王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第10章 元王族の囚われ生活

10 壁は壊すもの

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 ゼルソードとの戦いからいくばくか経った頃。私たちは多数の兵士相手に乱戦を挑んでいた。
 中心には戦うことのできない子供たちのことをアイラやサナに任せて、男の子たちがその守りを固める。襲ってくる敵には私とエナ、ディオの三人で対応する。そんな布陣だ。

「ちっ……きりがないな!」

 エナは嫌な顔をしてぼやくと兵士に拳を打ち込む。その隣ではディオが「全くですね」と言って回し蹴りで兵士を吹き飛ばした。

 ここは巫女や精霊が囚われていると思われる最後の区画。進めば進むほど兵士と遭遇する頻度が増えることからも、おそらく間違いないはずだ。

「でも……行くしかないでしょ!敵がたくさんいる方向には何かがあるってことだし」

 私も魔力弾によって応戦する。あらかじめ弾道を設定した魔力弾は、複数の複雑な光芒を描いて兵士たちを順番に倒していく。接近された場合は剣を使うのも仕方がないが、体力の温存を一番に考えた作戦だ。

「こっちに扉を守っている奴がいる!どうする?」

 一番先頭にいたエナが扉の前に立つ兵士たちを見つけた。今までの兵士よりも強そうな雰囲気を纏っていて、装備事態も一段階は上だろう。

「守っているってことは、その先に大事なものがあるはず。試してみる価値はあるんじゃない?」

 そして大抵の人や組織は、大切なものは隠すか守るかのどちらかだ。今まで見張りすら見なかったこの場所で、兵士が扉を守るというのは怪しいことこのなかった。

「その可能性は高そうですね」

 ディオも同じ事を考えていたようだった。

「じゃあ……さっそく!」

 私は身体強化と加速魔術を併用して扉を守る兵士の目の前に移動する。そして拳に魔力を集中させ掌底を打ち込む。鎧に触れた瞬間に纏っていた魔力を解放することで威力を増加させた。
 さらに魔術による雷撃を放ち、もう一人の兵士を無力化する。

 ここまで瞬きをするくらいの時間だ。兵士たちは声を上げる時間もなく崩れ落ちた。

「ふぅ……一瞬だけでも全力の動きはなかなかきついね……」

 まるで全力で筋トレをやった後のように体が重く感じる。わかってはいたことだが、体力だけでなく全体的な筋力も相当低い。

「……瞬間移動?」

 アイラが自信をなさそうに問いかけてきた。エナやディオは気付いていそうだが、他の皆は私の動きを見ることができなかったのだろう。
 静止した状態から最大速度まで一気に加速する動きは、慣れない人では目の動きが追いつかない。

「力任せの移動だよ。瞬間移動は使いづらいからね」

 転移魔術はあくまで一定範囲の空間ごと置換する。使い方次第で戦術に幅が出るが、ちょっとした戦闘で使うものじゃない。

「ん?……あれ?」

 扉を開けようと力を込めるが微動だにしない。力が足りないのかと身体強化も使ったが結果は変わらなかった。

「開かないの?」

「全く動かない。鍵もなさそうだし……」

 扉のどこを見渡しても鍵穴がなかった。そして近くの壁にも鍵や操作盤のようなものはない。抗魔石で造られている扉には、魔術による仕掛けもないだろう。
 であれば残る手段は一つだ。

「全員下がって……エナとディオはみんなのこと守って欲しい」

 私も含めて扉から20メートルくらいの距離を開ける。

「わかったけど……なにをするつもりだ?」

「なんか嫌な予感がするんだけど?」

 エナは不思議そうにしているがアイラは顔を引き攣らせていた。脱走することを決め手から運命を共にしてきたアイラには、私がこういうときどうするか身をもって知っているはずだ。

「開かない扉と高い壁は壊して開通させればいいのよ」

 魔力が通りづらい扉をこの剣で斬ることは不可能。魔術攻撃も最上級魔術であれば通るかも知れないが、魔力の消耗が大きいうえに確実じゃない。
 であれば……限りなく物理攻撃に近くて、質量の大きい魔術を使うだけだ。

 選択したのは下級の氷生成魔術。それも魔力を変換して氷を作るのでなく近くの水分を集めて本物の氷を作る。だけどそれだけでは質量が足りない。

「二種類の氷を合わせるなんて……」

 この中では比較的魔術の知識があるアイラが驚いた声を上げた。
 アイラの言葉通りでこの氷は魔力を変換して作った強大な氷を水を凍らせた氷で覆っている。
 一見すると単純だが、二種類の氷を結合して一つの氷として扱うのは結構な高等技術だったりする。

「じゃあ……行くよ!」

 私は巨大な氷の槌のようなものを造ると一気に扉へ叩き付ける。2メートル以上ある扉は一瞬だけ役割を果たそうと耐えたが、その質量に負けて内側にめり込んだ。
 まるで地震のような振動と大きな鐘が落ちたような低い音が辺りを轟かせる。
 意外だったのはこれだけの衝撃を受けても扉が少ししか壊れなかったことだ。

 部屋の中は広めの作りになっていた。
 所々に医療器具のようなものや注射や薬品が置いてあって中心には巨大な水晶が二つあった。

「……だれ?」

 水晶の奥から掠れた声が聞こえてくる。そこにいたのは濃い紫色の髪を長く下ろしている少女と少し年上の黒髪をまとめた少女だった。
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