王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第11章 壊れかけのラメルシェル

11 ティア VS. 勇者

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 私の剣が戦場に居た一人の男の剣と交差し重い金属音と響かせた。駆けつけたときの速度、そして私の全体重を乗せた一撃は並みの相手であれば剣が折られるか、剣が吹き飛ぶか、剣ごと体が吹き飛ぶしかないはずだった。

 だが、男の力が予想以上に強くて剣がびくともしない。私は剣を弾くようにして後ろに跳躍し距離を取った。

 ちらっと一瞬だけ周囲に視線を向けると、生き残っているラメルシェル王国の軍はクリスとアイラの支援によって辛うじて拠点内に撤退を始めていた。
 一部では戦闘が起きているが敵の主力は紫陽と黒羽の二人でけん制できている。犠牲は少なくないものの半数くらいは拠点の中へ撤退できそうでほっと胸を撫で下ろしたくなる。

 そもそも私たちがこの場に、このタイミングで駆けつけることができたのは奇跡に近いだろう。

 数日前。
 紫陽が放った流星群は森の中の地形が変わるほどの威力を誇った。
 遠目に見ても木々が倒され魔物たちの様々な叫びが聞こえる。広範囲に立った流星は、いくつかの魔物の群れにも当たっていたようで魔物たちが狂乱、擬似的なスタンピードが発生させることができたほどだ。

 私たちはその隙に馬車を連れて西部戦線に向かったわけだが、いくつかの幸運が重なった。

 まず、暴れ出した魔物が森の奥方向へ駆け出したこと。恐らくは強大な一撃が放たれた方向から離れようとしていたのだろう。

 そして稀にいるとされていたミミックコブラがいたこと。
 遠くからでも木々の隙間から蛇を大きくしたような顔が見えていて暴れていた。何度か広範囲を索敵する魔術を行使したが、ミミックコブラの近くで人の魔力反応が消失したため森の中にいた敵部隊が巻き込まれた可能性が高い。

 最後は索敵した時に味方の一人から特殊な魔術の残滓を感じたことだった。
 それはごく微量の魔力を使った索敵系統の魔術。だが、術者のオリジナルが加えてあって索敵した位置を遠くに送信する仕掛けが施されていた。
 仕掛けられた本人も気づいてなく、近くにいた私たちも索敵魔術程度は割と使われるため気にしていなかったのだ。

 そうした出来事が重なり敵の仕掛けも解除した私たちは急いで西部戦線に向かった。流石に警戒を強めたため三日近く経ってしまったが、幸い人も物資も欠けることなく拠点近くまでたどり着くことに成功する。

 だが、もう10分くらいで拠点の中に入れるといった時。拠点の北西方面に大きな魔力と火柱が上がったのだ。
 魔術による索敵では拠点近くに多数の魔力があり、更に奥には数千規模の魔力が確認される。聴力を強化すると悲鳴や剣戟の音が聞こえたことから敵襲だと判断できた。

 そこで私たちはアルたち残りの面々に補給部隊を任せて5人でこちらに急行したわけだった。



 そして今。
 私は敵の中でも一番厄介そうな男と向き合っていた。

 その男は黒髪にこの辺りでは珍しい顔つき、少し鍛えられただけの普通の人間といった印象だった。
 それなのに体内から感じる魔力が桁違いに多い。人の中であれば一番魔力が多かったであろうリーファスどころか、魔族と比べても抜きん出ているくらいで様々な意味でちぐはぐに感じる。

「あなた一体何者ですか?」

「見れば分かるだろう?ドルバイド帝国の兵だ」

「それは格好を見れば分かります。まぁ、ミタナハル王国の軍じゃなかったことには驚きですけどね」

 敵のおおよその数は把握していたが直接見たわけではない。今までの状況から敵はミタナハル王国だけだと思ってしまった。

 ラメルシェル王国で聞いた話では戦いに参加していたのはミナハタル王国のみ。北側の小国も行軍を認めるなどはしていたが、部隊的には一カ国だけだったのだ。

 ドルバイド帝国までもが参戦したとなると人数差もあいまってかなり不利になるかも知れない。

「それにしてもそんな幼い子までも戦場にいるとはな。帝国という強大な力を前に弱小国は屈することしかできない。今のうちに降伏すればお前くらいは助かるかもしれんぞ?」

「罪悪感があるなら引いて欲しいのですが?」

「悪いがそれは出来ないな……すまないが死んでもらう」

 瑠偉はそう言うと剣から振るい爆炎を放った。超高温の紅蓮の炎が私を焼き尽くそうと襲いかかる。
 私はそれを横に跳んで避けると術式の構築を始める。同時に身体強化を弱めて手足に集中させた。魔力制御の半分を術式の構築に、残りの四分の一を身体強化だ。

 そのまま、回り込むようにして剣を振るう。
 相手は私の剣と何合か打ち合うが途中で「ちっ……イグニス!」と舌打ちをしながら叫ぶ。
 すると、男の体から炎が湧き出して強大な火柱となる。
 私は剣をひいて距離を取った。

「……まともに喰らえば無事ではすまなそうな威力ですね。それとしてもイグニスですか」

 島でドラストが使っていた同じ名前の剣。
 たまたま同じ名前の可能性やあの研究者たちのように擬似的に創り出された可能性もある。だけど、目の前の男のことと合わせると思い当たる可能性は一つだけだった。

「その魔力と剣の名前……なるほど。炎の勇者だとすれば納得できます。ですが謎ですね。召喚されたのはつい最近のはず。あなたのように真っ当な人が望みもしない戦いに挑み、ドルバイド帝国の言いなりになるなんて」

「何が言いたい?」

 男は剣に炎を纏わせながら斬りかかってきて、私も同じように剣に魔力を纏わせて迎え打つ。互いの剣が大きな音と火花を立てて交差し鍔迫り合いへと持ち込まれる。

 男の表情は最初からあまり変わらない。無表情で何を考えているか読みにくかった。
 けれど、言葉の端々から若干苛ついているのを感じることができる。私の言葉があながち間違いではないのだろう。

「それだけの力を持っていればドルバイド帝国に従う必要もないはずです」

「俺は俺だけのために戦う。それだけだ」

「だから謎なんですよ。あなたの目には覚悟がありますが、ドルバイド帝国のやり方を良くは思っていなさそうです。勇者として強大な力は持っているあなたならドルバイド帝国から逃げることもできるはずです。そう思いませんか?日本から来た勇者さん?」

「なっ!?」

 私の言葉に男が反応して一瞬だけ剣が揺らいだ。私はそれを見逃すはずもなく、相手の剣をいなして隙を作ると袈裟斬りにしたのだった。
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