王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

10 私の願い

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「だったらドルバイド帝国の件でラメルシェル王国の味方になってくれないかな?もちろんできる限りで良いし直接の支援とまでは言わないけど……あの国が滅亡しないようにしたい」

 ぱっと思いついたのはラメルシェル王国のことだ。拠点を破棄して体制の立て直しを図っているだろうが、もしもドルバイド帝国が全力で侵攻した場合防ぎきれないだろう。
 かといって再び拠点や土地を破棄してしまえば民たちの住む場所がなくなり食糧の生産も補えなくなってしまう。

 そこまで考えてお願い事を口にするとカルラとガロンが呆れた視線を向けてきた。

「全く……こんなときまで他人の心配ですか。貴方らしいですけど、もっと自身の願いとかないのですか?」

「自身の願いでもあるの。あそこには大切な友人たちがいるけど、私の力では守ることも難しいから。それにラメルシェル王国が無事だと保障できれば私も動きやすいじゃない?」

 仕掛けられた争いを簡単に終わらせる方法などあまりない。それこそ攻めてくる側を再起不能になるまで叩き潰せば可能だろうが大国相手にとても現実的ではないだろう。
 だから、少なくとも数年。最悪は数十年単位でどうにかするための手段が必要になる。

「なるほど……貴方の狙いは打開ではなく膠着ですか」

「そう。もし決定打を与えるなら三つの国だけじゃ足りない……それこそ勇者の力を考えるとエスペルト王国と同盟関係にある国々の協力が必要なくらいだ。でも敵も一枚岩じゃない。こう着状態になって少しの一手で大きな波が起きるとしたら動く人もいるかもしれない」

「ドルバイド帝国はグランバルド帝国とは別で長い間戦い続けて併合し続けて造られた大国。途中からは自国にするのではなく属国としていきましたが、内外問わずに忠誠心を持っている者は少ないでしょうね」

「そういうこと。まぁ数年すれば私も全快しているだろうからね。友人に会いに行くときに手助けもできるだろうけど……当面の間の保障が欲しい」

 そのときに私がどのような立場になっているか分からないけれど。
 仮に立場があったとしても理由さえ作れば動けるし、正体を隠して介入することも吝かではなかった。

「ガロン」

 カルラは私のお願いに対して笑顔で頷くとガロンに呼びかける。ガロンも分かっているといった様子で頷いた。

「桜花皇国の件と同時にこちらも進めます。恩を返したいというのは姉だけじゃなく私の気持ちでもありますので」

 カルラとガロンの言葉に安心して肩の荷が下りた気分だ。一度は引き締めたはずの涙腺が再び緩んで涙が溢れそうになる。

「っ……二人とも、ありがとう」

「どういたしまして」
「こちらこそ」

 カルラとガロンが手を差し伸べてきて私も両手を差し出す。
 互いの手を握ると笑みを浮かべた。

 一段落したところで話の内容が他愛のないものへと変わり始める。
 分かれた後に互いにどのような生活を送ってきたとか、今の私に生まれ変わってからのことなどだ。

 二人とも予定が詰まっている中で時間を作ったらしく半刻程度の短いものだった。
 けれど、様々な感情が往来する濃い時間だったと思う。
 楽しかった時間は鐘の音と共に終わりを告げようとしていた。

「もうこんな時間ですか……短く感じますね」

「そうだね。これだけ、色々なことを話したり思い出したりしたのは久しぶりだった」

 前世のことを知っている紫陽たちやアイラにもここまでたくさんのことを話したことはない。
 今はもう前世と今を無理に分ける必要もないと思っている。だけど、こうしてラティアーナだった頃のことを話していると今の私にとっても大切な時間だったと心から思えた。
 ふと紫陽の言葉を思い出してストンと心が埋まった気がする。

「次は公務を調整してもう少し時間を作りましょう。直ぐには難しいですが食事をしながらでも良いですし」

「そうですね。細かい調整はガロンに任せます。機会はこれから先にいくらでもありますから」

 二人とも今日の時間を作るだけでも大変だったはずだ。ここに後どれだけの日数を滞在するか決まってないが、こうして三人だけで話す時間は取れないだろう。
 けれどそれは、シャスタニアを再び訪れれば良いだけのことだ。たっぷりと時間はあるのだから。

「そうだね。またこうして三人で会って話したいかな」

 次に会うとしたらシャスタニアを離れるときだろう。公式の場では親しく接するどころか言葉を交わすことも難しいかもしれない。

「またね」

「「また会おう」」

 だからこそ、この言葉で締めることにした。



 そして、二日後の朝。
 獣公国シャスタニアを出立し桜花皇国へ向かう時がやって来た。

「ではガロン。三人のことを頼みましたよ」

「分かっています。無事に送り届けます」

 ワイバーンの発着地に見送りに着てくれたのはカルラとルークの二人だ。ガロンは戦士団の数人と共に私たちを送り届けてくれることになっている。
 ワイバーンによる高速飛行で今日の夕方くらいには到着する予定だ。

「ティア。これを」

 戦士団の人がワイバーンの装具に荷物をくくりつけているとカルラが近付いてきて手を伸ばしてくる。その手には大きめのバッジみたいなものが握られていた。

「これは……徽章ですか?」

 受け取ったものをよく見ると獣人国家の紋章と獣公国シャスタニアの紋章が刻まれているのが分かる。そしてもう一つ別の紋章も刻まれていた。

「私の紋章入りの徽章です。それを見せればシャスタニアの……いえ、私の客人だということが証明できます。他の獣国も手出ししにくくなるでしょうしシャスタニア内であれば大抵の願いは通るでしょう」

「なんて無茶な……」

 カルラの言葉に何もしらなかったらしい戦士団の人たちが目を見開いて固まっていた。知り合いだということを話した紫陽や黒羽すらも驚きのあまり目をぱちぱちをして言葉にならないくらいだ。

 それもそのはずで、個人の紋章入りの徽章は許可証のような意味も含まれている。つまり私が行うことに対してあらかじめカルラの、王の許可があるということに等しい。よほど信頼のおける大切な人が相手でも滅多に渡さないものだ。
 ラティアーナだった頃の私であっても、お忍び用としてティア用に造っただけで他人に渡したことはない。

「先日の分だけでは返しきれないと思いまして。なので、私とガロンからの恩返しと……しばらく会えなくなる友人へ餞別も兼ねてです」

 カルラは私にだけ聞こえるくらいの小さな声で呟くと「では、また会えることを楽しみにしています」と私たちに向けて言葉にした。

「カルラ陛下。この度は助けていただき改めて感謝を。今後とも良い関係が結べることを祈っています」

「紫陽。この話し合いが上手くいくことを期待しています」

 最後に紫陽が代表してカルラと言葉を交わし、私たちはワイバーンに乗って空へと出発した。
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