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第9章 ターニングポイント
23 敵の正体を探るために
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グラディウス公爵邸を去った私は、そのまま貴族街の外を目指す。途中で王族だけが知る通路を使い、変装用の魔術具を使って冒険者ギルド支部へ向かった。
エスペルト王国の中では見つからなかったが、複数の国に跨る冒険者ギルドならば何かしらの情報がある可能性があるからだ。
ギルドの建物の中に入ると受付の奥にデュランがいるのが見えた。受付に向かってデュランを呼ぶようにお願いすると「おう、久しぶりだな」と私の元へやって来る。
「それでどんな要件だ?」
「調べてもらいたいことがありまして。できれば人には聞かせたくない話です」
「…了解した。空いている部屋があるから来てくれ」
デュランは人に聞かせたくないという言葉を聞いて、一瞬だけ顔を顰めた。恐らくは私がわざわざ冒険者ギルドを頼ることから、かなりの面倒事だと予想したのだろう。
デュランは私の正体を知っている。その私が人に聞かせたくないと言っているのを察したためか、防音性の高い応接間に案内してくれた。その後、職員が運んできたお茶を一口飲んでから改めて向き直る。
「で……どんな要件だ?」
「ギルドの力で特定の人を探すことができるか知りたいの。と言ってもわかっている情報は何もなし。あるのは血のついた布のみ」
「なるほどな…だったら力になれるかも知れない。ティアは冒険者登録の仕組みを知っているか?」
「予想だけど冒険者ギルドのカードには本人の魔力を登録していて、ギルドに登録されている魔力と照合しているのでしょう?」
エスペルト王国の住民登録と同じ仕組みだろう。魔力は指紋や声紋のように人によって異なるもの。血縁関係が濃いほど似た性質にもなるため、魔力による個人識別はかなり便利なものになる。
「その通りだ。冒険者ギルドに登録したときの情報は本部に登録されている。その魔力と照合すれば一度でも冒険者登録した者は判別可能だ。本来であれば冒険者の情報は機密扱いだがティアなら問題ないだろう」
デュランの説明によると冒険者登録の情報は基本的に外部に開示していないらしい。例えばエスペルト王国としてギルドに要求を出しても精々エスペルト王国内のギルド支部を拠点にしている冒険者の情報が関の山だそうだ。けれどSランク冒険者の依頼としてであれば問合せが可能となるようだ。
「国からの要求も撥ねのけるって……国によっては、圧力をかけられそうだけど?」
「その辺りはやり方が上手いのだろうよ。基本的に全ての情報は、支部ではなく本部にあるからな。簡単に言えば他国にある文書を取り寄せるようなものだ。仮に国がギルドを潰そうとしても、ほとんどの職員は地元の民だからギルドは、痛手は負わないのさ」
「流石、長いこと生き残っている組織なだけあるのね……」
エスペルト王国が建国してからの約二千年。この大陸の中で二千年も続いている国は、グランバルド帝国とアルカディア王国の他には数えるほどしかない。他の国々は統合や分裂、魔物や災害による消滅、自滅などが多々あったと聞く。冒険者ギルドはその荒れ狂う世の中を姿形を変えつつ生き残ってきたわけだ。
「でだ、その探したい奴の血が付いた布は持ってきているのか?」
「もちろん」
私が魔法袋から血の付いた布が入った箱を取り出す。この箱は中に入れた物の劣化を抑える効果があるものだ。箱から布を取り出してデュランに渡すと、机の下から取り出した魔術具の台に乗せて「ギルドのプレートを貸してくれ」とお願いしてきたためプレートを渡した。プレートを魔術具に読み込ませ、デュランのギルド証をかざし、魔術具を起動させると空中にいくつもの映像が浮かび上がる。
「これはっ…!?該当者一件、登録名はジョン・ドゥ。5年前までAランク冒険者として活動していたが規定違反により追放されているな。最終確認地点はセレーナ王国の王都だ」
セレーナ王国と言えばナイトメアによって滅ぼされ三カ国同盟によって復興されつつある国である。元々治安が悪く、少しでも路地裏に入ったり日が暮れた後に出歩くと行方不明になるとも噂されていた国だ。ただ海に面している国で真珠の生産や加工に秀でていて、商人からすると危険に応じて見返りが高い国でもある。
「規定違反って何をやったのよ?」
「チームを組んだ冒険者を売ったようだ。さらに連れ去られた仲間を助けようと駆けつけた相手を殺したとされている」
ジョン・ドゥという人間は想像以上に悪人だったらしい。人身売買も殺人も認められている国が多いが、仲間だった者を裏切るというのは、ほぼ全ての国や組織で悪とされている。
「冒険者ギルドの最大の禁忌を犯したわけね」
そして冒険者ギルドの仕組み上、国や地域によって合法と非合法が変わるため組織の規則はそれほど多くはない。その中でジョン・ドゥが行った行為は、もっとも許されてはいけない一つだろう。
「そうだな。セレーナ王国の中の場合……権力者を狙わない限り金を積めば罪に問われることはない。それでもギルドに所属している者が相手なら別だ。当時の記録を調べるのは難しいが、恐らくはギルドガードが派遣されたはずだ。だが追放扱いということは…」
「ギルドから逃げられて今回の件も十中八九本人…というわけね」
私がデュランの言葉に続けて話すと「だろうな」と苦虫を噛み潰したような顔で肯定した。
「もし見つけた時はこちらの自由にさせてもらうけど良いわよね?」
私が念のため確認すると「もちろんだ」と許可を得る。そして冒険者時代の情報について分かっている内容を教えてもらった。
ジョン・ドゥは身長が低めの男性だそうだ。凡庸という印象が強いらしく、あまり人の記憶に残らない顔をしているらしい。細身ながらも筋肉質の身体で、短剣や魔術を扱っていたそうだ。
事が片付いた時にはデュランにも知らせると伝えて、冒険者ギルドを後にした。
エスペルト王国の中では見つからなかったが、複数の国に跨る冒険者ギルドならば何かしらの情報がある可能性があるからだ。
ギルドの建物の中に入ると受付の奥にデュランがいるのが見えた。受付に向かってデュランを呼ぶようにお願いすると「おう、久しぶりだな」と私の元へやって来る。
「それでどんな要件だ?」
「調べてもらいたいことがありまして。できれば人には聞かせたくない話です」
「…了解した。空いている部屋があるから来てくれ」
デュランは人に聞かせたくないという言葉を聞いて、一瞬だけ顔を顰めた。恐らくは私がわざわざ冒険者ギルドを頼ることから、かなりの面倒事だと予想したのだろう。
デュランは私の正体を知っている。その私が人に聞かせたくないと言っているのを察したためか、防音性の高い応接間に案内してくれた。その後、職員が運んできたお茶を一口飲んでから改めて向き直る。
「で……どんな要件だ?」
「ギルドの力で特定の人を探すことができるか知りたいの。と言ってもわかっている情報は何もなし。あるのは血のついた布のみ」
「なるほどな…だったら力になれるかも知れない。ティアは冒険者登録の仕組みを知っているか?」
「予想だけど冒険者ギルドのカードには本人の魔力を登録していて、ギルドに登録されている魔力と照合しているのでしょう?」
エスペルト王国の住民登録と同じ仕組みだろう。魔力は指紋や声紋のように人によって異なるもの。血縁関係が濃いほど似た性質にもなるため、魔力による個人識別はかなり便利なものになる。
「その通りだ。冒険者ギルドに登録したときの情報は本部に登録されている。その魔力と照合すれば一度でも冒険者登録した者は判別可能だ。本来であれば冒険者の情報は機密扱いだがティアなら問題ないだろう」
デュランの説明によると冒険者登録の情報は基本的に外部に開示していないらしい。例えばエスペルト王国としてギルドに要求を出しても精々エスペルト王国内のギルド支部を拠点にしている冒険者の情報が関の山だそうだ。けれどSランク冒険者の依頼としてであれば問合せが可能となるようだ。
「国からの要求も撥ねのけるって……国によっては、圧力をかけられそうだけど?」
「その辺りはやり方が上手いのだろうよ。基本的に全ての情報は、支部ではなく本部にあるからな。簡単に言えば他国にある文書を取り寄せるようなものだ。仮に国がギルドを潰そうとしても、ほとんどの職員は地元の民だからギルドは、痛手は負わないのさ」
「流石、長いこと生き残っている組織なだけあるのね……」
エスペルト王国が建国してからの約二千年。この大陸の中で二千年も続いている国は、グランバルド帝国とアルカディア王国の他には数えるほどしかない。他の国々は統合や分裂、魔物や災害による消滅、自滅などが多々あったと聞く。冒険者ギルドはその荒れ狂う世の中を姿形を変えつつ生き残ってきたわけだ。
「でだ、その探したい奴の血が付いた布は持ってきているのか?」
「もちろん」
私が魔法袋から血の付いた布が入った箱を取り出す。この箱は中に入れた物の劣化を抑える効果があるものだ。箱から布を取り出してデュランに渡すと、机の下から取り出した魔術具の台に乗せて「ギルドのプレートを貸してくれ」とお願いしてきたためプレートを渡した。プレートを魔術具に読み込ませ、デュランのギルド証をかざし、魔術具を起動させると空中にいくつもの映像が浮かび上がる。
「これはっ…!?該当者一件、登録名はジョン・ドゥ。5年前までAランク冒険者として活動していたが規定違反により追放されているな。最終確認地点はセレーナ王国の王都だ」
セレーナ王国と言えばナイトメアによって滅ぼされ三カ国同盟によって復興されつつある国である。元々治安が悪く、少しでも路地裏に入ったり日が暮れた後に出歩くと行方不明になるとも噂されていた国だ。ただ海に面している国で真珠の生産や加工に秀でていて、商人からすると危険に応じて見返りが高い国でもある。
「規定違反って何をやったのよ?」
「チームを組んだ冒険者を売ったようだ。さらに連れ去られた仲間を助けようと駆けつけた相手を殺したとされている」
ジョン・ドゥという人間は想像以上に悪人だったらしい。人身売買も殺人も認められている国が多いが、仲間だった者を裏切るというのは、ほぼ全ての国や組織で悪とされている。
「冒険者ギルドの最大の禁忌を犯したわけね」
そして冒険者ギルドの仕組み上、国や地域によって合法と非合法が変わるため組織の規則はそれほど多くはない。その中でジョン・ドゥが行った行為は、もっとも許されてはいけない一つだろう。
「そうだな。セレーナ王国の中の場合……権力者を狙わない限り金を積めば罪に問われることはない。それでもギルドに所属している者が相手なら別だ。当時の記録を調べるのは難しいが、恐らくはギルドガードが派遣されたはずだ。だが追放扱いということは…」
「ギルドから逃げられて今回の件も十中八九本人…というわけね」
私がデュランの言葉に続けて話すと「だろうな」と苦虫を噛み潰したような顔で肯定した。
「もし見つけた時はこちらの自由にさせてもらうけど良いわよね?」
私が念のため確認すると「もちろんだ」と許可を得る。そして冒険者時代の情報について分かっている内容を教えてもらった。
ジョン・ドゥは身長が低めの男性だそうだ。凡庸という印象が強いらしく、あまり人の記憶に残らない顔をしているらしい。細身ながらも筋肉質の身体で、短剣や魔術を扱っていたそうだ。
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