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第9章 ターニングポイント
38 レティシアとのお茶会
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マギルス公爵邸での楽しい一時が終わったあとも建国祭は続いていく。
私は玉座の間で成人済みの全貴族と順番に対面し、所々の時間でドラコロニア王国やエインスレイス連邦、ノスタルジア王国やノーランド王国といった北の大陸を含む友好国との魔術通信による外交をこなした。
またリーファスとコーネリアの二人も有力貴族を中心に社交を行っている。元々私を直接支持している貴族や中立寄りの貴族を中心に味方を増やしつつある。
そして建国祭の最終日。私もリーファスたちの味方を増やすために動くことにしていた。
建国祭の社交ではなく私的な集まりとして。王城ではなく王宮のお茶会として招待状を送っている。
「ラティアーナ様。お客様が参りました」
王宮内にあるお茶会やパーティーを行うこともできる広い庭園。紫やピンク、白といった様々な花たちが咲く中で待っていると、リーナが来客を告げた。
「お久しぶりですね。レティシア様」
ローザリンデやリーファスが王立学園にいるため、離宮ではお父様とレティシアの二人暮らし状態になっている。けれどレティシアは離宮を訪れた場合も見かけないし建国祭の社交も出てこない。
そのためレティシアと直接会うのは、私が王になってからは初めてとなる。
「そうね。こうして話すのは数年ぶりかしら」
私とレティシアが席に着くとリーナがお茶を淹れる。リーナに視線を送り人払いを済ませるとお茶を一口飲む。それを見たレティシアもお茶に口をつけた。
「それで?一体どのような用件かしら?わたくしにできることなんて何もないと思うのだけど」
レティシアはすました顔で言葉にする。だけど貴族の派閥を作り上げたレティシアが私の意図を察していないはずがない。
「北部を中心に派閥への影響は健在でしょう。レティシア様も予想がついていると思うけれど、リーファスとコーネリアを支えて欲しいのよ」
レティシア相手に遠まわしな話し合いは不毛だ。だからこそ用件は濁さずに伝えることにした。
「ローザリンデは王位に興味がないと言っていたから構わないわよ。元々、貴方が王位についた時点でラティアーナが結婚して生んだ子かリーファスが王位につくかしかなかったもの。コーネリアにしても家柄は中立で問題はないでしょうし」
私はレティシアの言葉を少しだけ意外に感じた。前までの尖ったような印象が消えていて、こうも簡単に聞いてくれるとは思わなかったからだ。
「ふふ……対外的な場面では表情を取り繕う貴方も、わたくしの前ではそのような顔も見せるのね」
「レティシア様のことは一応身内と考えているので」
私もレティシアも共に笑みを浮かべてお茶を飲む。互いの表情とは裏腹に辺りの温度が一段下がったように感じる。けれどこれはこれで心地よくも感じた。
「まぁ良いでしょう。それで二人を支える理由ですけどね、エスペルト王国として利があるからよ。それに貴方のことは他の誰よりも評価しているつもりなの……わたくしが唯一どんなに手を尽くしても排除できなかった人だから」
レティシアはずっと私のことを見てきたと言う。お父様が不干渉を貫くことで守ろうとしたのに対し、レティシアは本気で私を排除しにかかった。
幼かった頃は刺客を送ることで亡き者にしようとし、殺せないと分かってからは有力貴族がつかないように画作する。
無能と決めつけるのではなく政敵として最大の警戒をしているからこそ、私のことを王族の中の誰よりも理解していたのは中々皮肉が効いている。
「ありがとう……で良いのか分からないけれど、感謝はしておくわ。わたくしもレティシア様のことは嫌いだけど理解はできるもの。それに王妃としての姿は参考にさせてもらっているつもりよ。実際、コーネリアへの妃教育は貴方のやり方を取り入れている部分もあるのだから」
コーネリアの妃教育は知識については教師が教え、実践となる部分は私が見ていた。具体的には定期的にお茶会を開くというもの。その時の妃としての貴族への対応は、レティシアのものを参考にしている。
「取り入れるなんて生易しいものではないでしょうに……貴方のそれは反則よ」
自分で言うのも何だが私は記憶力に自信がある。完全記憶や瞬間記憶ほど完璧でははいが、大半の物は一目見れば覚えることができた。そして記憶どおりの動きを模倣すれば、その人のように振舞うことができる。
誰にも伝えてはいないが、ずっと私のことを見てきたレティシアだからこそ気が付いたのだろう。
「いつの間にかできるようになっていたのだから仕方ないでしょう」
とはいえ、こればかりは私としてもどうしようもない。気が付いたらできるようになっていた。ただそれだけのことだ。レティシアも分かっているようで「そうね…」とだけ相槌を返す。
「さて、リーファスとコーネリアのことについて話を詰めましょうか」
「ええ。貴方達を支えることに異論はないけど、わたくしのやり方を変えるつもりのないわ」
その後もレティシアとのお茶会は鐘一つほど続いた。のほほんとした時間やピリピリとした時間が交互に訪れたが、比較的平和な時間だったといえるだろう。
そして七日間に及ぶ建国祭は、リーファスとコーネリアの婚約を話題の中心に無事終了する。
