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第10章 元王族の囚われ生活
13 広間での激突
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「ゼルソード、グレオの二人でやれ。巫女だけ生きていれば他は殺して構わん。俺に剣を抜かせるなよ?」
「隊長お任せを。先程は足止めされましたが、二度目はありません」
「今度は負けない。ドラスト様、お任せを」
ゼルソードとグレオは武器を抜いて殺気を飛ばしてくる。私たちに向けられる気迫は今までの比ではなくて、今までは全力じゃなかったようだ。
周りにいた兵士たちも剣を抜いて私たちを包囲するように徐々に近づいてくる。
「エナ、ディオ……みんなのこと守ってあげて?私が敵をやるわ」
「了解だ」
「任せてください」
兵士たちは100人近くいる。戦えない人を守るためにも二人には後ろを任せたい。
「紫陽様、皆のことお願いします。ティア殿、左にいる鎧男を任せてもいいか?もう一人の方は私が相手したい」
黒羽はグレオに怒りの視線を向けながら前に出た。
紫陽は剣術と霊力……こちらで言う魔力や生命力の扱いに秀でているらしい。だが護衛兼世話役の黒羽としては巫女である紫陽を極力危険から遠ざけたいそうだ。
だから黒羽が前に出るのは理解できる。だがグレオに対して怒りの感情を向けるのは不思議だった。
「別にいいけど……恨みでもあるの?」
「あやつが持っている刀……あれが紫陽様が持つ霊刀の桜陽だ。なんとしても取り返す必要がある」
「わかったわ……気をつけてね」
グレオの持つ黒い刀からは、どこか懐かしくも不思議な力を感じた。その力をよく知っている黒羽が戦う方が良いだろう。
私はゼルソードを目掛けて走り出した。
「まずは、邪魔な兵士を吹き飛ばす!」
私は身体強化を用いて敵へ向かって走ると同時に魔術による雷撃を繰り出した。近付いてくる兵士を痺れさせ意識を刈り取っていく。
そしてゼルソードに向けて剣を振り下ろした。
「ほう……魔術だけかと思ったが剣術もなかなかだな!」
「その棒……やっかいね!」
ゼルソードは前と同じで長い棒状の武器を使用していた。その棒は魔抗石のようなものでできているらしい。打ち合うたびに剣に纏わせていた魔力が剥がされていく。
「当然だ……これはお前のように魔装を使う相手を想定しているからな!」
「ぐっ!?」
ゼルソードは棒を使って剣を受け流すと回し蹴りを繰り出した。
私は魔力を纏ってダメージを減らそうとするが鎧にも棒と同じ効果があるようだった。咄嗟に後ろに跳んで衝撃をいなすがかなりの衝撃を受ける。
「ほう!あばらを砕くつもりだったが耐えるか!」
まともに喰らえば骨ごと砕かれていた可能性が高かった。だが身体強化を行い衝撃を減らすようにダメージを減らすことができる。相当痛いが怪我はない。
「この程度で……倒せるほど甘くないわ!」
私は高速で剣を振り続ける。何度も何度も剣を斬り結ぶが、ゼルソードの鎧や棒に阻まれて攻撃が通らなかった。しかしゼルソードの攻撃は既に見切っていて、どちらの攻撃も有効打にならないこう着状態に陥ることになる。
「この棒もこの鎧も!一級品だ。お前が持つ剣は兵士用の量産品。いつまで耐えられるか楽しみだな!」
水晶を斬ったときの反動で剣の消耗はかなり激しいだろう。その状態で強固なゼルソードの武具と打ち合うと先に剣が持たなくなる可能性が高い。
だけど全ての攻撃を剣で受けるのではなく受け流してしまえばいい。真っ向から明けるのではなく横から弾いてしまえばいい。
打ち合う数が増えるということは、それだけ観察できる時間もあるということ。ゼルソードの癖を見切り体捌きや重心による動きの最大範囲を理解できれば擬似的な未来予知も可能だ。
「なに!?」
私はほんの少しだけ剣を大きく振りかぶった。それによって高速で交わる剣戟に僅かな隙が生じることになる。
そしてゼルソードは長年の経験と互角に斬りあう緊張感から、僅かに反応してしまった。
けれどそれは意図的に作った隙だ。ゼルソードは反射的に棒で薙ぎ払おうとするが、私は体勢を低くして避ける。
「これで終わり!」
私は剣を両手で握ると今まで以上の速度で斬り上げる。鎧の隙間、ちょうど腰の部分に刃が入って赤い血飛沫が弾けた。さらに剣を通して体内に魔力を撃ち込むと、グラソードは少しよろめいて崩れ去った。
一方で黒羽とグレオの戦いは黒羽の守勢となっていた。
