王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第10章 元王族の囚われ生活

3 私たちに課せられた役目

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 男に案内されて、私とアイラの二人は長い通路を歩く。
 今まで硬く閉じられていて、一度も通ったことのない道。誰とすれ違うこともなく静寂で、白く長い通路は、まるで閉鎖された病棟のようだった。

 ここに捕らわれてからずっと壁の向こう側の魔力を感知できなかった。私たちが捕らわれていた場所だけでなく全体的に魔力を遮断する造りをしていることからも相当厳重な施設であることが窺える。

「先に言っておくが5001号。真実を知って妙な行動を起こさないことだ。君たちにつけられている腕輪は、反抗を防ぐだけでなく行動を縛ることもできる。何をしてもこの現実は変えられない。ただ人形のように私たちに尽くすしかできないのだから」

 男はそう言うと扉の前で立ち止まる。そのまま扉の横の石に手を触れると扉がゆっくりと開いた。
 扉の中の床や壁は相変わらず真っ白だ。ただ所々に棚や机などの家具が置いてあって、部屋の中心には台座や良く分からない魔術具も置いてある。その様相はまるで研究室と手術室を掛け合わせたようだ。

「おやおや……グレオ隊長。今回の対象は一人だけと聞いていたのだがね?」

「フォーリア博士。もう一人は数年後に対象になるものです。この場所……この境遇を知らないようだったので身を持って味わってもらおうかと」

「なるほど。それは良い考えだね。ワタシも実験体に愛着があるからね。何も知らずに過ごすより先に絶望したほうが気が楽だろうさ」

 全身に白衣を纏い机の上の端末を操作している男……フォーリアと呼ばれていた博士は、私たちを見ると嫌らしい笑みを浮かべている。そして立ち上がりながら別の端末を操作した。

「「……!?」」

 首に一瞬だけ痛みが走る。すると私とアイラは力が抜けたように床に倒れこんだ。

「その首輪はね、爆破する機能のほかに神経毒を持っているんだよ。感覚神経をそのままにして運動神経のみに作用するのさ……あぁ安心して良いよ。臓器みたいに生命活動に必要な物は対象外。あくまで手足の動きを麻痺させることが目的だよ」

 私は床に倒れながらもなんとか顔を上げた。フォーリアの言ったとおり手足以外は多少は動かせるらしく、もぞもぞと動いてフォーリアを睨み付ける。

「さて、君たちの役割について話そうか。簡単に言えば君たちは今まで仕事と称して魔力と生命力を搾り取っていたわけだが……まぁ燃料みたいなものだね。ワタシが造るのは人の魂を分割して造った核を搭載したゴーレムだよ。鋼鉄の不死の体に命令を自律する機能。そしてゴーレム自身は命令の範囲内で魔術を行使することができる。どこぞの国は人を元に魔剣を作ろうとしていたみたいだが、ワタシからすればナンセンスだね。戦争で勝つためには強力な武器も必要だが……いくらでも増産できる兵力こそが最も重要だと思わないかい!?」

 フォーリアは笑い声を上げて「どうだすばらしいだろう!?」と叫んだ。

「……っ!?あなたは……あなたたちは一体何と戦うつもりなの!?」

 体の麻痺は残っているがなんとか口だけは動かせるまで回復した。睨み付けたまま問いかけるとフォーリアとグレオは驚きの視線を向けた。

 二人が驚くのは当然だろう。アイラがまだ動けないように、本来であれば神経毒の効果が続いているはずだった。それを身体強化と体内の魔力循環による治癒力の上昇をあわせた裏技で、無理やり解毒しているのに等しいのだから。

「そうか……君たちは何も知らないのだったね。ここはドルバイド帝国の属国の一つミタナハル王国。今は帝国に従うしかないが、いずれ帝国に代わり大陸南部を……いや大陸全てを支配する国だよ!」

 ドルバイド帝国も名前だけは知っている国だ。大陸の南西にある海沿いの大国だった。

「大陸全てなんて無理でしょ。昔誰かから大陸には強大な国がいくつもあるって聞いたことがあるもの」

「あぁナイトメアのことかな?あの国はさっき話した人から魔剣を作ろうとしていた国だったんだけどね……結局うまくいかずに10年くらい前に戦争を起こした。でも惨敗して元々の領地に引っ込んで何かやってるらしいけど、詳しくは知らないかな」

 ここにきて重要な情報が出てきた。ナイトメアの起こした戦いが10年くらい前。私の正確な年齢はわからないが10に満たないとすれば……今の私はラティアーナが死んでからすぐに転生した可能性が高い。
 であれば私の知識や技術は、今でも十分に通用するはずだ。このままではアイラが殺されてしまう。それを防ぐためにもアイラの身に危険が迫る前に、目の前の二人をどうにかしなければならない。

 今問題になっているのは魔力を外に出せないこと。そして両手足が麻痺していること。まずは右手と右足へ魔力を循環させて麻痺の解除し、できるかぎり早く動けるよう試みることにした。

「さぁ準備は整ったよ……新しい生命の誕生と君の末路をしっかりとその目に刻むと良い!」

 フォーリアは動けないアイラを掴むと台の上に落とした。そのまま体を固定させると台に設置されている透明な蓋のようなものを閉めようとする。

「っ!?なにを……」

 アイラは台に落ちた衝撃で声を詰まらせた。これから何をされるか分からないことが余計に恐怖を感じるのか、涙目になりながら呼吸を荒くする。

「痛みは多分ないから落ち着くと良い。すぐに気分が良!?」

「なっ!?」

 フォーリアの言葉は途中で途切れ、グレオが驚きの声が上げ、鈍い音が部屋の中に響く。

「アイラに手を出させるとでも?」

 私はフォーリアのことを殴り飛ばしていた。
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