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第11章 壊れかけのラメルシェル
10 ラメルシェル王国攻略部隊
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「輸送部隊が洞窟に仕掛けていた罠にかかったそうです」
「そうか……念のため確認しておけ。今、西部拠点はドラバイド帝国の軍が攻略に動いている。あちらが終わるまで邪魔を入れるとうるさいからな……」
ティアたち輸送部隊が洞窟の中に逃げ込んだ頃。
ここミタナハル王国とラメルシェル王国の境界近くにある砦では、一人の司令官が副官からの報告を受けていた。
この砦はラメルシェル王国を侵略するための前線基地で森の中で活動している斥候部隊や戦艦部隊の司令塔でもある。
「西部拠点へは二日後に一斉攻撃でしたか……長らく耐えてましたが、ついに瓦解しそうですね」
「今までは俺たちの国と帝国の影響下にある小国からの小競り合いだった。だが、ドルバイド帝国も痺れを切らせたんだろうよ。噂では獣人国家への侵略準備も進めているんだからな」
大陸南西部の国々で一番広大で強さを持つのはドラバイド帝国だ。その周りにいくつかの属国があって中立、ないしは敵対している国がいくつかあった。
それが今回のラメルシェル王国戦に伴いラメルシェル王国より北側にあった中立国が帝国側についた。
残るはラメルシェル王国とさらに東にある弱小国の集まりだけとなる。
「ラメルシェル王国の攻略が終われば残りの国は早々に白旗を上げるでしょうからね。さらに東には滅亡の砂漠があって侵攻には不向き。となると大陸の北ですか?」
「ああ。大陸の西側の海には水龍の巣がある。山を抜けるにしても惑いの森があって陸路も不可。となれば獣人国家を抜けて北側を攻めるのが一番だ……上も焦っているし変なことを考えなければいいが」
司令官は窓の外を眺めながらため息を吐いた。
数日前に受けた報告では南にある旧監獄島にある研究施設が壊滅したらしい。
その研究所では強化人間や人の人工化、精霊の兵器化、命令のままに行動する機械人形であるゴーレムに関する研究が行われていた。その中でも一番の研究は過去に召喚された勇者の剣の再現だったが、色々と状況が変わってしまった。
「ドルバイド帝国に雷の勇者が召喚された件、ですか?」
「ああ、この前の地震の時だな……そのせいでミタナハル王国はドルバイド帝国に対抗することさえ出来なくなって元帥や国王は頭を悩ませているのさ」
元々、数百年も昔に戦いを挑んで負けて属国に成り下がったミタナハル王国が、単独で宗主国であるドルバイド帝国に打ち勝つなど普通は無理だ。
だからこそ、兵力強化としての研究と戦略兵器クラスの勇者の力を再現しようとしていたわけだが、壊されたイグニスでさえ本物には及ばないのだから今となっては研究が上手くいってもいかなくても変わらないだろう。
「ま、帝国の目はこちらも見ているだろう。今までと同じように作戦をこなしていれば、こちらの軍に影響は……」
「司令、緊急報告です!入室の許可をいただきたく」
司令官と副官が会話しているところに一人の伝令兵がやってきた。
その伝令兵は本国や帝国との通信を行う部隊の所属だ。司令官は何か新しい指令か情報が入ったのだろうかと思って許可を出す。
「構わないぞ。それで何があった?」
「はっ!ドルバイド帝国がラメルシェル王国に向けた部隊ですが、どうやら勇者も同行しているようです。それに伴いミタナハル王国軍はラメルシェル王国西部から撤退するようにと」
「上からの指示は?」
「今のところはまだありませんが……」
「情報収集を命じられる可能性が高いな」
司令官は厄介なことになったとこめかみを抑えて重く息を吐いた。
国王はまだ現実が見えている人で帝国からの命には忠実に従うことを選ぶだろう。だけど、元帥をはじめとする一部の軍の上層部は、多少危険を冒しても帝国に探りを入れることを選ぶはずだ。