兵士から奪った剣はあるが桜陽の斬撃を受けては剣ごと斬られてしまう。極力回避か刀を横から弾くしかないわけで、黒羽はひたすら攻撃を裁き続ける。
「どうした……受けるだけでは勝てんぞ」
しばしの間、刀と剣の打ち合いが続いていた。だがグレオが黒羽の剣を回避し、その隙に力を込めて桜陽を振るう。しかも魔力を流すことで強化しているようだった。
黒羽は剣で受け止めるが、一瞬だけせめぎあうと剣が半ばから真っ二つに折れる。
「っ……暴風」
黒羽は肩を掠めながらも直撃を避けていた。同時に何かを呟くと竜巻が発生してグレオの体を打ち上げる。
「なに!?」
グレオはいきなり上空に吹き飛ばされて混乱しているようだった。竜巻のせいかくるくると回るように飛ばされている。手に握っていた桜陽も地面へと突き刺さる。
「刀は返してもらった……これで終わりだ!爆炎」
黒羽は手を翳しながら魔力が乗った言葉を告げる。手の先に大きな炎の玉が生まれるとグレオを目掛けて撃ちだされ、グレオは爆発と共に炎に包まれた。
ゼルソードとグレオの二人を倒した頃には残りの兵士もほとんどが倒れ伏していた。後ろで守るために戦っていたエナたちはもちろん、アイラたちも怪我はしてないようでなによりだ。
「あとはあなただけね」
「ああ霊刀も取り返した今、お前を倒してここから出るのみだ」
あとの敵は残り一人。大きな剣を背負った壮年の男……ドラスト隊長と呼ばれていた彼だけとなる。
「ふむ……俺が剣を抜くしかないか」
ドラストと呼ばれていた隊長は周りを一瞥して剣の柄に手を添える。
「随分と薄情者ね……わざわざ味方が全滅するまで待つなんて」
「だが感謝はしておく。私たちが一対一で戦えたのはお前のおかげだろうからな」
私と黒羽は警戒しながらも距離を詰めていく。人数的にも状況的にも私たちのほうが有利なはずだがドラストは不敵な笑みを浮かべていた。
「知っているか?ここの研究所が最終的に何を目指しているかを。研究者の中には人造強化兵専門やゴーレム好きの変態もいるが所長の目的はたった一つ。大昔に召喚されたといわれる勇者が持っていた剣。それの作成だ」
ドラストが剣を抜くと刀身から炎が湧き上がる。ドラスト自身を炎の鎧のように包み込み刀身も炎に包まれた。
「これが唯一の成功例。炎の勇者の亡骸から作り上げた疑似的な勇者の剣イグニス。これを抜けば俺以外の全てを灰と化す。だから最後まで戦わなかっただけだ」
次の瞬間。
広間の全体に灼熱の業火が襲い掛かった。
「隊長お任せを。先程は足止めされましたが、二度目はありません」
「今度は負けない。ドラスト様、お任せを」
ゼルソードとグレオは武器を抜いて殺気を飛ばしてくる。私たちに向けられる気迫は今までの比ではなくて、今までは全力じゃなかったようだ。
周りにいた兵士たちも剣を抜いて私たちを包囲するように徐々に近づいてくる。
「エナ、ディオ……みんなのこと守ってあげて?私が敵をやるわ」
「了解だ」
「任せてください」
兵士たちは100人近くいる。戦えない人を守るためにも二人には後ろを任せたい。
「紫陽様、皆のことお願いします。ティア殿、左にいる鎧男を任せてもいいか?もう一人の方は私が相手したい」
黒羽はグレオに怒りの視線を向けながら前に出た。
紫陽は剣術と霊力……こちらで言う魔力や生命力の扱いに秀でているらしい。だが護衛兼世話役の黒羽としては巫女である紫陽を極力危険から遠ざけたいそうだ。
だから黒羽が前に出るのは理解できる。だがグレオに対して怒りの感情を向けるのは不思議だった。
「別にいいけど……恨みでもあるの?」
「あやつが持っている刀……あれが紫陽様が持つ霊刀の桜陽だ。なんとしても取り返す必要がある」
「わかったわ……気をつけてね」
グレオの持つ黒い刀からは、どこか懐かしくも不思議な力を感じた。その力をよく知っている黒羽が戦う方が良いだろう。
私はゼルソードを目掛けて走り出した。
「まずは、邪魔な兵士を吹き飛ばす!」
私は身体強化を用いて敵へ向かって走ると同時に魔術による雷撃を繰り出した。近付いてくる兵士を痺れさせ意識を刈り取っていく。
そしてゼルソードに向けて剣を振り下ろした。
「ほう……魔術だけかと思ったが剣術もなかなかだな!」
「その棒……やっかいね!」
ゼルソードは前と同じで長い棒状の武器を使用していた。その棒は魔抗石のようなものでできているらしい。打ち合うたびに剣に纏わせていた魔力が剥がされていく。
「当然だ……これはお前のように魔装を使う相手を想定しているからな!」
「ぐっ!?」
ゼルソードは棒を使って剣を受け流すと回し蹴りを繰り出した。
