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第11章 壊れかけのラメルシェル
8 毒には毒を
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「全員無事ですか?」
私は咄嗟に魔術を行使すると他の人の安否を尋ねた。押し潰されるようなことはないはずだが念のためだ。
「あ、ああ……俺は大丈夫だが……」
「崩れた……よな?」
「そのはずだけど……」
洞窟の天井が崩れたことで入り口が完全に埋まってしまっている。外からの明かりが入ってこないため真っ暗で見渡しても何も見えない。
それでも全員の気配は感じていた。
ぽつぽつと返事が返ってきたのを聞いて、大きな怪我もしていなさそうだった。そのことに、ほっと肩の力を抜いて息を吐く。
「明かりを灯しますね」
アイラはそう言うと手のひらに魔術による光を生み出した。
次第に洞窟の中の様子が見えてくると「うぉ!?」と驚いた声が響く。
「なんですかこれは!?崩れた瓦礫が浮いている?それに何か針金みたいなものが……」
「魔力糸で一部固定して瓦礫同士で押さえたから」
洞窟の天井が崩れることに気付いた私は咄嗟に地属性の魔術を行使した。最初は落ちてくる瓦礫に干渉して落下地点をずらそうと考えたのだ。
だが、崩れた範囲が相当広くて落下地点をずらす場所が無い。仕方がなく落下を遅らせて魔力糸をいくつか撃ち込むことで崩落していない壁と瓦礫を縫い付けたのだ。
「でも気をつけてくださいね。糸で固定したのはほとんど壁に近いところです。他は瓦礫自体を組み合わせているだけなので大きな衝撃が走ると再び崩落します」
例えるなら瓦に近いだろうか。接着剤で固定するのではなく瓦同時で固定させる、そんなイメージだ。
「ともかく助かった。あれだけの瓦礫に押し潰されれば最悪窒息しただろうからな」
「僕達の防御魔術じゃ抑えきれないからね」
「だが、ここからどうする?脱出も考えなければならないし、外には敵がいるかもしれない。もしかしたら洞窟ごと巻き込む攻撃を撃って来るかもしれないぞ」
クリスや隊長たちが困った表情を見せた。洞窟の入り口付近は広いが奥に行けば行くほど狭くなって足場が安定しない。
かといって、外に出てもこのまま様子見をしても敵の行動次第で詰みになる。
まさに八方塞な状況だった。
「私なら外への道は作れますが……アリーナを顕現させるほどの力はありませんね。その後の守りは厳しいです」
「私も紫陽様と同じだ。あと数回、術を使える程度しか力が残ってない」
紫陽も黒羽も大半の魔力を消費している。自然回復で全快するには速くても半日はかかるだろう。
「僕のポーションをあげるよ。ほとんど守ってもらったおかげで余裕があるからね」
「すまないな……魔力回復系のポーションは用意できなかったんだ」
クロの申し出にクリスが申し訳なさそうに謝った。
元々は補給物資にも魔力回復薬を始めとするポーション類を用意するつもりだったらしい。
だが、魔術士の中でも生産系が得意な人の数は限られる。そのため緊急性の高い体力回復や傷薬などのポーションを優先していたそうだ。
「すまない。ありがたくいただこう」
「ありがとうございます」
二人はポーションを受け取ると一気に飲み込んだ。
「とりあえず……作戦会議をしましょうか」
私はそう言って風魔術による障壁を張った。これは簡易的な風の結界でちょっとした物や毒などの空気を遮断するもの。それを少し改造して音の遮断もできるようにしている。
「これは?」
「……風の結界ですか?」
「敵がどういう手段を使っているか分からないけど、こちらの状況を常に確認できていることは確実です。なので、洞窟に毒などを使用された時の対策と防音対策ですね」
「なるほど……それは助かるな」
「ですがクリスさん。このままでは敵がここにくるかもしれません。先ほどの攻撃は森の中からでしたが近くに別働隊がいる可能性もありますよね?」
「紫陽の言う通りだ。今までは襲撃を受けても、ここまでしつこくなかった。だが、ここまで執拗に狙ってくると言うことは……敵は我々を完全に叩き潰すのかもしれん」
今までは賊のような格好をした複数人が襲いかかってくるとのことだった。魔術を使う敵も少しはいたが今回のように超遠距離を連続して攻撃を受けるようなことはなかったらしい。
「クリスさん……この辺りの魔物ってどれくらいの強さですか?」
「この辺りはオーガやオークが多いな。あとは稀にミミックコブラが出る」
ミミックコブラは飲み込んだ魔物の力を奪うとされている蛇型の魔物だ。生まれてすぐはとても弱いが長い間生き残っている個体ほど様々な魔物の力を身につけているとされている厄介な魔物だろう。
「仮に街の方に魔物の群れが流れても対処できますか?」
「……ある程度は。だが、あまりにも大群になると、それこそスタンピード位になると犠牲が出るだろう。ティア、君は一体何を考えている?」
「毒には毒を持って制します……魔物を暴走させて敵にぶつけて、その間に私たちは西部戦線の拠点へ向かいます。どうですか?」
私たちが魔物避けを使っているように敵も魔物避けを使っているだろう。
だけど、魔物を刺激して暴走させれば魔物を一直線に暴れ出させることができる。隠れている敵にも容赦なく襲いかかり近くに人の気配があれば進路を変えるはずだ。
