272 / 465
第10章 元王族の囚われ生活
2 私とアイラの一日
しおりを挟む
「さっさと働け!あんまりちんたらしてると罰を与えるからな!」
私とアイラが仕事場に着いてすぐ、監視役の人が脅すかのように第一声を発した。
監視役一人に対して私とアイラの二人。この真っ白な広い部屋には、中心に歯車のようなぜんまいのような物が設置されている。
「持ち場に着いたら早く回せよ……」
監視役の人は一言命じると近くの椅子に座って本を読み始めた。監視役によっては一日中こちらを見張っていて、少しでも効率が落ちると懲罰の腕輪を使って痛みを与えてくる人もいる。けれど今日の人は、たまにこちらの様子を伺うだけのようで私たちにとっては助かるタイプだった。
「じゃあ始めようか……今日は少し楽できるといいね」
アイラが小声で呟いた言葉に私も頷き返す。二人でゆっくりと歯車を回し始めるのだった。
一見すると人力の動力源のようで、かなり昔の仕事をしている気分になる。けれど、この歯車は回すことで力を生み出しているわけではなく、あくまでスイッチのようなものらしい。
手に触れて回し始めるとほんの少しだが魔力と生命力が流れ出すのを感じる。
私のように力の扱いに慣れているからこそ気付くことができる程度。恐らくアイラであれば普通に動くよりも疲労感が大きくなるくらいにしか感じないだろう。
ただ不思議なのは魔封じの腕輪をしているのに魔力が流れること。普通であれば魔封じの腕輪などをつけている場合、魔力を外に出すことはできなくなる。それは魔装や魔術はもちろん、魔術具の起動も同じだ。例外としては身体強化のように身体の中の魔力を動かすくらいなら効率が落ちるだけですむ程度だ。
「ねぇアイラ……今日も聞かせてよ。外のこと」
「ティアは本当に色々なことに興味があるよね」
アイラは仕方がないなといった表情で、知っている内容をポツポツと話してくれる。
今日のように手を止めない限りは何もしてこない監視役のときは、外のことをよく聞かせてもらっていた。
「でも大体のこと話しちゃったからなぁ。話してないことあったかな?」
「アイラはさ……ここに来る前どういう生活を送ってたの?」
アイラからは食べ物や衣服の話をよく聞く。景色の話などもしていたが、アイラ自身のことは聞いたことがなかった。
「……話してもつまらないと思うけど、それでも聞きたい?」
アイラは少しだけ寂しそうな声で問いかける。
「アイラが話したくないことは言わなくていい……だけどアイラのことをもっと知りたいのは本当だから。こんな生活の中でも友達だって思ってる」
お互いに作業をしているため顔までは見えていない。それでも「そっか……」と少しだけ涙ぐんだ声で返事をした。
「私ね……貴族だったの。ラメルシェル王国っていう小さい国の田舎領主の娘だったんだけど……どこかからか侵略されたんだ。もちろん徹底抗戦したんだけどね。敵の数が多すぎて一瞬だった。敵の正体を掴む時間もなく、領地を支配された。王国から軍が派遣される前に城を落とされたの。両親は私と兄さんだけでも逃がそうとしたんだけど、城から脱出する前に捕まった。後は知っている通り、ここに連れてこられたわけ」
ラメルシェル王国は大陸の最南端の西側にある小さい王国の名前だ。獣人国家の地域を抜けた先にあり、迂回したとしても惑いの森や破滅の砂漠といわれる場所を通らないとたどり着け合い場所。冒険者であっても入って一日も持たないと有名で、利さえあれば危険を冒す商人であっても誰も通ろうとしなかった。
そのためエスぺルト王国としても国交はなく商人と通したやり取りもないため、私も地理的なことしか知らない。
「……」
返す言葉がなかった。かつて王族として王として過ごした私は、戦争に負けた国や領地の末路をよく知っている。だからこそ何も言うことはできない。
「そんな顔しないでよ。私も田舎の小さな領地だったとしても領主の娘だったんだから、仕方のないことだって……これが世界なんだって分かってるから」
そしてアイラもよく理解しているというように、震える声が聞こえた。
