王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第9章 ターニングポイント

4 王都で過ごす休日

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 グランバルド帝国への書簡も送り返して数日。王立学園での入学式も終わって執務が一段落した頃。

 ニコラウスとも相談して約半月後に学園都市を訪れる計画を立てていた。王として王立学園の今を見ること、そして休日にはローザリンデやリーファスと過ごす仕事と休暇を兼ねた予定だ。

 その中で私はリーナを連れて王都を散策していた。久方ぶりの丸一日の休暇でティアとしてのお忍びだ。

 私が王位に就いてからも王都に出向くことは多々あった。ただ時間が空いたときに商会や工房、冒険者ギルドなど予定をこなすことがほとんどだ。こうしてゆっくりと街を歩くのは数年ぶりとなる。

「これがいか焼きですか…初めて食べましたが美味しいですね!」

「そうだろう!今まで王都では食べれない味だからな。是非堪能してくれ」

 朝早くに王城を出た私たちは、露店街で朝食を取っていた。今リーナが食べているのは最近王都で流行り始めている海鮮焼きだ。海沿いの街でしか食べられなかった物が王都でも食べれるということが人気になっていた。

「たれの味もいいですね。とても美味しいです」

 私も店主を褒めると「そこまで褒められると嬉しいな!もう一本ずつサービスしよう」と言って、笑いながら焼きたての串をくれた。

「「ありがとうございます」」

 店主にお礼を告げて串を頬張って店を後にした。

 元々王都の露店では肉の串焼きなどが主となっていた。王都近郊で採れない海の幸も飛空船による定期輸送によって運ばれてくる。生で食べることができる鮮度が良い物は高級食材になるが、火を通したり加工したりした物は、庶民でも手が届くものになり始めている。
 後数年もすれば地下鉄道が東西に開通する。より物流が盛んになることだろう。

「こうして見ると…王都も徐々に変わってきているのを感じるわね」

「ええ。以前の露店と違って香辛料を使った料理も多くなってきました。近くで採れない食べ物を見ることも少なかったです」

 こうして街を歩いていると私が行ってきた事は、無駄でなかったのだと思える。調味料だけを見ても塩や香草が主だったものが砂糖や香辛料なども広く使われるようになった。

「食事は人が生きるうえで必要な物だもの。できる限りは良くして行きたいわね」

 私が小さく呟くと隣にいたリーナにも聞こえていたようで、にこりと微笑んだ。


 朝食を食べ終えると装飾品店へアクセサリを探しに向かった。ローザリンデとリーファスへのプレゼント用で、買ったアクセサリに魔術を刻んでお守りとして渡すつもりだ。

「どういったアクセサリにするのですか?」

「うーん……首飾りか腕輪のどっちかが無難なんだけど悩みどころね…」

 高位の王侯貴族は何かしらのアクセサリを身に着けている。家紋が刻まれた指輪は必ず身につけていて、服の中に隠しやすい首飾りも身に着けている場合が多い。王族であれば強力な回復魔術が刻まれた首飾りを身に着けている。

 もっとも今回は、プレゼントとして思い浮かんだものが装飾品というだけの理由だ。折角渡すのであれば魔術を刻んでお守りとしても使えるようにするだけで、お守りを渡したいわけではない。

 リーナも夫の誕生月のプレゼントを捜すようで二人バラバラにお店の中を見て回ることにした。しばらく歩き回っていると「何をお探しですか?」と声をかけられた。店内をきょろきょろと見ていたので気にかけてくれたのだろう。

「男性用と女性用の首飾りを1つずつ探してまして…宝石がついている物が欲しいですね」

「宝石が付いている物は2階になりますね。こちらへどうぞ」

 店員に案内されて階段を登っていく。階段の先には色とりどりの宝石や宝石つきのアクセサリが並んでいた。品揃えだけでなく個々の質も高いこれらは上級貴族の目にも留まるだろう。

「これは…かなり質が良い宝石類ですね。アクセサリのデザインも中々です」

「ありがとうございます。デザイナーも喜ぶと思います」

 店員と共に商品を眺めながら会話していると、これらの商品をデザインしているのは店主でもある母親らしい。母親がデザインし父親が加工、娘が商品を売る。三人で経営している商店だそうだ。

 一通り見て回っていると、ふと目が止まる。淡いピンク色の宝石であるシャンパンガーネットを中心に花びらを意匠した首飾りとブルートパーズをあしらった腕輪。それぞれローザリンデとリーファスの好みの色だった。
 宝石の質も良く大きさもままある。魔力を込めておくには十分だ。

「この首飾りとこの腕輪をください」

「かしこまりました。包装しますので下の階でお待ちください」

 商品の用意をしてもらっている間に下へと降りる。階段を降りると入り口近くにリーナが待っていた。小包を抱えていてプレゼントを買い終わったようだ。

「リーナ早かったわね。プレゼントも決まったみたいで何よりだわ」

「おかげさまで決まりました。良いものが買えて良かったです」

 リーナは包みを大事そうに抱えて微笑んでいる。結婚してから数年経つ今でも、王宮の中で仲良し夫婦と言われているくらい仲の良い二人だ。好きな人のことを考えているリーナは、とても幸せそうなオーラを醸し出していた。

 リーナと話をしていると商品の準備が終わったようだった。住民登録証を渡して支払いを行い包みを受け取ると、お礼を告げてからお店を後にした。

 外に出ると既に日が高く昇っていて、心地よい風が吹き抜ける。

「じゃあ帰りましょうか」

「はい!」

 私たちは王城への帰路に着いた。
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