を放出し続けて大気中の魔力ごと制御下に置き続けるのは、精神的にも疲れるが体力的な負担が大きかった。あまり長い間、これを続けるのは難しいだろう。
何度目かの魔力の盾と槍が激突したタイミングで私は仕掛けることにする。
ラルフが槍を突き刺した瞬間、穂先を目掛けて魔力盾を展開した。今までであれば正面から受け止めるだけだったが今回は一つ手を加えている。
「むっ!?」
槍と衝突した魔力盾は、そのままくるりと回転するように動いて槍の軌道を別の方向へといなす。それによって体勢を崩したラルフは、踏みとどまろうと足に力を入れた。
ラルフの片足に重心が掛かった瞬間、加速魔術を発動させた。いつもは私が跳躍する時に併用して初速を上げるのに使っているがタイミングさえ合えば他人にも使うことができる。
ラルフの身体は体勢を整えるどころか宙に飛び上がる。慌てた表情で着地しようとするが足が地につかない状態ではどうしようもないだろう。
「これで終わりです」
私は留めておいた魔力弾の全てをラルフに向けて放った。十近くの魔力弾は光芒を流しながらラルフに着弾した瞬間炸裂した。
「そこまで!試験は終了です!」
シータが叫んだ終了の合図と同時にラルフが落下してくる。なんとか片手をバネにして転がりながら着地するが、引き攣った笑みを浮かべて「マジか……」と呟いていた。
私も魔力の制御を徐々に外していくと力を抜く。ほっと息を吐きつつも二人の方に視線を向けると、シータがラルフの元へ近づいて手を貸していた。
「ラルフさん大丈夫ですか?」
「ああ……大きな怪我はしていない。だが、最後の攻撃は焦ったぞ」
「私も驚きましたよ。ティアさんも大丈夫ですか?」
「少し疲れただけなので大丈夫です」
体内に意識を集中させるが魔力回路が悪化した様子はなかった。体力も含めて身体を鍛える必要はあるが、新しい戦い方は問題なさそうで少し安心する。これなら負担を極力減らした状態で戦闘をこなすことが可能だろう。
「では試験の結果だが……Cランクの上位に当たる俺がここまでやられたんだ。最初からDランクまで上げてもいいと思うがシータはどうだ?」
「そうですね。私から見てもティアさんの魔術はかなりのものだと思います。良いと思いますよ」
どうやら冒険者登録時の試験で認定される一番上のランクがDということらしい。
ランク制度そのものも私が知っているものとは変わっていて、Fランクがゴブリンやオーガなど割と溢れた魔物の依頼を複数人で受注可、Eランクが単独で受注可、Dランクはもう少し脅威度が高い魔物の依頼受注や護衛依頼への参加ができるそうだ。
「ティアもDランクでいいか?もし不安があるならEに下げることもできるが……」
当初の予定ではランクを上げないつもりだったが、これはこれで良いように思えた。
元々は商隊や乗合馬車などで街から街へ渡り歩こうと考えていたが、護衛も兼ねていれば資金繰りが大分楽になる。ランクが高いと国や領主が抱え込もうとすることもあるが、最低でもBランクを超えなければ目立つことは少ない。
「Dランクで構いません。それでお願いします」
「分かった。では残りの手続きを行おう」
そして地下の試験場から受付の場所まで戻った私は、少しの間待っているように言われた。近くではラルフとシータが受付嬢に試験の結果を伝えていて何らかの作業をしているようだ。
「ティアさん。お待たせしました」
受付嬢に呼ばれてカウンタに向かうと、登録が終わったらしく銅製のプレートを渡してくれる。
「これで登録は完了です。他に質問などありますか?」
「実は故郷に帰りたいんですけど……エスペルト王国方面への護衛依頼ってありますか?」
「そうですね……他国への護衛は一度王都へ向かったほうがいいと思います。王都までの護衛はありますが……少し珍しい形での依頼ですけどお受けになりますか?」
受付嬢はそう言って一枚の依頼書を見せてくれた。内容は馬車で移動する二人を王都の入り口まで護衛すると書かれている。依頼自体は良くあるものだが、下の方に特化事項が書かれていた。
「希望として女性が一人以上欲しいですか?」
「はい。こちらの依頼は護衛対象が女性なので……馬車の中で守る人が一人欲しいそうです。他には既にBランクやCランクのパーティが受注しているのでティアさんでも問題ありません」
報酬が一人当たり小金貨三枚というのは破格の金額だ。馬車を持っていることといい、よほどの裕福な家の出か貴族のお忍びかはわからない。もしかすると他の依頼よりも狙われる可能性はあるかもしれないが、依頼を受けている冒険者が多いのなら少しは安心できそうだった。
「わかりました。受けさせていただきます」
「ありがとうございます。では先方には伝えておきますので二日後の朝一にこちらにお越しください」
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