王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第9章 ターニングポイント

7 弟妹と過ごす穏やかな休日

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 実技授業ではリーファスとコーネリア、イルミナに武術を教えて、魔術をメインに学んでいる皆には護身術を教える日々が過ぎて数日。
 私が学園都市を訪れてからの初めての休日だ。

 エスペルト王国の暦での一週間は、日本と同じ七日となる。曜日の概念も同様にあって属性を基に派生した形になっている。平日が天、火、水、風、地となり休日が闇、聖といった順番になる。今日は闇の日となっていた。

「二人とも待たせたわね」

 王立学園の門の前には、ローザリンデ、リーファスが並んで待っていた。私が声をかけるとローザリンデが「わたくしたちも今来た所ですわ」と言った。

 三人で合流した後は、学園都市の街並みを歩いていく。今日の私たちは変装していないためいつもよりも目立っていた。けれど元々王侯貴族の子息が通う学園にある街だけあって、驚きながらも周りの対応は完璧だ。

「こうして三人で歩くと、マギルス公爵領までの旅路を思い出しますね。あの時の緊迫した時間と違って、ゆっくりと過ごせるのは良いものです」

「ええ、普段ですと護衛騎士が隣にいます…どうしても私室以外の場では王族として立ち振るまう必要がありますからね」

 リーファスもローザリンデもしみじみと呟いて街を眺めている。その表情は自然に笑みを浮かべていて、気分転換になるだろう。

 一応私の護衛のカレナとフレア、ローザリンデの護衛のテレシアには、遠くから見守るようにお願いしてある。街中では危険は少ないだろうが念のためと言ったところだ。

「学園都市も随分変わったのね。わたくしが通っていた頃には、なかったものがたくさんあるわ」

 王立学園の一年目……まだ王女だった頃は比較的時間があった。学園都市の全てを見ることはできなかったが、それなりに色々な場所を訪れたものだ。けれど、この数年の間で店の種類も店に並ぶ商品も大きく変わっていた。

「王都と同じで色々な物が入ってきますから…まずは食事にしませんか?おすすめのお店を紹介しますよ」

 今は5の鐘を過ぎた頃で人の活動が増える時間帯。朝食にしては少し遅いがブランチだと考えればちょうど良い時間だろう。私とリーファスは二つ返事でローザリンデの言葉に頷いた。
 ローザリンデは教師として学園にある寮に住んでいる。教員用の寮も身分や立場によって部屋が違うが、王族である彼女の部屋は最上位の部屋だ。食事も王宮と遜色ないものになっているが、たまに街に出てお店探しをしているらしい。

 ローザリンデの案内で着いた先は、大通りから少し入ったところにあるカフェだった。人通りも少なく静かな場所になっていて庭には木々が植わっている隠れ家的造りになっている。知る人ぞ知る洒落た雰囲気を持つお店だ。
 お店に入るとマスターらしき人が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。これはローザリンデ嬢…と、お初にお目にかかります。国王陛下」

 マスターは壮年の男性だった。少しだけ白髪交じりのおじさまと言った雰囲気で、一言で表すならダンディの言葉が浮かぶ。
 ただの王族であった頃はいざ知らず、王になると建国際の時に私の姿が王国全土に映し出される。変装もしない状態では、私の顔を知らない人は滅多にいない。

「今のわたくしは、ただのラティアーナでローザリンデの姉よ。かしこまらなくていいわ」

「かしこまりました。ではラティアーナ嬢…と呼ばせていただいても構いませんかな?」

 私が言外にローザリンデと同じ扱いを求めるとマスターは察してくれたようだった。恐る恐る確認してくるので苦笑いを浮かべて「もちろんよ」と返した。

 マスターの案内でカフェの2階にあるスペースに座る。窓からは木漏れ日が差し込んでいて、木々の隙間からは大通りを見渡すことができる。

「ここはハーブティーを扱っている珍しいカフェなんです。学生の頃に訪れてからのお気に入りですわ」

 エスペルト王国で主流の飲み物は紅茶だ。茶が盛んな領地では発酵させずそのまま緑茶として飲む文化もあるし、最近は輸入しているコーヒーも広まりつつある。それでもハーブなどは料理に使われるくらいで、お茶としては広まっていない。

「種類もたくさんあるのね」

「料理もとても美味しそうです。悩みますね…」

 私はメニューにあるお茶の種類に驚き、リーファスは数々の料理を見て悩んでいるようだった。

 色々迷ったが私とローザリンデは、サラダとパンが一緒になったプレートを注文しリーファスがサンドイッチを注文する。少し待つと、それぞれ注文した食事が運ばれてきた。

「こうして気兼ねなく食事ができるときが来るとはね…」

 食事をしていると目の前の光景が夢のように思えてきて、ふと言葉が漏れた。
 貴族であれば家族で食事を取ることも多いが、母親によって離宮が分かれる王族となると話が変わってくる。特にお母様がいなくなった後は、リーファスが幼かったこともあって別々の食事だ。れティシアに引き取られる前の少しの時間だけ姉妹として過ごせただけだった。

「ええ、わたくしもお兄様たちと食事を共に取っていたときは全体的にピリピリしていましたわ。そのまま王国のための…お父様たちにとっての道具として嫁ぐまで、ただひたすら決められた道を歩くと思っていましたから。現在のこの生活は想像もしていませんでしたね」

「そうですね。ローザリンデ姉上も昔は今ほど優しくありませんでしたし…」

「なっ…!?仕方なかったのよ!あの時は中立でいようと必死で、なりふり構っていられなかったのですから」

 ローザリンデが物思いに耽っているとリーファスが少し意地悪な顔をして呟く。それに顔を赤くして必死に言い返しているローザリンデ。この二人がここまで感情を出すのは初めて見た。普段は大人びている二人の少し子供っぽい…けれど、恐らく素であろうやり取りを見ていると、思わず頬が緩みそうだった。

 たまには弟妹だけでなくお父様やレティシア、お兄様たちと食事をするのも良いかも知れない、そう思った。


「そうそう…二人にプレゼントがあるのよね」

 食事が終わる頃、お茶を一口飲むと話を切り出した。同時に魔法袋からラッピングされた包みを取り出して二人に手渡しをする。

「ありがとう存じます。これは…アクセサリですか?」

「ありがとうございます。包みを開けても?」

 ローザリンデは包みの形から中に入っているものを察したようだった。リーファスも中身が気になるようで、私が「もちろん」と言った途端に、そわそわしながら包みを開ける。

「綺麗ですね…」

「お姉様からの初めてのプレゼント……嬉しいですわ」

「今まで何もできなかったから…これからは、どんどん行くから覚悟しなさい!」

 リーファスには離宮を別れる時にプレゼントを渡しているがローザリンデには渡したことがなかった。だからこそ今までの分の気持ちも合わせて、これから先に贈ろうと思った。

「じゃあ行くわよ。今日はまだまだ時間があるから1日堪能するわよ!」

「ええ、行きましょうか」「はい!」

 お店を出た私たちは、学園都市の街中へと繰り出して行った。
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