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第9章 ターニングポイント
21 コーネリアの意思
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「私の妃としてコーネリアを娶りたいと考えています。姉上、許可をいただけますか?」
リーファスは一呼吸空けてからはっきりと告げた。その表情は緊張しているのが丸見えで、一世一代の告白をしたかのようだった。
「わたくしの考えは以前伝えたとおりよ。リーファスが選んだ相手であれば、とやかく言うつもりはないし、コーネリアなら魔力的な問題も起きないでしょう。ただしコーネリアに妃となる覚悟はできているのかしら?」
高位の貴族でも王族とは扱いが全く違う。妃となって王族入りを果たすということは、今まで目上だった者も含めて貴族よりも上に立つということだ。そして貴族の派閥を押さえ調整し王を支えなければならない。
「覚悟ですか……?」
「婚約者として発表すれば後戻りはできないわ。妃教育として他の令嬢よりも学ぶことが増えて大変になる。王立学園でも妃を狙っていた令嬢から敵意をぶつけられることもあるかも知れない。今まで以上の悪意に晒される中で上手く立ち回る必要があるのよ」
王立学園は身分に捕らわれない不文律があるが、実態は貴族社会の縮図だ。侯爵家だから直接何かをされることはないだろうが、表向きは何もしなくても裏でどうかは分からない。
「コーネリアであれば大丈夫と信じています。それに……何かあったとしても私が守ります」
「そう…だったら構わないわ。あとはコーネリアと侯爵を城へ召還するわ。正式な書状は追って出すから、内々に伝えておきなさい」
王侯貴族の結婚には準備期間が長くお金がかかるものだ。配偶者は持参金が必要になり、王族に嫁ぐともなれば大金が必要となる。ドレスをはじめとする様々な品も用意しなければならない。
恐らくコーネリアから侯爵には伝えているだろうが、私からも話を通しておく必要があるだろう。
リーファスも私の言葉に安心したようで、ほっと息をついた。
「堅苦しい話はこれくらいにして……馴れ初めでも聞かせなさいよ。前の実戦演習のときは、そこまで親しくなかったわよね」
「なっ…!べ、別に同じクラスで学んでいて話しているうちに仲良くなったと言いますか……普通です、普通」
私は顔を赤く染めているリーファスにじーっと視線を送る。少しの間、目を逸らしていたが私の視線に耐え切れなくなったのか「目標に向かってひたむきなところです」と呟いた。
「学園で初めて話したときの印象は、同い歳と思えないくらい幼く感じて、守ってあげないといけないと感じました。けれどコーネリアは芯が強くて努力家で、決して妥協しません。その姿を見ていて美しいと感じました。傍で、隣で彼女のことを見たい、支えたいと思ったのです……私もコーネリアも姉上のことを目標にしていて話す機会が多かったのも大きいですね」
リーファスは学園生活を思い浮かべるように話していく。その声音には恥ずかしさと嬉しさが混じっていて、コーネリアへの恋情も混じっているようだった。その初々しいリーファスにニヤニヤとした笑みを浮かべていると「それだけです!」と誤魔化すように視線を逸らした。
「何も言ってないわよ。ただ可愛い弟が恋をして、好きな相手を紹介してくれるとなると……感慨深いと思ってね」
少し前までは、まだ子どもだと思っていた。私が守らないといけないとも。それが好きな相手を見つけ一人の人間を愛し守りたいと言う。気付かないうちに守られる側から守る側になっていたのだと思うと、寂しくもあり嬉しくもある。
「わたくしはリーファスとコーネリアのことを応援しているわ。おめでとう」
微笑ましく緩んでいた顔を引き締めて「これからもがんばりなさい」と告げた。リーファスも姿勢を正すと「姉上、ありがとうふございます」と言葉にして笑みを浮かべたのだった。
その後リーファスはニコラウスの元へと向かった。王太子として宰相や各大臣の業務を詳しく知るためだ。いずれは王太子としての権限で決裁を行うようになるが、本格的に仕事を始めるのは学園を卒業してからになるだろう。
そしてリーファスが帰省してから7日ほどが経ち、コーネリアや侯爵と面会する日がやって来た。普段と違い正式な登城となるため玉座の間で話すことになる。立ち合いとしてアドリアスとニコラウスが傍に控えている。
