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第11章 壊れかけのラメルシェル
4 補給作戦の内容
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「俺はクリス!Bランク冒険者にして今はラメルシェル王国レジスタンスに雇われている者だ。今回の補給部隊の隊長を務めさせてもらう」
クリスは背中に大剣を背負った壮年の男性だ。赤い髪を短く纏めた少し変わった印象を受ける。
「紫陽殿やティア嬢は初めて聞くかもしれんが、冒険者はこの大陸の複数の国家に跨いで存在する独立したギルドじゃ。南部戦線と東部戦線には支部が残っておる」
「ええ、桜華皇国にはありませんね」
「私は冒険者は知ってるけど……クリスさんでBランクですか?」
エスペルト王国は結界の影響で魔物が比較的弱い。その影響もあって同じランクの冒険者であれば他国よりも弱いと言われていた。
だが、そんなエスペルト王国の基準で見てもAランクを超えているくらいの強さは感じる。例えるなら初めて会った頃のシリウスと同等だ。
「ティアだったか?お前が知っている冒険者は数年前の基準じゃないか?」
「そうだけど……」
クリスはなるほどと呟くと細かい説明をしてくれた。
数年前から始まった大活性期。魔力が濃くなったことで魔物自体も強くなり凶暴になったそうだ。
単独で行動していた魔物も群れを組み、その中で一番強い固体がボスとして統制する。魔物同士で喰らいあって勝ったほうが力を得る。
そうして魔物の力が全体的に強化された。
「冒険者のランクは倒した魔物の種類や数、状況が基準になりやすい。だが、全ての魔物が強化されたことで基準が当てにできなくなった。だから、その調整として全冒険者のランクを一律下げたんだ」
戦闘を行わないE、Dを新しく作ったG、Fに繰り下げて、戦闘可能ランクをDからBの中で細分化する。
AやSランクの区分けは変わらないが魔物の強さが変わったことで全冒険者の再評価を行われたらしい。
「大半のAランクはBランクに落ちたからな。今のAランクの半分は昔のSランク。単独で上位ランクの魔物を相手にできる強さを持つ極一部の人間だ」
元々、前のSランクは冒険者としては最上位だったが国を含めて考えればそこまでじゃない。軍や近衛騎士で役職についている人間であれば同等の強さがあったのだ。
それを考えれば今回の再評価も納得ができる。
「ふむ。冒険者の認識は大丈夫じゃな?では話を続けるぞ。まず今回の補給部隊じゃが馬車5つ分になる。主に食糧やポーションなどの薬品類、布などの雑貨類、鉱石を含む資源類などを運ぶの。馬車には8人小隊を護衛につけクリスを総指揮、紫陽殿、黒羽殿、アイラ嬢、ティア嬢の四名には遊撃を頼みたい。そして、ここから西部戦線の拠点までのルートじゃが……大きく分けて3つある」
浮かび上がっている地図に赤い光線が3つ点滅する。
その3本の道筋が西部戦線の拠点へのルートなのだろう。
「極力隠密行動をとるが馬車を使う以上は目立つのも避けられん。今までも毎回襲撃を受けていることからも、戦闘になる前提で話を進める」
3つのルートは上から順に高低差が大きい山側の道、森の中を抜ける道、平坦で隠れるところのない海岸近くの道となっていた。
どれを通ってもメリットとデメリットが混在していて最適な答えはなさそうだ。
「出発予定は2日後の朝。北側の山側を通るルートを使い約5日かけて西部戦線へ向かう。基本に忠実な日中に行軍し野営を行うスタイルじゃ。何事もなければ3日もあれば到着する距離だが魔物や敵襲があるからの」
「敵については何か分かっているのですか?」