「……アイラはもし、ここを出られたらどうしたい?」
「そうだなぁ……もう帰る場所もないし、ここから出られないって諦めているから考えないようにしていたけど……もし叶うなら両親と兄さんがあれからどうなったか知って……みんなが守ろうとした場所を見届けたいかも」
アイラの答えに返す言葉もなかった。そしてアイラの心境のほんの一部分だけど分かった気がする。
この場所で明るく振舞っていたのは、年長者として私や子どもたちに不安を抱かせたくないのもあったのだろうけど。もしかしたら全てを理解したうえで、家族も故郷も失って希望が費えたのかもしれない。
「そう……」
私の声だけが白く広い部屋の中に残るのだった。
そしてしばらく経ったある日のこと。
その日は普段とは少し違った。いつも幼い子どもたちを連れて行く人が姿を見せず仕事場への扉も鍵が閉まっていた。
仕方がなく部屋で子どもたちと話しながら待っていると、ふいに一人の男が部屋にやってくる。
「第5002号……君が選ばれた。早速来なさい」
その男は私たちが始めてみる人だった。監視役と違い腰には剣と銃を持っているようで軍人のような服装。その人の迫力のある低い声が、5002号……つまりアイラへと向けられた。
「選ばれた……ですか?」
「ああそうだ。君のここでの役割は終わりだ。着いてきなさい」
アイラは何のことか分からず、戸惑っている表情を見せる。けれど男の反応は一切変わらない。ただ淡々と職務をこなすように告げるだけだった。
「ちょっと待って……アイラはこれからどうなるの?私たちはなんのためにここにいるの?」
私は思わず男に問いかける。
ただ奴隷として誰かに買われただけならまだ良い。もしかしたら買われた先で幸せに暮らせるかもしれないからだ。だけど、そうじゃないような気がして。なんとなく嫌な予感がした。
「そうか……5001番。君が入ってきた時には既に先代はいなかったのか……だから君は未来に希望を持っているのだろう?だったら着いてくると良い」
男はそう言って私とアイラについてくるように告げたのだった。
私とアイラが仕事場に着いてすぐ、監視役の人が脅すかのように第一声を発した。
監視役一人に対して私とアイラの二人。この真っ白な広い部屋には、中心に歯車のようなぜんまいのような物が設置されている。
「持ち場に着いたら早く回せよ……」
監視役の人は一言命じると近くの椅子に座って本を読み始めた。監視役によっては一日中こちらを見張っていて、少しでも効率が落ちると懲罰の腕輪を使って痛みを与えてくる人もいる。けれど今日の人は、たまにこちらの様子を伺うだけのようで私たちにとっては助かるタイプだった。
「じゃあ始めようか……今日は少し楽できるといいね」
アイラが小声で呟いた言葉に私も頷き返す。二人でゆっくりと歯車を回し始めるのだった。
一見すると人力の動力源のようで、かなり昔の仕事をしている気分になる。けれど、この歯車は回すことで力を生み出しているわけではなく、あくまでスイッチのようなものらしい。
手に触れて回し始めるとほんの少しだが魔力と生命力が流れ出すのを感じる。
私のように力の扱いに慣れているからこそ気付くことができる程度。恐らくアイラであれば普通に動くよりも疲労感が大きくなるくらいにしか感じないだろう。
ただ不思議なのは魔封じの腕輪をしているのに魔力が流れること。普通であれば魔封じの腕輪などをつけている場合、魔力を外に出すことはできなくなる。それは魔装や魔術はもちろん、魔術具の起動も同じだ。例外としては身体強化のように身体の中の魔力を動かすくらいなら効率が落ちるだけですむ程度だ。
「ねぇアイラ……今日も聞かせてよ。外のこと」
「ティアは本当に色々なことに興味があるよね」
アイラは仕方がないなといった表情で、知っている内容をポツポツと話してくれる。
今日のように手を止めない限りは何もしてこない監視役のときは、外のことをよく聞かせてもらっていた。
「でも大体のこと話しちゃったからなぁ。話してないことあったかな?」
「アイラはさ……ここに来る前どういう生活を送ってたの?」
