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第11章 壊れかけのラメルシェル
3 癒しの秘湯
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「綺麗な緑色ですね!」
アンクリースに連れてきてもらった温泉は、山を少し登った場所にあった。
岩場の陰にある少し広めの窪みに近くの源泉から湧き出した自然の温泉らしい。エメラルドグリーンに染まる湯がとても綺麗な一面を彩っていた。
「我がラメルシェル王国が誇る秘湯です。今日は私たちの貸切ですよ」
この場所は主に南部戦線部隊が面々が使う温泉らしい。通常の温泉は住民向けにも開放しているが、ここはお湯に含まれる魔力濃度も濃いため認められた人しか入れないそうだ。
魔力が少ない人で慣れていない人には毒にもなるのも理由の一つだろう。
「ふわぁ……!?お風呂は私たちの国にもありますが……なんですかこれは!?」
「お湯につかっているだけで体の中から力が湧いてくる!?」
簡単に体を流したあと、そっとお湯に入った紫陽と黒羽が驚いた声を上げた。
「私たちも理由は分かっていませんが魔力が温泉の効能自体を増幅している可能性が高いみたいですね」
ここの温泉は硫黄泉であると同時に龍脈から溢れた魔力も含まれている。普通の温泉の効能に加えて魔力の回復や治癒能力の向上、生命力の回復などの効能があるらしい。
元々の硫黄泉の効能が魔力で強化されたことと、豊富な魔力が治癒の形をとったことで、このようになったらしい。
あくまで自然の成り行きだそうだ。
「私も領地の温泉は入ったことがありますけど……こんな感覚初めてです」
アイラも知らないという事はこの地域のように滅多な場所にはない温泉なのだろう。
「凄い……楽になる。気持ち良い」
そしてこの温泉の効能が一番効いているのが私だ。
プレアデスのおかげで全力で動いても寝込むことはない。それでも身体強化を使って動いていると疲労が大きくて身体がとても重く感じていた。
それが無くなって物凄く軽く感じるのだ。
『良かったわね。魔力が昇華して生命力になっているのよ。魂が欠落しているティアには良く効くはずよ』
内心で歓喜の声を上げているとプレアデスが教えてくれた。仮契約とはいえ魂同士に繋がりがある今ではおおよその感情も伝わっているそうだ。
『万全じゃなかった生命力が満たされているってこと?』
『魔力と同じで生命力も体を巡っているから。今までは魂の容量が少ないから巡っている生命力も少なかったけど、温泉から得ることで病弱な人くらいにはなっているわ』
『普通じゃなくて?』
病弱じゃ変わらないんじゃないかと思わず聞き返すとプレアデスがため息を吐いた気がした。
『普通の人間だったらとっくに死んでいるか奇跡が起きて寝たきり生活。魔力の制御力が異常に高いから虚弱ながらも日常生活が送れていたの。それが運動してもたまに寝込むくらいになったんだから十分凄いでしょうよ』
契約したことで動けるようになった私だったが今までの状態では全力の戦闘には流石に耐えられなかったらしい。
それが今では2、3分くらいなら後で寝込むくらいですむそうだ。
『でも温泉の効能はずっと続かないわ。満たされた生命力も時間とともに減少して元に戻るから……無理だけはしないようにね』
プレアデスの呆れながらも気遣うような優しい声に『できる限り頑張る』とだけ答えた。
「本当は景色も良いんですけどね……全てが片付いたら見て欲しいものです」
プレアデスとの会話に夢中になっていた私は、アンクリースの残念そうな声を聞いてふと我に返る。
そしてアンクリースの視線の先を追うと言葉の意味が理解できた。今まで山々や竹、木々といった緑に溢れる自然にばかり目を向けていたが、もう一方からは街の方を眺めることができるのだ。
「海も一望できるんですね」
「ええ。本当に綺麗だったのですよ」
高台にあるここからは街の全体が見え、その奥に海が見える。今では結界によって風景が揺らいでいたり船が遠くを巡航していて砲撃を行っているのがわかる。それが、元々は太陽に反射した綺麗な海を一望できるそうだ。
「昼間も綺麗ですが夜もおすすめですね。月明かりに照らされた海を見ながら嗜むお酒もいいものです」
ここは火山があるものの気候的には寒い部類に入る。もう少しでやってくる冬では大雪や氷に覆われる場所も少なくないそうだ。
そしてラメルシェル王国の主食は麦やコメ、とうもろこしなどの穀物をそのまま食べるらしく、そういった穀物からお酒造りも活発になっているらしい。
「今回は用意できませんでしたが、次回は楽しみにしていてください」
アンクリースは少し微笑みながら自信満々に言葉にした。
それから少しのあいだ、私たちは他愛もない話をしながら温泉で寛いだ。
その後、遅めの昼食をとり街を少し散策してから司令部に戻ったのだ。
アンクリースに案内されて講義室のような造りの部屋の中に入る。
棚の前にはローエンディッシュが立っていて隣には初めて見る男の人がいた。
壁には大陸南西部の地図とラメルシェル王国の全体図が貼ってあって作戦室のように感じた。
「その様子じゃ楽しめたみたいじゃの。皆に集まってもらったのは次の補給に関する説明じゃよ。好きな席に座ってくれ」
私たちが全員席に着くと部屋が暗くなって空中に拡大された地図が浮かび上がる。
エスペルト王国でも使っていた魔術具と同じようなものだろう。
「まずは紹介じゃな。隣にいるのは今回の補給部隊の部隊長を任せるクリスじゃ」
