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第9章 ターニングポイント
27 黒い翼
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「ぎりぎりだったね……ラティアーナがある程度、相殺してくれなかったら障壁が持たなかったかも」
「けれど敵には逃げられたわ…あーもう!今回の相手は本当にやり辛い!」
爆発がおさまって土煙が晴れた頃には、敵の姿がさっぱりと消えていた。それは遠距離から狙っていた者だけでなく既に無力化していた者も含めてだ。最後の攻撃は恐らく味方を回収し逃げるために放った一撃なのだろう。
「スピカたちのことは守ることができたから結果としては悪くはない思うよ。洞窟の中も無事片付いたみたいだし、今の爆発の影響も入り口が崩壊したくらいで済んだみたいだからね」
シリウスに無事かどうか通信で尋ねたところ問題ないと返ってきた。洞窟内では奥から強力な魔物が現れたが撃破したそうだ。本来はこの辺りに棲息している魔物ではないため敵の張った罠の可能性が高いとのことだった。
今はシリウスが崩れた入り口を開通させようと少しずつ削っているらしい。
「王都でも今回の件でも厄介ね……遠くから狙っていた敵の首元に黒い翼みたいな模様が見えたけど、どこかの組織なのかしら」
流石アドリアスの反撃を受けて生きて帰っただけのことはあると考えていると、私の言葉に反応したブラッドは何かを思い出そうとしていた、頭に手を当てて考えていたブラッドは「思い出した」と言って地面に模様を描いていく。そこには私が見たのと同じような模様が描かれていた。
「この模様だわ!」
「これは大陸南部に存在する闇組織ブラック・ヘロンの紋章だよ。圧制から解放し欲望に忠実であることを理念としていて、依頼料さえ払えばどんな依頼でも受けるらしい。外に出している影の部隊から話は聞いていたけどエスペルト王国内で目にするのは初めてだね」
「今まで以上に国境の警備を厳しくしないといけないかもしれないわね」
新しい闇組織のことを聞いた私は憂鬱に感じて思わず溜め息をつく。今も国境門を通るときには国軍による検問があり街の出入りも領軍による検問がある。それでも壁を飛び越えたり転移を使ったりすれば検問をすり抜けることも可能だった。
ニコラウスや魔術省などにお願いしてエスペルト王国や都市を囲む結界を改良しようかと考えていると、崩れかけていた洞窟の入り口から大きな音が聞こえる。地面を響かせるような振動とともに暴風の槍が崩れた瓦礫を破壊して大穴が出来上がった。そしてシリウスを先頭にスピカたちを乗せた馬車が出てくる。
「ラティアーナ様……お待たせしました。スピカ様も無事ですのでご安心を」
「別に心配はしたけど不安ではなかったわよ。スピカのことありがとうね」
近衛騎士の中でも、10年近く専属護衛として仕えてくれているこの四人への信頼は特に大きい。だから大丈夫だと微笑むとシリウスやカレナ、フレアも笑みを返してくれる。
「二人も無事みたいね…今日はこのまま野営に入りましょうか」
馬車の中ではスピカとアルキオネが隣り合って座っていた。馬車が揺れた時にぶつからないように、アルキオネが支えてくれていたようだ。
「皆様のおかげです。ありがとうございました」
スピカも疲れた表情こそしているものの顔色は悪くなさそうだった。肉体的にも精神的にも問題はなさそうで少し安心だ。
「ラティアーナ様は馬車の中では休まれてはどうですか?後はわたくしや近衛騎士たちにお任せください」
「気持ちはありがたいけど、このままアルキオネが付いてあげてて。ブラッドが設置している防御陣を王鍵で補強してくるわ」
私はアルキオネの提案を断ると馬車の近くから離れた。そして遠くで野営地の守りを強化しているブラッドの近くに行く。
「防衛用の仕掛けは終わったかしら?」
「ほぼ完成かな。結界による防御や感知に加えて、魔力糸での罠も仕掛けているから早々破られることはないと思うよ」