難点としては拠点にも魔物が流れるかもしれないことだが、スタンピードさせる方向くらいは調整できる。せめて、群れから外れた魔物が流れるくらいだ。
私は咄嗟に魔術を行使すると他の人の安否を尋ねた。押し潰されるようなことはないはずだが念のためだ。
「あ、ああ……俺は大丈夫だが……」
「崩れた……よな?」
「そのはずだけど……」
洞窟の天井が崩れたことで入り口が完全に埋まってしまっている。外からの明かりが入ってこないため真っ暗で見渡しても何も見えない。
それでも全員の気配は感じていた。
ぽつぽつと返事が返ってきたのを聞いて、大きな怪我もしていなさそうだった。そのことに、ほっと肩の力を抜いて息を吐く。
「明かりを灯しますね」
アイラはそう言うと手のひらに魔術による光を生み出した。
次第に洞窟の中の様子が見えてくると「うぉ!?」と驚いた声が響く。
「なんですかこれは!?崩れた瓦礫が浮いている?それに何か針金みたいなものが……」
「魔力糸で一部固定して瓦礫同士で押さえたから」
洞窟の天井が崩れることに気付いた私は咄嗟に地属性の魔術を行使した。最初は落ちてくる瓦礫に干渉して落下地点をずらそうと考えたのだ。
だが、崩れた範囲が相当広くて落下地点をずらす場所が無い。仕方がなく落下を遅らせて魔力糸をいくつか撃ち込むことで崩落していない壁と瓦礫を縫い付けたのだ。
「でも気をつけてくださいね。糸で固定したのはほとんど壁に近いところです。他は瓦礫自体を組み合わせているだけなので大きな衝撃が走ると再び崩落します」
例えるなら瓦に近いだろうか。接着剤で固定するのではなく瓦同時で固定させる、そんなイメージだ。
「ともかく助かった。あれだけの瓦礫に押し潰されれば最悪窒息しただろうからな」
「僕達の防御魔術じゃ抑えきれないからね」
「だが、ここからどうする?脱出も考えなければならないし、外には敵がいるかもしれない。もしかしたら洞窟ごと巻き込む攻撃を撃って来るかもしれないぞ」
クリスや隊長たちが困った表情を見せた。洞窟の入り口付近は広いが奥に行けば行くほど狭くなって足場が安定しない。
かといって、外に出てもこのまま様子見をしても敵の行動次第で詰みになる。
まさに八方塞な状況だった。
「私なら外への道は作れますが……アリーナを顕現させるほどの力はありませんね。その後の守りは厳しいです」
「私も紫陽様と同じだ。あと数回、術を使える程度しか力が残ってない」
紫陽も黒羽も大半の魔力を消費している。自然回復で全快するには速くても半日はかかるだろう。
「僕のポーションをあげるよ。ほとんど守ってもらったおかげで余裕があるからね」
「すまないな……魔力回復系のポーションは用意できなかったんだ」
クロの申し出にクリスが申し訳なさそうに謝った。
元々は補給物資にも魔力回復薬を始めとするポーション類を用意するつもりだったらしい。
だが、魔術士の中でも生産系が得意な人の数は限られる。そのため緊急性の高い体力回復や傷薬などのポーションを優先していたそうだ。
「すまない。ありがたくいただこう」
「ありがとうございます」
二人はポーションを受け取ると一気に飲み込んだ。
「とりあえず……作戦会議をしましょうか」
私はそう言って風魔術による障壁を張った。これは簡易的な風の結界でちょっとした物や毒などの空気を遮断するもの。それを少し改造して音の遮断もできるようにしている。
「これは?」
「……風の結界ですか?」
「敵がどういう手段を使っているか分からないけど、こちらの状況を常に確認できていることは確実です。なので、洞窟に毒などを使用された時の対策と防音対策ですね」
「なるほど……それは助かるな」
「ですがクリスさん。このままでは敵がここにくるかもしれません。先ほどの攻撃は森の中からでしたが近くに別働隊がいる可能性もありますよね?」
「紫陽の言う通りだ。今までは襲撃を受けても、ここまでしつこくなかった。だが、ここまで執拗に狙ってくると言うことは……敵は我々を完全に叩き潰すのかもしれん」
今までは賊のような格好をした複数人が襲いかかってくるとのことだった。魔術を使う敵も少しはいたが今回のように超遠距離を連続して攻撃を受けるようなことはなかったらしい。
「クリスさん……この辺りの魔物ってどれくらいの強さですか?」
「この辺りはオーガやオークが多いな。あとは稀にミミックコブラが出る」
ミミックコブラは飲み込んだ魔物の力を奪うとされている蛇型の魔物だ。生まれてすぐはとても弱いが長い間生き残っている個体ほど様々な魔物の力を身につけているとされている厄介な魔物だろう。
「仮に街の方に魔物の群れが流れても対処できますか?」
「……ある程度は。だが、あまりにも大群になると、それこそスタンピード位になると犠牲が出るだろう。ティア、君は一体何を考えている?」
「毒には毒を持って制します……魔物を暴走させて敵にぶつけて、その間に私たちは西部戦線の拠点へ向かいます。どうですか?」
私たちが魔物避けを使っているように敵も魔物避けを使っているだろう。
だけど、魔物を刺激して暴走させれば魔物を一直線に暴れ出させることができる。隠れている敵にも容赦なく襲いかかり近くに人の気配があれば進路を変えるはずだ。
難点としては拠点にも魔物が流れるかもしれないことだが、スタンピードさせる方向くらいは調整できる。せめて、群れから外れた魔物が流れるくらいだ。
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