「上からの命が下る前に部隊を撤退させろ……勇者の力が本物ならば数日で戦いは終わる。いや、もしかしたら開戦から二日と持たないかもしれない」
帝国としては勇者の力を隠し通したいのが本音だろう。今のうちに撤退させてしまえば、上からの命が下ってから動き出しても到着した頃には戦いが終わっている可能性が高い。
「かしこまりました!すぐに伝えます」
司令官は駆けていく伝令兵を見送りながらも思わず悪態をつきたくなる。
帝国と王国の上層部の両方から睨まれない程度に上手くこなすのは本当に大変なのだ。
すると、先程の伝令兵と入れ替わるようにドタバタと足音が聞こえてくる。
「た、大変です!」
「おい!司令室に入る前には入室許可を……」
扉を勢いよく開けて入ってきた伝令兵に顔を顰めて注意する副官を手で制した。
本来なら副官の対応は正しいのだが、憔悴している伝令兵の姿に嫌な予感がしたのだ。
「す、すいません!ですが、大変なのです!」
「大変なのはわかった……で、何が大変なのだ?」
「ラメルシェル王国の補給を妨害していた工作部隊ですが……通信が途絶えました。定時連絡の時間になっても通信が繋がりません!」
「はぁ!?補給部隊を洞窟の罠に仕掛けたのだろう?忍ばせていた鼠の反応は!?」
「そちらも消失しています!」
「だったら補給部隊は全滅しているはずだ!一人だけ犠牲になって他が無事とか考えにくいだろう!」
そもそも、森に送った部隊は隠密系に適した部隊だ。
魔術による魔力や索敵からの隠蔽、迷彩による視覚からの妨害などに優れていて離れた場所からであれば見つけることは難しい。遠距離からの攻撃や近接戦闘などをこなす万能型でもあって戦闘になったとしてもすぐにやられずに報告くらいはできるはずだった。
「くそっ!最新の情報を集めろ!撤退させる部隊を動かしても構わん!」
「か、かしこまりました!」
「お前は副官として指揮を取れ……」
「かしこまりました。失礼します」
伝令兵と副官が慌てて部屋から出ていくのを見送った司令官は、窓から離れるとドサっと音を立てて椅子に座る。
「全く……何がどうなってるんだ!?」
司令官は頭を抱えながら呟いた。
「そうか……念のため確認しておけ。今、西部拠点はドラバイド帝国の軍が攻略に動いている。あちらが終わるまで邪魔を入れるとうるさいからな……」
ティアたち輸送部隊が洞窟の中に逃げ込んだ頃。
ここミタナハル王国とラメルシェル王国の境界近くにある砦では、一人の司令官が副官からの報告を受けていた。
この砦はラメルシェル王国を侵略するための前線基地で森の中で活動している斥候部隊や戦艦部隊の司令塔でもある。
「西部拠点へは二日後に一斉攻撃でしたか……長らく耐えてましたが、ついに瓦解しそうですね」
「今までは俺たちの国と帝国の影響下にある小国からの小競り合いだった。だが、ドルバイド帝国も痺れを切らせたんだろうよ。噂では獣人国家への侵略準備も進めているんだからな」
大陸南西部の国々で一番広大で強さを持つのはドラバイド帝国だ。その周りにいくつかの属国があって中立、ないしは敵対している国がいくつかあった。
それが今回のラメルシェル王国戦に伴いラメルシェル王国より北側にあった中立国が帝国側についた。
残るはラメルシェル王国とさらに東にある弱小国の集まりだけとなる。
「ラメルシェル王国の攻略が終われば残りの国は早々に白旗を上げるでしょうからね。さらに東には滅亡の砂漠があって侵攻には不向き。となると大陸の北ですか?」
「ああ。大陸の西側の海には水龍の巣がある。山を抜けるにしても惑いの森があって陸路も不可。となれば獣人国家を抜けて北側を攻めるのが一番だ……上も焦っているし変なことを考えなければいいが」
司令官は窓の外を眺めながらため息を吐いた。
数日前に受けた報告では南にある旧監獄島にある研究施設が壊滅したらしい。
その研究所では強化人間や人の人工化、精霊の兵器化、命令のままに行動する機械人形であるゴーレムに関する研究が行われていた。その中でも一番の研究は過去に召喚された勇者の剣の再現だったが、色々と状況が変わってしまった。
「ドルバイド帝国に雷の勇者が召喚された件、ですか?」
「ああ、この前の地震の時だな……そのせいでミタナハル王国はドルバイド帝国に対抗することさえ出来なくなって元帥や国王は頭を悩ませているのさ」
元々、数百年も昔に戦いを挑んで負けて属国に成り下がったミタナハル王国が、単独で宗主国であるドルバイド帝国に打ち勝つなど普通は無理だ。
だからこそ、兵力強化としての研究と戦略兵器クラスの勇者の力を再現しようとしていたわけだが、壊されたイグニスでさえ本物には及ばないのだから今となっては研究が上手くいってもいかなくても変わらないだろう。
「ま、帝国の目はこちらも見ているだろう。今までと同じように作戦をこなしていれば、こちらの軍に影響は……」
「司令、緊急報告です!入室の許可をいただきたく」
司令官と副官が会話しているところに一人の伝令兵がやってきた。
その伝令兵は本国や帝国との通信を行う部隊の所属だ。司令官は何か新しい指令か情報が入ったのだろうかと思って許可を出す。
「構わないぞ。それで何があった?」
「はっ!ドルバイド帝国がラメルシェル王国に向けた部隊ですが、どうやら勇者も同行しているようです。それに伴いミタナハル王国軍はラメルシェル王国西部から撤退するようにと」
「上からの指示は?」
「今のところはまだありませんが……」
「情報収集を命じられる可能性が高いな」
司令官は厄介なことになったとこめかみを抑えて重く息を吐いた。
国王はまだ現実が見えている人で帝国からの命には忠実に従うことを選ぶだろう。だけど、元帥をはじめとする一部の軍の上層部は、多少危険を冒しても帝国に探りを入れることを選ぶはずだ。
「上からの命が下る前に部隊を撤退させろ……勇者の力が本物ならば数日で戦いは終わる。いや、もしかしたら開戦から二日と持たないかもしれない」
帝国としては勇者の力を隠し通したいのが本音だろう。今のうちに撤退させてしまえば、上からの命が下ってから動き出しても到着した頃には戦いが終わっている可能性が高い。
「かしこまりました!すぐに伝えます」
司令官は駆けていく伝令兵を見送りながらも思わず悪態をつきたくなる。
帝国と王国の上層部の両方から睨まれない程度に上手くこなすのは本当に大変なのだ。
すると、先程の伝令兵と入れ替わるようにドタバタと足音が聞こえてくる。
「た、大変です!」
「おい!司令室に入る前には入室許可を……」
扉を勢いよく開けて入ってきた伝令兵に顔を顰めて注意する副官を手で制した。
本来なら副官の対応は正しいのだが、憔悴している伝令兵の姿に嫌な予感がしたのだ。
「す、すいません!ですが、大変なのです!」
「大変なのはわかった……で、何が大変なのだ?」
「ラメルシェル王国の補給を妨害していた工作部隊ですが……通信が途絶えました。定時連絡の時間になっても通信が繋がりません!」
「はぁ!?補給部隊を洞窟の罠に仕掛けたのだろう?忍ばせていた鼠の反応は!?」
「そちらも消失しています!」
「だったら補給部隊は全滅しているはずだ!一人だけ犠牲になって他が無事とか考えにくいだろう!」
そもそも、森に送った部隊は隠密系に適した部隊だ。
魔術による魔力や索敵からの隠蔽、迷彩による視覚からの妨害などに優れていて離れた場所からであれば見つけることは難しい。遠距離からの攻撃や近接戦闘などをこなす万能型でもあって戦闘になったとしてもすぐにやられずに報告くらいはできるはずだった。
「くそっ!最新の情報を集めろ!撤退させる部隊を動かしても構わん!」
「か、かしこまりました!」
「お前は副官として指揮を取れ……」
「かしこまりました。失礼します」
伝令兵と副官が慌てて部屋から出ていくのを見送った司令官は、窓から離れるとドサっと音を立てて椅子に座る。
「全く……何がどうなってるんだ!?」
司令官は頭を抱えながら呟いた。
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