241 / 430
第9章 ターニングポイント
17 全領地への通達
しおりを挟む
会議室へ入るとアドリアスやニコラウス、各大臣が既に待っていた。
「待たせたわね。では会議を始めましょうか」
大臣たちの顔ぶれは私が王位についてから変わっていない。数年の付き合いになり、何かとこのメンバーで話し合いをすることが多く、実務でもよく会話する間柄となっていた。そのため形式ばることなく会議を開くことができる。
私が声を掛けて座ると「かしこまりました」とニコラウスが説明を始めた。
「今回の議題は二つ。領主会議の決定事項の突き詰めとグランバルド帝国から来た書状についてです。まずは領主会議からですね」
ニコラウスが魔術具を操作し中心に映像を映し出す。そこには領主会議で決めた内容とエスペルト王国の全体地図が浮かび上がった。
「領主会議で決まった内容を念のため再確認しますが…領地間で最上級以上の実力者を共有することです。基本的には特級クラスの敵性存在が出現した際に共有戦力の内、一番早く出撃できる者を複数名、派遣するという取り決めですね。また出現予測のためにも魔力濃度や魔物の遭遇数を定期的に観測し共有することになりました。ここまでで何かありますか?」
ニコラウスが周りへ問いかけると魔術省の大臣が手を挙げた。
「情報の共有はありがたいが観測頻度や観測項目は全領地で統一して欲しいですね。統一されていない情報が集まっては、重要な事項を見逃す危険性があります」
魔術省に務めている人は研究が好きな文官が多い、特に魔術省の大臣は潔癖すぎるほど正確性を求めることで噂になるほどだ。けれど領地に求めるのは無理だと技術開発大臣は首を横に振る。
「ですが領地によって動かせる人も観測地域の広さもばらばらです。確認する項目はともかく、頻度を合わせることは現実的に考えて難しいと思いますよ?」
「未知の存在なのですから……手を抜くべきではないでしょう」
「ですが人員が足りないです。私だって技術開発に携わる以上、収集内容の正確性は大事だと思ってますが依頼する以上、相手の事情を考慮するべきかと」
二人の大臣による言い争いは徐々に加熱していく。どちらの意見も正しいためか、他の大臣たちは静観するようで二人の独壇場となっていた。
「お二人とも、少し落ち着きましょうか。魔術大臣の仰るとおり正確な情報は必要です。ですが領地の文官に全てを任せるのは酷なことも事実です」
このままでは埒が明かないと思ったようでニコラウスが嗜める。すると二人も熱くなっていたことに気付いたようだった。
「二人とも落ち着いたみたいね。わたくしとしても正確な情報は欲しいけれど、領地への負担は増やしたくないわ。だからニコラウス、中央にいる文官を一時的に派遣して領地の文官との協力体制を築きなさい」
「かしこまりました陛下…時期を延ばすことできる案件を調整します」
「ええ、お願いね。皆もいいわよね?」
アドリアスや他の大臣からも「もちろんです」と異論はなさそうだった。
「では私のほうで調整を行い、陛下の承認を得ましたら全領地へ通達します。それでは次に移りますが……グランバルド帝国からの書状についてです。陛下お願いします」
「昨日、グランバルド帝国から書状が届いたわ。内容は国境沿いで停戦の協定を結ばないかと言う提案ね。あちらが提示した内容はデトローク将軍と押収した魔剣ボルテアスパーダの返還よ」
グランバルド帝国からの停戦交渉は数月前のローザリンデを嫁がせるように伝えてきた以来となる。将軍と魔剣の返還とはいえ一時的なやり取りで年限付きの停戦を約束させることができるのは大きいだろう。
実際、今日始めて話を聞いたアドリアスやニコラウス以外の大臣たちは驚きの様相を見せていた。
「以前よりもかなり譲歩していますね…これは陛下が考えている通りかも知れません」
「グランバルド帝国の最高戦力と最高峰の魔剣を手放すのは惜しいですが、停戦の取り決めは大きいですね」
「グランバルド帝国の皇族との関係が持てないから年限付きになるけれど……いえ、期限が決まっているからこそ信じることができると思うわ」
親しくない相手……それも国同士の約束が成立するのは対等な立場であるとき、もしくは利害関係が一致する場合が多い。けれど利害のバランスが崩れるか、相手との約束を守る意味が無くなってしまえば国同士の約束など簡単に破棄されてしまう。けれど期間が定められている場合は話が別だ。
「短い期間の決め事を破棄した場合、信用を失う上に余裕がないことを示すようなものですからね…グランバルド帝国としても威信を落とすような事はしないでしょう」
私とニコラウスの言葉に皆が首肯する中、魔術大臣が「それにデトローク将軍と戦うことになっても元帥であれば対処できる可能性が高いです」と口を開く。
「魔剣については解析済みです。大昔の技術が使われている上に現存しない素材も使われているため、再現することはできませんでしたが……魔剣の能力については判明しました」
魔剣ボルテアスパーダは太古の時代に作られた魔剣に精神生命体を封じ込めたものらしい。その能力は魔力を雷光属性へ変質させること、そして変質した雷の魔力を増幅させるそうだ。
「前回は能力の詳細が分からなかったから苦戦したけれど解析できたのなら対策が取れるわ。それにわたくしもアドリアスも前よりも強くなっている……遅れは取らないつもりよ」
その後ニコラウスや大臣からも反対の意見が出なかったため、グランバルド帝国との交渉の日程を調整することになった。
「ではニコラウスには全領地への通達と帝国との交渉を任せるわ。大臣たちも引き続きよろしくね」
私の言葉にニコラウスと大臣たちは一斉に返事をする。
「そしてアドリアスにはグランバルド帝国との交渉の準備をお願い。それから念のために国境沿いの警備の強化を」
こうして会議は無事終了し解散となる。
数日後、ニコラウスが作成し私が承認した特級クラスの存在への対策が開始されることになった。さらにはグランバルド帝国との交渉へ向けたやり取りが開始されたのだった。
「待たせたわね。では会議を始めましょうか」
大臣たちの顔ぶれは私が王位についてから変わっていない。数年の付き合いになり、何かとこのメンバーで話し合いをすることが多く、実務でもよく会話する間柄となっていた。そのため形式ばることなく会議を開くことができる。
私が声を掛けて座ると「かしこまりました」とニコラウスが説明を始めた。
「今回の議題は二つ。領主会議の決定事項の突き詰めとグランバルド帝国から来た書状についてです。まずは領主会議からですね」
ニコラウスが魔術具を操作し中心に映像を映し出す。そこには領主会議で決めた内容とエスペルト王国の全体地図が浮かび上がった。
「領主会議で決まった内容を念のため再確認しますが…領地間で最上級以上の実力者を共有することです。基本的には特級クラスの敵性存在が出現した際に共有戦力の内、一番早く出撃できる者を複数名、派遣するという取り決めですね。また出現予測のためにも魔力濃度や魔物の遭遇数を定期的に観測し共有することになりました。ここまでで何かありますか?」
ニコラウスが周りへ問いかけると魔術省の大臣が手を挙げた。
「情報の共有はありがたいが観測頻度や観測項目は全領地で統一して欲しいですね。統一されていない情報が集まっては、重要な事項を見逃す危険性があります」
魔術省に務めている人は研究が好きな文官が多い、特に魔術省の大臣は潔癖すぎるほど正確性を求めることで噂になるほどだ。けれど領地に求めるのは無理だと技術開発大臣は首を横に振る。
「ですが領地によって動かせる人も観測地域の広さもばらばらです。確認する項目はともかく、頻度を合わせることは現実的に考えて難しいと思いますよ?」
「未知の存在なのですから……手を抜くべきではないでしょう」
「ですが人員が足りないです。私だって技術開発に携わる以上、収集内容の正確性は大事だと思ってますが依頼する以上、相手の事情を考慮するべきかと」
二人の大臣による言い争いは徐々に加熱していく。どちらの意見も正しいためか、他の大臣たちは静観するようで二人の独壇場となっていた。