「シルバスタ様とコーネリア様がいらっしゃいました」
玉座の間の扉が開かれて、グライアス侯爵家当主のシルバスタとコーネリアが入ってきた。所定の位置まで歩いてくると、膝をついて恭順の姿勢を示す。
シルバスタは領主として城に訪れる機会は多いがコーネリアは年二回ホールを利用するだけだ。取り繕ってはいるものの緊張しているのを感じ取ることができた。
「二人とも楽にしていいわよ」
「「はっ……恐れ入ります」」
二人が頭を上げて私を見たところで、早速本題に入ることにした。
「リーファスから聞いているとは思うけれど、リーファスとコーネリアの仲は認めているわ。すぐにでも婚約して欲しいと思うくらいにはね。だけど婚約したあとは妃教育を受けてもらうことになる。今まで以上に学ぶことも増えて忙しくなると思う。もし引き返すとしたら今しかないわよ?」
私がどうするとコーネリアに問いかけると「分かっているつもりです」と答えた。緊張はしていても覚悟が決まっているような表情をしていて、何を言っても揺らぎそうにない。
「初めは憧れでした。同じクラスで友人として接していくなかで、徐々に好きだという気持ちが強くなって……けれど、わたくしから気持ちを告げるのは王立学園の中でもいけない事と思い、陰ながらお慕いしているつもりでした。でもリーファス殿下はわたくしの事を好きだと言ってくれた。すぐには難しいかも知れないけど、周りを説得するから待っていて欲しいと言ってくれました。ですから……次はわたくしの番です」
「なら大丈夫そうね……リーファスとの婚約を進めるわ!近いうちに全貴族に向けて婚約を発表するからそのつもりでね。リーファスのこと、よろしくね」
最後の言葉は、王として姉としての願いだ。いずれ王位に就いたとき、孤独の立場を一番近くで支えてくれるだろうと思う。
コーネリアは真剣な眼差しで「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」と返事をした。
「陛下……グライアス侯爵家としても精一杯尽くす所存です」
「ありがとう…よろしくお願いするわ」
面会が終わって二人は玉座の間から退室していった。
それから数日かけて予定の調整を行うことになる。シルバスタやコーネリアとも通信で話をして、夏の長期休暇の間は王宮に滞在してもらって教師や私が教えることになった。
リーファスは一呼吸空けてからはっきりと告げた。その表情は緊張しているのが丸見えで、一世一代の告白をしたかのようだった。
「わたくしの考えは以前伝えたとおりよ。リーファスが選んだ相手であれば、とやかく言うつもりはないし、コーネリアなら魔力的な問題も起きないでしょう。ただしコーネリアに妃となる覚悟はできているのかしら?」
高位の貴族でも王族とは扱いが全く違う。妃となって王族入りを果たすということは、今まで目上だった者も含めて貴族よりも上に立つということだ。そして貴族の派閥を押さえ調整し王を支えなければならない。
「覚悟ですか……?」
「婚約者として発表すれば後戻りはできないわ。妃教育として他の令嬢よりも学ぶことが増えて大変になる。王立学園でも妃を狙っていた令嬢から敵意をぶつけられることもあるかも知れない。今まで以上の悪意に晒される中で上手く立ち回る必要があるのよ」
王立学園は身分に捕らわれない不文律があるが、実態は貴族社会の縮図だ。侯爵家だから直接何かをされることはないだろうが、表向きは何もしなくても裏でどうかは分からない。
「コーネリアであれば大丈夫と信じています。それに……何かあったとしても私が守ります」
「そう…だったら構わないわ。あとはコーネリアと侯爵を城へ召還するわ。正式な書状は追って出すから、内々に伝えておきなさい」
王侯貴族の結婚には準備期間が長くお金がかかるものだ。配偶者は持参金が必要になり、王族に嫁ぐともなれば大金が必要となる。ドレスをはじめとする様々な品も用意しなければならない。
恐らくコーネリアから侯爵には伝えているだろうが、私からも話を通しておく必要があるだろう。
リーファスも私の言葉に安心したようで、ほっと息をついた。
「堅苦しい話はこれくらいにして……馴れ初めでも聞かせなさいよ。前の実戦演習のときは、そこまで親しくなかったわよね」
「なっ…!べ、別に同じクラスで学んでいて話しているうちに仲良くなったと言いますか……普通です、普通」
