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第11章 壊れかけのラメルシェル
16 白虎のコルキアス
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アルケーノは足に力をこめて無理やり回避しようと後ろに跳躍する。
けれど、雷の虎は器用に空を駆けてアルケーノを喰らおうと軌道修正していた。
「障壁!」
アイラの言葉が聞こえると同時に魔力の障壁が生み出される。それは雷でできた虎の目の前に塞ぐ形となった。
今のアイラの障壁は中級魔術程度なら完全に防ぐことができるくらいの強度を持っている。
だが、雷の虎は障壁をものにもしない様子で障壁を噛み砕こうと口を開き、牙が障壁に突き刺さった。
すると、虎がバチバチと光り輝いて雷撃を撒き散らしながら大爆発を起こす。
「ちっ……嫌な予感がしたが剣じゃ斬れないな」
アルケーノは自身の直感があたってしまったことに軽く舌打ちをして目を細めて呟く。
剣で斬れないのであれば魔術で迎撃するしかないが虎の数が多すぎて対処が難しいからだ。
「あら、ばれてしまったわね……でも関係ないのよ」
雷の虎は一体が消滅したのみ。まだまだ数は残っていた。
そして残りの虎たちは囲むように散開しながらアルケーノとアイラを目掛けて襲い掛かろうとする。
「お父様!」
アイラは咄嗟に魔力弾を放った。
威力を控えめに設定した魔力弾は五つの光線を描いて雷の虎へと命中し霧散させて包囲網に穴を開ける。
「抜けるぞ!舌をかむなよ!」
アルケーノは魔力弾が虎に命中する寸前でアイラの近くに駆けつける。
そのまま抱きかかえるとアイラが空けた穴を目掛けて飛び出した。
「甘いわね」
コルキアスは弓に雷の矢を番えて放つ。今度の矢は虎の姿には変身しないようだった。矢の形を維持したまま稲妻を撒き散らしてアルケーノたちに襲い掛かる。
「その言葉……そのまま返させてもらう!」
アルケーノはアイラを地面に降ろすと剣を構えて弧を描くように走り抜ける。
雷の矢は獣のように自在に動きはしない。速度が速い分動きは一直線。ギリギリで回避すれば問題ないと考えたからだ。
雷の矢は地面に触れると轟音と衝撃、さらには雷撃を撒き散らしていた。
それを避けながらも距離を詰めていく。
「その程度の考えすら至らないと思ってるのかしら?」
コルキアスは足に雷を纏うとそのまま踏み締めて上へと跳ぶ。
本来であれば空中は体勢を整えることが難しく隙となるはずだった。だが、コルキアスはその隙を潰すように弓を構えて雷の矢を連続して地面へ向けて放つ。
「逃がさな……!?」
アルケーノにとって遠距離戦は不利になる。勝つためには距離を詰めるしかなく、コルキアスに追随して上空へと跳び上がっていた。
迫り来る雷の矢の軌道を先に読み、比較的空間がある場所を選んでコルキアスの後を追おうとする。
迫り来る雷の矢は、空中で体を捻って軌道から逸れるように動くつもりだった。
「言ったでしょう?それは考えていると」
だが、雷の矢はアルケーノとすれ違った瞬間に雷光を帯びて炸裂する。光が弾け飛ぶと同時にアルケーノの体を衝撃と痺れが襲いかかった。
周りの全ての矢が炸裂したことで、アルケーノの全身が焼かれ意識が薄れゆく。力を失ったアルケーノは、そのまま地面へと落下していき……
慣れ親しんだ声がアルケーノの耳に聞こえてくる。
「私の願いを聞き届けよ」
それは言霊の詠唱。アイラが教わったもう一つの技術。
「詠唱かしら?それにしては不思議だけど……終わるまで待つほど優しくないわよ」
コルキアスもアイラが詠唱を始めたのは聞こえていた。
ドルバイド帝国も長年魔術や精霊の研究を重ねてきた大国だ。当然、桜花皇国などで普及している言葉による魔術も認知していた。
コルキアスはアイラが大陸の言葉に魔力を乗せていることに疑問を覚える。それでも詠唱が終わるまでは効果が発揮しないことを知っているため焦りはなかった。
アイラの邪魔をしようと弓を構えてアイラを狙い撃とうとする。
「捧げるは全ての魔力。聖なる精霊よ」
「精霊魔術!?そんな不安定なものを!?」
コルキアスは思わず目を見開いた。
精霊魔術は魔力を込めた言葉を使って自我のない精霊を使役するものだ。