アイラからは食べ物や衣服の話をよく聞く。景色の話などもしていたが、アイラ自身のことは聞いたことがなかった。
「……話してもつまらないと思うけど、それでも聞きたい?」
アイラは少しだけ寂しそうな声で問いかける。
「アイラが話したくないことは言わなくていい……だけどアイラのことをもっと知りたいのは本当だから。こんな生活の中でも友達だって思ってる」
お互いに作業をしているため顔までは見えていない。それでも「そっか……」と少しだけ涙ぐんだ声で返事をした。
「私ね……貴族だったの。ラメルシェル王国っていう小さい国の田舎領主の娘だったんだけど……どこかからか侵略されたんだ。もちろん徹底抗戦したんだけどね。敵の数が多すぎて一瞬だった。敵の正体を掴む時間もなく、領地を支配された。王国から軍が派遣される前に城を落とされたの。両親は私と兄さんだけでも逃がそうとしたんだけど、城から脱出する前に捕まった。後は知っている通り、ここに連れてこられたわけ」
ラメルシェル王国は大陸の最南端の西側にある小さい王国の名前だ。獣人国家の地域を抜けた先にあり、迂回したとしても惑いの森や破滅の砂漠といわれる場所を通らないとたどり着け合い場所。冒険者であっても入って一日も持たないと有名で、利さえあれば危険を冒す商人であっても誰も通ろうとしなかった。
そのためエスぺルト王国としても国交はなく商人と通したやり取りもないため、私も地理的なことしか知らない。
「……」
返す言葉がなかった。かつて王族として王として過ごした私は、戦争に負けた国や領地の末路をよく知っている。だからこそ何も言うことはできない。
「そんな顔しないでよ。私も田舎の小さな領地だったとしても領主の娘だったんだから、仕方のないことだって……これが世界なんだって分かってるから」
そしてアイラもよく理解しているというように、震える声が聞こえた。
「……アイラはもし、ここを出られたらどうしたい?」
「そうだなぁ……もう帰る場所もないし、ここから出られないって諦めているから考えないようにしていたけど……もし叶うなら両親と兄さんがあれからどうなったか知って……みんなが守ろうとした場所を見届けたいかも」
アイラの答えに返す言葉もなかった。そしてアイラの心境のほんの一部分だけど分かった気がする。
この場所で明るく振舞っていたのは、年長者として私や子どもたちに不安を抱かせたくないのもあったのだろうけど。もしかしたら全てを理解したうえで、家族も故郷も失って希望が費えたのかもしれない。
「そう……」
私の声だけが白く広い部屋の中に残るのだった。
そしてしばらく経ったある日のこと。
その日は普段とは少し違った。いつも幼い子どもたちを連れて行く人が姿を見せず仕事場への扉も鍵が閉まっていた。
仕方がなく部屋で子どもたちと話しながら待っていると、ふいに一人の男が部屋にやってくる。
「第5002号……君が選ばれた。早速来なさい」
その男は私たちが始めてみる人だった。監視役と違い腰には剣と銃を持っているようで軍人のような服装。その人の迫力のある低い声が、5002号……つまりアイラへと向けられた。
「選ばれた……ですか?」
「ああそうだ。君のここでの役割は終わりだ。着いてきなさい」
アイラは何のことか分からず、戸惑っている表情を見せる。けれど男の反応は一切変わらない。ただ淡々と職務をこなすように告げるだけだった。
「ちょっと待って……アイラはこれからどうなるの?私たちはなんのためにここにいるの?」
私は思わず男に問いかける。
ただ奴隷として誰かに買われただけならまだ良い。もしかしたら買われた先で幸せに暮らせるかもしれないからだ。だけど、そうじゃないような気がして。なんとなく嫌な予感がした。
「そうか……5001番。君が入ってきた時には既に先代はいなかったのか……だから君は未来に希望を持っているのだろう?だったら着いてくると良い」
男はそう言って私とアイラについてくるように告げたのだった。
5
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる