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第11章 壊れかけのラメルシェル
21 目覚めとこれから
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「あら、目が覚めた?」
「プレアデス……?」
徐々に意識が覚醒し重い瞼を動かしていると隣からプレアデスの声が聞こえてきた。
珍しく実体化しているなと感じつつも瞼を開けて視線を向けると優しそうな笑みを向けてくる。
「体調はどう?」
「ん……体が重くて熱いけど……大丈夫」
全身が怠いが動けないほどではなく痛みもなかった。熱も意識が朦朧とするほどまでは高くない。それに、この症状はラティアーナだった頃にも何度か経験をしたことがあった。一番辛かったゴルゴーン戦の反動に比べれば大分ましなほうだろう。
「それは良かったわ……あまり無茶しないでね」
「できるかぎりは……ね」
曖昧な笑みと共に言葉を濁しながら起き上がろうとする。すると、プレアデスは呆れたような、仕方ないなという表情で「まったく……」と呟きながら手を差し伸べてくれた。
「ありがとう。そういえば私ってどれくらい寝てた?」
周りを見渡すと一面真っ白な病室のような場所だった。窓から外を見ると太陽が高いところにあって、意識を失ってから大分時間が経っているのだろう。
「ティアが倒れてから一日くらいね。今は戦いがあった次の日の昼時よ」
「そう……思ったよりも時間が経ってないのね」
「いやいや!丸一日意識を失っているだけでも相当なものよ!」
虚弱な体で相当無理をした自覚はあった。最悪でも二、三日くらいは寝込むくらいの覚悟をしていたせいで、そのような感想が浮かんだのだがプレアデスにとっては重いほうだったらしい。
「でもね、あの勇者を相手にして、その後に全力の防御を行使して無事だったのはなかなかでしょ」
勇者・瑠偉は想像以上の強さだった。
さすがに悪魔やゴルゴーンのような伝説的な存在には遠く及ばない。
それでも人を超越したかのような膨大な魔力。傷つけても炎による再生と徐々に耐性がついていく耐久力。
どれをとっても人類のなかでは最強クラスだろう。
「勇者、ね。あれは間違いなく概念干渉や因果干渉系の力ね」
「特級魔術……桜花皇国でいう王級や神級霊術のようなもの?」
特級魔術とはその属性の魔術の中で性質を特化させて最大まで効果を上げたものが多い。
例えば私が以前行使した氷系の特級魔術の一つは、一定範囲を絶対零度近くまで落とすというもの。その力は擬似的な時間停止すらも可能にする。
「少し違うのよね。あなたがイメージしているものは物質への干渉。絶対零度での凍結は、物質の動きを減速させる力を最大まであげることなのよ。あなたが知っている魔術だったら……空間転移が近いかも。あれは同じ大きさの二点を繋げて入れ替える術だけど物理法則とは別だからね」
「じゃあ勇者の炎は炎じゃないってこと?」
「その通りね。炎自体は力の象徴、具現化した形。もちろん元々炎が持っている性質のほうが力を発揮しやすいけど通常ではなしえないことも起こせるのよ」
その最たる礼が炎による回復らしい。
プレアデスの眼でも全てを見通せたわけではないらしいが癒しの力を持った炎で完全再生を引き起こしていたそうだ。
「面倒な相手……次に攻めて来るときまでに対策を考えておかないと」
大規模な攻撃を仕掛けてきたドルバイド帝国は時間を空けずに再度侵攻してくるだろう。
そして、数年の間争いが続いていたミタナハル王国も属国として、あるいは単独で攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。
「とりあえず皆の元に行こうかな……心配かけただろうから安心させたいし、汗で気持ち悪いから汗を流して着替えたい」
「ティア!」
ふらつく体を手で支えながら立ち上がろうとして声をかけられた私はベッドに座りなおして「どうしたの?」と問いかける。
「ティアは……これからどうするつもり?いつまでラメルシェル王国で戦うの?」
「落ち着くまで、と言いたいところだけどね」
できればアイラが家族を見つけて助け出すまでは協力したいと考えていた。
けれど、今のこの状況では助け出すことが難しいだろう。運よく物事が進んで最善の結果を呼び寄せたとしても争いを膠着状態に持ち込ませることがぎりぎり。
少しでも選択を誤ればラメルシェル王国が滅ぶことも考えられる。
「紫陽たちにもよると思う……私の両親を探すのは難しいから長い目で見ないといけない。となると私個人が優先したいのはエスペルト王国の様子を見ること。あとは私の愛刀たちを取り戻すことかな」
私が死んでから今までの間に世界は大きく変わっている。全体の魔物などは強くなり比例するように人も強くなった。
過酷になった環境で大国はより国を強化するために動き出そうともしていた。
相打ちでようやく封印することができた悪魔たちも近いうちに動きを見せるだろう。
恐らくこれから先の未来は、より過酷で混沌をきわめた時代がやってくる。そのような予感がしていた。
「どっちにしても周りの動き次第かも。その時々にならないと何とも言えないわ」
だが、やることは今までと何も変わらない。私が望む未来を掴むために全力で生きるだけなのだから。
「そう……あなたらしい答えね。でも、嫌いじゃない、むしろ好ましいわ」
プレアデスはどこか面白そうに微笑むと「私も協力してあげるわ」と手をさし伸ばしてくれる。
