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第10章 元王族の囚われ生活
7 アイラの覚悟
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私たちが脱出に向けた探索を始めてからおよそしばらく経った。
どう進んでも窓が一切なく白い床と壁と天井ばかり。それでも体内時計を信じるなら昼過ぎくらいだろうか。
もう何度も繰り返した開けたことのない扉を開けたとき
「わっ!?あの、どのような用件でしょうか?」
と怯えるような声が聞こえてきた。
「あなたは……誰ですか?ここでなにを?」
部屋の中にいたのは一人の女性だった。見た目から判断すれば年齢は30代くらい。細身で質素な服を着ている見るからに一般人といった雰囲気を纏っている。
「ひっ!?お願いします!命だけ助けてください!」
女性の視線が私が持っている剣に向けられると、涙目を浮かべて土下座の体勢になって許しを請う。恐怖に震えて顔面を蒼白にしている彼女の姿には罪悪感に苛まれるが、決して脅しているわけではない。
「とりあえず頭を上げてください。私たちは……」
アイラが私に確認するような視線を送ってくる。ここで脱走してきたことを伝えるか迷っているようで
「ここに囚われていたんです。でも機会があったので逃げ出そうかと」
私はアイラの言葉に続けて正直に話す。
目の前の女性が敵かどうかはまだ分からない。だが第一印象を信じるなら敵の可能性はかなり低いだろう。そして今重要なのは情報を集めること。多少のリスクを冒しても話を書き出さないといけない。
私たちに害する意思がないことを告げると女性は少し落ち着いてきたようだった。
「それで……この部屋は一体?」
「ここは奴隷……囚われの人たちの食事を用意する部屋です。といっても、まともな調理器具はないですけどね……」
部屋の中をよく見渡すと棚の中にいくつかの野菜が入っているようだった。水場があるくらいで火を使うようなものも含めて調理器具は見当たらない。
「ここから全員分の食事を運ぶの?」
「……ええ、外から運ばれてきた食糧をここで管理し、三つある全ての場所へ運びます」
彼女の話ではこの部屋はこの施設の中でも中心に位置する場所らしい。他にも外から食糧を運び入れる通路もあるそうだ。
だが彼女も完全な組織の一員ではないらしい。ここで食事を用意する代わりに多少の自由を得ているとのことだ。
「あなたも一緒に来る?もしどこかの国へ行きたいのなら……力になれるかも知れませんよ?」
多少の自由があってもいつ殺されるかわからない状況で、安心して過ごせることはないだろう。もしも彼女が、ここから逃げたいと願うなら叶えてあげたい。救ってあげたい。
「私ですか?ラメルシェル王国の出身ですがうちの村は、きっともう……逃げる前に捕まったので家族が無事かどうかも……」
彼女は伏し目がちに言葉を濁す。そんな彼女に言葉をかけたのはアイラだった。
「私もラメルシェル王国の出身……いえ、辺境の小領地を治める貴族の娘でした。私や戦えなかった侍従を逃して、両親は城に残って戦う道を選んで……普通に考えたなら戦って死んだか……捕まって……そのままかもしれません。でも、もしかしたら生きているかもしれない。大切な人たちの今を知りたいのです。それに……もしも会えなかったとしても、たとえ自己満足だったとしても、墓を作って弔ってあげたい。守ろうとしたことが無意味じゃなかったと、守ろうとした場所がちゃんと残っているのだと証明したい」
アイラは涙を堪えながら言葉にしていた。
貴族として騎士として過ごしていたのだから、幼い頃から覚悟は持っていたのかもしれないけれど。それでも15にも満たない少女にとっては……大人だったとしても、そう考えることはなかなかできないだろう。
そんなアイラの言葉が響いたのか分からないが「よろしくお願いします」と彼女は頭を下げるのだった。
そして彼女……サナを仲間に迎え入れた私たちは、食糧を集めた後、再び施設の探索に乗り出した。サナが知っている食糧を運ぶための通路を使い、男子が囚われている場所を目指すことにした。もう一方の場所へは他の人に渡すだけで、その場所には踏み入れたことはないそうだ。
目指す場所まではそこまで遠くなく、子供たちのことはサナが見てくれているため今までよりも進むペースは早い。
「もうすぐ着きますが……恐らく見回りの人がいると思います」
「そういえば研究室で戦ってからサナさん以外の人と会っていないけど、ここって人が結構少ないの?」
サナが促した注意にふと疑問に感じたことをぶつけてみる。
ここの建物が全体的に魔封石のようなものでできている以上、魔術的な通信はできない。電磁波的なものも感知できなかったことからも遠距離通信は使っていないのだろう。
だからこそ監視のためにも人員を多く置きそうと考えていた。しかし人が少ないのであれば、それだけ脱出が容易になる。
「ティアさんがいた場所と向かっている男子塔はそれほどいないはずです。ですがもう一箇所は厳重らしいのでなんとも……と、ここですね」
話している間に最後の扉にたどり着く。ここを潜れば男の子たちが囚われている場所。こちらにも変な研究者や兵士みたいな人がいるのだろう。
「そう……だったら、さっさと男の子たちを解放して厳重な場所を解放しないとね。アイラ、援護よろしくね」
「わかった……けど無理はしないでね」
アイラに頷き返した私は、剣を抜いて魔力を纏わせる。身体強化をかけて扉を真っ二つに斬り裂いた。そして意味をなさなくなった扉を蹴り飛ばす。
「な、なんだ!?」
「なん、だと!?」
「なっ……痛!?」
奥から響いてくる驚きや悲鳴を聞きながら部屋の中へ突撃すると、武装した兵士の姿が見える。立っている人数は約10人、残りの8人くらいは扉の下敷きとなって動けなかったり、体を強打して動けないようだ。
「悪いけど……さよなら」
兵士が剣を抜く前に距離を詰めて剣で斬る。遠くにいた兵士には、もう片方の手で銃を撃ち動けなくしていく。そしてそれでも対処しきれない兵士には、魔力弾や魔術による雷撃、圧縮した風の弾丸を順番にプレゼントしていく。
ほんの少しの時間が経った頃には、無事に立っている兵士は誰もいなくなるのだった。
どう進んでも窓が一切なく白い床と壁と天井ばかり。それでも体内時計を信じるなら昼過ぎくらいだろうか。
もう何度も繰り返した開けたことのない扉を開けたとき
「わっ!?あの、どのような用件でしょうか?」
と怯えるような声が聞こえてきた。
「あなたは……誰ですか?ここでなにを?」
部屋の中にいたのは一人の女性だった。見た目から判断すれば年齢は30代くらい。細身で質素な服を着ている見るからに一般人といった雰囲気を纏っている。
「ひっ!?お願いします!命だけ助けてください!」
女性の視線が私が持っている剣に向けられると、涙目を浮かべて土下座の体勢になって許しを請う。恐怖に震えて顔面を蒼白にしている彼女の姿には罪悪感に苛まれるが、決して脅しているわけではない。
「とりあえず頭を上げてください。私たちは……」
アイラが私に確認するような視線を送ってくる。ここで脱走してきたことを伝えるか迷っているようで
「ここに囚われていたんです。でも機会があったので逃げ出そうかと」
私はアイラの言葉に続けて正直に話す。
目の前の女性が敵かどうかはまだ分からない。だが第一印象を信じるなら敵の可能性はかなり低いだろう。そして今重要なのは情報を集めること。多少のリスクを冒しても話を書き出さないといけない。
私たちに害する意思がないことを告げると女性は少し落ち着いてきたようだった。
「それで……この部屋は一体?」
「ここは奴隷……囚われの人たちの食事を用意する部屋です。といっても、まともな調理器具はないですけどね……」
部屋の中をよく見渡すと棚の中にいくつかの野菜が入っているようだった。水場があるくらいで火を使うようなものも含めて調理器具は見当たらない。
「ここから全員分の食事を運ぶの?」
「……ええ、外から運ばれてきた食糧をここで管理し、三つある全ての場所へ運びます」
彼女の話ではこの部屋はこの施設の中でも中心に位置する場所らしい。他にも外から食糧を運び入れる通路もあるそうだ。
だが彼女も完全な組織の一員ではないらしい。ここで食事を用意する代わりに多少の自由を得ているとのことだ。
「あなたも一緒に来る?もしどこかの国へ行きたいのなら……力になれるかも知れませんよ?」
多少の自由があってもいつ殺されるかわからない状況で、安心して過ごせることはないだろう。もしも彼女が、ここから逃げたいと願うなら叶えてあげたい。救ってあげたい。
「私ですか?ラメルシェル王国の出身ですがうちの村は、きっともう……逃げる前に捕まったので家族が無事かどうかも……」
彼女は伏し目がちに言葉を濁す。そんな彼女に言葉をかけたのはアイラだった。
「私もラメルシェル王国の出身……いえ、辺境の小領地を治める貴族の娘でした。私や戦えなかった侍従を逃して、両親は城に残って戦う道を選んで……普通に考えたなら戦って死んだか……捕まって……そのままかもしれません。でも、もしかしたら生きているかもしれない。大切な人たちの今を知りたいのです。それに……もしも会えなかったとしても、たとえ自己満足だったとしても、墓を作って弔ってあげたい。守ろうとしたことが無意味じゃなかったと、守ろうとした場所がちゃんと残っているのだと証明したい」
アイラは涙を堪えながら言葉にしていた。
貴族として騎士として過ごしていたのだから、幼い頃から覚悟は持っていたのかもしれないけれど。それでも15にも満たない少女にとっては……大人だったとしても、そう考えることはなかなかできないだろう。
そんなアイラの言葉が響いたのか分からないが「よろしくお願いします」と彼女は頭を下げるのだった。
そして彼女……サナを仲間に迎え入れた私たちは、食糧を集めた後、再び施設の探索に乗り出した。サナが知っている食糧を運ぶための通路を使い、男子が囚われている場所を目指すことにした。もう一方の場所へは他の人に渡すだけで、その場所には踏み入れたことはないそうだ。
目指す場所まではそこまで遠くなく、子供たちのことはサナが見てくれているため今までよりも進むペースは早い。
「もうすぐ着きますが……恐らく見回りの人がいると思います」
「そういえば研究室で戦ってからサナさん以外の人と会っていないけど、ここって人が結構少ないの?」
サナが促した注意にふと疑問に感じたことをぶつけてみる。
ここの建物が全体的に魔封石のようなものでできている以上、魔術的な通信はできない。電磁波的なものも感知できなかったことからも遠距離通信は使っていないのだろう。
だからこそ監視のためにも人員を多く置きそうと考えていた。しかし人が少ないのであれば、それだけ脱出が容易になる。
「ティアさんがいた場所と向かっている男子塔はそれほどいないはずです。ですがもう一箇所は厳重らしいのでなんとも……と、ここですね」
話している間に最後の扉にたどり着く。ここを潜れば男の子たちが囚われている場所。こちらにも変な研究者や兵士みたいな人がいるのだろう。
「そう……だったら、さっさと男の子たちを解放して厳重な場所を解放しないとね。アイラ、援護よろしくね」
「わかった……けど無理はしないでね」
アイラに頷き返した私は、剣を抜いて魔力を纏わせる。身体強化をかけて扉を真っ二つに斬り裂いた。そして意味をなさなくなった扉を蹴り飛ばす。
「な、なんだ!?」
「なん、だと!?」
「なっ……痛!?」
奥から響いてくる驚きや悲鳴を聞きながら部屋の中へ突撃すると、武装した兵士の姿が見える。立っている人数は約10人、残りの8人くらいは扉の下敷きとなって動けなかったり、体を強打して動けないようだ。
「悪いけど……さよなら」
兵士が剣を抜く前に距離を詰めて剣で斬る。遠くにいた兵士には、もう片方の手で銃を撃ち動けなくしていく。そしてそれでも対処しきれない兵士には、魔力弾や魔術による雷撃、圧縮した風の弾丸を順番にプレゼントしていく。
ほんの少しの時間が経った頃には、無事に立っている兵士は誰もいなくなるのだった。
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