王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第9章 ターニングポイント

3 弟妹への思い

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 護国会議に参加していた領主は、王城の転移陣を使って各々の領地へ帰還することになる。
 領主たちが全員退出した後、私の他にアドリアスとニコラウスだけが残った。

「疲れたわ……」

 私は取り繕うのをやめて身体から力を抜く。王としての交渉ごとは得意であるものの、人数が増えると意図しない方向へ暴走することがある。なるべく円満に方針を決める事は、予想以上に気を使うものだ。

「お疲れ様でした。上々な結果でしたね」

 私のぼやいた言葉にニコラウスが労ってくれた。領主として参加していても宰相として、一個人として支えてくれるニコラウスの存在はとても大きく感じる。

「ニコラウス様のお陰で助かりました。私も元帥になったばかりで領主からの風当たりが強いですからね」

 アドリアスとしてもニコラウスの存在は大きいようだった。アドリアスの父であるドミニクと同い年で友人関係にあって幼少期から親しい事も理由の一つだろう。やはり老獪な領主を相手取るのは、長年の積み重ねが必要になるかも知れない。

「帝国と接している国境都市の領主が味方だったのは大きかったな。セプテンリオ伯爵への貸しが役に立ったんじゃないか?」

「そうね…数年前の行いが返ってくるとは思わなかったわ」

 アドリアスはニコラウスにお礼を告げると、私の方に視線を向けてきた。セプテンリオ伯爵の件は、内々で処理していた。詳細を知るのは私とアドリアス、シクスタスくらいだ。

 前セプテンリオ伯爵が裏切った時に伯爵家を潰さずに罪を犯していない者を当主にする決断。当時はグランバルド帝国への隙を見せないためと言う理由が大きかったが、今回のような場で味方になってくれるのは予想外の産物だった。

「護国会議で領主に話を通せたから王国軍の方は任せてほしい。準備は万全にしておく」

 アドリアスには元帥として軍の編成をお願いすることになる。ただ編成と言っても割り振りを決めるだけで国境沿いに人員を動かすわけではない。領城に設置されている転移術式を利用することで移動させる手間を省いて集結させることができる。魔力の関係で転移を連発できないとはいえ、一日もあれば可能だ。

「グランバルド帝国へ送る書状は、私の方で作成しておきます。しばらくの間は書状のやりとりだけになると思いますから、少しは休暇でもとってはいかがですか?」

「ラティアーナの事だから仕事は溜めていないのだろう?何もなければ数日くらい捻出できるだろうに」

 ニコラウスは少し心配するように、アドリアスは呆れた表情で告げてくる。
 二人の言った通り、女王になってから丸一日休んだ記憶はなかった。たまには休暇を取るのも良いかもしれない。

「そうね…グランバルド帝国が動かないうちに少し休暇でもいただこうかしら」

「良いと思いますよ?大半の内政は私の方でこなしますし…最近息子にも仕事を任せられるようになってきて時間が取れるようになりましたからな」

 ニコラウスの息子であるノルベルトは、スエンティア公爵家の嫡男に当たる。カトレアの実兄で次期宰相として執務に励んでいて歳は私の8つ上だ。内政は任せておけば大丈夫だろう。

 私は「休暇を取るときはお願いするわ」と伝えて二人と別れた。それから帝国に送る書状の確認や通常の執務をこなしていくうちに時間が過ぎていく。

 今日の仕事を終わらせると、ちょうど8の鐘が鳴った。
 少し背伸びをして凝り固まった筋肉をほぐす。そして王立学園でも
 王立学園の授業が終わる頃の時間を見計らって、ローザリンデが所有している通信用魔術具に連絡を入れる。呼び出しを少し待っていると「お待たせいたしました。お姉様どうされました?」と返事が聞こえる。

「今日の護国会議の事で一応報告なんだけど…グランバルド帝国からローザリンデ宛に皇太子との婚約打診が来ていたのよ。婚約すれば停戦するって言う言葉と合わせてね」

 私の言葉にローザリンデが息を呑む音が聞こえた。しばらくして「ついにこの時が来ましたか…」と声が聞こえてくる。

「わたくしも王女として生まれてから覚悟してましたわ。エスペルト王国の利益になるために、お姉様の…いえ国王として良い判断をしてくださいませ」

「覚悟を決めている所悪いけれど、帝国からの打診は断るつもりよ。王女を差し出せなんて人質扱いもいい所。そもそも政略結婚しなきゃ国を守れない程、エスペルト王国の力は落ちてないわ」

 そして私は護国会議で決まった内容を順番に伝えていく。全て伝え終わると、ローザリンデの「ありがとう存じます」と言う言葉を最後に通信が切れた。

 今執務室にいるのは私一人のみ。部屋の中が静寂に包まれた。ふと考えるのはローザリンデとリーファスの事。弟妹たちと話した後、一人になるとつい考えてしまう。

「妹のためにできる精一杯のことをね…」

 二人とは長い間別々の離宮にいた。それまでは建国祭などの王族として参加する行事や王城ですれ違った時に言葉を交わすくらいだった。革命が起きて二人と共に旅をして、そこから家族としての付き合いが始まったと思っている。
 私が女王になってからは、二人に危害が及ばなくなったため気兼ねなく会う事ができている。定期的に会っていて話もしている。それでも家族との距離感を知らない私は不安に感じていた。

 私にできる事は少ない。王として手を差し伸ばさない事もあるかも知れない。
 それでも幸せになってほしいと願っていた。 
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