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第9章 ターニングポイント
16 新たな知らせと診察
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「これで領主会議を終了とするわ!」
会議の終了を全員に告げた私は、アドリアスと共に部屋を退室する。そのまま執務室へ戻るとホッと息をついた。
「無事終わったわね…後は詳細を決めるだけだわ」
領主会議で決まった内容は、全領地へ通達する骨子となる部分だ。これを元に私と元帥のアドリアス、宰相ニコラウス、各大臣とで細かい部分を決定することになる。
「そうだな…打ち合わせはいつにするか…」
基本的に全領地に王命を出す場合、周知してから実効開始まで3月は開ける。もちろん早く決めておくに越した事はないが、数日の余裕はある。
「明日は少し休みたいし明後日くらい…」
すると私の言葉を遮るように扉を叩く音が聞こえてきて「陛下!今よろしいでしょうか!?」と声が聞こえてくる。
予定にない来訪だったため、思わずアドリアスと顔を見合わせるが、心当たりがないようで首を傾げていた。けれど急を要していそうなため「入って良いわよ」と許可を出す。
「失礼します…グランバルド帝国より書状が届きました!デトロークの身柄を引き取る代わりに年限付きの停戦を結びたいとのことです」
文官から書状を受け取って確認すると停戦の申し入れと国境付近で一度話したいとの要望が書いてあった。
想定以上に早く申し入れがあったが内容としては想定の範囲内だろう。隣で書状を見ているアドリアスも予想通りだと頷いている。
「分かったわ…ニコラウスに渡しておいてね。ご苦労様」
書状を文官に渡すと「かしこまりました」と言って執務室を去っていった。
「明日は宰相と各々の大臣を招集しましょうか。この機会に帝国の問題も片をつけたいわね」
「あぁ…グランバルド帝国との停戦が実現すれば国境の問題が解決したも同然だ。無論警戒を解くことができないが今までよりも国内に力を向けられるだろう」
「そうね…わたくしは今日はもう休むわ。明日、またよろしくね」
「もちろんだ」
私はアドリアスと共に執務室を出ると王城で別れて王宮へと向かった。
「ただいま戻ったわ」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
王宮へ入るとリーナが出迎えてくれてそのまま私室へと歩いていく。部屋に入ると軽いワンピースに着替えさせてもらった。
「リーナ、昼食はこちらに運んでもらうようにお願いね。それからシルヴィアを呼んで欲しいわ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
シルヴィアはお母様が嫁いだ頃から見てくれている医師資格を持つ人だ。法衣貴族である伯爵家の先代夫人で私も幼い頃からの間柄である。
少しするとシルヴィアが部屋にやってきて「陛下お待たせいたしました。お加減はいかがですか?」と問いかけてきた。
「もらった薬の効果が切れてきたわ…毒への耐性が高いのも考えものよね」
朝飲んだ解熱剤の効果が薄れてきたため、熱が上がりだしている状態だった。幼い頃から死なない程度に毒物を摂取していたことが薬にも影響を与えているのは、喜んで良いのか悲しむべきか複雑な気分になる。
「薬を頼るのは最低限にしたほうがよろしそうですね…こういった症状には魔術による治癒も見込めませんし、しばらくの間は休養をとるのが望ましいのですけど」
「それがそうも言っていられなくなったのよ。近いうちにグランバルド帝国の皇帝と会うかもしれないの」
元々の予定では全領地への通達を行ってしまえば休養をとることができるはずだった。グランバルド帝国についても書状のやり取りや文官を通しての交渉になると思っていたのも大きい。
「そこでシルヴィアにお願いがあるのだけど……完全回復薬を処方してくれないかしら」
私の言葉にシルヴィアは驚きの表情を見せて「何を考えているのですか!死ぬ気ですか!?」と叫ぶようにして詰め寄ってきた。
完全回復薬と言うのは文字通り身体が負った傷を完全に治癒する薬となっている。貴重な素材と魔力をふんだんに使うことで作成できる完全回復薬は、魔力回路や部位の欠損もある程度までなら即時に治癒可能と優れものだ。