「お二人とも、少し落ち着きましょうか。魔術大臣の仰るとおり正確な情報は必要です。ですが領地の文官に全てを任せるのは酷なことも事実です」
このままでは埒が明かないと思ったようでニコラウスが嗜める。すると二人も熱くなっていたことに気付いたようだった。
「二人とも落ち着いたみたいね。わたくしとしても正確な情報は欲しいけれど、領地への負担は増やしたくないわ。だからニコラウス、中央にいる文官を一時的に派遣して領地の文官との協力体制を築きなさい」
「かしこまりました陛下…時期を延ばすことできる案件を調整します」
「ええ、お願いね。皆もいいわよね?」
アドリアスや他の大臣からも「もちろんです」と異論はなさそうだった。
「では私のほうで調整を行い、陛下の承認を得ましたら全領地へ通達します。それでは次に移りますが……グランバルド帝国からの書状についてです。陛下お願いします」
「昨日、グランバルド帝国から書状が届いたわ。内容は国境沿いで停戦の協定を結ばないかと言う提案ね。あちらが提示した内容はデトローク将軍と押収した魔剣ボルテアスパーダの返還よ」
グランバルド帝国からの停戦交渉は数月前のローザリンデを嫁がせるように伝えてきた以来となる。将軍と魔剣の返還とはいえ一時的なやり取りで年限付きの停戦を約束させることができるのは大きいだろう。
実際、今日始めて話を聞いたアドリアスやニコラウス以外の大臣たちは驚きの様相を見せていた。
「以前よりもかなり譲歩していますね…これは陛下が考えている通りかも知れません」
「グランバルド帝国の最高戦力と最高峰の魔剣を手放すのは惜しいですが、停戦の取り決めは大きいですね」
「グランバルド帝国の皇族との関係が持てないから年限付きになるけれど……いえ、期限が決まっているからこそ信じることができると思うわ」
親しくない相手……それも国同士の約束が成立するのは対等な立場であるとき、もしくは利害関係が一致する場合が多い。けれど利害のバランスが崩れるか、相手との約束を守る意味が無くなってしまえば国同士の約束など簡単に破棄されてしまう。けれど期間が定められている場合は話が別だ。
「短い期間の決め事を破棄した場合、信用を失う上に余裕がないことを示すようなものですからね…グランバルド帝国としても威信を落とすような事はしないでしょう」
私とニコラウスの言葉に皆が首肯する中、魔術大臣が「それにデトローク将軍と戦うことになっても元帥であれば対処できる可能性が高いです」と口を開く。
「魔剣については解析済みです。大昔の技術が使われている上に現存しない素材も使われているため、再現することはできませんでしたが……魔剣の能力については判明しました」
魔剣ボルテアスパーダは太古の時代に作られた魔剣に精神生命体を封じ込めたものらしい。その能力は魔力を雷光属性へ変質させること、そして変質した雷の魔力を増幅させるそうだ。
「前回は能力の詳細が分からなかったから苦戦したけれど解析できたのなら対策が取れるわ。それにわたくしもアドリアスも前よりも強くなっている……遅れは取らないつもりよ」
その後ニコラウスや大臣からも反対の意見が出なかったため、グランバルド帝国との交渉の日程を調整することになった。
「ではニコラウスには全領地への通達と帝国との交渉を任せるわ。大臣たちも引き続きよろしくね」
私の言葉にニコラウスと大臣たちは一斉に返事をする。
「そしてアドリアスにはグランバルド帝国との交渉の準備をお願い。それから念のために国境沿いの警備の強化を」
こうして会議は無事終了し解散となる。
数日後、ニコラウスが作成し私が承認した特級クラスの存在への対策が開始されることになった。さらにはグランバルド帝国との交渉へ向けたやり取りが開始されたのだった。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
78
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる