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第10章 元王族の囚われ生活
1 プロローグ
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私には前世の記憶が二つある。
こことは別世界の薄らと残っている記憶の残滓。そしてこの世界で王女として女王として一生を生きた記憶。
当然、生まれてすぐから意識がはっきりとしているわけではない。気づいた時には既にラティアーナとしての記憶があったわけで、前の時のように何かをきっかけにして思い出すわけではなく、生まれながらに覚えている記憶なのだと思った。
そして今……
どこかの国の孤児として奴隷のような生活を送っていた。
正確な年齢は分からないが恐らく10にも満たない。黒寄りの茶色の髪をしたぼろぼろな病弱な少女。それが今の私だった。
生まれて直ぐにここに連れてこられたらしく両親の顔を見たこともない。
名前もなかったため、かつてのお忍びの名であるティアと周りには伝えていた。
何度も夢を見る。
悪魔との戦い。何度考えても最善だったはずの選択。それでも、もっと何か他の手段があったのではないかと心残りがあり、生命を終える瞬間の感覚が心の内に強く残っていた。
「……っ」
鐘のような音が鳴り響いたことで夢の世界から浮上する。身体を起こすも夢のせいで動悸の激しくなっていた。身体を落ち着かせるためにも深呼吸をする。
「ティア……うなされていたけど大丈夫なの?」
私が身体を起こすと近くで寝床の片付けをしていた少女が気遣うように問いかけた。
私より年上であろうその子はアイラと言って、3年くらい前に外から連れてこられて共に過ごしていている。
アイラは外で過ごしていたことがあるおかげで頭が良い。そして最悪の環境におかれていても真っ直ぐな女の子だった。よく体調を崩す私のことも妹のように気にかけてくれていて、とても優しい性格でもある。
「アイラおはよう。夢見が悪かっただけだから……心配してくれてありがとう」
私に声をかけたアイラに大丈夫だと笑みを浮かべると、アイラはホッとしたような表情をした。
「なら良かった。でも無理だけはしないでね。もし辛かったらお姉ちゃんを頼りなさい!」
アイラは元気に胸を張ると、まだ寝ている幼い女の子たちの元へ向かって声を掛ける。
「ほら、朝だよ……起きて!」
この部屋には女子だけが過ごしていて、私とアイラの他には少し幼い子が3人いる。他にも同じ境遇の子供は結構いるらしいが、男子とは環境が別れていて正確な人数は不明だ。
私たちには外すと爆発する首輪、右手に魔封じの腕輪、左手に懲罰の腕輪がそれぞれ嵌められている。
この窓もない場所で一日中閉じ込められ、ある程度大きくなると物運びなどの力仕事をさせられる。働くことができない幼い子たちは、大人たちによって最低限の教育……もとい洗脳のようなものを受けさせられていた。
「お待たせ……準備はできた?」
アイラは幼い子どもたちを起こすと私の元にやってくる。
「もちろん。今行く」
今から向かうのは食事の配給のためだ。仕事の前後の一日二回、指定の場所に置かれている。最低限仕事で体を動かすことができる量しか配らないのがいやらしく感じる。
「今日は……パンがあるみたい。お湯と葉物の野菜を全部いれてスープみたいにして分けよっか」
アイラは珍しいこともあるものだと、少しだけ嬉しそうに言葉にする。噛むのが大変な硬いパンであっても、普段芋と野菜しか出してこないことに比べれば大分ましだった。ここでの食事しか知らないあの子たちからすればご褒美と思うかもしれないほどに。
「あの子たちも喜ぶかもしれないね」
「……そうだと嬉しいわね」
アイラは少しだけ逡巡してから返事をした。
私とアイラは分担して食事を持つと子供たちの部屋へ戻る。そのままでは硬いパンや野菜をそれぞれのお湯に入れて柔らかくして配った。
パンや野菜だけではどうしても味気ない。それを美味しそうに子供たちは、大人たちに連れていかれる。
私たちも奴隷として働く時間がやってこようとしていた。
子供たちを見送ったアイラは「先に行っているね」と私に告げていつもの場所へと歩きだした。
「さて……どうするかなぁ……」
アイラの背中を見た私はふとそんなことを呟く。
私には夢がある。
ラティアーナだった頃から変わらずに周りの人には笑っていてほしい。
アドリアスとスピカ、リーファスとコーネリアのような恋をしたい。
そして生まれ変わった今……
私の両親について知りたい。
今のエスペルト王国、現状を知りたい。
私の夢を叶えるためにもここから脱出するつもりではある。けれどアイラをはじめ子供たちを見捨てる選択肢は当然ない。