私もプレアデスの手を掴む。そして少しの間、話をしてから部屋を出た。
「プレアデス……?」
徐々に意識が覚醒し重い瞼を動かしていると隣からプレアデスの声が聞こえてきた。
珍しく実体化しているなと感じつつも瞼を開けて視線を向けると優しそうな笑みを向けてくる。
「体調はどう?」
「ん……体が重くて熱いけど……大丈夫」
全身が怠いが動けないほどではなく痛みもなかった。熱も意識が朦朧とするほどまでは高くない。それに、この症状はラティアーナだった頃にも何度か経験をしたことがあった。一番辛かったゴルゴーン戦の反動に比べれば大分ましなほうだろう。
「それは良かったわ……あまり無茶しないでね」
「できるかぎりは……ね」
曖昧な笑みと共に言葉を濁しながら起き上がろうとする。すると、プレアデスは呆れたような、仕方ないなという表情で「まったく……」と呟きながら手を差し伸べてくれた。
「ありがとう。そういえば私ってどれくらい寝てた?」
周りを見渡すと一面真っ白な病室のような場所だった。窓から外を見ると太陽が高いところにあって、意識を失ってから大分時間が経っているのだろう。
「ティアが倒れてから一日くらいね。今は戦いがあった次の日の昼時よ」
「そう……思ったよりも時間が経ってないのね」
「いやいや!丸一日意識を失っているだけでも相当なものよ!」
虚弱な体で相当無理をした自覚はあった。最悪でも二、三日くらいは寝込むくらいの覚悟をしていたせいで、そのような感想が浮かんだのだがプレアデスにとっては重いほうだったらしい。
「でもね、あの勇者を相手にして、その後に全力の防御を行使して無事だったのはなかなかでしょ」
勇者・瑠偉は想像以上の強さだった。
さすがに悪魔やゴルゴーンのような伝説的な存在には遠く及ばない。
それでも人を超越したかのような膨大な魔力。傷つけても炎による再生と徐々に耐性がついていく耐久力。
どれをとっても人類のなかでは最強クラスだろう。
「勇者、ね。あれは間違いなく概念干渉や因果干渉系の力ね」
「特級魔術……桜花皇国でいう王級や神級霊術のようなもの?」
特級魔術とはその属性の魔術の中で性質を特化させて最大まで効果を上げたものが多い。
例えば私が以前行使した氷系の特級魔術の一つは、一定範囲を絶対零度近くまで落とすというもの。その力は擬似的な時間停止すらも可能にする。
「少し違うのよね。あなたがイメージしているものは物質への干渉。絶対零度での凍結は、物質の動きを減速させる力を最大まであげることなのよ。あなたが知っている魔術だったら……空間転移が近いかも。あれは同じ大きさの二点を繋げて入れ替える術だけど物理法則とは別だからね」
「じゃあ勇者の炎は炎じゃないってこと?」
「その通りね。炎自体は力の象徴、具現化した形。もちろん元々炎が持っている性質のほうが力を発揮しやすいけど通常ではなしえないことも起こせるのよ」
その最たる礼が炎による回復らしい。
プレアデスの眼でも全てを見通せたわけではないらしいが癒しの力を持った炎で完全再生を引き起こしていたそうだ。
「面倒な相手……次に攻めて来るときまでに対策を考えておかないと」
大規模な攻撃を仕掛けてきたドルバイド帝国は時間を空けずに再度侵攻してくるだろう。
そして、数年の間争いが続いていたミタナハル王国も属国として、あるいは単独で攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。
「とりあえず皆の元に行こうかな……心配かけただろうから安心させたいし、汗で気持ち悪いから汗を流して着替えたい」
「ティア!」
ふらつく体を手で支えながら立ち上がろうとして声をかけられた私はベッドに座りなおして「どうしたの?」と問いかける。
「ティアは……これからどうするつもり?いつまでラメルシェル王国で戦うの?」
「落ち着くまで、と言いたいところだけどね」
できればアイラが家族を見つけて助け出すまでは協力したいと考えていた。
けれど、今のこの状況では助け出すことが難しいだろう。運よく物事が進んで最善の結果を呼び寄せたとしても争いを膠着状態に持ち込ませることがぎりぎり。
少しでも選択を誤ればラメルシェル王国が滅ぶことも考えられる。
「紫陽たちにもよると思う……私の両親を探すのは難しいから長い目で見ないといけない。となると私個人が優先したいのはエスペルト王国の様子を見ること。あとは私の愛刀たちを取り戻すことかな」
私が死んでから今までの間に世界は大きく変わっている。全体の魔物などは強くなり比例するように人も強くなった。
過酷になった環境で大国はより国を強化するために動き出そうともしていた。
相打ちでようやく封印することができた悪魔たちも近いうちに動きを見せるだろう。
恐らくこれから先の未来は、より過酷で混沌をきわめた時代がやってくる。そのような予感がしていた。
「どっちにしても周りの動き次第かも。その時々にならないと何とも言えないわ」
だが、やることは今までと何も変わらない。私が望む未来を掴むために全力で生きるだけなのだから。
「そう……あなたらしい答えね。でも、嫌いじゃない、むしろ好ましいわ」
プレアデスはどこか面白そうに微笑むと「私も協力してあげるわ」と手をさし伸ばしてくれる。
私もプレアデスの手を掴む。そして少しの間、話をしてから部屋を出た。
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