王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第11章 壊れかけのラメルシェル

28 ティアの全解放

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「っ……!?」

 コルキアスの双眸が驚愕に染まる。

 プレアデスとの仮ではなく正式な契約。
 同調を最大まで上げてプレアデスの力を自身にもリンクさせる完全同調。
 そして、精霊の力の全てを解き放つ全解放。

 これが私が目覚めたあとプレアデスと話して決めた切り札だった。

 全解放できる時間は限られている。だからこそ解ける前にコルキアスをどうにかしなければならないだろう。

 軽くなった体で一歩を踏み出す。同時に魔力を足元から放出し瞬発力を生み出した。
 加速魔術も同時に行使し一気に最高速まで引き上げた私は、その勢いのままに剣を薙ぎ払う。

「なに……よ、これ!?一体なにをしたの!?」

 コルキアスは雷の虎ごと横に跳んで避けようとするが、私の剣のほうが少しだけ速かった。
 ほんのすこしだが、剣先がコルキアスの脇腹を掠めて血飛沫が散る。

「敵に説明するわけがないでしょう」

 私は左手に魔力を込める。プレアデスと同調して高められた魔力を氷属性へと変換しコルキアスの足元に魔術を展開した。

「なっ……!氷の牢獄!?」

 コルキアスの周りに氷の柱を複数生み出した。高さ20メートルにも及ぶ氷の柱たちは、逃がさないための牢獄でもあり私が空を駆けるための足場でもある。

「ここで決めさせてもらいます!」

 私は剣が壊れないギリギリの魔力を纏わせる。
 そして、最大限の力で身体強化を行うと全力で跳躍し、氷の柱を経由してコルキアスの後ろへと回り込んだ。

「っ……!追い切れない!?」

 コルキアスは雷の虎を差し向けてくるが私の動きに追いつかない。放ってくる雷の矢も私の影を捉えることすらできなかった。

「はぁぁっ!」

 私はコルキアスの背中を目掛けて剣を振り下ろすと見せかけて、再度回り込んだ。その直前に魔力弾を展開して一瞬だけ遅らせて射出する。

「ぐっ……!時間差攻撃なんていやらしいわね!?」

 私の剣の斬り下ろしと魔力弾の一斉射撃。前と後ろからの同時攻撃がコルキアスを捉えた。
 コルキアスは咄嗟に抜いた短剣で雷の刃を生み出して私の斬撃を受け止める。しかし、背中までは手が回らなかったようだった。雷を纏うことでダメージを減らそうとする。

「プレアデス!」
「聖なる力は命の灯火を告げる者。聖なる光は命を宿す者。癒しと滅びは元同じくして相反する……流転し反発せよ。この光は敵を裁く光となる!聖光浄裁」

 私の合図に合わせてプレアデスが力のある言葉を告げる。
 詠唱が終わると空から光が照らし出して私とコルキアスを包み込んだ。

 聖属性の魔力は生命に関する力。
 治癒や回復に加えて邪気を払ったり闇属性を相殺するイメージが強いが、生命に対して直接ダメージを与えることも当然可能となる。

 これはプレアデスが知る王級霊術に匹敵する物。
 術者が敵と認識した者にはダメージを与え味方と認識した者には癒しを与える古の時代からの霊術だ。

「つぅ……これは守りを抜いて……いや、透過したの!?」

「聖なる光は生命に干渉します。普通の防御なんて意味はない!」

 雷による護りは物理的な攻撃に対しては効果が高いだろう。けれど、この技は光を浴びた範囲全てに効果をもたらすもの。
 簡単に防ぐことなどできはしない。

「けどっ!だったら!」

 コルキアスは光の範囲から出ようと虎と駆けて距離を取ろうとする。
 だが、その動きも予想の範囲内だ。

 私は自身の周囲に八発の魔力弾を展開してレーザーのように少しの間放ち続ける。魔力弾によるレーザーは、コルキアスに命中することなく周りを囲むような光芒を描いた。

「これは……!?」
「ここで決めると、言ったはずです!」

 私は魔力を一気に剣へと集める。そして、バチバチと音が鳴るまで圧縮した魔力を刃へと変えた。

「プレアデス行くよ……行っけえええええええっ!」

 さらにプレアデス自身の意思でも魔力を剣に重ねてもらった。同調しているため魔力的にはほぼ同質だが、二人の想いを重ねた魔力は巨大で鋭い魔力の斬撃となってコルキアスに放たれた。

「っ!?雷虎!」

 コルキアスは咄嗟に雷の虎を蹴ると勢いよく飛び上がる。そのまま雷の虎に魔力を送るが、その前に私たちが放った魔力の斬撃が雷の虎を斬り裂いた。
 魔力の斬撃は雷の虎を両断しても勢いを緩めることなくコルキアスの元へ殺到。命中と同時に少しだけ拮抗して大爆発を起こす。

「げぼっ……なんていう馬鹿魔力……」

 コルキアスはボロボロになって血を流しながら空から墜落していく。それでも意識はまだはっきりとしていて睨みを効かせた双眸が私を捉えていた。

「切り札のこれでも倒し切れないなんて本当に厄介ですね。ですが……同調解除」

 私はここでプレアデスとの同調を解除した。このまま同調を限界ギリギリまでしてしまえば魔力も体力も無くなって力尽きてしまうからだ。

「これで、本当に……終わりよ!」

 私はポロポロとひび割れた剣を捨てて両手に魔力を集める。自身に残った少しの魔力を核にして、収束させた大気中の魔力と合わせた巨大な弾丸を生成する。
 そして、コルキアスを目掛けて撃ち放つのだった。
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