「さてな。毎回50人くらいで襲ってくるが……報告の限りでは斥候、あるいは様子見と言った感じじゃの。こちらが有利になれば撤退していく、そんな感じじゃ。もっともどのルート、どの時間でも襲ってくることを考えると全域を監視されていると考えるのが自然じゃな。詳しいことは実際に戦ったことがあるクリスのほうが分かるじゃろう」
ローエンディッシュがクリスに目を向ける。
クリスは一つ頷くと少し前に出た。
「敵は魔術職、接近職を織り交ぜた構成が多いな。どこにどのような罠が張られているかも分からないが、こっちが抑えている地域以外は、基本的に敵の領域だと考えたほうがいい」
補給部隊の馬車は5台、護衛は40人になる。50人程度の敵であればおおよそ同数とも言えるだろう。
私たちが上手く立ち回れば、その程度の数の差は簡単に覆せる。
問題は数でどうにもならない場合だ。
「個で強い者はいますか?」
「今まで補給部隊を襲ってきたなかにはいなかった。だが、敵の本隊には最低でも5人いる。2人は俺と互角で残り2人はローエンディッシュ様に匹敵する。残り1人は……」
「儂でも勝てんよ。一度だけあいまみえたが主力のほとんどを犠牲にして時間稼ぎが関の山じゃった。闇属性の魔剣使いの女だが詳しい力は分からん。だが精神が弱いものでは束になっても勝てないかもしれんな」
闇系統の魔術は物理的だけでなく精神干渉も得意とする属性だ。
闇属性の魔剣は希少で私も見たことはないが敵に回すとかなり厄介だろう。
「もしも強敵が現れれば私か黒羽が迎えうちましょう。遊撃としての役割はしかと果たさせてもらいます」
「私も全力を尽くします」
「それは助かるの。こちらからもよろしく頼みたい」
「すまんな。助かる!」
紫陽と私がなんとかすると伝えると二人は頭を下げてお願いしたのだった。
それから、更に半刻ほど話し合いは続いた。西部の情報や敵の兵装、地形など様々なことを教えてもらい解散となる。
「では皆頼んだぞ!」
「2日後の朝7時。西門前の広場で待っている。それまでの間は各自、休息をとってくれ」
ローエンディッシュとクリスの言葉に「任せてください」と返事をして部屋を出ようとしたその時。
とても大きな揺れが私たちを包み込んだ。
クリスは背中に大剣を背負った壮年の男性だ。赤い髪を短く纏めた少し変わった印象を受ける。
「紫陽殿やティア嬢は初めて聞くかもしれんが、冒険者はこの大陸の複数の国家に跨いで存在する独立したギルドじゃ。南部戦線と東部戦線には支部が残っておる」
「ええ、桜華皇国にはありませんね」
「私は冒険者は知ってるけど……クリスさんでBランクですか?」
エスペルト王国は結界の影響で魔物が比較的弱い。その影響もあって同じランクの冒険者であれば他国よりも弱いと言われていた。
だが、そんなエスペルト王国の基準で見てもAランクを超えているくらいの強さは感じる。例えるなら初めて会った頃のシリウスと同等だ。
「ティアだったか?お前が知っている冒険者は数年前の基準じゃないか?」
「そうだけど……」
クリスはなるほどと呟くと細かい説明をしてくれた。
数年前から始まった大活性期。魔力が濃くなったことで魔物自体も強くなり凶暴になったそうだ。
単独で行動していた魔物も群れを組み、その中で一番強い固体がボスとして統制する。魔物同士で喰らいあって勝ったほうが力を得る。
そうして魔物の力が全体的に強化された。
「冒険者のランクは倒した魔物の種類や数、状況が基準になりやすい。だが、全ての魔物が強化されたことで基準が当てにできなくなった。だから、その調整として全冒険者のランクを一律下げたんだ」
戦闘を行わないE、Dを新しく作ったG、Fに繰り下げて、戦闘可能ランクをDからBの中で細分化する。
AやSランクの区分けは変わらないが魔物の強さが変わったことで全冒険者の再評価を行われたらしい。
「大半のAランクはBランクに落ちたからな。今のAランクの半分は昔のSランク。単独で上位ランクの魔物を相手にできる強さを持つ極一部の人間だ」