「確か王宮にも何個かあったわよね?」
「ありますが…ありますけど!あれの副作用は陛下もご存知ですよね?それに薬が効いたとしても陛下の体調は良くなりません!」
「もちろん知っているわ。どんな傷にも効く代わりに生命力を代償にするのよね?確かに今の身体が弱っている状態は生命力の減少が原因よ。だけど魔力回路が完治すれば身体強化が使える。あれなら弱った身体を魔力で立て直せるわ」
シルヴィアは私の言葉を聞いて思わず絶句したようだった。珍しく口を半開きにしたまま呆然と固まっていて「可能よね?」と再度問いかけると、再起動したかのように動き出す。
「可能かもしれませんが…生命力が少なくなればなるほど魔力の制御ができなくなります。そんな状態で身体強化をするなんて無茶を通り越して無謀だと思います…ですが、陛下はもう決めているのですよね?」
私は離宮や王宮で治療を受けることが少なかったためシルヴィアと接する機会は多くなかった。けれど私は生まれたときから見守ってくれているだけあって、私のことをよく知っていると感じた。
私が静かに頷くとシルヴィアは諦めたように口を開いた。
「かしこまりました…わたくしも覚悟を決めます。ですが完全回復薬を使うのは皇帝と会うぎりぎりまで使用しないこと、それまでは極力安静に過ごすこと、この二つだけは譲れませんからね」
「ええ、ありがとう」
私が感謝を告げるとシルヴィアは仕方がないとでも言いたげな笑みを浮かべていた。
その後シルヴィアは簡単な診察だけして去っていった。そして入れ替わるようにやって来たリーナに昼食を運んでもらい食事をとる。
食事をとった後は身体を清めて、そのまま休むことにした。
ふと目が覚めた私はベッドから身体を起こした。窓から外の様子を眺めると空が紫色に染まっているのが分かる。
少し重い身体に力を入れて立ち上がると窓の近くへ寄る。窓を開けると冷えた空気が入ってきた。
「半日も寝ていたのね…」
長い時間寝ていたせいか固まった身体をほぐすように背筋を伸ばす。すると寝る前に比べて少しだけ楽になっているように感じた。
少しだけ外の空気を浴びた後ベッドへと戻るが、目が完全に覚めていて横になって目を瞑るだけにとどめる。
それから半刻ほどしてリーナがやってきて、朝の支度を行い朝食をとる。そして時間になると城の会議室へ向かった。
会議の終了を全員に告げた私は、アドリアスと共に部屋を退室する。そのまま執務室へ戻るとホッと息をついた。
「無事終わったわね…後は詳細を決めるだけだわ」
領主会議で決まった内容は、全領地へ通達する骨子となる部分だ。これを元に私と元帥のアドリアス、宰相ニコラウス、各大臣とで細かい部分を決定することになる。
「そうだな…打ち合わせはいつにするか…」
基本的に全領地に王命を出す場合、周知してから実効開始まで3月は開ける。もちろん早く決めておくに越した事はないが、数日の余裕はある。
「明日は少し休みたいし明後日くらい…」
すると私の言葉を遮るように扉を叩く音が聞こえてきて「陛下!今よろしいでしょうか!?」と声が聞こえてくる。
予定にない来訪だったため、思わずアドリアスと顔を見合わせるが、心当たりがないようで首を傾げていた。けれど急を要していそうなため「入って良いわよ」と許可を出す。
「失礼します…グランバルド帝国より書状が届きました!デトロークの身柄を引き取る代わりに年限付きの停戦を結びたいとのことです」
文官から書状を受け取って確認すると停戦の申し入れと国境付近で一度話したいとの要望が書いてあった。
想定以上に早く申し入れがあったが内容としては想定の範囲内だろう。隣で書状を見ているアドリアスも予想通りだと頷いている。
「分かったわ…ニコラウスに渡しておいてね。ご苦労様」
書状を文官に渡すと「かしこまりました」と言って執務室を去っていった。
「明日は宰相と各々の大臣を招集しましょうか。この機会に帝国の問題も片をつけたいわね」
「あぁ…グランバルド帝国との停戦が実現すれば国境の問題が解決したも同然だ。無論警戒を解くことができないが今までよりも国内に力を向けられるだろう」
「そうね…わたくしは今日はもう休むわ。明日、またよろしくね」
「もちろんだ」
私はアドリアスと共に執務室を出ると王城で別れて王宮へと向かった。
「ただいま戻ったわ」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