下位の精霊は空気中に漂う魔力と同様に様々な場所に漂っている。自我もないが魔力が込められた声による意思疎通はできるため必要な魔力があればお願いを聞いてもらうことも可能だ。
けれど、人と精霊は見方も価値観も基準も何もかも違う。お願いが届いたとしても正しく理解されるか不明。
契約している精霊がいるならば問題ないが、何もなく扱うにはリスキーな魔術でもある。
「望むは癒しの力。私の全ての魔力を糧に」
アイラを目掛けて雷の矢が飛来する。アイラはそれを一瞥しても避ける素振りも見せずに言葉を紡いでいく。コルキアスを見つめるその表情には、どこか覚悟を決めたような印象を与えた。
「アルケーノ・アルステードに与えよ!」
アイラが口を閉じると同時に膨大な魔力が放たれてアルステードを包み込む。同時に雷の矢はアイラの身を焦がしながら吹き飛ばした。
「っ……お父様!?」
「ああ……作ってくれたこの時間。無駄にはしない!」
負った傷が光と共に治っていく。流石に全治まではいかないが動けるほどまでに回復していた。
アルケーノは地面に落下する前に体勢を整えて、足から炎を放出し無理やり上空へと跳躍する。
不完全な体勢のままコルキアスへと接近し、全身の力を込めて大剣を振るいかぶる。
「どうだ!?」
「ぐっ!?……舐めるなあああああっ!」
大剣の刃はコルキアスの脇腹を深く斬り裂き刀身を赤く染める。
コルキアスも苦痛に表情を歪めるが、次の瞬間には怒りと共に腰から短剣のような物を抜いてアルケーノに叩きつけた。
バチバチと雷光を轟かせた刃はアルケーノの肩を斬り裂いて地面へと落とす。
「私は白虎の隊長……接近すれば勝てるなんて思い上がりも良いところだわ!」
アルケーノはうつ伏せに倒れながらもコルキアスを見上げる。後ろではアイラが血を流したまま倒れている。
このまま自分までやられては、やっと再開できた娘を失いかねない。
どうにかして起きあがろうと奮い立たせるが、体が痺れていて上手く動かないでいた。
「はぁはぁ……諦めなさい。万策は尽きたのよ……でも、油断せずに殺してあげましょう」
コルキアスは油断せずにとどめを刺そうと雷を帯びた短剣を振り上げる。
そして振り下ろそうとした、その時。
戦場に一発の銃声が轟く。
「そう……油断はいけませんよ」
そこには銃を構えたティアが佇んでいた。
けれど、雷の虎は器用に空を駆けてアルケーノを喰らおうと軌道修正していた。
「障壁!」
アイラの言葉が聞こえると同時に魔力の障壁が生み出される。それは雷でできた虎の目の前に塞ぐ形となった。
今のアイラの障壁は中級魔術程度なら完全に防ぐことができるくらいの強度を持っている。
だが、雷の虎は障壁をものにもしない様子で障壁を噛み砕こうと口を開き、牙が障壁に突き刺さった。
すると、虎がバチバチと光り輝いて雷撃を撒き散らしながら大爆発を起こす。
「ちっ……嫌な予感がしたが剣じゃ斬れないな」
アルケーノは自身の直感があたってしまったことに軽く舌打ちをして目を細めて呟く。
剣で斬れないのであれば魔術で迎撃するしかないが虎の数が多すぎて対処が難しいからだ。
「あら、ばれてしまったわね……でも関係ないのよ」
雷の虎は一体が消滅したのみ。まだまだ数は残っていた。
そして残りの虎たちは囲むように散開しながらアルケーノとアイラを目掛けて襲い掛かろうとする。
「お父様!」
アイラは咄嗟に魔力弾を放った。
威力を控えめに設定した魔力弾は五つの光線を描いて雷の虎へと命中し霧散させて包囲網に穴を開ける。
「抜けるぞ!舌をかむなよ!」
アルケーノは魔力弾が虎に命中する寸前でアイラの近くに駆けつける。
そのまま抱きかかえるとアイラが空けた穴を目掛けて飛び出した。
「甘いわね」
コルキアスは弓に雷の矢を番えて放つ。今度の矢は虎の姿には変身しないようだった。矢の形を維持したまま稲妻を撒き散らしてアルケーノたちに襲い掛かる。
「その言葉……そのまま返させてもらう!」
アルケーノはアイラを地面に降ろすと剣を構えて弧を描くように走り抜ける。
雷の矢は獣のように自在に動きはしない。速度が速い分動きは一直線。ギリギリで回避すれば問題ないと考えたからだ。
雷の矢は地面に触れると轟音と衝撃、さらには雷撃を撒き散らしていた。
それを避けながらも距離を詰めていく。
「その程度の考えすら至らないと思ってるのかしら?」