地面には魔術具が設置されていて魔物避けや一定以上の反応に対する自動防御の仕掛けがされていた。魔力糸も辺り一面に張り巡らされていて、少しでも触れてしまえば繋がっている先の魔術が発動するだろう。
私は仕掛けられている結界の基点に触れると王鍵を起動した。結界維持の演算を王鍵で行うことで強度を高めるためだ。
「そういえば実戦で魔力糸を使っているところを初めて見たわ。地形を生かす戦いなら大分有利になりそうね」
仕掛けられている魔力糸を見て思い出すのは、先ほどまでの戦闘だ。ブラッドと共に戦う機会は何回かあったが魔力糸を扱ってはいなかった。他に使っている人を見たこともない。
私も覚えてみようかと呟くとブラッドが苦笑しながら告げた。
「元々隠密用の開発された技だからね。それに扱いこなすには細かい魔力制御が必要なのも大きいかもね」
ブラッドの説明では魔力糸を扱う感覚は、魔力弾の制御と似ているらしい。魔力を形成してから制御するか魔力の形成と制御を同時に行うかの違いだそうだ。
「僕としてはラティアーナの戦い方に驚いたよ……魔力弾の牽制はしないと思ってた」
「最近になって魔力弾の弾幕の一つ一つを変えられるようになったから…昔だったら全部の弾を均等にしかできなかったわ」
私の魔力制御が急激に上がった原因は、ゴルゴーン戦以降の不調だったりする。決して意図していたわけではない。けれど生命力が不完全な状態で魔力の制御をし続けた結果、完全状態で制御可能な魔力が増えたわけだ。
「魔力糸を覚えるなら魔力弾の軌道設定ができるようになると感覚を掴めると思うよ。ノーティア公爵家の訓練でも取り入れているから」
魔力弾は慣れれば術式を介さずに直接制御できる。そして制御方法には大きく三つあった。撃つ方向と速度だけを指定する方法、常に制御下に置いて自在に操作する方法、あらかじめ軌道や速度を設定しておく方法だ。
今までは最初の方法しか使っていなかったが、残り二つについても使うことができれば対人戦で有利になれそうだ。
「さて、準備を終わったし戻ろうか」
「そうね…シリウスたちも設営が終わったみたいだしスピカの元に行きましょうか」
その後も警戒を強めていたが襲われることはなく時間が過ぎていく。そしてさらに数日が経過し、私たちはポートクリフ伯爵領の領都へ辿り着いたのだった。
「けれど敵には逃げられたわ…あーもう!今回の相手は本当にやり辛い!」
爆発がおさまって土煙が晴れた頃には、敵の姿がさっぱりと消えていた。それは遠距離から狙っていた者だけでなく既に無力化していた者も含めてだ。最後の攻撃は恐らく味方を回収し逃げるために放った一撃なのだろう。
「スピカたちのことは守ることができたから結果としては悪くはない思うよ。洞窟の中も無事片付いたみたいだし、今の爆発の影響も入り口が崩壊したくらいで済んだみたいだからね」
シリウスに無事かどうか通信で尋ねたところ問題ないと返ってきた。洞窟内では奥から強力な魔物が現れたが撃破したそうだ。本来はこの辺りに棲息している魔物ではないため敵の張った罠の可能性が高いとのことだった。
今はシリウスが崩れた入り口を開通させようと少しずつ削っているらしい。
「王都でも今回の件でも厄介ね……遠くから狙っていた敵の首元に黒い翼みたいな模様が見えたけど、どこかの組織なのかしら」
流石アドリアスの反撃を受けて生きて帰っただけのことはあると考えていると、私の言葉に反応したブラッドは何かを思い出そうとしていた、頭に手を当てて考えていたブラッドは「思い出した」と言って地面に模様を描いていく。そこには私が見たのと同じような模様が描かれていた。
「この模様だわ!」
「これは大陸南部に存在する闇組織ブラック・ヘロンの紋章だよ。圧制から解放し欲望に忠実であることを理念としていて、依頼料さえ払えばどんな依頼でも受けるらしい。外に出している影の部隊から話は聞いていたけどエスペルト王国内で目にするのは初めてだね」
「今まで以上に国境の警備を厳しくしないといけないかもしれないわね」
新しい闇組織のことを聞いた私は憂鬱に感じて思わず溜め息をつく。今も国境門を通るときには国軍による検問があり街の出入りも領軍による検問がある。それでも壁を飛び越えたり転移を使ったりすれば検問をすり抜けることも可能だった。
