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第9章 ターニングポイント
45 いつかきっと
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悪魔が放つ魔力を二刀を持って斬り裂いた。攻撃の雨を刀で斬り伏せ、悪魔の目の前まで辿り着くと刀を交差させて振るう。
刀で斬り裂き虹色の魔力を纏った蹴りを放つ。剣術と体術を合わせた攻撃を連続して仕掛けていく。
「……うっとしいものだね!でも意味はない!」
「もちろん知っているわ!魔力でできている悪魔の身体を斬ってもダメージにはならない。けれど無限に身体を作れるわけでもないはずよ!」
悪魔のような精神生命体は魂が本体だ。魔力の身体はこの世界に干渉するための器でしかない。それでも魂から供給される魔力には、必ず限りがある。
辰月から放たれている黒龍の力は、悪魔の身体の魔力を消し飛ばす。夜月から放たれている力は物理的に悪魔の身体を吹き飛ばし、刃が触れた部分から全てを喰らい尽くそうとする。
さらに魔力の波長を調整することで、より魔力の身体への効果を底上げしていた。
「なるほどね。確かにその方法なら僕にも効果はある。でも……時間がかかりすぎる。二本の刀を完全に解放できる時間も動くことができる時間も僅かなはずだ」
悪魔の保有する魔力量は、人よりも遥かに多い。このまま戦い続けても、何日もかけて削らなければ倒すまでには至らないだろう。
そして今の私は全身の傷を身体強化で誤魔化している状態だ。身体強化が解けた瞬間に動けなくなる。辰月と夜月を完全解放していることができる時間も残り1分を切ろうとしていた。
「だったら……その前に…けりをつけるだけよ!」
それでも私は悪魔を倒すしか選ぶ道はない。息もたえたえに肩を揺らしながら悪魔を見る。
悪魔は私のことを敵どころか邪魔な虫くらいにしか認識していなさそうだ。私のことを警戒どころか注意すらしていない。私が何をしたとしても届かないと思っているのだろう。けれど、だからこそ隙となる。
「はぁぁぁっ!」
声を上げて気合を入れなおし、身体強化以外の魔力を辰月に集中させる。辰月に宿る黒龍の力を完全解放し纏わせることで巨大な黒い斬撃となった。そのまま刀を横に一薙ぎにして悪魔の下半身を消し飛ばした。
「自棄になったのかな?そんな攻撃は自滅を早めるだけだよ」
悪魔はその程度の攻撃では直ぐに元に戻るとでも言いたげに嘲笑を浮かべる。
けれど私の目的は別にあった。身体が戻るまでのほんの一時。その隙となる時間があればそれで良い。
辰月を遠くへ放り投げて夜月を両手で構える。
「……きっと今の私たちではあなたに勝てないでしょうね。けれど……いつかきっと、皆がなんとかしてくれるって信じている。だから……ごめんね……」
夜月を完全解放しつつ刀身へと凝縮する。全ての力を一刀へ集中させた私は、突きを繰り出す姿勢をとった。全ての身体能力をただ前へ、突きを繰り出すための動作に費やす。
私の全力の突きは悪魔の身体の中心に刺さった。
「っ……!?」
悪魔はここにきて初めて驚愕した表情になった。
「君は……これが狙いか!?だけど喰われる前に君は死ぬ!」
夜月の刀身は力であればなんでも喰らう。魔力や生命力だけでなく魂もだ。それでも悪魔が言った通り、悪魔の魂を喰らい尽くすには時間がかかりすぎるだろう。
悪魔は左手を私に突き出す。刀を突き刺したまま力を込めている私に避けられるはずもなく、まともに悪魔の貫手を受けた。
「ぐふっ……」
私は血を吐きながらも笑みを浮かべる。魔法袋から残りの宝石をとれるだけ取り出して、その全てに魔力を込めた。同時に私の全てを使用した魔術を発動させる。
「なに!?手が凍りついて……いや、君自身が……」
魔術書に記載のある氷系の特級魔術はいくつかある。その中の内の二つを発動したわけだ。
一つは膨大な魔力を引き換えに指定範囲内を絶対零度まで下げる魔術。
もう一つは私が一生使わないと思っていたもの。血を媒介に魔術を発動させるものと原理は同じで……術者の身体と残りの魔力、生命力の全てを核とする。敵を氷に封印するための魔術で閉じ込めた敵の魔力や生命力も氷の維持に使われていて、内側からは破ることができない氷の牢獄だ。
「本当はこういう決着は嫌いだけど……さようなら」
私は最後にそう呟いた。
術式が完全に発動し私そのものが氷となっていく。意識が薄れゆくなか、悪魔が凍りついていくのを見たのだった。
自身の命を糧に敵を殺すまで凍りつかせる特級魔術。それを行使したラティアーナは当然命を落とした。通常であれば肉体が死亡したことで魂が解き放たれて世界を抜ける。世界の外、無限の海のような場所を通って魂が漂白され、どこか別の世界で新たな生命として誕生するはずだった。
けれどラティアーナも考えもしなかったことが起きる。いくつかの偶然が重なって奇跡とも言えて……ラティアーナの強い想いと行動が起こした必然とも言えること。
本来この世界を離れるはずの魂は、この世界を抜けることができなかった。
ラティアーナがいた場所が世界の中に造れられた世界であったこと。
ラティアーナと辰月や夜月が魂の繋がりを得ていたこと。
ラティアーナと王鍵が繋がっていること。
ラティアーナの身体が氷へと変わっていて、完全に消滅したわけではないこと。
