王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

12 億年桜

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 結界の効果は内外の遮断だけではないようだった。扉を抜けた先には綺麗に花を咲かせている億年桜が存在感を強くするが根元の近く、海から出ている部分には港町が広がっているのが見える。巨大な幹の周りを囲むように造られた人工の浮遊島のような感じだ。

「あちらの広場のほうにお願いします。恐らく迎えもきてますから」

 紫陽の案内で石造りの広場にワイバーンたちを着陸させた。ガロンの手を借りて地面に降りたのと同じくらいのタイミングで複数人の気配に囲まれる。そんななか、一人の男が近付いてきた。

「紫陽、それに黒羽もおかえり……それで、これは一体どういう状況かな?」

「ただいま戻りましたお父様。詳しく説明しますので皆のことは丁重におもてなしをお願いします」

 紫陽の父の視線が私やガロンたち戦士団へと向けられる。辺りが緊張感に包まれるが少しして紫陽の父が「わかった」と呟く。
 すると、周りからの刺すような気配が和らいだ。

「私は陽炎……紫陽の父にして今代の禰宜を務める者です。まずは私の屋敷に案内しますがよろしいでしょうか?」

「獣人国家を代表して私が向かいましょう。他の戦士達はワイバーンと共にここに残しても?」

「問題ありません。娘の……次の巫女である紫陽の客人となれば無碍にはできませんから。では入国されるのは貴方と……」

 陽炎の探るような視線が私へと向く。恐らく獣人ではない私がどのような存在なのか図りかねているのだろう。

「彼女はティアさん。私の友人であり恩人です。お父様」

「そうか……ではお二人を案内しましょう。どうぞこちらへ」

 陽炎の放つ雰囲気から刺々しいものが少しだけ減ったように感じた。



 そして、陽炎に案内されて私とガロンは紫陽たちと共に港町の奥へと向かう。

 街を抜けて億年桜に近付くと巨木も囲むような長い石壁が見えてきた。
 歩きながら紫陽から話を聞いてみると、どうやら港町自体が外の人を迎えるような場所らしい。商店や宿などが存在し誰でも利用できるそうだ。
 その反面、警備はかなり厳重らしくエスペルト王国で言うところの影の部隊のような人たちに監視はされているらしい。少しでも問題を起こせば軽くても数日間拘留され、大きな問題を起こすと良くて追放、最悪は罰が下されるらしい。

 壁の上や門の近くには何人もの兵士が警備をしていて他国の国境にある関所と同じような役割をしているそうだ。億年桜の上にある街に入るためには関所を必ず通る必要がある。

「陽炎様、紫陽様、お疲れ様です。そちらの御仁たちは?」

「私たちの客だ。一時滞在の手続きを」

 門を警備している兵士は「かしこまりました」と言って門の奥へと向かう。
 私とガロンは紫陽の紹介があるため身元の調査などは省かれる。いくつかの質問に答えて持ち物を見せるだけで通行証を発行してもらうことができた。通行証を手で触れると魔力が僅かに吸い取られる。

「通行証は常に持ち歩くようにしてください。様々な場所に設置してある判定術具に引っかかる可能性がありますので」

「判定術具……ですか?」

「はい。関所はもちろんですが街の中にも個人を判定する術具が設置してあります。住民登録のない者で入国証がないと不法侵入と見なされてしまいますので」

 エスペルト王国でも国境や大きな街を通るときに魔力が登録される。なにかあった場合は魔力認証による照会が行われるが桜花皇国のこれも似たようなものかもしれない。

 私たちはいくつかの説明を受けたあと門を潜り抜けた。
 抜けた先には、柱のような塔のような石造りの物が何本も上へと伸びている。建物の中は階段やリフトになっていて上が見渡せないほどの高さを誇っていた。
 リフトに乗って上へと行くとついに桜花皇国の中へ入ることになる。

「綺麗……」

 扉から出て最初に目に入った光景は桜の舞い散る光景だった。空気中に舞うダイヤモンドダストと桜の花弁が合わさってとても綺麗な光景を醸し出していた。
 街の造りは私の知っている国よりも木材を基調にした箇所が多いようだ。地面などは石やレンガ、木材によって舗装されている。建物などは木と石を融合したような造りになっていてお洒落な雰囲気だった。和と洋を兼ね備えた感じだろうか。

「珍しいでしょう。他国にも桜はありますが、これだけ大きくて万年咲き続ける桜は他にないですから」

 億年桜は幹だけでも直径が十数キロメートルにも及び枝まで含めると半径百キロメートル近くになるらしい。花びら自体も散るよりも新しく生まれる方が多くなっていて常に満開状態らしい。

「そうだね。桜は好きだけど大陸にはあまりなかったし……こうして、ゆっくり見るのは本当に久しぶりかも」

 エスペルト王国や他の国でも桜を見たことはあった。けれど、桜並木になるほど多くあるわけではないし日本にあったような大きなものでもない。
 この光景は、私にとって懐かしさを覚えるものだった。




「では、話を聞かせてもらいましょうか」

「お父様。まずは、私から説明します」

 屋敷の応接間に案内された後、陽炎と向き合う形で私たちは座る。陽炎の問いかけに対して最初に口を開いたのは紫陽だった。
 紫陽は桜花皇国を出てから今に至るまでのことを順番に語った。
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