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第11章 壊れかけのラメルシェル
25 雷光の鏑矢
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「あれがドルバイド帝国の陣だ。今のところ動きはないと見ている」
「準備中なのか威圧目的なのか。あれが囮で別働隊が動いているということも考えられますが……」
「砦には探知用の魔術具もある。仮に迷彩や地下を掘るにしても反応があるはずだ」
砦の外郭部分。城壁のようになっている高台にやってきた。
この場にいるのは私と紫陽、黒羽、アルケーノの四人。他の親衛隊の人たちは砲台や扉の内側で待機している。
ドルバイド帝国の旗は肉眼でぎりぎり見る距離。魔術による望遠でも距離の関係で全貌を見渡すことはできなかった。
そして飛空船が帝国の陣地の上に滞空している。空から拠点の様子を確認している可能性が高いだろう。
「ですが動かないのであれば好都合です。降伏を促さずにいきなり仕掛けても良いのですよね?」
国同士の戦いにルールなどないがラメルシェル王国としての取り決めは分からない。
念のために確認してみると、問題ないと首肯した。
「しかし……この距離で届くのか?」
「大丈夫です。射程内ですから」
作戦ではこちらから先制攻撃を仕掛けて帝国軍を少しでも減らす手筈になっていた。
基本的に魔術は距離が遠いほど制御ができず威力の減衰が発生する。だから私が扱うことができるなかで、距離による影響が最も少なく物理的火力が最も高い魔術を行使するつもりだ。
「魔術を発動するまで他のことが一切できなくなるから支援よろしくね」
少し離れたところにいる紫陽と黒羽にお願いした私は集中力を上げて術式を展開する。
術式は全てあわせると五層。
まずは収束用の魔術を展開する。周囲の魔力を集めるためのものだ。
そして、二層目の術式で集めた魔力を電磁力へと変換。バチバチと音を光を立てながら近くに準備してもらった鉄塊や大型の槍などを浮かび上がらせる。
続く第三層は生み出した電磁力に指向性を持たせる。
第四層は炎熱属性による加速制御。物質の加速と方向を調整するためのものだ。
そして、最後の五層で一から四層までの術式を全てリンクさせて同期させる。
準備が完了した私は術式を維持したままアルケーノを見る。
「ティア殿、頼む!」
その合図とともに術式に魔力を流して展開した魔術を発動させた。
これはラティアーナだった頃、黒龍を相手にも使ったレールガンの改良版。
雷を生み出してから電磁力にするのではなく、最初から電磁力を生み出すことで無駄をなくした魔術だ。
「行きます。余波に気をつけてください」
放たれた鉄塊や槍などは六つの光芒となった。それは音すらも置き去りにして触れた箇所を跡形もなく吹き飛ばしていく。少し遅れて衝撃波と轟音が私たちにも襲い掛かった。
この雷光を帯びた砲撃は戦いを告げる鏑矢となる。
「っ……!?凄い衝撃だな!?」
「純粋に物理的な破壊をもたらす一撃。神級霊術には劣るが……いや、破壊力だけ見れば此方のほうが上か?」
アルケーノと黒羽が慄いているなかで紫陽が冷静に霊術による望遠を使って観測している。
そして、慌てて駆け回っている帝国兵を見て「ですが、敵の主力は無事のようですね」と呟いた。
ドルバイド帝国は本隊は陣地の大分内側にいたらしい。魔術によって作られていた大地の壁や鋼鉄の柵などは完全に破壊できたが敵兵に大きな被害はなさそうだった。
「でも見通しは良くなりましたし……最低限の目標は達成と見ていいですよね?」
私がアルケーノに向かって問いかけると「そうだな」と頷き返してくる。
「この距離でも射程内だと分かれば敵も動かざる得ない。なによりいきなりの攻撃で浮き足立つだろう。このまま撤退か陣を下げるかしてほしいところだが……」
今まで敵は攻撃されないと思っていたため大きな動きを見せなかった。だが、先ほどの砲撃を行った今、敵の動きを読むことは難しい。
前進か後退か、あるいは回り込んでくるのか。
どちらせよ、最低でも全員が拠点を無事に脱出するまでは、ここを守り通す必要がある。
「ティア殿、もう一度頼めるか?」
「任せてください」
術式を破棄していないため魔力を込めて稼動させれば問題ない。
私はもう一度、魔力を収束させて電磁力を高めていく。
「発煙弾用意……撃て!」
アルケーノの合図で砲台から煙幕が放たれる。自陣と敵陣の間に煙が焚かれて視界を赤色に塗りつぶしていく。
「撤退開始……ティア殿!」
アルケーノの合図で東門と南門が開放される。
門の広場に集まっていた護衛や住民達は荷物を乗せた馬車ともに南部に向けて出発しだした。
そして、私が撃ちだした大型の槍は、煙幕を突き破るように飛来し衝撃と轟音を撒き散らす。
煙幕によって視界を奪った上での遠距離からの爆撃は、敵にとっても恐怖に感じるだろう。
「では私たちも仕掛けと行きましょうか」
「紫陽様に合わせます……アルケーノ様も」
「わかっている。弓兵隊用意。」
紫陽が桜陽を構えて黒羽も刀を構えた。アルケーノの合図で塔に詰めている弓兵たちも矢を番える。
「「全てを守り隔てる大壁よ、創造せよ!大地の城壁!」」
「放て!」
