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第11章 壊れかけのラメルシェル
27 紫陽の本領
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ズシンとした重い衝撃と低い音が辺りに響き渡る。
それは私の拳とコルキアスの蹴りが衝突して発生したものだった。
「接近戦なら勝てると思ったかしら?甘いのよ!」
紫陽の支援と私自身の身体強化を合わせた今の身体能力は万全の状態に匹敵する。
さらに纏わせている魔力の波長も反発や浸透などを組み合わせることでコルキアスの雷を撃ち破るつもりだった。
だが、私よりも早い速度で反応したコルキアスは蹴り上げた脚に力を込めて押し返してくる。
今の私の技術ではコルキアスの雷を防ぐことはできても突破するのは難しいようだった。
このままでは力負けすると感じた私は、咄嗟に拳を動かして受け流す。コルキアスの蹴りが空を切り、そのタイミングで後ろに跳んで距離を取った。
「はぁ……全く厄介ですね、本当に……」
「あら?あなただって魔力を纏っているじゃない」
コルキアスにとっても雷を無傷で防がれるのは面白くないようで、少し不機嫌な顔でお互い様だと言う。
けれど、私が言いたいのは雷を纏っていることでも通常の身体強化でもない。
「そっちじゃないです。身体強化は体内の魔力を活性化させるもの。ですが、それは違う。通所の身体強化に加えて雷による強化もしてますよね?」
人の感覚神経や運動神経もそうだが、大雑把に言えば生体電気による信号だ。
だからこそ、もし魔術によって生体電気を直接制御できるのであれば。
身体能力を向上させることや反射速度などを向上させることができるだろう。あるいは思考速度の向上も可能とするかもしれない。
「博識なのね。電気を使った身体強化を見破られたのは初めてよ。それも、たった二度の戦闘で暴くなんて驚きね」
「それはどうも……」
とは言え相手の技術のカラクリを見破ったところで現状が好転したわけではない。
コルキアスの雷の使い方は今まで戦ってきた使い手よりも多岐にわたっている。
例えばグランバルド帝国の将軍デトローク。
彼は雷を全身に纏うことで攻防一体の鎧と化していた。完全に攻撃と防御に特化したパワーファイターと言えるだろう。
だが、コルキアスの場合は先ほど言った身体強化に加えて、恐らくだが電磁波による周辺の感知も行っていそうだ。
攻防だけではない万能型といった印象だった。個々の弱点はあっても他で補うタイプ。
対策などありはしない。
「けどね……この距離は私の領域よ?」
コルキアスは立て続けに雷の矢を放ってきた。私が避けることも予測しているような軌道で体を捻る程度では回避できない。
私は剣に魔力を纏わせると迫り来る矢を全て斬ることにした。
「ふっ……この程度!」
「やるわね。だったら、これならどう!?」
コルキアスの周囲に多数の雷の虎が出現する。さらに一際大きな雷の虎を生み出すとコルキアスは虎の上に跨った。
「獣たち!咆哮!」
雷の獣たちは左右に散って口を大きく開ける。そして、大きな雷撃のブレスが一斉に私を襲い掛かった。
「ぐっ!?」
私は咄嗟に魔力を全身に纏い魔力盾を前方に広げる。
その瞬間、多数の雷の光線が魔力盾に激突し膨大な雷がはじけた。盾の一部が弾け飛び全体に亀裂が入る。
そして、視界が晴れると大きな雷でできた脚が直ぐそこまで来ていた。
パリンと硝子が割れるような音と共に魔力盾が砕け散ると同時に私の全身にとてつもない衝撃が襲い掛かる。
「っう!?」
そのまま地面に叩き付けられて勢いよく転がり砦の近くに設置してある岩の壁にぶつかることで漸く動きが止まった。
「けほっ……」
あまりの衝撃に息が詰まりそうになる。
「あら?前よりも歯応えがないわね……もう限界かしら?」
「まだまだ……限界なんてない!」
