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第9章 ターニングポイント
1 エスペルト王国暦1982年
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建国祭とお披露目を終わり、気温が暖かくなってきた頃。エスペルト王国の中で一番寒い南側でも雪がほぼ溶けている季節となる。
グライアス領での出来事が終わってからは、比較的平和な時間が進んでいた。私が進めている事業についても順調に進んでいて、大きな事件も起こっていない。
この3年の間で大きな出来事といえば、ローザリンデの学園卒業や同学年の友人で結婚する人たちが多くなってきたことだ。
卒業時点で婚約している者が大半になっていて、最近ではイリーナとアトムルが結婚した。お互いに忙しくしているため手紙でのやり取りだが、マギルス公爵家を正式に継ぐための準備中らしい。
アドリアスとスピカについても元帥としてグラディウス公爵家当主として落ち着いてきたため来年くらいに結婚すると聞いた。2人については王都に居るため定期的に会ってもいる。
そして今日、リーファスが学園都市へ向かう日であった。出発する前に執務室へ来るように伝えていて、5の鐘が鳴ると同時にノックが聞こえてきた。
「陛下、リーファスです。ただいま参りました」
「入って良いわよ」
私が許可を出すと「失礼します」と言って執務室の中に入って来る。リーファスは学園へ向かうための動きやすい格好をしていた。
「まずは入学おめでとう。これから2年間王立学園の生活を楽しみつつ、良く学ぶと良いわ。それにローザリンデも学園にいるから、いざという時は頼るようにしなさい」
「分かりました。姉上」
返事をする表情からは緊張と楽しみが混じり合っているように感じた。
またローザリンデは王立学園の卒業後、学園の教員になった。以前から人を教え導きたいと言っていたとおり夢を叶えた形になる。教員として生徒に教えつつも開いた時間を利用して魔術の研究を進めていた。
私としても王族の教員が一人いると言うのは、とても助かっていた。学園の中をよく知ることができるだけでなく、高位貴族の生徒が家の権力を振りかざさないように牽制できるからだ。
「あとは友人を増やしなさい。いずれ王になる者にとって、単純な臣下との関係だけでなく私的な場で対等に接してくれる相手は貴重よ」
元から親交のあったアドリアスやイリーナはもちろんの事、他のAクラスの皆やベロニカ、ミモザとの関係は今も続いている。女王になってからも建国祭の期間には、秘密裏にお茶会を開くほどだ。
「そして可能であれば婚約者を見つけること。わたくしの場合はあなた達がいたから急ぐ必要がないけれど、リーファスの場合は王配は必要よ」
「友人は今も何人かいますし、学園で仲良くなればとも思っていますが婚約者ですか…慣例によれば伯爵家以上ですよね?」
建国から現在までの間、王配になった者は最低でも伯爵家だった。とはいえ伯爵家の中でも力の弱いと他家からの圧力が厳しいとされる。実際にレティシアも伯爵家の出身だが、他の貴族からの圧力には勝てなかった。お父様が無理を通して正妃として扱う代わりにお母様を妃にすることを止む終えなかったのだから。
「正直家格は気にしてないのよね。ただ後ろ盾が無い人を妃に迎えるには相応の力が必要よ。わたくしが王でいる間は守れるけれど、リーファス自身が守れなければ意味が無いわ」
数年前にリーファスの立太子を発表していることで貴族の派閥のバランスは膠着状態にあった。リーファスと歳が近い貴族令嬢は妃の座を狙っている者が多いが、互いが牽制しあっているおかげでリーファスの周囲は比較的静かでもある。
しかしリーファスが特定の相手と仲良くなると他の貴族令嬢が黙ってはいない。令嬢自身が上手く立ち回るかリーファスが抑える必要があった。
「王立学園で特定の令嬢と親しくなった場合、今の均衡が崩れるというのは……理解しているつもりです。こういったバランス調整は苦手ですが良き王になりたい、と考えている以上は全力を尽くします」
リーファスは拳に力を入れて宣言した。その表情からは、半分は気合に満ちていて残り半分は空元気のようにも見える。
リーファスの性格的には陰謀を巡らせるような貴族間のやり取りは苦手だろう。それでも苦手な部分にも挑戦する様相は微笑ましく感じる。それにエスペルト王国内を安定させた後であれば真っ直ぐな国王と言うのも悪くないかもしれない。
そのためにも私が王である内にエスペルト王国の体制を磐石にしなければならないと思った。
「その意気があれば結構。2年間の学園生活を楽しんで来なさい」
私の言葉に元気良く「分かりました。行って参ります!」と返事して執務室を去っていった。少しすると入れ替わるようにアドリアスがやってくる。
「ラティアーナ、護国会議が始まるぞ…」
「ええ…今行くわ」
護国会議とは国王と元帥、辺境領主が一同に集まる国防に関する会議だ。不定期に行われる物であり参加者からの要請によって開かれることになる。
