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第9章 ターニングポイント
28 私が守る理由
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「陛下……この度は我がポートクリフ領へお越しいただきありがとうございます。娘のことも感謝しかありません」
「スピカは親友ですもの。王になった今でもそれは変わらないわ」
ポートクリフ伯爵領の領都に着いた私たちは、そのまま領城へ向かい領主でありスピカの父である伯爵と面会していた。スピカのことは自室に届けていて、ブラッドやシリウスたち護衛は隣で待機しているため一対一で向き合っている。元々伯爵とは何度も話している間柄だが、こうして周りの目を気にせず話すのは初めてのことだ。
「ええ、陛下のことは娘からよく聞いております。王立学園に通っていた頃から、たくさん話をしておりましたからな」
伯爵は普段は見せないような朗らかな笑みを向けていた。領主として接する時の硬さがなく柔らかい印象しかなくて珍しく感じるものだ。恐らく今の姿こそが素の……父親としての顔なのかもしれない。
「最初はとても驚きましたよ。スピカのクラスは王女であったあなたに四大公爵家の令息令嬢が一堂に会するとは言え、高位の王侯貴族とそこまで親しい関係にならないと思ってましたから……それが陛下と親友になりアドリアス様と恋仲になるとは予想もしていませんでした」
「それはスピカのおかげね……当時、評判の悪かったわたくしに、あそこまで真っ直ぐ向き合ってくれた人ははじめてだったから。とても嬉しかったし感謝しかないわ」
元々仲が良いアドリアスやイリーナは置いといて、他の同年代の貴族で私との仲を深めようと思う人はとても少なかった。その中でスピカやベロニカ、ミモザは周りを気にすることなく私を誘ってくれたわけだ。
「それでも一つわからないことがあります……たとえ親友であっても陛下がスピカの事を守るために今回の計画を立てたと聞いた時は、信じることができませんでした。あなたはどうしてそこまで守ることに拘るのですか?」
伯爵はどうしても理解できないと問いかけた。本来は守られるべき王である私が友であっても臣下である貴族の令嬢を頑なに守るのかと。どうしても守りたいのなら騎士団を派遣すれば解決するのにと。
その問いかけにどう答えるか思案するが正直に答えることにした。あまり人には聞かせたことのない思いだが、伯爵であれば話しても問題ないだろうと思って。
「わたくしはね、怖がりで寂しがりで傲慢なのよ。見知った誰かが傷つく所を見たくない。もう二度と誰も失いたくない。だから戦うことにしたの。障害となるものを全て斬り伏せて、もう二度と失わず後悔しないためにね」
私も王として正しいあり方だとは思っていない。だけど今更変えることはできないだろう。そう思って伯爵の方へ顔を向けるとなんとも言えないような顔をして「なるほど…そっくりですな…」と呟いた。
「そっくり?」
「ええ、陛下のお母君であるティアラ様です。と言っても王立学園の学友だったので親交があったのは2年の間だけでしたが…」
「…っ!?あなたはお母様の事を知っているのですか!?」
私は思わず声を荒げて問いかける。今までお母様の事を話してくれたのは、叔母のイベリスとイリスたちのような侍従のみだ。貴族の中で血のつながりがなくてお母様をよく知る人は初めてだった。
「ティアラ様は傷ついた人を放っておくことができない人でした。普段から治癒魔術を行使していたためクラスメイトだけでなく、同学年の生徒は皆感謝していましたよ」
伯爵の話ではお母様は魔術を行使するのが好きで治癒魔術を施したり魔物の討伐に出掛けることが多かったらしい。卒業後の立場が複雑だったため親交が深い者は少なかったようだが、ほぼ全ての人に恩があったそうだ。
「お母様のことは叔母様…イベリスが教えてくれたけれど、今の話は初めて聞いたわ」
「ティアラ様は妹のイベリス様にはカッコつけたいと言ってましたからね。学園でのことは言ってないこともあるのでしょう」
伯爵は昔を懐かしむかのように目を細めて言葉にする。口角が少し上がっていて、どことなく楽しそうだった。
その後もお母様の話で少し盛り上がっていると、スピカが襲われた相手の話題へと変わる。
「スピカを襲った敵の正体は分かっているのですか?」
「敵の一人に刻まれていた紋章から判断すると闇組織ブラック・ヘロンらしいわ。大陸南部を中心に暗躍する組織みたいね」
私はブラッドから聞いた組織の内容に加えて襲撃にあった時の様子も細かく伝えた。少しでも対策ができればと考えてのことだ。
「なるほど……国際的犯罪グループの中でも様々な国で活動しているだけのことはありそうですね。戦闘能力、判断能力どちらも厄介そうです」
「ええ、王国軍にも通達を出してブラック・ヘロンに関係がある者を探し出すつもりだけど、恐らく見つけることは難しいと思うわ。十分に気をつけてちょうだい」
流石に領城に侵入を試みるほど無謀ではないと思うが念のため注意が必要だろう。今後新しい情報が判明した時は連携する事を約束して、私は城を後にした。
「スピカは親友ですもの。王になった今でもそれは変わらないわ」
ポートクリフ伯爵領の領都に着いた私たちは、そのまま領城へ向かい領主でありスピカの父である伯爵と面会していた。スピカのことは自室に届けていて、ブラッドやシリウスたち護衛は隣で待機しているため一対一で向き合っている。元々伯爵とは何度も話している間柄だが、こうして周りの目を気にせず話すのは初めてのことだ。
「ええ、陛下のことは娘からよく聞いております。王立学園に通っていた頃から、たくさん話をしておりましたからな」
伯爵は普段は見せないような朗らかな笑みを向けていた。領主として接する時の硬さがなく柔らかい印象しかなくて珍しく感じるものだ。恐らく今の姿こそが素の……父親としての顔なのかもしれない。
「最初はとても驚きましたよ。スピカのクラスは王女であったあなたに四大公爵家の令息令嬢が一堂に会するとは言え、高位の王侯貴族とそこまで親しい関係にならないと思ってましたから……それが陛下と親友になりアドリアス様と恋仲になるとは予想もしていませんでした」
「それはスピカのおかげね……当時、評判の悪かったわたくしに、あそこまで真っ直ぐ向き合ってくれた人ははじめてだったから。とても嬉しかったし感謝しかないわ」
元々仲が良いアドリアスやイリーナは置いといて、他の同年代の貴族で私との仲を深めようと思う人はとても少なかった。その中でスピカやベロニカ、ミモザは周りを気にすることなく私を誘ってくれたわけだ。
「それでも一つわからないことがあります……たとえ親友であっても陛下がスピカの事を守るために今回の計画を立てたと聞いた時は、信じることができませんでした。あなたはどうしてそこまで守ることに拘るのですか?」
伯爵はどうしても理解できないと問いかけた。本来は守られるべき王である私が友であっても臣下である貴族の令嬢を頑なに守るのかと。どうしても守りたいのなら騎士団を派遣すれば解決するのにと。
その問いかけにどう答えるか思案するが正直に答えることにした。あまり人には聞かせたことのない思いだが、伯爵であれば話しても問題ないだろうと思って。
「わたくしはね、怖がりで寂しがりで傲慢なのよ。見知った誰かが傷つく所を見たくない。もう二度と誰も失いたくない。だから戦うことにしたの。障害となるものを全て斬り伏せて、もう二度と失わず後悔しないためにね」
私も王として正しいあり方だとは思っていない。だけど今更変えることはできないだろう。そう思って伯爵の方へ顔を向けるとなんとも言えないような顔をして「なるほど…そっくりですな…」と呟いた。
「そっくり?」
「ええ、陛下のお母君であるティアラ様です。と言っても王立学園の学友だったので親交があったのは2年の間だけでしたが…」
「…っ!?あなたはお母様の事を知っているのですか!?」
私は思わず声を荒げて問いかける。今までお母様の事を話してくれたのは、叔母のイベリスとイリスたちのような侍従のみだ。貴族の中で血のつながりがなくてお母様をよく知る人は初めてだった。
「ティアラ様は傷ついた人を放っておくことができない人でした。普段から治癒魔術を行使していたためクラスメイトだけでなく、同学年の生徒は皆感謝していましたよ」
伯爵の話ではお母様は魔術を行使するのが好きで治癒魔術を施したり魔物の討伐に出掛けることが多かったらしい。卒業後の立場が複雑だったため親交が深い者は少なかったようだが、ほぼ全ての人に恩があったそうだ。
「お母様のことは叔母様…イベリスが教えてくれたけれど、今の話は初めて聞いたわ」
「ティアラ様は妹のイベリス様にはカッコつけたいと言ってましたからね。学園でのことは言ってないこともあるのでしょう」
伯爵は昔を懐かしむかのように目を細めて言葉にする。口角が少し上がっていて、どことなく楽しそうだった。
その後もお母様の話で少し盛り上がっていると、スピカが襲われた相手の話題へと変わる。
「スピカを襲った敵の正体は分かっているのですか?」
「敵の一人に刻まれていた紋章から判断すると闇組織ブラック・ヘロンらしいわ。大陸南部を中心に暗躍する組織みたいね」
私はブラッドから聞いた組織の内容に加えて襲撃にあった時の様子も細かく伝えた。少しでも対策ができればと考えてのことだ。
「なるほど……国際的犯罪グループの中でも様々な国で活動しているだけのことはありそうですね。戦闘能力、判断能力どちらも厄介そうです」
「ええ、王国軍にも通達を出してブラック・ヘロンに関係がある者を探し出すつもりだけど、恐らく見つけることは難しいと思うわ。十分に気をつけてちょうだい」
流石に領城に侵入を試みるほど無謀ではないと思うが念のため注意が必要だろう。今後新しい情報が判明した時は連携する事を約束して、私は城を後にした。
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