コルキアスは足に雷を纏うとそのまま踏み締めて上へと跳ぶ。
本来であれば空中は体勢を整えることが難しく隙となるはずだった。だが、コルキアスはその隙を潰すように弓を構えて雷の矢を連続して地面へ向けて放つ。
「逃がさな……!?」
アルケーノにとって遠距離戦は不利になる。勝つためには距離を詰めるしかなく、コルキアスに追随して上空へと跳び上がっていた。
迫り来る雷の矢の軌道を先に読み、比較的空間がある場所を選んでコルキアスの後を追おうとする。
迫り来る雷の矢は、空中で体を捻って軌道から逸れるように動くつもりだった。
「言ったでしょう?それは考えていると」
だが、雷の矢はアルケーノとすれ違った瞬間に雷光を帯びて炸裂する。光が弾け飛ぶと同時にアルケーノの体を衝撃と痺れが襲いかかった。
周りの全ての矢が炸裂したことで、アルケーノの全身が焼かれ意識が薄れゆく。力を失ったアルケーノは、そのまま地面へと落下していき……
慣れ親しんだ声がアルケーノの耳に聞こえてくる。
「私の願いを聞き届けよ」
それは言霊の詠唱。アイラが教わったもう一つの技術。
「詠唱かしら?それにしては不思議だけど……終わるまで待つほど優しくないわよ」
コルキアスもアイラが詠唱を始めたのは聞こえていた。
ドルバイド帝国も長年魔術や精霊の研究を重ねてきた大国だ。当然、桜花皇国などで普及している言葉による魔術も認知していた。
コルキアスはアイラが大陸の言葉に魔力を乗せていることに疑問を覚える。それでも詠唱が終わるまでは効果が発揮しないことを知っているため焦りはなかった。
アイラの邪魔をしようと弓を構えてアイラを狙い撃とうとする。
「捧げるは全ての魔力。聖なる精霊よ」
「精霊魔術!?そんな不安定なものを!?」
コルキアスは思わず目を見開いた。
精霊魔術は魔力を込めた言葉を使って自我のない精霊を使役するものだ。
下位の精霊は空気中に漂う魔力と同様に様々な場所に漂っている。自我もないが魔力が込められた声による意思疎通はできるため必要な魔力があればお願いを聞いてもらうことも可能だ。
けれど、人と精霊は見方も価値観も基準も何もかも違う。お願いが届いたとしても正しく理解されるか不明。
契約している精霊がいるならば問題ないが、何もなく扱うにはリスキーな魔術でもある。
「望むは癒しの力。私の全ての魔力を糧に」
アイラを目掛けて雷の矢が飛来する。アイラはそれを一瞥しても避ける素振りも見せずに言葉を紡いでいく。コルキアスを見つめるその表情には、どこか覚悟を決めたような印象を与えた。
「アルケーノ・アルステードに与えよ!」
アイラが口を閉じると同時に膨大な魔力が放たれてアルステードを包み込む。同時に雷の矢はアイラの身を焦がしながら吹き飛ばした。
「っ……お父様!?」
「ああ……作ってくれたこの時間。無駄にはしない!」
負った傷が光と共に治っていく。流石に全治まではいかないが動けるほどまでに回復していた。
アルケーノは地面に落下する前に体勢を整えて、足から炎を放出し無理やり上空へと跳躍する。
不完全な体勢のままコルキアスへと接近し、全身の力を込めて大剣を振るいかぶる。
「どうだ!?」
「ぐっ!?……舐めるなあああああっ!」
大剣の刃はコルキアスの脇腹を深く斬り裂き刀身を赤く染める。
コルキアスも苦痛に表情を歪めるが、次の瞬間には怒りと共に腰から短剣のような物を抜いてアルケーノに叩きつけた。
バチバチと雷光を轟かせた刃はアルケーノの肩を斬り裂いて地面へと落とす。
「私は白虎の隊長……接近すれば勝てるなんて思い上がりも良いところだわ!」
アルケーノはうつ伏せに倒れながらもコルキアスを見上げる。後ろではアイラが血を流したまま倒れている。
このまま自分までやられては、やっと再開できた娘を失いかねない。
どうにかして起きあがろうと奮い立たせるが、体が痺れていて上手く動かないでいた。
「はぁはぁ……諦めなさい。万策は尽きたのよ……でも、油断せずに殺してあげましょう」
コルキアスは油断せずにとどめを刺そうと雷を帯びた短剣を振り上げる。
そして振り下ろそうとした、その時。
戦場に一発の銃声が轟く。
「そう……油断はいけませんよ」
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