王宮へ入るとリーナが出迎えてくれてそのまま私室へと歩いていく。部屋に入ると軽いワンピースに着替えさせてもらった。
「リーナ、昼食はこちらに運んでもらうようにお願いね。それからシルヴィアを呼んで欲しいわ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
シルヴィアはお母様が嫁いだ頃から見てくれている医師資格を持つ人だ。法衣貴族である伯爵家の先代夫人で私も幼い頃からの間柄である。
少しするとシルヴィアが部屋にやってきて「陛下お待たせいたしました。お加減はいかがですか?」と問いかけてきた。
「もらった薬の効果が切れてきたわ…毒への耐性が高いのも考えものよね」
朝飲んだ解熱剤の効果が薄れてきたため、熱が上がりだしている状態だった。幼い頃から死なない程度に毒物を摂取していたことが薬にも影響を与えているのは、喜んで良いのか悲しむべきか複雑な気分になる。
「薬を頼るのは最低限にしたほうがよろしそうですね…こういった症状には魔術による治癒も見込めませんし、しばらくの間は休養をとるのが望ましいのですけど」
「それがそうも言っていられなくなったのよ。近いうちにグランバルド帝国の皇帝と会うかもしれないの」
元々の予定では全領地への通達を行ってしまえば休養をとることができるはずだった。グランバルド帝国についても書状のやり取りや文官を通しての交渉になると思っていたのも大きい。
「そこでシルヴィアにお願いがあるのだけど……完全回復薬を処方してくれないかしら」
私の言葉にシルヴィアは驚きの表情を見せて「何を考えているのですか!死ぬ気ですか!?」と叫ぶようにして詰め寄ってきた。
完全回復薬と言うのは文字通り身体が負った傷を完全に治癒する薬となっている。貴重な素材と魔力をふんだんに使うことで作成できる完全回復薬は、魔力回路や部位の欠損もある程度までなら即時に治癒可能と優れものだ。
「確か王宮にも何個かあったわよね?」
「ありますが…ありますけど!あれの副作用は陛下もご存知ですよね?それに薬が効いたとしても陛下の体調は良くなりません!」
「もちろん知っているわ。どんな傷にも効く代わりに生命力を代償にするのよね?確かに今の身体が弱っている状態は生命力の減少が原因よ。だけど魔力回路が完治すれば身体強化が使える。あれなら弱った身体を魔力で立て直せるわ」
シルヴィアは私の言葉を聞いて思わず絶句したようだった。珍しく口を半開きにしたまま呆然と固まっていて「可能よね?」と再度問いかけると、再起動したかのように動き出す。
「可能かもしれませんが…生命力が少なくなればなるほど魔力の制御ができなくなります。そんな状態で身体強化をするなんて無茶を通り越して無謀だと思います…ですが、陛下はもう決めているのですよね?」
私は離宮や王宮で治療を受けることが少なかったためシルヴィアと接する機会は多くなかった。けれど私は生まれたときから見守ってくれているだけあって、私のことをよく知っていると感じた。
私が静かに頷くとシルヴィアは諦めたように口を開いた。
「かしこまりました…わたくしも覚悟を決めます。ですが完全回復薬を使うのは皇帝と会うぎりぎりまで使用しないこと、それまでは極力安静に過ごすこと、この二つだけは譲れませんからね」
「ええ、ありがとう」
私が感謝を告げるとシルヴィアは仕方がないとでも言いたげな笑みを浮かべていた。
その後シルヴィアは簡単な診察だけして去っていった。そして入れ替わるようにやって来たリーナに昼食を運んでもらい食事をとる。
食事をとった後は身体を清めて、そのまま休むことにした。
ふと目が覚めた私はベッドから身体を起こした。窓から外の様子を眺めると空が紫色に染まっているのが分かる。
少し重い身体に力を入れて立ち上がると窓の近くへ寄る。窓を開けると冷えた空気が入ってきた。
「半日も寝ていたのね…」
長い時間寝ていたせいか固まった身体をほぐすように背筋を伸ばす。すると寝る前に比べて少しだけ楽になっているように感じた。
少しだけ外の空気を浴びた後ベッドへと戻るが、目が完全に覚めていて横になって目を瞑るだけにとどめる。
それから半刻ほどしてリーナがやってきて、朝の支度を行い朝食をとる。そして時間になると城の会議室へ向かった。
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