王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第9章 ターニングポイント

35 真珠星

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「陛下。この度はありがとうございました。スピカの事だけでなく、ポートクリフ領の事まで……おかげさまで犠牲も出ることがなく助かりましたよ」

「王として当然のことをしただけよ」

 日が変わった今日。私たちは伯爵と面会していた。私の隣にはブラッドが居て、伯爵とスピカと向かい合っている状況だ。

「スピカは私にとっても友人です。手を貸すのは当然ですよ」

 隣にいるブラッドも普段の飄々とした様子ではなく、公爵家の貴族然とした態度で答えている。

「ラティアーナ様、そしてブラッド様。今回は何から何まで本当にありがとうございました」

 スピカも昨日はよく眠れたようで顔色は良くなっている。一先ずは安心できそうだ。

「それで伯爵には聞きたいことがあるの。襲ってきた相手から色々聞き出したのは良いのだけれど、スピカだけが狙われる理由が分からないのよね……」

 私は昨夜聞きだした内容を詳らかに告げる。できればスピカには聞かせたくない話だ。自身だけでなくお腹の中にいる子も狙われていて、依頼主が王国の貴族の可能性が高いのであればこれまで以上に不安が増すだろう。余計なストレスを与えたくないとも思う。それでも知らない危険を排除できる可能性を取る。

「依頼主がスピカの子を狙っていると……」

 全てを聞いた伯爵は難しい表情になって頭に手を当てて考えている。スピカも恐怖のせいか顔色が青白くなっていた。

「正直なところ、どうしてスピカの子を狙っているのか分からないわ。グラディウス公爵家やポートクリフ伯爵家も無関係ではないのかも知れないけれど……」

「……陛下はポートクリフ伯爵家の歴史をご存知ですか?」

「建国当初から存在する家とは知っているけれど?」

 伯爵がわざわざ質問するという事は、過去に何かがあったのだろうか、と言う意味を込めて返事をすると伯爵は「陛下、見て欲しいものがあるのです。スピカも体調が問題なければ少し付き合ってくれるか?」と席を立った。

「構いませんわ」

「わたくしも大丈夫です」

 私たち三人は伯爵の案内で伯爵邸の地下へと向かう。倉庫のある地下一階の奥へ歩くと伯爵が手をかざした。

「…!?このような場所が屋敷にあったなんて……」

 スピカも知らなかったようでとても驚いている。恐らくは伯爵家の中の一部しか知らない秘密の部屋なのだろう。

「ここは本来、当主と次期当主のみが知る宝物庫です。見せたいものはこの中にあります」

 伯爵は私たちを連れて宝物庫の中へ案内する。そして一番奥にある鍵のかかった扉を開いた。その中は少し小さな部屋になっていて台座に刺さった剣が置いてある。
 聖剣グラディウスと同じような聖なる力を帯びている白金の剣だ。

「その聖剣……聖属性の精霊の力を感じるわね。けれど加護を受けているわけじゃない。もっと本質的な……」

 聖剣や聖槍など聖武具といわれる物には、いくつかの種類が存在する。元々存在する武具に精霊が加護をこめる場合、太古の時代やもっと昔に人ではない誰かが作った武具である場合

「この聖剣は精霊を剣の形に変えたものなのです。そしてその精霊は私たちの先祖……初代当主の奥方でもあります」

 そして精霊を宿した場合か精霊自身である場合だ。

「聖剣はともかく……ポートクリフ伯爵家は精霊の血を引いているということですか!?」

 これにはブラッドも驚いたようで珍しく声を荒げているが、驚きが大きいのは私も同じだ。そもそも人と獣人や魔族同時でということなら前例がある。だが人と精霊同士は聞いたことが全くなかった。

「ええ、そうです。初代当主は太古の時代、一人の精霊と共に戦っていました。今の教会のように契約するわけではなくパートナーとしてです。そして大陸全土の戦いが終わり人類の生存を勝ち取った後、恋仲にあった二人は結ばれた……その後子孫を守るために精霊は剣となり見守ることにした。これが伯爵家に代々伝わる伝承です」

「ではこの聖剣は……ポートクリフ伯爵家の血筋だけが扱えるということなのかしら?」

 私の問いかけに対して伯爵は首を横に振る。

「陛下はご存じのはずですが伯爵家の魔力適性は基本の三属性が大半です。ですがポートクリフ伯爵家は闇と氷冷以外の適性が高い。私たちが聖属性の適性が高いのは精霊のおかげと言えるでしょうね。そしてこの聖剣……パルセノスは精霊の力を強く受け継ぐ者ほど扱えるのです」

 伯爵の話では、ポートクリフ伯爵家の直系であれば基本的には使えるが、より力を引き出せるのは一代に一人くらいの割合らしい。そして現状ではスピカが最も適性が高いようだ。

「ポートクリフ伯爵家が特別なのは分かったけれど、わたくしですら知らないのよ?依頼主が知っているとは思えないし、知っていたとしてもザヴィヤが狙われないことと矛盾するわ」

 エスペルト王国の禁書庫にある歴史書を読んでいる私でさえ知らないのだ。他の貴族が知っているとは考えにくいだろう。それに聖剣パルセノスを引き継ぐのは次期当主のザヴィヤだ。

「ええ。なので聖剣パルセノス……いえ、パルセノス様に聞きたいと思います」

 伯爵はそう言って剣の柄に手を添える。

「ぐっ…!」

 伯爵は歯を食いしばって汗を流している。手から剣へ膨大な魔力が流れていて、恐らく伯爵が持つほぼ全ての魔力を一気に流しているようだった。

「全ての魔力を一気に……なんて無茶をっ!?」

「一時的とはいえ、パルセノス様を顕現させるには膨大な魔力が必要ですから……」

 少しして白い輝きが強くなると、剣が形を変えて人の形になる。

「こうして会うのは貴方が私を引き継いだ時ですか」

 聞こえてくるのは澄んだような声だ。銀色の髪をした美しい女性だった。

「お久しぶりです、パルセノス様。こちらは現在のエスペルト王国の王であるラティアーナ陛下、そしてノーティア公爵家のブラッド様。娘のスピカです。貴方様の精霊の力について聞きたいのです」

 伯爵の質問にパルセノスが答える。その内容は、この場の誰もが驚愕するものだった。

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