ローエンディッシュの紹介で一人の男の人……クリスが前に出た。
アンクリースに連れてきてもらった温泉は、山を少し登った場所にあった。
岩場の陰にある少し広めの窪みに近くの源泉から湧き出した自然の温泉らしい。エメラルドグリーンに染まる湯がとても綺麗な一面を彩っていた。
「我がラメルシェル王国が誇る秘湯です。今日は私たちの貸切ですよ」
この場所は主に南部戦線部隊が面々が使う温泉らしい。通常の温泉は住民向けにも開放しているが、ここはお湯に含まれる魔力濃度も濃いため認められた人しか入れないそうだ。
魔力が少ない人で慣れていない人には毒にもなるのも理由の一つだろう。
「ふわぁ……!?お風呂は私たちの国にもありますが……なんですかこれは!?」
「お湯につかっているだけで体の中から力が湧いてくる!?」
簡単に体を流したあと、そっとお湯に入った紫陽と黒羽が驚いた声を上げた。
「私たちも理由は分かっていませんが魔力が温泉の効能自体を増幅している可能性が高いみたいですね」
ここの温泉は硫黄泉であると同時に龍脈から溢れた魔力も含まれている。普通の温泉の効能に加えて魔力の回復や治癒能力の向上、生命力の回復などの効能があるらしい。
元々の硫黄泉の効能が魔力で強化されたことと、豊富な魔力が治癒の形をとったことで、このようになったらしい。
あくまで自然の成り行きだそうだ。
「私も領地の温泉は入ったことがありますけど……こんな感覚初めてです」
アイラも知らないという事はこの地域のように滅多な場所にはない温泉なのだろう。
「凄い……楽になる。気持ち良い」
そしてこの温泉の効能が一番効いているのが私だ。
プレアデスのおかげで全力で動いても寝込むことはない。それでも身体強化を使って動いていると疲労が大きくて身体がとても重く感じていた。
それが無くなって物凄く軽く感じるのだ。
『良かったわね。魔力が昇華して生命力になっているのよ。魂が欠落しているティアには良く効くはずよ』
内心で歓喜の声を上げているとプレアデスが教えてくれた。仮契約とはいえ魂同士に繋がりがある今ではおおよその感情も伝わっているそうだ。
『万全じゃなかった生命力が満たされているってこと?』
『魔力と同じで生命力も体を巡っているから。今までは魂の容量が少ないから巡っている生命力も少なかったけど、温泉から得ることで病弱な人くらいにはなっているわ』
『普通じゃなくて?』
病弱じゃ変わらないんじゃないかと思わず聞き返すとプレアデスがため息を吐いた気がした。
『普通の人間だったらとっくに死んでいるか奇跡が起きて寝たきり生活。魔力の制御力が異常に高いから虚弱ながらも日常生活が送れていたの。それが運動してもたまに寝込むくらいになったんだから十分凄いでしょうよ』
契約したことで動けるようになった私だったが今までの状態では全力の戦闘には流石に耐えられなかったらしい。
それが今では2、3分くらいなら後で寝込むくらいですむそうだ。
『でも温泉の効能はずっと続かないわ。満たされた生命力も時間とともに減少して元に戻るから……無理だけはしないようにね』
プレアデスの呆れながらも気遣うような優しい声に『できる限り頑張る』とだけ答えた。
「本当は景色も良いんですけどね……全てが片付いたら見て欲しいものです」
プレアデスとの会話に夢中になっていた私は、アンクリースの残念そうな声を聞いてふと我に返る。
そしてアンクリースの視線の先を追うと言葉の意味が理解できた。今まで山々や竹、木々といった緑に溢れる自然にばかり目を向けていたが、もう一方からは街の方を眺めることができるのだ。
「海も一望できるんですね」
「ええ。本当に綺麗だったのですよ」
高台にあるここからは街の全体が見え、その奥に海が見える。今では結界によって風景が揺らいでいたり船が遠くを巡航していて砲撃を行っているのがわかる。それが、元々は太陽に反射した綺麗な海を一望できるそうだ。
「昼間も綺麗ですが夜もおすすめですね。月明かりに照らされた海を見ながら嗜むお酒もいいものです」
ここは火山があるものの気候的には寒い部類に入る。もう少しでやってくる冬では大雪や氷に覆われる場所も少なくないそうだ。
そしてラメルシェル王国の主食は麦やコメ、とうもろこしなどの穀物をそのまま食べるらしく、そういった穀物からお酒造りも活発になっているらしい。
「今回は用意できませんでしたが、次回は楽しみにしていてください」
アンクリースは少し微笑みながら自信満々に言葉にした。
それから少しのあいだ、私たちは他愛もない話をしながら温泉で寛いだ。
その後、遅めの昼食をとり街を少し散策してから司令部に戻ったのだ。
アンクリースに案内されて講義室のような造りの部屋の中に入る。
棚の前にはローエンディッシュが立っていて隣には初めて見る男の人がいた。
壁には大陸南西部の地図とラメルシェル王国の全体図が貼ってあって作戦室のように感じた。
「その様子じゃ楽しめたみたいじゃの。皆に集まってもらったのは次の補給に関する説明じゃよ。好きな席に座ってくれ」
私たちが全員席に着くと部屋が暗くなって空中に拡大された地図が浮かび上がる。
エスペルト王国でも使っていた魔術具と同じようなものだろう。
「まずは紹介じゃな。隣にいるのは今回の補給部隊の部隊長を任せるクリスじゃ」
ローエンディッシュの紹介で一人の男の人……クリスが前に出た。
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