王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
313 / 460
第11章 壊れかけのラメルシェル

22 それぞれの選択

しおりを挟む
「さて、ここはどこでしょうか?」

 部屋を出た私を待ち受けていたのは、白い壁が長く続く廊下だった。辺りはとても静かなもので誰の気配もなく、私の声が静かに響く。

『ここは病棟みたいなところ。奥にある階段を下りると出られるはずよ』

『ありがとう……そういえば契約している精霊ってどれくらい自由に動けるの?』

 私が意識を失って眠っている間に確認したのだろうなと感じた所で、一つ疑問が浮かんでくる。

 私とプレアデスの間には契約を交わしていて魂同士の繋がりがある。
 そして契約によって交わした理は条件を厳しくすればするほど強大な力を得やすいそうだ。だが、その分だけ理を破ったときにくる反動も比例して大きくなるらしい。
 私とプレアデスの間にある理は力を借りるという弱いもの。
 けれど、遠く離れていては力を借りることは難しくなるだろうし、理による契約の基準が想像できない。

『ティアとの契約は強制力が少ないのよね。基本的にはティアが望んだときに力を貸せば契約どおりという形かしら』

『遠くにいるときってどうなるの?今は一緒に居るけど……たとえば里帰りしたくなって桜花皇国に帰省するとか』

『ふふふ……さ、里帰りって……』

 実体化していないためプレアデスの姿は見えない。
 けれど、もしも姿が見えるのならお腹を抱えて笑っているんじゃないだろうかというくらいに笑いを堪えている気配が伝わってくる。

 思わずジト目でプレアデスがいるであろう場所に視線を向けると『ごめんごめん』と笑いながら謝ってきた。

『精霊相手に……少なくとも私は里帰りなんて言われたの始めてだから……なんか面白くて。で、質問の答えだけどね。魂同士の繋がりがあれば距離なんて関係ないわ。念話ならどこでも通じるし力を貸すこともできる。魂だけなら転移も簡単だからすぐに駆けつけることもできるのよ』

『そうなのね……だったら安心かな』

 プレアデスの力は借りたいができる限り対等でいたい。それに意思のある存在を無闇に縛りつけたくないと伝えると『本当に面白い子ね』と笑いながら答えてくれた。



 そうして、プレアデスと会話しながら階段を降りる。
 すると、ここの治療区画を管理する人に出会うことができた。

 ついさっきまで意識がなかった私がいきなり現れたことに驚いていたが事情を説明すると二つ返事でお願いを聞いてくれた。

 元々、輸送部隊として来た私たちには、ちょっとした個室が宛てがわれているらしく部屋の場所を教えてもらう。さらに紫陽やアイラ、クリス、アルケーノたちの居場所を聞くことができた。
 各々がバラバラの用事で動いているらしく昼過ぎくらいに一度集まるらしい。
 皆に伝言をお願いした私は薬を受け取って宛てがわれた部屋に向かう。
 集まるまでの時間に少し余裕があるので、ゆっくりとお風呂に入って汗を流してから着替えることにした。



 そして昼が過ぎた頃。

 私は皆が集まる部屋に向かった。
 扉を開けて中に入ると「ティア!」と呼ぶ声と共に全身が包まれる。

「……いきなり抱きついたら危ないって」
 勢いよく駆け寄ってきたのはアイラだった。苦笑しながら見上げると少し赤くなっている瞳が向けられる。

「もう起きて大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ。怪我もなかったし……ね」
 今の私はぱっと身では元気に見えるだろう。お風呂で体を温めたことで血色は良くなっていて、もらった薬のおかげで熱も下がっている。

 アイラは少し胡乱な目を向けているが何も言わなかった。周りにいる紫陽や黒羽もプレアデスから事情を聞いているはずだが、何も言わないことにしてくれたらしい。

「全員集まっているようだな」

 そうしているうちにアルケーノがやってきた。
 私たちは適当に空いている席に座るとアルケーノが前に立った。

「今回集まってもらったのは他でもない。今後のことについての話、と言っても各々から前もって聞いてはいるがな。全員である程度共有できればと考えている。そして本題に入る前にだが……ティア殿。西部方面部隊の指揮官として此度の物資の運搬と防衛を、アイラの父として娘に会わせてくれたことを、本当に感謝する」

 アルケーノは途中から私に視線を向けて感謝を告げて頭を下げた。

「私にとってアイラは友人ですから……笑顔を見ることができて良かったと思っています」

 公の場ではないにしろ貴族が平民相手に頭を下げることがないのは全世界共通だ。
 それなのに頭を下げるということは、アルケーノにとってよほど嬉しいことなのだろう。
 二人が話しているところは見ることができてないが、互いの視線には確かに家族としての情愛を感じることができる。

「今は礼を返すことはできない。だが、いずれは何らかの形で礼をすることを約束する……では本題に入らせてもらおう」

 アルケーノは視線を戻すとコホンと咳払いをした。

「まずは西部戦線についての報告だ。クリスには詳細を伝えていて作戦を開始しているが、ここ西部戦線の破棄が決まった。ドルバイド帝国が再侵攻してくる前に我々ラメルシェル王国の人員は南部まで撤退する」

 元々西部戦線は前線基地のようなもの。
 ミタナハル王国の軍相手では均衡を保っていたが宗主国でもある帝国が相手となると分が悪すぎる。
 仮に戦闘になって防衛に成功したとしても物資の補給や生産ができないため篭城戦も不可能だ。

 それらを鑑みると撤退は理にかなっている。

「我々は二日後に撤退を開始する予定だ。アイラやクリスたちには編成した部隊に加えるつもりでいる。紫陽殿、黒羽殿、ティア殿。三人の意見……今後どうするかを聞きたい」

 アイラは家族の元に帰ることができたのだから当然。クリスたちもラメルシェル王国の部隊としているのだから当然といえる。
 そして残る紫陽たちだが

「まず私と黒羽ですが南部戦線まで共に戦うことは難しいです。ミタナハル王国だけであれば猶予期間の間、力を貸すこともできました。しかしドルバイド帝国が相手となると、あの大国が動きを見せたのであれば急いで帰国する必要があります」

 と答えた。

 紫陽の話では桜花皇国としてはドルバイド帝国とは中立関係で多少の交流もあるそうだ。しかし、過去には何度か小競り合いも起きていて警戒すべき相手でもあるらしい。

「ですが、私たちとしてもドルバイド帝国がより強大になるのを見過ごすことはできませんし、こうして縁を得たラメルシェル王国を見捨てる決断もしたくありません。なので……最終的には皇帝陛下次第ではありますが同盟を含めた何らかの支援を提案するつもりです」

「っ!それはとても助かる!」

 恐らくここで離脱することは聞いてたのであろうが同盟の模索については初耳だったらしい。

「ティア殿はどうするつもりだ?」

 アルケーノはとても安堵した様子を見せると私に対して問いかけてくる。

「アイラを送り届けた後のことはあまり考えていませんでしたが紫陽たちとの約束もあるので桜花皇国に同行しようかと考えています」

 約束自体は紫陽ではなくプレアデスとだが内容は紫陽も知っているので誤差の範囲だろう。
 言葉にするのは初めてだったが紫陽たちも異論は内容で無言で頷いてくれた。

「やはりそうか……となると桜花皇国までの帰路が問題になりそうだな」

 アルケーノは私の答えも予想できていたらしく特に何も言わなかった。

「海は敵の船が多い……かといって飛行船は一隻しかないから貸すことはできないし……」

 アルケーノは桜花皇国まで安全に移動できる手段があるかなと考えを纏めようとしたときだった。

 カンカンと甲高い音が響き渡る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...