今回の場合は、北西の国境に領地を持つオルタンシア伯爵からの要請だ。
私はアドリアスと共に会議が行われる会議室へと向かった。
グライアス領での出来事が終わってからは、比較的平和な時間が進んでいた。私が進めている事業についても順調に進んでいて、大きな事件も起こっていない。
この3年の間で大きな出来事といえば、ローザリンデの学園卒業や同学年の友人で結婚する人たちが多くなってきたことだ。
卒業時点で婚約している者が大半になっていて、最近ではイリーナとアトムルが結婚した。お互いに忙しくしているため手紙でのやり取りだが、マギルス公爵家を正式に継ぐための準備中らしい。
アドリアスとスピカについても元帥としてグラディウス公爵家当主として落ち着いてきたため来年くらいに結婚すると聞いた。2人については王都に居るため定期的に会ってもいる。
そして今日、リーファスが学園都市へ向かう日であった。出発する前に執務室へ来るように伝えていて、5の鐘が鳴ると同時にノックが聞こえてきた。
「陛下、リーファスです。ただいま参りました」
「入って良いわよ」
私が許可を出すと「失礼します」と言って執務室の中に入って来る。リーファスは学園へ向かうための動きやすい格好をしていた。
「まずは入学おめでとう。これから2年間王立学園の生活を楽しみつつ、良く学ぶと良いわ。それにローザリンデも学園にいるから、いざという時は頼るようにしなさい」
「分かりました。姉上」
返事をする表情からは緊張と楽しみが混じり合っているように感じた。
またローザリンデは王立学園の卒業後、学園の教員になった。以前から人を教え導きたいと言っていたとおり夢を叶えた形になる。教員として生徒に教えつつも開いた時間を利用して魔術の研究を進めていた。
私としても王族の教員が一人いると言うのは、とても助かっていた。学園の中をよく知ることができるだけでなく、高位貴族の生徒が家の権力を振りかざさないように牽制できるからだ。
「あとは友人を増やしなさい。いずれ王になる者にとって、単純な臣下との関係だけでなく私的な場で対等に接してくれる相手は貴重よ」
元から親交のあったアドリアスやイリーナはもちろんの事、他のAクラスの皆やベロニカ、ミモザとの関係は今も続いている。女王になってからも建国祭の期間には、秘密裏にお茶会を開くほどだ。
「そして可能であれば婚約者を見つけること。わたくしの場合はあなた達がいたから急ぐ必要がないけれど、リーファスの場合は王配は必要よ」
「友人は今も何人かいますし、学園で仲良くなればとも思っていますが婚約者ですか…慣例によれば伯爵家以上ですよね?」
建国から現在までの間、王配になった者は最低でも伯爵家だった。とはいえ伯爵家の中でも力の弱いと他家からの圧力が厳しいとされる。実際にレティシアも伯爵家の出身だが、他の貴族からの圧力には勝てなかった。お父様が無理を通して正妃として扱う代わりにお母様を妃にすることを止む終えなかったのだから。
「正直家格は気にしてないのよね。ただ後ろ盾が無い人を妃に迎えるには相応の力が必要よ。わたくしが王でいる間は守れるけれど、リーファス自身が守れなければ意味が無いわ」
数年前にリーファスの立太子を発表していることで貴族の派閥のバランスは膠着状態にあった。リーファスと歳が近い貴族令嬢は妃の座を狙っている者が多いが、互いが牽制しあっているおかげでリーファスの周囲は比較的静かでもある。
しかしリーファスが特定の相手と仲良くなると他の貴族令嬢が黙ってはいない。令嬢自身が上手く立ち回るかリーファスが抑える必要があった。
「王立学園で特定の令嬢と親しくなった場合、今の均衡が崩れるというのは……理解しているつもりです。こういったバランス調整は苦手ですが良き王になりたい、と考えている以上は全力を尽くします」
リーファスは拳に力を入れて宣言した。その表情からは、半分は気合に満ちていて残り半分は空元気のようにも見える。
リーファスの性格的には陰謀を巡らせるような貴族間のやり取りは苦手だろう。それでも苦手な部分にも挑戦する様相は微笑ましく感じる。それにエスペルト王国内を安定させた後であれば真っ直ぐな国王と言うのも悪くないかもしれない。
そのためにも私が王である内にエスペルト王国の体制を磐石にしなければならないと思った。
「その意気があれば結構。2年間の学園生活を楽しんで来なさい」
私の言葉に元気良く「分かりました。行って参ります!」と返事して執務室を去っていった。少しすると入れ替わるようにアドリアスがやってくる。
「ラティアーナ、護国会議が始まるぞ…」
「ええ…今行くわ」
護国会議とは国王と元帥、辺境領主が一同に集まる国防に関する会議だ。不定期に行われる物であり参加者からの要請によって開かれることになる。
今回の場合は、北西の国境に領地を持つオルタンシア伯爵からの要請だ。
私はアドリアスと共に会議が行われる会議室へと向かった。
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