王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第10章 元王族の囚われ生活

6 脱出へ向けて

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 アイラの魔力弾はかなり意表を突かれたようで、フォーリアは壁に激突して床へ落ちたまま、くぐもった声を上げていた。
 私も魔術による雷撃を放ち、フォーリアが追ってこないように追撃する。

「アイラ!一旦、下がろう!」

 今大切なのは、私たちと子どもたちの安全を確保すること。得体の知れないフォーリアにいつまでの付き合っているわけにはいかない。

「わ、わかったわ」

 アイラは慌てて返事をした。二人して研究室の外へと急ぐと、元々いた部屋に向けて走り出す。

「追ってはこないみたい……って、ティア大丈夫!?」

「ぎりぎり大丈夫……かも?思ったよりも体力がなかったみたい」

 私の前を走っていたアイラは振り返った瞬間に驚きと心配そうな声を上げて、私は微妙な返事をする。
 元々病弱な体に加えて囚われ生活の栄養状態は良いとはいえない。当然成長自体も遅れていて素の身体能力でいえばラティアーナだった頃の7歳といい勝負ができるくらいだ。
 一応体を動かすときには、極力身体強化を使用しないようにしていて、多少は体を鍛えることができるようにしている。それでも体力が特に落ちているらしい。

 肩で息をしながらも目がチカチカしそうになる。

「背負うから乗って」

「……ありがとう。助かる」

 少ししか歳の変わらないアイラにおんぶされるのは恥ずかしい気もするが、意地を通す場面でないのは確かなこと。
 できる限り無表情を装ってお礼を告げて、アイラに身を任せることにした。



 そして来た道を遡ること少し。
 部屋までたどり着いた私たちは、どきどきしながら扉を開けて

「「「お姉ちゃんたち、おかえりなさい」」」

 と言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

 私たちが反乱を起こした段階で、こちらにも手が回っている可能性があった。仮に何もなくても普段のようにどこかに連れて行かれている可能性もあった。
 もちろん、どんな困難があったとしても助けに行くつもりだった。だが、結果として無事に再会できたのは僥倖というしかない。

「ただいま!私たちがいなかった間、誰か来たりした?」

「誰も来なかった」

「そう……あと少ししたら皆で散歩に行こうか」

 アイラが告げると子どもたちは嬉しそうに騒ぎ出す。それを見て私とアイラは互いに微笑んだ。
 だが首輪や腕輪によって拘束されたままであることには変わらない。アイラの力を借りながら順番に拘束具を壊していく。
 三人の拘束具を無事に破壊したことで、ようやく一息つくことができた。

「とりあえずは良かったね……ティアはどう?動ける?」

「歩くくらいなら。身体強化を使えば走れるけど長い時間は持たないと思う」

 しばらく休んだ甲斐もあって体力は回復済みだ。それでも先ほどの感覚からすると、身体強化を使って走っても5分程度、全力での戦闘であれば1分持てば御の字だ。

「そっか……ま、いざとなればまた私が背負うけど、これからどうする?多分だけど、いや、きっと軍隊とか差し向けられるよね」

「戦いにはなるかもね。でもやり方次第ではなんとかなると思う。体力を考えなければそれなりに戦えるから」

「うん。知ってる。私も昔は護身術とか習ってたから……さっきのティアの動きを見て別格だって分かるよ」

 アイラのしみじみとした呟きに罪悪感が湧き上がってきた。

「……アイラごめんね。私のこと、前世のこと今まで黙っていて本当にごめん」

 前世のことを隠していたことに後悔はない。誰が聞いているかわからない場所で話をしなかったのは、当たり前に警戒することで必要なことだったのは理解している。
 それでも今の私が一番親しくしているアイラには、私の口から伝えたかった。今日のように誰かから言われるのでなく、私の言葉で伝えたかった。

「そりゃあびっくりしたけどさ……でも納得の方が大きいかな。だって、ずっとこの場所で過ごしていたにしては、話を聞いただけで理解が早すぎるし、大人びてるって感じがしたから」

 アイラの言葉に思わず納得する。
 一応は話に出てこなかった外の知識は話さないようにしていて、話したとしても誰かから聞いたという体裁をとっていた。けれど、百聞は一見に如かずと言われているように何も知識がない状態で話だけ聞いても正しく想像できないだろう。

「あー怪しまれない程度にしてたつもりだったけど、言われてみればその通りかも」

「簡単に言えることじゃないってことは分かってるから。誰だって知られたくないことがあって秘密を抱えているのは当然なこと。私だってティアに教えていないこと、誰にも伝えてないことがあるもの」

 アイラは茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて「だから、先のことを考えよう!」と言葉を繋げた。私はそんなアイラの気遣いに微笑み返して感謝を告げる。

「逃げるにしても、どうしようか?」

「最終的にここから脱出するのは当たり前のこと。だけどここから脱出する前にいくつか確認したいことと確保したいものがある」

 研究室の会話からここがミタナハル王国であることは間違いない。問題はここで行われている内容が王国が許容しているか否か。仮に施設から脱出しても王国が敵に回るかどうかが重要だ。
 王国が保護してくれるのであれば最善、王国が関与しなければ次善、王国が敵対すれば最悪の状態になるだろう。

「最悪の場合に備えて情報をできる限り集めたい。それと食糧をはじめとする物資も調達したいと思う。あとは同志をもう少し集めたい」

「……他の場所に囚われている男の子たち?」
 アイラは自信がなさそうに首を傾げているが、その通りだと首肯する。
 私も人のことを言えないが、長距離を歩けない子どもたちを連れて行くのは難しい。食糧などの荷物も増えることを考えるとある程度の人数が欲しいところだった。

「あまり人数が増えすぎるのも問題だけど……上手くやるしかないね」

 他の囚われている人数がどれくらいいるか予想すらできない。それでも、もしも見つけることができて、助けを必要としているなら全員を連れて行く。そのくらいの覚悟はある。

「わかった……基本的なことはティアに任せるからサポートは任せてね」

 アイラはそう言うと子供たちのほうへ向かい準備を進めていく。具体的には寝るときに使っている布を使って荷物入れを作成したり水を飲む容器のように使える道具をかき集めたりする。
 そして準備が完了すると、私たちは施設の探索を開始した。

「まずは食糧を運んでくる方に向かってみよう」

 私とアイラが連れて行かれた方向とは別の通路。そこへと繋がる扉は硬く施錠されているが、剣で斬って強引に突破する。

「誰もいないみたいだね……これだけ時間が合って誰も来ないのはちょっと不気味だけど……」

「うまく全員を無力化できていて……他の人たちには気づかれてないと期待したいね」

 アイラは子どもたちと手を繋ぎながら扉の中を不安そうに覗く。扉の先は私たちが初めて踏み入れる場所。ただただ白い通路が続いているようだった。
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