王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

7 シャスタニア公都へ

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 公都へ旅立つ日の朝。

 少し早い時間に目が覚めた私はベッドから起き上がると背伸びをする。身体が重く少しふらつくが体調はそこまで悪いわけじゃない。

「んんっ……シアさんには感謝だね」

 数日間の休養のおかげで風邪はほぼ治りかけている。残るは魂の欠損や戦闘で無茶した反動だが、こちらは治るものではないので仕方がない。
 それでも、シアの調合した薬のおかげで苦痛が和らぎ微熱程度で済んでいるので感謝しかないだろう。
 プレアデスの協力もあって生命力や魔力も揺らぐことなく安定している。

 部屋の窓に近付くと街並みが一望することができた。
 白亜の石を主体とした無骨ながらも使い勝手を追求したような街。住民たちの姿もちらほらと見えるが皆幸せそうな凛々しい表情をしている。

「いいところだなぁ……」

 獣人と話したことはあったけれど、こうして生活している場所を見るのは今回が初めてだ。
 特別な景色と言うわけではないが久しぶりに見る平和な光景に懐かしさや哀愁を感じているとゴーンと鐘の音が聞こえてくる。

「……もうそろそろ時間かな」

 今私がいるのは、この都市の中核となる場所だ。その中の来賓向けの建物にある客室にいるわけだが、あと少しすれば下のロビーに迎えが来るとルークが言っていた。
 この格好では外に出られないため用意してもらった服で身だしなみを整えると共に魔術で汗を流すことにした。

「これくらいなら魔力を使っても大丈夫そうね……でも身体強化は無理か」

 どうやら魔力回路も傷ついているようだった。少ない魔力を放出するなら問題なさそうだが身体強化のような体内に魔力を循環させるものは控えたほうが良さそうだ。
 私はできるかぎり大気中の魔力を使って洗浄用の魔術を行使する。汗を流してさっぱりとしたところで服を着替えて身だしなみを整えて部屋を出た。

「おはようございます。体調は大丈夫ですか?」「おはよう。行けそうか?」

 廊下には紫陽と黒羽が準備を終えて待っていたようだった。二人も支給された厚手の服と外套を羽織っていて三人お揃いに近い。

「おはよう。しっかりと休めたから大丈夫だよ」

「それは良かったです。顔色も大分良さそうですが無理だけはしないでくださいね」

「分かってる……ありがとうね」

 二人の心配そうな視線に大丈夫だと頷いた。



 ロビーに向かった私たちを待っていたのはルークが用意した使者だった。どうやら公都までの移動手段が街の外れにある高台にあるらしく、使者の案内で目的の場所まで向かう。
 しばらく歩いて辿り着いた先には、ルークやシアを始めとする数人の獣人たちがいた。

「来たか」

「お待たせしました……それで、ここからどうするのですか?」

 待っていたルークに対して紫陽はきょろきょろと周りを確認しながら問いかける。回り階段を昇った先にあるこの場所は広い円形のような造りになっているが何かが置いてあるわけではない。
 しかし、ルークは笑みを浮かべて「もうすぐ分かるはずだ」と自信満々に告げた。

「あれは……鳥の大群か?それにしては大きいような……」

 すこしの間待っていると遠くからいくつかの黒い点のようなものが空に見える。それらは少しずつ近付いてきて姿が次第に見えるようになってくる。その姿は大きな鳥と言うよりも龍の形に近い。

「鳥……いやワイバーンか!?」

「ワイバーン?飛龍じゃなくて?」

 黒羽が言ったワイバーンというのは聞き覚えのない名前だ。私が知っている中では何度か戦ったことのある飛龍が近いように思えるが黒羽は「別物だ」と首を横に振る。

「飛龍にもいくつか種類があるがあれは龍種だ。それに対してワイバーンは龍に近いが鳥系の魔物になる」

 私も詳しくは知らなかったが龍種は翼と別に手足が四本あるものを指すらしい。向かってくるワイバーンのように足二本と翼だけでは龍種には当たらないそうだ。

「本来魔物との意思疎通は難しい。もちろん温厚な奴や魔力が強い奴には敵意を見せないものはいるし長い年月をかければある程度飼いならすこともできる」

 魔物は魔力が強く凶暴になりがちなだけで動物と同じだ。そもそも、大きな分類では人も動物に入るのと同じで生きているものは全て動物ということになる。
 そして魔物も餌付けや調教することである程度使役することもできるらしい。

「そして俺たち獣人の固有の能力だが……獣人のルーツになっている動物や魔物とはなんとなく意思の疎通ができるんだ。それを利用して公国全体でいくつかの魔物を使役している……あのワイバーンもその内の一つでうちの主力となる航空部隊だ」

 ルークの説明を聞いているといくつものワイバーンが降りてくる。それぞれの背中には様々な格好をした獣人が乗っているようだった。イメージとしては馬に乗っている様子が一番近いだろう。

「ルーク様。お待たせしました」

「ほう?誰が来るかと思ったらボルテか。公王直属の戦士団が派遣されるとは手厚い歓迎だな」

 ボルテと呼ばれた男はワイバーンの部隊を率いている狼系の獣人だった。
 戦士団はボルテを含めて全員がどこか紳士的な印象がある。だが、足捌きや佇まいを見るだけでも相当な強さを誇るだろう。

「総長の命ですね。陛下としても現状を浮いてましたから客人に期待しているのですよ」

「この件は獣王の意向もあるからしばらく静観かと思ってたが……大きく動きそうだ。俺も同行することにして正解だったな」

 ボルテは朗らかな笑みを浮かべると私たちの元にやってきて簡単に挨拶をする。

「私は第8飛行旅団の団長のボルテです。私たちがあなたがたを乗せて公都まで運びます。私が彼女を担当しますからレインとソラウは残りの二人をお願いします」

 どうやらボルテが私を乗せてくれるようだった。ボルテの案内でワイバーンの近くまで行くと想像以上の大きさと迫力に思わず息を呑む。

「ワイバーンを見るのは初めてですか?」

「そうですね。魔物をこう近くで眺めたことがないです」

 私にとって魔物は襲いかかってくる敵と言う印象が強い。一応愛玩用の危険の少ない魔物がいることも知っているが、そういった魔物は小型のウサギのように可愛らしい姿をしている。
 確かに敵意は感じないが、それでも緊張してしまうのは無理もないだろう。

「安心してください。人に慣れてますし無理に危害を加えなければ暴れませんから」

 ボルテが先に乗りこむと手を差し伸べてくれた。
 私はその手を取ってワイバーンの背中にある鞍のような場所に跨ると合図と共に空へと飛び立つ。

「わぁ……」

 ワイバーンは想像よりも早い速度で空を翔ける。飛び立つ瞬間は衝撃が凄かったが飛行中は揺れが少ない。冷たい空気が肌を刺してくるが用意してくれた外套のおかげで寒さを感じなかった。
 あっという間に雲に近い高さまで登ると、その勢いのまま前へと進んでいく。

「慣れない人だと怖がるのですが、あなたなら大丈夫そうですね。公都までおよそ一刻ほど。空の旅をお楽しみください!」

 こうして小さくなった街を眺めつつも獣公国シャスタニアの公都を目指した空の旅が始まった。
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