王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
上 下
280 / 460
第10章 元王族の囚われ生活

10 壁は壊すもの

しおりを挟む
 ゼルソードとの戦いからいくばくか経った頃。私たちは多数の兵士相手に乱戦を挑んでいた。
 中心には戦うことのできない子供たちのことをアイラやサナに任せて、男の子たちがその守りを固める。襲ってくる敵には私とエナ、ディオの三人で対応する。そんな布陣だ。

「ちっ……きりがないな!」

 エナは嫌な顔をしてぼやくと兵士に拳を打ち込む。その隣ではディオが「全くですね」と言って回し蹴りで兵士を吹き飛ばした。

 ここは巫女や精霊が囚われていると思われる最後の区画。進めば進むほど兵士と遭遇する頻度が増えることからも、おそらく間違いないはずだ。

「でも……行くしかないでしょ!敵がたくさんいる方向には何かがあるってことだし」

 私も魔力弾によって応戦する。あらかじめ弾道を設定した魔力弾は、複数の複雑な光芒を描いて兵士たちを順番に倒していく。接近された場合は剣を使うのも仕方がないが、体力の温存を一番に考えた作戦だ。

「こっちに扉を守っている奴がいる!どうする?」

 一番先頭にいたエナが扉の前に立つ兵士たちを見つけた。今までの兵士よりも強そうな雰囲気を纏っていて、装備事態も一段階は上だろう。

「守っているってことは、その先に大事なものがあるはず。試してみる価値はあるんじゃない?」

 そして大抵の人や組織は、大切なものは隠すか守るかのどちらかだ。今まで見張りすら見なかったこの場所で、兵士が扉を守るというのは怪しいことこのなかった。

「その可能性は高そうですね」

 ディオも同じ事を考えていたようだった。

「じゃあ……さっそく!」

 私は身体強化と加速魔術を併用して扉を守る兵士の目の前に移動する。そして拳に魔力を集中させ掌底を打ち込む。鎧に触れた瞬間に纏っていた魔力を解放することで威力を増加させた。
 さらに魔術による雷撃を放ち、もう一人の兵士を無力化する。

 ここまで瞬きをするくらいの時間だ。兵士たちは声を上げる時間もなく崩れ落ちた。

「ふぅ……一瞬だけでも全力の動きはなかなかきついね……」

 まるで全力で筋トレをやった後のように体が重く感じる。わかってはいたことだが、体力だけでなく全体的な筋力も相当低い。

「……瞬間移動?」

 アイラが自信をなさそうに問いかけてきた。エナやディオは気付いていそうだが、他の皆は私の動きを見ることができなかったのだろう。
 静止した状態から最大速度まで一気に加速する動きは、慣れない人では目の動きが追いつかない。

「力任せの移動だよ。瞬間移動は使いづらいからね」

 転移魔術はあくまで一定範囲の空間ごと置換する。使い方次第で戦術に幅が出るが、ちょっとした戦闘で使うものじゃない。

「ん?……あれ?」

 扉を開けようと力を込めるが微動だにしない。力が足りないのかと身体強化も使ったが結果は変わらなかった。

「開かないの?」

「全く動かない。鍵もなさそうだし……」

 扉のどこを見渡しても鍵穴がなかった。そして近くの壁にも鍵や操作盤のようなものはない。抗魔石で造られている扉には、魔術による仕掛けもないだろう。
 であれば残る手段は一つだ。

「全員下がって……エナとディオはみんなのこと守って欲しい」

 私も含めて扉から20メートルくらいの距離を開ける。

「わかったけど……なにをするつもりだ?」

「なんか嫌な予感がするんだけど?」

 エナは不思議そうにしているがアイラは顔を引き攣らせていた。脱走することを決め手から運命を共にしてきたアイラには、私がこういうときどうするか身をもって知っているはずだ。

「開かない扉と高い壁は壊して開通させればいいのよ」

 魔力が通りづらい扉をこの剣で斬ることは不可能。魔術攻撃も最上級魔術であれば通るかも知れないが、魔力の消耗が大きいうえに確実じゃない。
 であれば……限りなく物理攻撃に近くて、質量の大きい魔術を使うだけだ。

 選択したのは下級の氷生成魔術。それも魔力を変換して氷を作るのでなく近くの水分を集めて本物の氷を作る。だけどそれだけでは質量が足りない。

「二種類の氷を合わせるなんて……」

 この中では比較的魔術の知識があるアイラが驚いた声を上げた。
 アイラの言葉通りでこの氷は魔力を変換して作った強大な氷を水を凍らせた氷で覆っている。
 一見すると単純だが、二種類の氷を結合して一つの氷として扱うのは結構な高等技術だったりする。

「じゃあ……行くよ!」

 私は巨大な氷の槌のようなものを造ると一気に扉へ叩き付ける。2メートル以上ある扉は一瞬だけ役割を果たそうと耐えたが、その質量に負けて内側にめり込んだ。
 まるで地震のような振動と大きな鐘が落ちたような低い音が辺りを轟かせる。
 意外だったのはこれだけの衝撃を受けても扉が少ししか壊れなかったことだ。

 部屋の中は広めの作りになっていた。
 所々に医療器具のようなものや注射や薬品が置いてあって中心には巨大な水晶が二つあった。

「……だれ?」

 水晶の奥から掠れた声が聞こえてくる。そこにいたのは濃い紫色の髪を長く下ろしている少女と少し年上の黒髪をまとめた少女だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

処理中です...