直近で問題になっていた内容も片が付き、次期王位継承についても貴族への根回しができたことで落ち着きを見せた。結婚して数年もすれば側妃の斡旋があるかも知れないが、その時どう対応するのかは本人たち次第だ。
私は玉座の間で成人済みの全貴族と順番に対面し、所々の時間でドラコロニア王国やエインスレイス連邦、ノスタルジア王国やノーランド王国といった北の大陸を含む友好国との魔術通信による外交をこなした。
またリーファスとコーネリアの二人も有力貴族を中心に社交を行っている。元々私を直接支持している貴族や中立寄りの貴族を中心に味方を増やしつつある。
そして建国祭の最終日。私もリーファスたちの味方を増やすために動くことにしていた。
建国祭の社交ではなく私的な集まりとして。王城ではなく王宮のお茶会として招待状を送っている。
「ラティアーナ様。お客様が参りました」
王宮内にあるお茶会やパーティーを行うこともできる広い庭園。紫やピンク、白といった様々な花たちが咲く中で待っていると、リーナが来客を告げた。
「お久しぶりですね。レティシア様」
ローザリンデやリーファスが王立学園にいるため、離宮ではお父様とレティシアの二人暮らし状態になっている。けれどレティシアは離宮を訪れた場合も見かけないし建国祭の社交も出てこない。
そのためレティシアと直接会うのは、私が王になってからは初めてとなる。
「そうね。こうして話すのは数年ぶりかしら」
私とレティシアが席に着くとリーナがお茶を淹れる。リーナに視線を送り人払いを済ませるとお茶を一口飲む。それを見たレティシアもお茶に口をつけた。
「それで?一体どのような用件かしら?わたくしにできることなんて何もないと思うのだけど」
レティシアはすました顔で言葉にする。だけど貴族の派閥を作り上げたレティシアが私の意図を察していないはずがない。
「北部を中心に派閥への影響は健在でしょう。レティシア様も予想がついていると思うけれど、リーファスとコーネリアを支えて欲しいのよ」
レティシア相手に遠まわしな話し合いは不毛だ。だからこそ用件は濁さずに伝えることにした。
「ローザリンデは王位に興味がないと言っていたから構わないわよ。元々、貴方が王位についた時点でラティアーナが結婚して生んだ子かリーファスが王位につくかしかなかったもの。コーネリアにしても家柄は中立で問題はないでしょうし」
私はレティシアの言葉を少しだけ意外に感じた。前までの尖ったような印象が消えていて、こうも簡単に聞いてくれるとは思わなかったからだ。
「ふふ……対外的な場面では表情を取り繕う貴方も、わたくしの前ではそのような顔も見せるのね」
「レティシア様のことは一応身内と考えているので」
私もレティシアも共に笑みを浮かべてお茶を飲む。互いの表情とは裏腹に辺りの温度が一段下がったように感じる。けれどこれはこれで心地よくも感じた。
「まぁ良いでしょう。それで二人を支える理由ですけどね、エスペルト王国として利があるからよ。それに貴方のことは他の誰よりも評価しているつもりなの……わたくしが唯一どんなに手を尽くしても排除できなかった人だから」
レティシアはずっと私のことを見てきたと言う。お父様が不干渉を貫くことで守ろうとしたのに対し、レティシアは本気で私を排除しにかかった。
幼かった頃は刺客を送ることで亡き者にしようとし、殺せないと分かってからは有力貴族がつかないように画作する。
無能と決めつけるのではなく政敵として最大の警戒をしているからこそ、私のことを王族の中の誰よりも理解していたのは中々皮肉が効いている。
「ありがとう……で良いのか分からないけれど、感謝はしておくわ。わたくしもレティシア様のことは嫌いだけど理解はできるもの。それに王妃としての姿は参考にさせてもらっているつもりよ。実際、コーネリアへの妃教育は貴方のやり方を取り入れている部分もあるのだから」
コーネリアの妃教育は知識については教師が教え、実践となる部分は私が見ていた。具体的には定期的にお茶会を開くというもの。その時の妃としての貴族への対応は、レティシアのものを参考にしている。
「取り入れるなんて生易しいものではないでしょうに……貴方のそれは反則よ」
自分で言うのも何だが私は記憶力に自信がある。完全記憶や瞬間記憶ほど完璧でははいが、大半の物は一目見れば覚えることができた。そして記憶どおりの動きを模倣すれば、その人のように振舞うことができる。
誰にも伝えてはいないが、ずっと私のことを見てきたレティシアだからこそ気が付いたのだろう。
「いつの間にかできるようになっていたのだから仕方ないでしょう」
とはいえ、こればかりは私としてもどうしようもない。気が付いたらできるようになっていた。ただそれだけのことだ。レティシアも分かっているようで「そうね…」とだけ相槌を返す。
「さて、リーファスとコーネリアのことについて話を詰めましょうか」
「ええ。貴方達を支えることに異論はないけど、わたくしのやり方を変えるつもりのないわ」
その後もレティシアとのお茶会は鐘一つほど続いた。のほほんとした時間やピリピリとした時間が交互に訪れたが、比較的平和な時間だったといえるだろう。
そして七日間に及ぶ建国祭は、リーファスとコーネリアの婚約を話題の中心に無事終了する。
直近で問題になっていた内容も片が付き、次期王位継承についても貴族への根回しができたことで落ち着きを見せた。結婚して数年もすれば側妃の斡旋があるかも知れないが、その時どう対応するのかは本人たち次第だ。
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