紫陽と黒羽の詠唱が終わると同時に目の前に大きな壁が迫り上がる。
そして、放たれた多数の矢は壁の向こう側に降り注いだのだった。
「準備中なのか威圧目的なのか。あれが囮で別働隊が動いているということも考えられますが……」
「砦には探知用の魔術具もある。仮に迷彩や地下を掘るにしても反応があるはずだ」
砦の外郭部分。城壁のようになっている高台にやってきた。
この場にいるのは私と紫陽、黒羽、アルケーノの四人。他の親衛隊の人たちは砲台や扉の内側で待機している。
ドルバイド帝国の旗は肉眼でぎりぎり見る距離。魔術による望遠でも距離の関係で全貌を見渡すことはできなかった。
そして飛空船が帝国の陣地の上に滞空している。空から拠点の様子を確認している可能性が高いだろう。
「ですが動かないのであれば好都合です。降伏を促さずにいきなり仕掛けても良いのですよね?」
国同士の戦いにルールなどないがラメルシェル王国としての取り決めは分からない。
念のために確認してみると、問題ないと首肯した。
「しかし……この距離で届くのか?」
「大丈夫です。射程内ですから」
作戦ではこちらから先制攻撃を仕掛けて帝国軍を少しでも減らす手筈になっていた。
基本的に魔術は距離が遠いほど制御ができず威力の減衰が発生する。だから私が扱うことができるなかで、距離による影響が最も少なく物理的火力が最も高い魔術を行使するつもりだ。
「魔術を発動するまで他のことが一切できなくなるから支援よろしくね」
少し離れたところにいる紫陽と黒羽にお願いした私は集中力を上げて術式を展開する。
術式は全てあわせると五層。
まずは収束用の魔術を展開する。周囲の魔力を集めるためのものだ。
そして、二層目の術式で集めた魔力を電磁力へと変換。バチバチと音を光を立てながら近くに準備してもらった鉄塊や大型の槍などを浮かび上がらせる。
続く第三層は生み出した電磁力に指向性を持たせる。
第四層は炎熱属性による加速制御。物質の加速と方向を調整するためのものだ。
そして、最後の五層で一から四層までの術式を全てリンクさせて同期させる。
準備が完了した私は術式を維持したままアルケーノを見る。
「ティア殿、頼む!」
その合図とともに術式に魔力を流して展開した魔術を発動させた。
これはラティアーナだった頃、黒龍を相手にも使ったレールガンの改良版。
雷を生み出してから電磁力にするのではなく、最初から電磁力を生み出すことで無駄をなくした魔術だ。
「行きます。余波に気をつけてください」
放たれた鉄塊や槍などは六つの光芒となった。それは音すらも置き去りにして触れた箇所を跡形もなく吹き飛ばしていく。少し遅れて衝撃波と轟音が私たちにも襲い掛かった。
この雷光を帯びた砲撃は戦いを告げる鏑矢となる。
「っ……!?凄い衝撃だな!?」
「純粋に物理的な破壊をもたらす一撃。神級霊術には劣るが……いや、破壊力だけ見れば此方のほうが上か?」
アルケーノと黒羽が慄いているなかで紫陽が冷静に霊術による望遠を使って観測している。
そして、慌てて駆け回っている帝国兵を見て「ですが、敵の主力は無事のようですね」と呟いた。
ドルバイド帝国は本隊は陣地の大分内側にいたらしい。魔術によって作られていた大地の壁や鋼鉄の柵などは完全に破壊できたが敵兵に大きな被害はなさそうだった。
「でも見通しは良くなりましたし……最低限の目標は達成と見ていいですよね?」
私がアルケーノに向かって問いかけると「そうだな」と頷き返してくる。
「この距離でも射程内だと分かれば敵も動かざる得ない。なによりいきなりの攻撃で浮き足立つだろう。このまま撤退か陣を下げるかしてほしいところだが……」
今まで敵は攻撃されないと思っていたため大きな動きを見せなかった。だが、先ほどの砲撃を行った今、敵の動きを読むことは難しい。
前進か後退か、あるいは回り込んでくるのか。
どちらせよ、最低でも全員が拠点を無事に脱出するまでは、ここを守り通す必要がある。
「ティア殿、もう一度頼めるか?」
「任せてください」
術式を破棄していないため魔力を込めて稼動させれば問題ない。
私はもう一度、魔力を収束させて電磁力を高めていく。
「発煙弾用意……撃て!」
アルケーノの合図で砲台から煙幕が放たれる。自陣と敵陣の間に煙が焚かれて視界を赤色に塗りつぶしていく。
「撤退開始……ティア殿!」
アルケーノの合図で東門と南門が開放される。
門の広場に集まっていた護衛や住民達は荷物を乗せた馬車ともに南部に向けて出発しだした。
そして、私が撃ちだした大型の槍は、煙幕を突き破るように飛来し衝撃と轟音を撒き散らす。
煙幕によって視界を奪った上での遠距離からの爆撃は、敵にとっても恐怖に感じるだろう。
「では私たちも仕掛けと行きましょうか」
「紫陽様に合わせます……アルケーノ様も」
「わかっている。弓兵隊用意。」
紫陽が桜陽を構えて黒羽も刀を構えた。アルケーノの合図で塔に詰めている弓兵たちも矢を番える。
「「全てを守り隔てる大壁よ、創造せよ!大地の城壁!」」
「放て!」
紫陽と黒羽の詠唱が終わると同時に目の前に大きな壁が迫り上がる。
そして、放たれた多数の矢は壁の向こう側に降り注いだのだった。
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