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第12章 私を見つけるための旅
6 私が眠っている間の出来事
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「全く……お二人とも落ち着いてください。ティアさんが驚いてしまいますよ」
「すみません」
「すまない」
シアが肩をすくめて咎めるように言うと紫陽と黒羽は気まずそうに謝った。そんな二人の姿を見て気落ちは分かると苦笑する。
「積もる話もあるでしょうから私はこれで。何かあれば呼んでください」
シアは朗らかな笑みを浮かべて、そのまま部屋の外に出て行った。恐らくは私たちに配慮して席を外してくれたのだろう。
私はシアに感謝を抱きつつ二人に視線を向ける。
「二人とも無事でよかった」
「それはこちらの言葉だ。さすがに今回は焦ったぞ」
二人は私の近くに腰掛けると、私が眠っている間の出来事を教えてくれた。
銀狼との戦闘で私が意識を失ったあと。
黒羽は私を背負って森の中を移動してくれたらしい。だが度重なる消耗や重い風邪などが重なった私は、高い熱を出し息を荒げていたそうだった。
二人は私を早く休ませなければと最短距離でのシャスタニア入りを目指すことを考えた。
そして、国境を越えたところでシャスタニアの戦士と対面したそうだ。
「よく戦いにならなかったというか……助けてくれたね」
「桜花皇国と獣公国シャスタニアは非公式の交流がありますからね。捕まった際に徽章を取られずに助かりました」
二人が持つ徽章は桜花皇国に属していることだけでなく、それなりの立場を示すもの。それはエスペルト王国で王侯貴族が持つ指輪のようなものだそうだ。
「シャスタニアとしてもドルバイド帝国とは敵対している。特に最近の帝国の動向には思うところがあったようだし、事情を話して理解してもらうことができた。そして国境近くの街……つまりここへ辿り着いたのが一昨日の昼頃だ」
「そっか……じゃあ、あの戦いの後直ぐに……」
当然二人も消耗が大きかったはずだ。力尽きた私を運ぶのも大変だっただろうし時間がかからなかったのは喜ばしいことだろう。
「それからはあまり変化はない。ティアのこともあったし私たちも霊力が尽きかけていたから……ティアの治療をお願いして私たちも休ませてもらっていた。そして昨日になってここの責任者と話をしたわけだ」
黒羽は昨日の話し合いの大まかな内容を教えてくれた。
内容自体は情報交換が主となったが一先ず決まったこととして滞在する間の衣食住の提供と私の治療を施してくれることになったらしい。
そして十分に休息がとれたところで公都に向かい、これからの話し合いを行うそうだ。
「だからシアさんが申し訳なさそうにしていたのね……」
「そうだな。もしかしたら治療できるかと思ったのだが……こちらでも難しいようだ」
黒羽は残念そうに言葉にするが仕方のないことだ。こればかりは肉体的な問題ではなく魂が関係すること。病気でも怪我でもない以上、治療はできない。
「原因は分かってるのだからそんな顔をしないで。まだ時間はあるし解決策がないわけじゃないから……それよりも公都での話し合いは上手くいきそうなの?」
暗くなった雰囲気を変えるように明るい声で問いかける。すると、今度は紫陽が説明してくれる。
「一応こちらの事情や要望は伝えてあります。どこまで叶うかは分かりませんが……今の公王は人間に対して友好的な関係を築きたいと思っているようです。私たちが現時点で示した要望くらいなら大丈夫ではないかと」
紫陽と黒羽からシャスタニアへの要望は二つ。
最優先事項として私たち三人の桜花皇国までの支援。そして対ドルバイド帝国勢力への協調関係を結ぶための話し合いを行うことだ。
「それだったら可能性が高そうだね。決めるのでなく話し合いへの参加だけなら抵抗も少ないだろうし……桜花皇国までの道のりも獣人国家を抜けて海まで行くところまでの安全が確保できればかなり楽になる」
獣人国家へ立ち寄るのは想定外だったが結果としてよかったのかもしれない。
そのようなことを考えているとコンコンとノックする音が聞こえた。少しして「失礼する」と声がして一人の男性が入ってくる。
それは初めて見る壮年の男性だった。獣人のようだが姿は人間とそう変わらないように見える。
「ルーク様」
紫陽と黒羽は立ち上がるとルークと呼んだ男性に向かって丁寧な挨拶をする。ルークに対してはシアと話している時よりも畏まっているところを見る限り、それなりの立場の人のようだ。
「紫陽殿に黒羽殿。公都へ向かう日取りが決まったんで伝えに来たんだ。それにシアから嬢ちゃんが目覚めたってのも聞いたんでな」
ルークの第一印象は厳つい雰囲気を放つ戦士といったものだった。しかし話し方がとても柔らかく面倒見のいいおじさんのように感じる。
そんなルークの視線が私を捉えた。
「始めまして。ティアです」
「ほう?随分と大人びてる嬢ちゃんだな。俺はルーク。お前たちで言う鳥人族で、ここというか……公国シャスタニアの南東部を治める領主だ」
「……領主様ですか?」
偉いとは思っていたが精々軍団長のようなものかと思っていた。思わず目をパチパチと瞬きをして聞き返すとガハハと声を出して笑う。
「ここはシャスタニアの国境だ。お前たち人間の国がどうか知らんが、獣人にとって上に立つものとして必要なのは強さと器があるかどうか。領主たるもの戦場に立って鼓舞しなければならん……もっとも俺の場合は現公王の叔父に当たるあたるからな!」
ルークは再び笑い声を上げるが血筋だけでは領主にはならないだろう。少なくとも私の知る限りの良い領主、良い王と比べても遜色はなく感じる。
「まぁ話は置いといてだ。お前たちのことをカルちゃ……コホン。公王陛下に伝えたところ直接会いたいと言っていてな。急ではあるが明日話したいそうだ」
「わかりました。こちらがお願いしている間ですから感謝しかありませんが……」
紫陽はそう答えて一瞬だけ私に視線を向けた。
恐らく公都まで移動になるので心配しているのだろうが大丈夫だと頷く。
「私も大丈夫です。皆さんのおかげでだいぶ良くなりましたから。では、今日のうちに移動するのですか?」
ここから公都までどれくらい離れているか分からない。けれど、移動するのなら早いほうが良いだろう。
そう考えて問いかけるとルークは笑みを浮かべて「出発は明日の朝だ」と返事をした。
「どうやって移動するのかは明日の楽しみにしておけ……今日はゆっくり休むと良い」
ルークはそう言ってこの場を後にした。
「すみません」
「すまない」
シアが肩をすくめて咎めるように言うと紫陽と黒羽は気まずそうに謝った。そんな二人の姿を見て気落ちは分かると苦笑する。
「積もる話もあるでしょうから私はこれで。何かあれば呼んでください」
シアは朗らかな笑みを浮かべて、そのまま部屋の外に出て行った。恐らくは私たちに配慮して席を外してくれたのだろう。
私はシアに感謝を抱きつつ二人に視線を向ける。
「二人とも無事でよかった」
「それはこちらの言葉だ。さすがに今回は焦ったぞ」
二人は私の近くに腰掛けると、私が眠っている間の出来事を教えてくれた。
銀狼との戦闘で私が意識を失ったあと。
黒羽は私を背負って森の中を移動してくれたらしい。だが度重なる消耗や重い風邪などが重なった私は、高い熱を出し息を荒げていたそうだった。
二人は私を早く休ませなければと最短距離でのシャスタニア入りを目指すことを考えた。
そして、国境を越えたところでシャスタニアの戦士と対面したそうだ。
「よく戦いにならなかったというか……助けてくれたね」
「桜花皇国と獣公国シャスタニアは非公式の交流がありますからね。捕まった際に徽章を取られずに助かりました」
二人が持つ徽章は桜花皇国に属していることだけでなく、それなりの立場を示すもの。それはエスペルト王国で王侯貴族が持つ指輪のようなものだそうだ。
「シャスタニアとしてもドルバイド帝国とは敵対している。特に最近の帝国の動向には思うところがあったようだし、事情を話して理解してもらうことができた。そして国境近くの街……つまりここへ辿り着いたのが一昨日の昼頃だ」
「そっか……じゃあ、あの戦いの後直ぐに……」
当然二人も消耗が大きかったはずだ。力尽きた私を運ぶのも大変だっただろうし時間がかからなかったのは喜ばしいことだろう。
「それからはあまり変化はない。ティアのこともあったし私たちも霊力が尽きかけていたから……ティアの治療をお願いして私たちも休ませてもらっていた。そして昨日になってここの責任者と話をしたわけだ」