これから先の選択に悩むなか、今日も一日が始まろうとしていた。
こことは別世界の薄らと残っている記憶の残滓。そしてこの世界で王女として女王として一生を生きた記憶。
当然、生まれてすぐから意識がはっきりとしているわけではない。気づいた時には既にラティアーナとしての記憶があったわけで、前の時のように何かをきっかけにして思い出すわけではなく、生まれながらに覚えている記憶なのだと思った。
そして今……
どこかの国の孤児として奴隷のような生活を送っていた。
正確な年齢は分からないが恐らく10にも満たない。黒寄りの茶色の髪をしたぼろぼろな病弱な少女。それが今の私だった。
生まれて直ぐにここに連れてこられたらしく両親の顔を見たこともない。
名前もなかったため、かつてのお忍びの名であるティアと周りには伝えていた。
何度も夢を見る。
悪魔との戦い。何度考えても最善だったはずの選択。それでも、もっと何か他の手段があったのではないかと心残りがあり、生命を終える瞬間の感覚が心の内に強く残っていた。
「……っ」
鐘のような音が鳴り響いたことで夢の世界から浮上する。身体を起こすも夢のせいで動悸の激しくなっていた。身体を落ち着かせるためにも深呼吸をする。
「ティア……うなされていたけど大丈夫なの?」
私が身体を起こすと近くで寝床の片付けをしていた少女が気遣うように問いかけた。
私より年上であろうその子はアイラと言って、3年くらい前に外から連れてこられて共に過ごしていている。
アイラは外で過ごしていたことがあるおかげで頭が良い。そして最悪の環境におかれていても真っ直ぐな女の子だった。よく体調を崩す私のことも妹のように気にかけてくれていて、とても優しい性格でもある。
「アイラおはよう。夢見が悪かっただけだから……心配してくれてありがとう」
私に声をかけたアイラに大丈夫だと笑みを浮かべると、アイラはホッとしたような表情をした。
「なら良かった。でも無理だけはしないでね。もし辛かったらお姉ちゃんを頼りなさい!」
アイラは元気に胸を張ると、まだ寝ている幼い女の子たちの元へ向かって声を掛ける。
「ほら、朝だよ……起きて!」
この部屋には女子だけが過ごしていて、私とアイラの他には少し幼い子が3人いる。他にも同じ境遇の子供は結構いるらしいが、男子とは環境が別れていて正確な人数は不明だ。
私たちには外すと爆発する首輪、右手に魔封じの腕輪、左手に懲罰の腕輪がそれぞれ嵌められている。
この窓もない場所で一日中閉じ込められ、ある程度大きくなると物運びなどの力仕事をさせられる。働くことができない幼い子たちは、大人たちによって最低限の教育……もとい洗脳のようなものを受けさせられていた。
「お待たせ……準備はできた?」
アイラは幼い子どもたちを起こすと私の元にやってくる。
「もちろん。今行く」
今から向かうのは食事の配給のためだ。仕事の前後の一日二回、指定の場所に置かれている。最低限仕事で体を動かすことができる量しか配らないのがいやらしく感じる。
「今日は……パンがあるみたい。お湯と葉物の野菜を全部いれてスープみたいにして分けよっか」
アイラは珍しいこともあるものだと、少しだけ嬉しそうに言葉にする。噛むのが大変な硬いパンであっても、普段芋と野菜しか出してこないことに比べれば大分ましだった。ここでの食事しか知らないあの子たちからすればご褒美と思うかもしれないほどに。
「あの子たちも喜ぶかもしれないね」
「……そうだと嬉しいわね」
アイラは少しだけ逡巡してから返事をした。
私とアイラは分担して食事を持つと子供たちの部屋へ戻る。そのままでは硬いパンや野菜をそれぞれのお湯に入れて柔らかくして配った。
パンや野菜だけではどうしても味気ない。それを美味しそうに子供たちは、大人たちに連れていかれる。
私たちも奴隷として働く時間がやってこようとしていた。
子供たちを見送ったアイラは「先に行っているね」と私に告げていつもの場所へと歩きだした。
「さて……どうするかなぁ……」
アイラの背中を見た私はふとそんなことを呟く。
私には夢がある。
ラティアーナだった頃から変わらずに周りの人には笑っていてほしい。
アドリアスとスピカ、リーファスとコーネリアのような恋をしたい。
そして生まれ変わった今……
私の両親について知りたい。
今のエスペルト王国、現状を知りたい。
私の夢を叶えるためにもここから脱出するつもりではある。けれどアイラをはじめ子供たちを見捨てる選択肢は当然ない。
これから先の選択に悩むなか、今日も一日が始まろうとしていた。
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