私が立ち上がると光が降り注ぐ。チラッと後ろを見ると紫陽が桜陽に力を込めつつも支援を飛ばしてくれているようだった。少しずつ魔力と体力が回復していくことを感じた私はふと唇を上げた。
「何がおかしいのかしら?」
「いえ……知ったつもりだったけど勘違いだったなと思って」
コルキアスは意味が分からないと言いたげに首を傾げていた。
紫陽のことは魔術が得意で近接戦闘もそれなりにできるタイプだと思っていた。今まで使っていた霊術からも発動に時間がかかっても高い威力や広範囲への攻撃や強固で広範囲への防御による後方支援型。
そして、単独での戦闘や敵に後方が狙われたときに自衛できるように速攻型の霊術と近接戦闘を身につけていると。
けれど、今の紫陽を見て全く見当違いだったと理解できる。
そもそも、紫陽や黒羽が扱う霊術は私が使う魔術とは全く異なるのだろう。
魔術が魔力操作と術式による演算で手順を踏んで結果を発生させるのに対して、霊術は力のある言葉によって過程を飛ばして結果を発生させる。つまりは必要な魔力量と魔力制御があって詠唱を知っていれば霊術を発動させることができるというわけだ。
魔術のように術式を組んで独自の技術とすることはできない。術式を複製しては複数に同時展開することも難しい。
しかし、過程を必要としない霊術は魔法具のように理論がわかっていなくても術を発動させることができる。
「なにが勘違いなのかしらね!?」
「気にしなくていいですよ。どちらにせよ私がやることは変わらない」
剣を構えると再び前に出て斬りかかる。
私の役目はコルキアスを抑えて紫陽の準備が終わるまで時間を稼ぐことなのだから。
『プレアデス行ける?』
『今のあなたなら30数えるまで。それ以上は身体が持たないわ』
身体への負担が大きいこれは一度も使用したことがない。正真正銘のぶっつけ本番。博打と言っても大差ないだろう。
けれど、覚悟は既にできている。二人なら大丈夫だと信じている。
「プレアデス!同調……全解放!」
プレアデスの存在が私と重なると同時に自身の魔力が膨れ上がった。
それは私の拳とコルキアスの蹴りが衝突して発生したものだった。
「接近戦なら勝てると思ったかしら?甘いのよ!」
紫陽の支援と私自身の身体強化を合わせた今の身体能力は万全の状態に匹敵する。
さらに纏わせている魔力の波長も反発や浸透などを組み合わせることでコルキアスの雷を撃ち破るつもりだった。
だが、私よりも早い速度で反応したコルキアスは蹴り上げた脚に力を込めて押し返してくる。
今の私の技術ではコルキアスの雷を防ぐことはできても突破するのは難しいようだった。
このままでは力負けすると感じた私は、咄嗟に拳を動かして受け流す。コルキアスの蹴りが空を切り、そのタイミングで後ろに跳んで距離を取った。
「はぁ……全く厄介ですね、本当に……」
「あら?あなただって魔力を纏っているじゃない」
コルキアスにとっても雷を無傷で防がれるのは面白くないようで、少し不機嫌な顔でお互い様だと言う。
けれど、私が言いたいのは雷を纏っていることでも通常の身体強化でもない。
「そっちじゃないです。身体強化は体内の魔力を活性化させるもの。ですが、それは違う。通所の身体強化に加えて雷による強化もしてますよね?」
人の感覚神経や運動神経もそうだが、大雑把に言えば生体電気による信号だ。
だからこそ、もし魔術によって生体電気を直接制御できるのであれば。
身体能力を向上させることや反射速度などを向上させることができるだろう。あるいは思考速度の向上も可能とするかもしれない。
「博識なのね。電気を使った身体強化を見破られたのは初めてよ。それも、たった二度の戦闘で暴くなんて驚きね」
「それはどうも……」
とは言え相手の技術のカラクリを見破ったところで現状が好転したわけではない。
コルキアスの雷の使い方は今まで戦ってきた使い手よりも多岐にわたっている。