黒羽は昨日の話し合いの大まかな内容を教えてくれた。
内容自体は情報交換が主となったが一先ず決まったこととして滞在する間の衣食住の提供と私の治療を施してくれることになったらしい。
そして十分に休息がとれたところで公都に向かい、これからの話し合いを行うそうだ。
「だからシアさんが申し訳なさそうにしていたのね……」
「そうだな。もしかしたら治療できるかと思ったのだが……こちらでも難しいようだ」
黒羽は残念そうに言葉にするが仕方のないことだ。こればかりは肉体的な問題ではなく魂が関係すること。病気でも怪我でもない以上、治療はできない。
「原因は分かってるのだからそんな顔をしないで。まだ時間はあるし解決策がないわけじゃないから……それよりも公都での話し合いは上手くいきそうなの?」
暗くなった雰囲気を変えるように明るい声で問いかける。すると、今度は紫陽が説明してくれる。
「一応こちらの事情や要望は伝えてあります。どこまで叶うかは分かりませんが……今の公王は人間に対して友好的な関係を築きたいと思っているようです。私たちが現時点で示した要望くらいなら大丈夫ではないかと」
紫陽と黒羽からシャスタニアへの要望は二つ。
最優先事項として私たち三人の桜花皇国までの支援。そして対ドルバイド帝国勢力への協調関係を結ぶための話し合いを行うことだ。
「それだったら可能性が高そうだね。決めるのでなく話し合いへの参加だけなら抵抗も少ないだろうし……桜花皇国までの道のりも獣人国家を抜けて海まで行くところまでの安全が確保できればかなり楽になる」
獣人国家へ立ち寄るのは想定外だったが結果としてよかったのかもしれない。
そのようなことを考えているとコンコンとノックする音が聞こえた。少しして「失礼する」と声がして一人の男性が入ってくる。
それは初めて見る壮年の男性だった。獣人のようだが姿は人間とそう変わらないように見える。
「ルーク様」
紫陽と黒羽は立ち上がるとルークと呼んだ男性に向かって丁寧な挨拶をする。ルークに対してはシアと話している時よりも畏まっているところを見る限り、それなりの立場の人のようだ。
「紫陽殿に黒羽殿。公都へ向かう日取りが決まったんで伝えに来たんだ。それにシアから嬢ちゃんが目覚めたってのも聞いたんでな」
ルークの第一印象は厳つい雰囲気を放つ戦士といったものだった。しかし話し方がとても柔らかく面倒見のいいおじさんのように感じる。
そんなルークの視線が私を捉えた。
「始めまして。ティアです」
「ほう?随分と大人びてる嬢ちゃんだな。俺はルーク。お前たちで言う鳥人族で、ここというか……公国シャスタニアの南東部を治める領主だ」
「……領主様ですか?」
偉いとは思っていたが精々軍団長のようなものかと思っていた。思わず目をパチパチと瞬きをして聞き返すとガハハと声を出して笑う。
「ここはシャスタニアの国境だ。お前たち人間の国がどうか知らんが、獣人にとって上に立つものとして必要なのは強さと器があるかどうか。領主たるもの戦場に立って鼓舞しなければならん……もっとも俺の場合は現公王の叔父に当たるあたるからな!」
ルークは再び笑い声を上げるが血筋だけでは領主にはならないだろう。少なくとも私の知る限りの良い領主、良い王と比べても遜色はなく感じる。
「まぁ話は置いといてだ。お前たちのことをカルちゃ……コホン。公王陛下に伝えたところ直接会いたいと言っていてな。急ではあるが明日話したいそうだ」
「わかりました。こちらがお願いしている間ですから感謝しかありませんが……」
紫陽はそう答えて一瞬だけ私に視線を向けた。
恐らく公都まで移動になるので心配しているのだろうが大丈夫だと頷く。
「私も大丈夫です。皆さんのおかげでだいぶ良くなりましたから。では、今日のうちに移動するのですか?」
ここから公都までどれくらい離れているか分からない。けれど、移動するのなら早いほうが良いだろう。
そう考えて問いかけるとルークは笑みを浮かべて「出発は明日の朝だ」と返事をした。
「どうやって移動するのかは明日の楽しみにしておけ……今日はゆっくり休むと良い」
ルークはそう言ってこの場を後にした。
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