これらが楔となって魂は世界を離れずに漂うことになった。
そして本来は生まれることがなかった……魂が宿る予定のなかった新しい身体へと宿ることになる。
刀で斬り裂き虹色の魔力を纏った蹴りを放つ。剣術と体術を合わせた攻撃を連続して仕掛けていく。
「……うっとしいものだね!でも意味はない!」
「もちろん知っているわ!魔力でできている悪魔の身体を斬ってもダメージにはならない。けれど無限に身体を作れるわけでもないはずよ!」
悪魔のような精神生命体は魂が本体だ。魔力の身体はこの世界に干渉するための器でしかない。それでも魂から供給される魔力には、必ず限りがある。
辰月から放たれている黒龍の力は、悪魔の身体の魔力を消し飛ばす。夜月から放たれている力は物理的に悪魔の身体を吹き飛ばし、刃が触れた部分から全てを喰らい尽くそうとする。
さらに魔力の波長を調整することで、より魔力の身体への効果を底上げしていた。
「なるほどね。確かにその方法なら僕にも効果はある。でも……時間がかかりすぎる。二本の刀を完全に解放できる時間も動くことができる時間も僅かなはずだ」
悪魔の保有する魔力量は、人よりも遥かに多い。このまま戦い続けても、何日もかけて削らなければ倒すまでには至らないだろう。
そして今の私は全身の傷を身体強化で誤魔化している状態だ。身体強化が解けた瞬間に動けなくなる。辰月と夜月を完全解放していることができる時間も残り1分を切ろうとしていた。
「だったら……その前に…けりをつけるだけよ!」
それでも私は悪魔を倒すしか選ぶ道はない。息もたえたえに肩を揺らしながら悪魔を見る。
悪魔は私のことを敵どころか邪魔な虫くらいにしか認識していなさそうだ。私のことを警戒どころか注意すらしていない。私が何をしたとしても届かないと思っているのだろう。けれど、だからこそ隙となる。
「はぁぁぁっ!」
声を上げて気合を入れなおし、身体強化以外の魔力を辰月に集中させる。辰月に宿る黒龍の力を完全解放し纏わせることで巨大な黒い斬撃となった。そのまま刀を横に一薙ぎにして悪魔の下半身を消し飛ばした。
「自棄になったのかな?そんな攻撃は自滅を早めるだけだよ」
悪魔はその程度の攻撃では直ぐに元に戻るとでも言いたげに嘲笑を浮かべる。
けれど私の目的は別にあった。身体が戻るまでのほんの一時。その隙となる時間があればそれで良い。
辰月を遠くへ放り投げて夜月を両手で構える。
「……きっと今の私たちではあなたに勝てないでしょうね。けれど……いつかきっと、皆がなんとかしてくれるって信じている。だから……ごめんね……」
夜月を完全解放しつつ刀身へと凝縮する。全ての力を一刀へ集中させた私は、突きを繰り出す姿勢をとった。全ての身体能力をただ前へ、突きを繰り出すための動作に費やす。
私の全力の突きは悪魔の身体の中心に刺さった。
「っ……!?」
悪魔はここにきて初めて驚愕した表情になった。
「君は……これが狙いか!?だけど喰われる前に君は死ぬ!」
夜月の刀身は力であればなんでも喰らう。魔力や生命力だけでなく魂もだ。それでも悪魔が言った通り、悪魔の魂を喰らい尽くすには時間がかかりすぎるだろう。
悪魔は左手を私に突き出す。刀を突き刺したまま力を込めている私に避けられるはずもなく、まともに悪魔の貫手を受けた。
「ぐふっ……」
私は血を吐きながらも笑みを浮かべる。魔法袋から残りの宝石をとれるだけ取り出して、その全てに魔力を込めた。同時に私の全てを使用した魔術を発動させる。
「なに!?手が凍りついて……いや、君自身が……」
魔術書に記載のある氷系の特級魔術はいくつかある。その中の内の二つを発動したわけだ。
一つは膨大な魔力を引き換えに指定範囲内を絶対零度まで下げる魔術。
もう一つは私が一生使わないと思っていたもの。血を媒介に魔術を発動させるものと原理は同じで……術者の身体と残りの魔力、生命力の全てを核とする。敵を氷に封印するための魔術で閉じ込めた敵の魔力や生命力も氷の維持に使われていて、内側からは破ることができない氷の牢獄だ。
「本当はこういう決着は嫌いだけど……さようなら」
私は最後にそう呟いた。
術式が完全に発動し私そのものが氷となっていく。意識が薄れゆくなか、悪魔が凍りついていくのを見たのだった。
自身の命を糧に敵を殺すまで凍りつかせる特級魔術。それを行使したラティアーナは当然命を落とした。通常であれば肉体が死亡したことで魂が解き放たれて世界を抜ける。世界の外、無限の海のような場所を通って魂が漂白され、どこか別の世界で新たな生命として誕生するはずだった。
けれどラティアーナも考えもしなかったことが起きる。いくつかの偶然が重なって奇跡とも言えて……ラティアーナの強い想いと行動が起こした必然とも言えること。
本来この世界を離れるはずの魂は、この世界を抜けることができなかった。
ラティアーナがいた場所が世界の中に造れられた世界であったこと。
ラティアーナと辰月や夜月が魂の繋がりを得ていたこと。
ラティアーナと王鍵が繋がっていること。
ラティアーナの身体が氷へと変わっていて、完全に消滅したわけではないこと。
これらが楔となって魂は世界を離れずに漂うことになった。
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