私は魔力を纏ってダメージを減らそうとするが鎧にも棒と同じ効果があるようだった。咄嗟に後ろに跳んで衝撃をいなすがかなりの衝撃を受ける。
「ほう!あばらを砕くつもりだったが耐えるか!」
まともに喰らえば骨ごと砕かれていた可能性が高かった。だが身体強化を行い衝撃を減らすようにダメージを減らすことができる。相当痛いが怪我はない。
「この程度で……倒せるほど甘くないわ!」
私は高速で剣を振り続ける。何度も何度も剣を斬り結ぶが、ゼルソードの鎧や棒に阻まれて攻撃が通らなかった。しかしゼルソードの攻撃は既に見切っていて、どちらの攻撃も有効打にならないこう着状態に陥ることになる。
「この棒もこの鎧も!一級品だ。お前が持つ剣は兵士用の量産品。いつまで耐えられるか楽しみだな!」
水晶を斬ったときの反動で剣の消耗はかなり激しいだろう。その状態で強固なゼルソードの武具と打ち合うと先に剣が持たなくなる可能性が高い。
だけど全ての攻撃を剣で受けるのではなく受け流してしまえばいい。真っ向から明けるのではなく横から弾いてしまえばいい。
打ち合う数が増えるということは、それだけ観察できる時間もあるということ。ゼルソードの癖を見切り体捌きや重心による動きの最大範囲を理解できれば擬似的な未来予知も可能だ。
「なに!?」
私はほんの少しだけ剣を大きく振りかぶった。それによって高速で交わる剣戟に僅かな隙が生じることになる。
そしてゼルソードは長年の経験と互角に斬りあう緊張感から、僅かに反応してしまった。
けれどそれは意図的に作った隙だ。ゼルソードは反射的に棒で薙ぎ払おうとするが、私は体勢を低くして避ける。
「これで終わり!」
私は剣を両手で握ると今まで以上の速度で斬り上げる。鎧の隙間、ちょうど腰の部分に刃が入って赤い血飛沫が弾けた。さらに剣を通して体内に魔力を撃ち込むと、グラソードは少しよろめいて崩れ去った。
一方で黒羽とグレオの戦いは黒羽の守勢となっていた。
兵士から奪った剣はあるが桜陽の斬撃を受けては剣ごと斬られてしまう。極力回避か刀を横から弾くしかないわけで、黒羽はひたすら攻撃を裁き続ける。
「どうした……受けるだけでは勝てんぞ」
しばしの間、刀と剣の打ち合いが続いていた。だがグレオが黒羽の剣を回避し、その隙に力を込めて桜陽を振るう。しかも魔力を流すことで強化しているようだった。
黒羽は剣で受け止めるが、一瞬だけせめぎあうと剣が半ばから真っ二つに折れる。
「っ……暴風」
黒羽は肩を掠めながらも直撃を避けていた。同時に何かを呟くと竜巻が発生してグレオの体を打ち上げる。
「なに!?」
グレオはいきなり上空に吹き飛ばされて混乱しているようだった。竜巻のせいかくるくると回るように飛ばされている。手に握っていた桜陽も地面へと突き刺さる。
「刀は返してもらった……これで終わりだ!爆炎」
黒羽は手を翳しながら魔力が乗った言葉を告げる。手の先に大きな炎の玉が生まれるとグレオを目掛けて撃ちだされ、グレオは爆発と共に炎に包まれた。
ゼルソードとグレオの二人を倒した頃には残りの兵士もほとんどが倒れ伏していた。後ろで守るために戦っていたエナたちはもちろん、アイラたちも怪我はしてないようでなによりだ。
「あとはあなただけね」
「ああ霊刀も取り返した今、お前を倒してここから出るのみだ」
あとの敵は残り一人。大きな剣を背負った壮年の男……ドラスト隊長と呼ばれていた彼だけとなる。
「ふむ……俺が剣を抜くしかないか」
ドラストと呼ばれていた隊長は周りを一瞥して剣の柄に手を添える。
「随分と薄情者ね……わざわざ味方が全滅するまで待つなんて」
「だが感謝はしておく。私たちが一対一で戦えたのはお前のおかげだろうからな」
私と黒羽は警戒しながらも距離を詰めていく。人数的にも状況的にも私たちのほうが有利なはずだがドラストは不敵な笑みを浮かべていた。
「知っているか?ここの研究所が最終的に何を目指しているかを。研究者の中には人造強化兵専門やゴーレム好きの変態もいるが所長の目的はたった一つ。大昔に召喚されたといわれる勇者が持っていた剣。それの作成だ」
ドラストが剣を抜くと刀身から炎が湧き上がる。ドラスト自身を炎の鎧のように包み込み刀身も炎に包まれた。
「これが唯一の成功例。炎の勇者の亡骸から作り上げた疑似的な勇者の剣イグニス。これを抜けば俺以外の全てを灰と化す。だから最後まで戦わなかっただけだ」
次の瞬間。
広間の全体に灼熱の業火が襲い掛かった。
応援ありがとうございます!
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