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第9章 ターニングポイント
26 見えない敵を撃て
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「危ない危ない……危うく焼かれるか酸欠になるかだったよ」
ブラッドは水魔術で溢れた劫火を消し去っていた。ただ一気に魔力を使ったせいか消耗が大きそうだ。魔力回復薬を飲みながらも口で息をしている。
「ブラッド助かったわ。それにしても…洞窟の中に罠があるなんて敵の掌で動かされている気がして釈然としないわね」
「実際のところその通りだろうね。僕たちは敵をよく知はないけど、逆に敵は僕たちをよく知っているってことでしょう」
ブラッドの言葉にぐうの音も出なかった。スピカを……貴族の中でも最上位の公爵夫人を狙っている時点で計画も調査も入念に行われていて当たり前だ。王都からポートクリフ伯爵領までの道も大きな街道を使うと数通りしかない。
「敵は恐らく超遠距離から攻撃を仕掛けているわ。ずっと監視されていた可能性もあるわね」
「そうだね。この先も罠が仕掛けられていると見て動かないと……」
スピカのことを考えると馬車を使わないのは論外だ。だから車輪が動かないほどの悪路や狭い空間を通ることはできない。
「洞窟の奥にも仕掛けがあるかも知れないわ。だからスピカたちはここで待機させるとして……わたくしとブラッドの二人で外の敵の全てを無力化するってのはどう?」
「…良いんじゃないかな?ラティアーナと僕だったら敵が何人いても遅れは取らないだろうね」
私とブラッドが外を押さえれば洞窟の入り口から敵が入ってくる事はない。仮に洞窟の奥から仕掛けられてもシリウスたち四人なら問題なく守れるはずだ。
シリウスへ視線を向けると「問題ありません」と自信を持って答えていた。
「フレアは確か弓矢を持ち歩いていたわよね?貸してくれないかしら」
「かしこまりました。ただ騎士団で正式採用されている汎用品ですがよろしいですか?」
フレアは普段剣を持って戦うスタイルだが遠距離への魔術が扱えないことを補うために様々な武器を携行している。騎士団の標準装備は、誰にでも扱いやすいように作られているため私でも問題なく使えるはずだ。
「その方がありがたいわ。弓術は剣や槍ほど得意でないからね」
私はフレアから弓矢を受け取ると矢に魔術を刻む。一定の距離内にある魔力反応を探知する魔術だ。ブラッドにも伝わるように術式の一部を改変しておく。そしてもう一本の矢には衝撃の増幅と爆発の追加、風による方向転換を刻んだ。
準備が完了した私たちは洞窟の外へと向かった。すると洞窟を出た瞬間を狙って、私たちを目掛けて巨大な岩石が降り注いでくる。
「わたくしが斬るわ。ブラッドは援護よろしく」
私は巨大な岩石を刀を抜いて一刀両断にした。岩石が私たちの横を滑り落ちていく中で、宝石を砕き地面に手をつける。すると私の手を中心に地面の広範囲が白く凍りついていく。
「なっ…!?」
「ようやく姿を現したわね……」
今まで透明になっていたはずの敵は、朧げながら姿が見えるようになる。敵に纏わりついた氷も見えなくなっているが足元が不自然に目立つからだ。なにより一体の温度差によって光が屈折して敵の迷彩が狂ったのも大きいだろう。
敵も迷彩の意味が無くなりかけていることに気づいたようで、驚きの声を思わず上げてしまったようだ。慌てて距離を取ろうとするが、敵に纏わりついた氷は足の動きを妨げる。
「…!?」
足に絡まった氷を砕いて無理やり距離を取ろうとしているが、足が止まった時間が少しでもあれば十分だ。ブラッドはその隙をついて魔力の槍を放ち敵を貫く。
「ゼロワっ…」
もう一人の敵は味方が貫かれたのを見て動揺を隠せないようだった。倒れた味方を助けようと動いた隙を狙って、私は峰打ちで敵を吹き飛ばした。