例えばグランバルド帝国の将軍デトローク。
彼は雷を全身に纏うことで攻防一体の鎧と化していた。完全に攻撃と防御に特化したパワーファイターと言えるだろう。
だが、コルキアスの場合は先ほど言った身体強化に加えて、恐らくだが電磁波による周辺の感知も行っていそうだ。
攻防だけではない万能型といった印象だった。個々の弱点はあっても他で補うタイプ。
対策などありはしない。
「けどね……この距離は私の領域よ?」
コルキアスは立て続けに雷の矢を放ってきた。私が避けることも予測しているような軌道で体を捻る程度では回避できない。
私は剣に魔力を纏わせると迫り来る矢を全て斬ることにした。
「ふっ……この程度!」
「やるわね。だったら、これならどう!?」
コルキアスの周囲に多数の雷の虎が出現する。さらに一際大きな雷の虎を生み出すとコルキアスは虎の上に跨った。
「獣たち!咆哮!」
雷の獣たちは左右に散って口を大きく開ける。そして、大きな雷撃のブレスが一斉に私を襲い掛かった。
「ぐっ!?」
私は咄嗟に魔力を全身に纏い魔力盾を前方に広げる。
その瞬間、多数の雷の光線が魔力盾に激突し膨大な雷がはじけた。盾の一部が弾け飛び全体に亀裂が入る。
そして、視界が晴れると大きな雷でできた脚が直ぐそこまで来ていた。
パリンと硝子が割れるような音と共に魔力盾が砕け散ると同時に私の全身にとてつもない衝撃が襲い掛かる。
「っう!?」
そのまま地面に叩き付けられて勢いよく転がり砦の近くに設置してある岩の壁にぶつかることで漸く動きが止まった。
「けほっ……」
あまりの衝撃に息が詰まりそうになる。
「あら?前よりも歯応えがないわね……もう限界かしら?」
「まだまだ……限界なんてない!」
私が立ち上がると光が降り注ぐ。チラッと後ろを見ると紫陽が桜陽に力を込めつつも支援を飛ばしてくれているようだった。少しずつ魔力と体力が回復していくことを感じた私はふと唇を上げた。
「何がおかしいのかしら?」
「いえ……知ったつもりだったけど勘違いだったなと思って」
コルキアスは意味が分からないと言いたげに首を傾げていた。
紫陽のことは魔術が得意で近接戦闘もそれなりにできるタイプだと思っていた。今まで使っていた霊術からも発動に時間がかかっても高い威力や広範囲への攻撃や強固で広範囲への防御による後方支援型。
そして、単独での戦闘や敵に後方が狙われたときに自衛できるように速攻型の霊術と近接戦闘を身につけていると。
けれど、今の紫陽を見て全く見当違いだったと理解できる。
そもそも、紫陽や黒羽が扱う霊術は私が使う魔術とは全く異なるのだろう。
魔術が魔力操作と術式による演算で手順を踏んで結果を発生させるのに対して、霊術は力のある言葉によって過程を飛ばして結果を発生させる。つまりは必要な魔力量と魔力制御があって詠唱を知っていれば霊術を発動させることができるというわけだ。
魔術のように術式を組んで独自の技術とすることはできない。術式を複製しては複数に同時展開することも難しい。
しかし、過程を必要としない霊術は魔法具のように理論がわかっていなくても術を発動させることができる。
「なにが勘違いなのかしらね!?」
「気にしなくていいですよ。どちらにせよ私がやることは変わらない」
剣を構えると再び前に出て斬りかかる。
私の役目はコルキアスを抑えて紫陽の準備が終わるまで時間を稼ぐことなのだから。
『プレアデス行ける?』
『今のあなたなら30数えるまで。それ以上は身体が持たないわ』
身体への負担が大きいこれは一度も使用したことがない。正真正銘のぶっつけ本番。博打と言っても大差ないだろう。
けれど、覚悟は既にできている。二人なら大丈夫だと信じている。
「プレアデス!同調……全解放!」
プレアデスの存在が私と重なると同時に自身の魔力が膨れ上がった。
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