私は顔を赤く染めているリーファスにじーっと視線を送る。少しの間、目を逸らしていたが私の視線に耐え切れなくなったのか「目標に向かってひたむきなところです」と呟いた。
「学園で初めて話したときの印象は、同い歳と思えないくらい幼く感じて、守ってあげないといけないと感じました。けれどコーネリアは芯が強くて努力家で、決して妥協しません。その姿を見ていて美しいと感じました。傍で、隣で彼女のことを見たい、支えたいと思ったのです……私もコーネリアも姉上のことを目標にしていて話す機会が多かったのも大きいですね」
リーファスは学園生活を思い浮かべるように話していく。その声音には恥ずかしさと嬉しさが混じっていて、コーネリアへの恋情も混じっているようだった。その初々しいリーファスにニヤニヤとした笑みを浮かべていると「それだけです!」と誤魔化すように視線を逸らした。
「何も言ってないわよ。ただ可愛い弟が恋をして、好きな相手を紹介してくれるとなると……感慨深いと思ってね」
少し前までは、まだ子どもだと思っていた。私が守らないといけないとも。それが好きな相手を見つけ一人の人間を愛し守りたいと言う。気付かないうちに守られる側から守る側になっていたのだと思うと、寂しくもあり嬉しくもある。
「わたくしはリーファスとコーネリアのことを応援しているわ。おめでとう」
微笑ましく緩んでいた顔を引き締めて「これからもがんばりなさい」と告げた。リーファスも姿勢を正すと「姉上、ありがとうふございます」と言葉にして笑みを浮かべたのだった。
その後リーファスはニコラウスの元へと向かった。王太子として宰相や各大臣の業務を詳しく知るためだ。いずれは王太子としての権限で決裁を行うようになるが、本格的に仕事を始めるのは学園を卒業してからになるだろう。
そしてリーファスが帰省してから7日ほどが経ち、コーネリアや侯爵と面会する日がやって来た。普段と違い正式な登城となるため玉座の間で話すことになる。立ち合いとしてアドリアスとニコラウスが傍に控えている。
「シルバスタ様とコーネリア様がいらっしゃいました」
玉座の間の扉が開かれて、グライアス侯爵家当主のシルバスタとコーネリアが入ってきた。所定の位置まで歩いてくると、膝をついて恭順の姿勢を示す。
シルバスタは領主として城に訪れる機会は多いがコーネリアは年二回ホールを利用するだけだ。取り繕ってはいるものの緊張しているのを感じ取ることができた。
「二人とも楽にしていいわよ」
「「はっ……恐れ入ります」」
二人が頭を上げて私を見たところで、早速本題に入ることにした。
「リーファスから聞いているとは思うけれど、リーファスとコーネリアの仲は認めているわ。すぐにでも婚約して欲しいと思うくらいにはね。だけど婚約したあとは妃教育を受けてもらうことになる。今まで以上に学ぶことも増えて忙しくなると思う。もし引き返すとしたら今しかないわよ?」
私がどうするとコーネリアに問いかけると「分かっているつもりです」と答えた。緊張はしていても覚悟が決まっているような表情をしていて、何を言っても揺らぎそうにない。
「初めは憧れでした。同じクラスで友人として接していくなかで、徐々に好きだという気持ちが強くなって……けれど、わたくしから気持ちを告げるのは王立学園の中でもいけない事と思い、陰ながらお慕いしているつもりでした。でもリーファス殿下はわたくしの事を好きだと言ってくれた。すぐには難しいかも知れないけど、周りを説得するから待っていて欲しいと言ってくれました。ですから……次はわたくしの番です」
「なら大丈夫そうね……リーファスとの婚約を進めるわ!近いうちに全貴族に向けて婚約を発表するからそのつもりでね。リーファスのこと、よろしくね」
最後の言葉は、王として姉としての願いだ。いずれ王位に就いたとき、孤独の立場を一番近くで支えてくれるだろうと思う。
コーネリアは真剣な眼差しで「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」と返事をした。
「陛下……グライアス侯爵家としても精一杯尽くす所存です」
「ありがとう…よろしくお願いするわ」
面会が終わって二人は玉座の間から退室していった。
それから数日かけて予定の調整を行うことになる。シルバスタやコーネリアとも通信で話をして、夏の長期休暇の間は王宮に滞在してもらって教師や私が教えることになった。
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