私が刀を振りかぶった時を狙ったかのように、私の頭に銃弾が飛んできた。けれどあらかじめ準備していた魔力障壁とぶつかってひびが入る。
障壁に当たって地面へと落ちた銃弾の弾道を目で追うが、相変わらず姿は見えないままだ。けれど度重なる銃撃によって、敵のいる方向は既に判明している。私は弓を構えると魔力を纏わせて弦を強化し、探知魔術を刻んだ矢を放った。放たれた矢は銃弾とほほ同じ弾道を飛び、探知魔術に一つの魔力反応が現れる。ここからおよそ200メートルくらいだ。
「見つけた…ブラッド、誘導は任せたわ」
「了解……」
私はもう一つの矢をつがえて、ブラッドは矢に魔力糸を接合した。矢を放った後はブラッドの腕次第だ。敵の魔力反応を目掛けて魔力糸を通して矢の方向を誘導していく。
「よし…捉えた!」
私は王鍵による眼を展開して矢の行方を追っているとブラッドが呟いた。そして飛んでいた矢は、急旋回して透明な何かに当たると爆発し辺りの木々ごと吹き飛ばす。
「やったか!?」
爆発した場所を眼を使って追い続ける。すると空間が少し揺らいで見えて敵の姿が朧げに見えた。黒い装束を纏っていて顔が見えないままだが、首元に黒い翼のようなタトゥーが見える。
「当たったけど倒してないわ。だけど迷彩が解けた今なら…っ!?全力で防御して!」
敵は大きな銃をしまうと木の枝を伝って一直線に近づいてくる。そして大きな筒を取り出すと空を目掛けて数発何かを放った。それは放物線を描いて私たちの頭上に落ちてきて空で炸裂する。濃密な魔力が溢れると共にいくつかの魔術が展開されていた。
「ラティアーナ!なるべく防ぐがこれは…」
「空の魔術はある程度相殺するわ!」
ブラッドは洞窟の入り口ごと覆う大きさの魔術障壁を展開する。敵の攻撃を洞窟ごと守るつもりなのだろうが、範囲を広げるほど障壁の強度は脆くなる。
私も少しでも敵の攻撃を軽減できるように、辰月を抜刀して魔力を込めた。黒龍の力も込めて魔力の斬撃を空の魔術ごと斬る。
すると私たちがいた場所を巨大な劫火と衝撃が包み込んだ。
ブラッドは水魔術で溢れた劫火を消し去っていた。ただ一気に魔力を使ったせいか消耗が大きそうだ。魔力回復薬を飲みながらも口で息をしている。
「ブラッド助かったわ。それにしても…洞窟の中に罠があるなんて敵の掌で動かされている気がして釈然としないわね」
「実際のところその通りだろうね。僕たちは敵をよく知はないけど、逆に敵は僕たちをよく知っているってことでしょう」
ブラッドの言葉にぐうの音も出なかった。スピカを……貴族の中でも最上位の公爵夫人を狙っている時点で計画も調査も入念に行われていて当たり前だ。王都からポートクリフ伯爵領までの道も大きな街道を使うと数通りしかない。
「敵は恐らく超遠距離から攻撃を仕掛けているわ。ずっと監視されていた可能性もあるわね」
「そうだね。この先も罠が仕掛けられていると見て動かないと……」
スピカのことを考えると馬車を使わないのは論外だ。だから車輪が動かないほどの悪路や狭い空間を通ることはできない。
「洞窟の奥にも仕掛けがあるかも知れないわ。だからスピカたちはここで待機させるとして……わたくしとブラッドの二人で外の敵の全てを無力化するってのはどう?」
「…良いんじゃないかな?ラティアーナと僕だったら敵が何人いても遅れは取らないだろうね」
私とブラッドが外を押さえれば洞窟の入り口から敵が入ってくる事はない。仮に洞窟の奥から仕掛けられてもシリウスたち四人なら問題なく守れるはずだ。
シリウスへ視線を向けると「問題ありません」と自信を持って答えていた。
「フレアは確か弓矢を持ち歩いていたわよね?貸してくれないかしら」
「かしこまりました。ただ騎士団で正式採用されている汎用品ですがよろしいですか?」