元々、前のSランクは冒険者としては最上位だったが国を含めて考えればそこまでじゃない。軍や近衛騎士で役職についている人間であれば同等の強さがあったのだ。
それを考えれば今回の再評価も納得ができる。
「ふむ。冒険者の認識は大丈夫じゃな?では話を続けるぞ。まず今回の補給部隊じゃが馬車5つ分になる。主に食糧やポーションなどの薬品類、布などの雑貨類、鉱石を含む資源類などを運ぶの。馬車には8人小隊を護衛につけクリスを総指揮、紫陽殿、黒羽殿、アイラ嬢、ティア嬢の四名には遊撃を頼みたい。そして、ここから西部戦線の拠点までのルートじゃが……大きく分けて3つある」
浮かび上がっている地図に赤い光線が3つ点滅する。
その3本の道筋が西部戦線の拠点へのルートなのだろう。
「極力隠密行動をとるが馬車を使う以上は目立つのも避けられん。今までも毎回襲撃を受けていることからも、戦闘になる前提で話を進める」
3つのルートは上から順に高低差が大きい山側の道、森の中を抜ける道、平坦で隠れるところのない海岸近くの道となっていた。
どれを通ってもメリットとデメリットが混在していて最適な答えはなさそうだ。
「出発予定は2日後の朝。北側の山側を通るルートを使い約5日かけて西部戦線へ向かう。基本に忠実な日中に行軍し野営を行うスタイルじゃ。何事もなければ3日もあれば到着する距離だが魔物や敵襲があるからの」
「敵については何か分かっているのですか?」
「さてな。毎回50人くらいで襲ってくるが……報告の限りでは斥候、あるいは様子見と言った感じじゃの。こちらが有利になれば撤退していく、そんな感じじゃ。もっともどのルート、どの時間でも襲ってくることを考えると全域を監視されていると考えるのが自然じゃな。詳しいことは実際に戦ったことがあるクリスのほうが分かるじゃろう」
ローエンディッシュがクリスに目を向ける。
クリスは一つ頷くと少し前に出た。
「敵は魔術職、接近職を織り交ぜた構成が多いな。どこにどのような罠が張られているかも分からないが、こっちが抑えている地域以外は、基本的に敵の領域だと考えたほうがいい」
補給部隊の馬車は5台、護衛は40人になる。50人程度の敵であればおおよそ同数とも言えるだろう。
私たちが上手く立ち回れば、その程度の数の差は簡単に覆せる。
問題は数でどうにもならない場合だ。
「個で強い者はいますか?」
「今まで補給部隊を襲ってきたなかにはいなかった。だが、敵の本隊には最低でも5人いる。2人は俺と互角で残り2人はローエンディッシュ様に匹敵する。残り1人は……」
「儂でも勝てんよ。一度だけあいまみえたが主力のほとんどを犠牲にして時間稼ぎが関の山じゃった。闇属性の魔剣使いの女だが詳しい力は分からん。だが精神が弱いものでは束になっても勝てないかもしれんな」
闇系統の魔術は物理的だけでなく精神干渉も得意とする属性だ。
闇属性の魔剣は希少で私も見たことはないが敵に回すとかなり厄介だろう。
「もしも強敵が現れれば私か黒羽が迎えうちましょう。遊撃としての役割はしかと果たさせてもらいます」
「私も全力を尽くします」
「それは助かるの。こちらからもよろしく頼みたい」
「すまんな。助かる!」
紫陽と私がなんとかすると伝えると二人は頭を下げてお願いしたのだった。
それから、更に半刻ほど話し合いは続いた。西部の情報や敵の兵装、地形など様々なことを教えてもらい解散となる。
「では皆頼んだぞ!」
「2日後の朝7時。西門前の広場で待っている。それまでの間は各自、休息をとってくれ」
ローエンディッシュとクリスの言葉に「任せてください」と返事をして部屋を出ようとしたその時。
とても大きな揺れが私たちを包み込んだ。
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