ニコラウスや魔術省などにお願いしてエスペルト王国や都市を囲む結界を改良しようかと考えていると、崩れかけていた洞窟の入り口から大きな音が聞こえる。地面を響かせるような振動とともに暴風の槍が崩れた瓦礫を破壊して大穴が出来上がった。そしてシリウスを先頭にスピカたちを乗せた馬車が出てくる。
「ラティアーナ様……お待たせしました。スピカ様も無事ですのでご安心を」
「別に心配はしたけど不安ではなかったわよ。スピカのことありがとうね」
近衛騎士の中でも、10年近く専属護衛として仕えてくれているこの四人への信頼は特に大きい。だから大丈夫だと微笑むとシリウスやカレナ、フレアも笑みを返してくれる。
「二人も無事みたいね…今日はこのまま野営に入りましょうか」
馬車の中ではスピカとアルキオネが隣り合って座っていた。馬車が揺れた時にぶつからないように、アルキオネが支えてくれていたようだ。
「皆様のおかげです。ありがとうございました」
スピカも疲れた表情こそしているものの顔色は悪くなさそうだった。肉体的にも精神的にも問題はなさそうで少し安心だ。
「ラティアーナ様は馬車の中では休まれてはどうですか?後はわたくしや近衛騎士たちにお任せください」
「気持ちはありがたいけど、このままアルキオネが付いてあげてて。ブラッドが設置している防御陣を王鍵で補強してくるわ」
私はアルキオネの提案を断ると馬車の近くから離れた。そして遠くで野営地の守りを強化しているブラッドの近くに行く。
「防衛用の仕掛けは終わったかしら?」
「ほぼ完成かな。結界による防御や感知に加えて、魔力糸での罠も仕掛けているから早々破られることはないと思うよ」
地面には魔術具が設置されていて魔物避けや一定以上の反応に対する自動防御の仕掛けがされていた。魔力糸も辺り一面に張り巡らされていて、少しでも触れてしまえば繋がっている先の魔術が発動するだろう。
私は仕掛けられている結界の基点に触れると王鍵を起動した。結界維持の演算を王鍵で行うことで強度を高めるためだ。
「そういえば実戦で魔力糸を使っているところを初めて見たわ。地形を生かす戦いなら大分有利になりそうね」
仕掛けられている魔力糸を見て思い出すのは、先ほどまでの戦闘だ。ブラッドと共に戦う機会は何回かあったが魔力糸を扱ってはいなかった。他に使っている人を見たこともない。
私も覚えてみようかと呟くとブラッドが苦笑しながら告げた。
「元々隠密用の開発された技だからね。それに扱いこなすには細かい魔力制御が必要なのも大きいかもね」
ブラッドの説明では魔力糸を扱う感覚は、魔力弾の制御と似ているらしい。魔力を形成してから制御するか魔力の形成と制御を同時に行うかの違いだそうだ。
「僕としてはラティアーナの戦い方に驚いたよ……魔力弾の牽制はしないと思ってた」
「最近になって魔力弾の弾幕の一つ一つを変えられるようになったから…昔だったら全部の弾を均等にしかできなかったわ」
私の魔力制御が急激に上がった原因は、ゴルゴーン戦以降の不調だったりする。決して意図していたわけではない。けれど生命力が不完全な状態で魔力の制御をし続けた結果、完全状態で制御可能な魔力が増えたわけだ。
「魔力糸を覚えるなら魔力弾の軌道設定ができるようになると感覚を掴めると思うよ。ノーティア公爵家の訓練でも取り入れているから」
魔力弾は慣れれば術式を介さずに直接制御できる。そして制御方法には大きく三つあった。撃つ方向と速度だけを指定する方法、常に制御下に置いて自在に操作する方法、あらかじめ軌道や速度を設定しておく方法だ。
今までは最初の方法しか使っていなかったが、残り二つについても使うことができれば対人戦で有利になれそうだ。
「さて、準備を終わったし戻ろうか」
「そうね…シリウスたちも設営が終わったみたいだしスピカの元に行きましょうか」
その後も警戒を強めていたが襲われることはなく時間が過ぎていく。そしてさらに数日が経過し、私たちはポートクリフ伯爵領の領都へ辿り着いたのだった。
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