フレアは普段剣を持って戦うスタイルだが遠距離への魔術が扱えないことを補うために様々な武器を携行している。騎士団の標準装備は、誰にでも扱いやすいように作られているため私でも問題なく使えるはずだ。
「その方がありがたいわ。弓術は剣や槍ほど得意でないからね」
私はフレアから弓矢を受け取ると矢に魔術を刻む。一定の距離内にある魔力反応を探知する魔術だ。ブラッドにも伝わるように術式の一部を改変しておく。そしてもう一本の矢には衝撃の増幅と爆発の追加、風による方向転換を刻んだ。
準備が完了した私たちは洞窟の外へと向かった。すると洞窟を出た瞬間を狙って、私たちを目掛けて巨大な岩石が降り注いでくる。
「わたくしが斬るわ。ブラッドは援護よろしく」
私は巨大な岩石を刀を抜いて一刀両断にした。岩石が私たちの横を滑り落ちていく中で、宝石を砕き地面に手をつける。すると私の手を中心に地面の広範囲が白く凍りついていく。
「なっ…!?」
「ようやく姿を現したわね……」
今まで透明になっていたはずの敵は、朧げながら姿が見えるようになる。敵に纏わりついた氷も見えなくなっているが足元が不自然に目立つからだ。なにより一体の温度差によって光が屈折して敵の迷彩が狂ったのも大きいだろう。
敵も迷彩の意味が無くなりかけていることに気づいたようで、驚きの声を思わず上げてしまったようだ。慌てて距離を取ろうとするが、敵に纏わりついた氷は足の動きを妨げる。
「…!?」
足に絡まった氷を砕いて無理やり距離を取ろうとしているが、足が止まった時間が少しでもあれば十分だ。ブラッドはその隙をついて魔力の槍を放ち敵を貫く。
「ゼロワっ…」
もう一人の敵は味方が貫かれたのを見て動揺を隠せないようだった。倒れた味方を助けようと動いた隙を狙って、私は峰打ちで敵を吹き飛ばした。
私が刀を振りかぶった時を狙ったかのように、私の頭に銃弾が飛んできた。けれどあらかじめ準備していた魔力障壁とぶつかってひびが入る。
障壁に当たって地面へと落ちた銃弾の弾道を目で追うが、相変わらず姿は見えないままだ。けれど度重なる銃撃によって、敵のいる方向は既に判明している。私は弓を構えると魔力を纏わせて弦を強化し、探知魔術を刻んだ矢を放った。放たれた矢は銃弾とほほ同じ弾道を飛び、探知魔術に一つの魔力反応が現れる。ここからおよそ200メートルくらいだ。
「見つけた…ブラッド、誘導は任せたわ」
「了解……」
私はもう一つの矢をつがえて、ブラッドは矢に魔力糸を接合した。矢を放った後はブラッドの腕次第だ。敵の魔力反応を目掛けて魔力糸を通して矢の方向を誘導していく。
「よし…捉えた!」
私は王鍵による眼を展開して矢の行方を追っているとブラッドが呟いた。そして飛んでいた矢は、急旋回して透明な何かに当たると爆発し辺りの木々ごと吹き飛ばす。
「やったか!?」
爆発した場所を眼を使って追い続ける。すると空間が少し揺らいで見えて敵の姿が朧げに見えた。黒い装束を纏っていて顔が見えないままだが、首元に黒い翼のようなタトゥーが見える。
「当たったけど倒してないわ。だけど迷彩が解けた今なら…っ!?全力で防御して!」
敵は大きな銃をしまうと木の枝を伝って一直線に近づいてくる。そして大きな筒を取り出すと空を目掛けて数発何かを放った。それは放物線を描いて私たちの頭上に落ちてきて空で炸裂する。濃密な魔力が溢れると共にいくつかの魔術が展開されていた。
「ラティアーナ!なるべく防ぐがこれは…」
「空の魔術はある程度相殺するわ!」
ブラッドは洞窟の入り口ごと覆う大きさの魔術障壁を展開する。敵の攻撃を洞窟ごと守るつもりなのだろうが、範囲を広げるほど障壁の強度は脆くなる。
私も少しでも敵の攻撃を軽減できるように、辰月を抜刀して魔力を込めた。黒龍の力も込めて魔力の斬撃を空の魔術ごと斬る。
すると私たちがいた場所を巨大な劫火と衝撃が包み込んだ。
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