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第8章 女王の日常と南の国々
47 裁定と決着
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「フィンの考えは分かった…ラティアーナ陛下、フィンの扱いはどうしましょうか?」
グライアス侯爵が私に尋ねたのはフィンの罪の扱いについてだ。フィンは平民なため裁判権は領主にある。しかし王族に対して危害を加えた場合などは、裁判権が国王となるからだ。
「国王としていたわけでないから王への反逆には問わないつもりよ。侯爵に委ねるわ」
私の場合はいつも通りの対応をする。それを聞いた侯爵が「ではお言葉に甘えて…」と呟いてフィンを見た。
フィンも裁定が下されるのを感じて、背筋をぴんと伸ばした。
「フィンよ。グライアス侯爵領の領主として其方に裁定を下す。今回の行動は領主への反逆となるが、最良ではないものの私たちのためにもなる行動でもあった。これからも領地に誠心誠意仕えることで罪を償うように」
それは実質の無罪宣告。フィンを許し、これからも筆頭魔術士として扱うと言うもの。
グライアス侯爵の裁定にフィンは良く理解できないようだった。何度か瞬きしてようやく言葉の意味を理解する。信じられないとでも言うような表情で口を開いた。
「私は反逆したのですよ。それなのに…」
「構わん。領主として罪を裁くには、全ての事実詳らかにし、関わった者全てを真実を見極なければならない。フィンの行動だけを見れば反逆と言えるだろう。しかしフィンにとっての真実は、領地を傷つけないようにコーネリアの命を守ろうとしたという事。であれば領主として答えなければならない、それだけのことだ」
グライアス侯爵の言葉には重みがある。建国初期から存在し長い歴史を誇るグライアス侯爵家。その領主として侯爵として、貴族社会の荒波を乗り切ってきただけのことはある、そう感じるものだった。
「ありがとうございます。この命、グライアス侯爵領のため、そしてエスペルト王国のために使いたいと思います」
フィンは頭を深く下げた。隷属の呪いから解放された今、組織からも解放されたも同然だ。ようやく自身の意思で歩みを進めることができるだろう。
師として慕っていたコーネリアも言葉にこそしないものの、安心したように笑みを浮かべてほっと息をつく。
「ではフィンの扱いが決まったことで早速本題に入りましょうか。まずは現在判明していることについて、私から申し上げましょう」
ニコラウスが話題を変えると映写の魔術具に手をかざす。調査結果が空中に投影された。
「ノワール商会自体は国外に本店があるため詳細までは掴めませんでした。ですがエスペルト王国内に進出したのは半年ほど前になりますね。侯爵家に潜入していたのはフィンを除いて3人。ただし誰も組織の人間と直接会った事のある者はいないようです」
組織と繋がっていた人間は執事のほかにも侍女と料理人に1人ずつ。ただし組織からは隷属の呪いを経由して言葉が送られてくるため顔も知らないらしい。
「5年以上前からとは、随分と念入りな計画になりますな。我が侯爵領を狙っていたのか、あるいはエスペルト王国自体を狙っているのか…」
「正直なところ目的がよく分からないのよね…ここは大都市だし流通の要所でもあるけれど代替が効かないわけじゃない。国防の要所でもないし、ね」
私はため息を吐きながら口にする。他の皆も怪訝な表情をしているが、そもそも目的が分からない。
少しの間考えていると、ニコラウスが「もしかしたら…」と言葉にした。
「根拠はないですが今回の件も邪教が絡んでいるかも知れませんよ?5年前くらいから度々事件を起こしてますし、大陸の南側は元々邪教信徒が多いらしいですからね」
「邪教ねぇ…」
「怪しい組織ではありますね…」
私と侯爵があり得るかもしれないと考えていると、今まで静かに聞いていたコーネリアが「邪教ってなんなのでしょうか?わたくしも名前は聞いたことがるのですが…」と言う。
「邪教と言うのは生物の本質を邪とする信仰ですね。魔物のように本能のままに生きることを正として欲のために行動する、と言う思想らしいです」
この大陸にある宗教は大きく分けると2つにある。エスペルト王国も含め多数の国家に根付いている精霊教。そしてもう1つが邪教だ。
邪教は精霊教と違い教会のような組織はない。あくまで純粋な思想だけのものだ。
孤児院長の時は邪気による強化を、バルトロスの時は悪獣の復活を目的としていた。思想が同じだとしても目的は人それぞれとなる。
「結局、事が起こってから対応するしかなさそうね。ニコラウスはノーティア公爵家と協力して警戒だけはお願いね」
「かしこまりました。お任せください」
残りの調査をニコラウスに任せることにした。不明な部分は多いがグライアス侯爵領については、事態を解決できたと考えていいだろう。
それから1日ほど滞在して私たちは王都への帰路に着く。今回の事件だけでなく地下鉄道や流通についても話をすることができたため、とても有意義な時間にすることができた。
「グライアス侯爵。此度の話はとても有意義でした。王国貴族として、これからも期待しているわ」
「こちらこそありがとうございました。今後もエスペルト王国のため力を尽くす所存です」
「ええ、あなたの忠誠しかと受け取ったわ」
侯爵と挨拶を交わしているとコーネリアと目が合う。この滞在期間の中で協力を仰いだエデンを除けば1番濃い時間を過ごしたのが彼女だ。
「コーネリアも元気でね」
「ありがとう存じます!」
私たちは王都へと帰還した。
その後、事件についてはエスペルト王国内を隈なく調査した。痕跡こそ見つかるものの正体までは辿り着かない。
目的も正体もわからない以上、警戒を続けるしかないだろう。
そして約3年が経つ。私は17歳になった。
グライアス侯爵が私に尋ねたのはフィンの罪の扱いについてだ。フィンは平民なため裁判権は領主にある。しかし王族に対して危害を加えた場合などは、裁判権が国王となるからだ。
「国王としていたわけでないから王への反逆には問わないつもりよ。侯爵に委ねるわ」
私の場合はいつも通りの対応をする。それを聞いた侯爵が「ではお言葉に甘えて…」と呟いてフィンを見た。
フィンも裁定が下されるのを感じて、背筋をぴんと伸ばした。
「フィンよ。グライアス侯爵領の領主として其方に裁定を下す。今回の行動は領主への反逆となるが、最良ではないものの私たちのためにもなる行動でもあった。これからも領地に誠心誠意仕えることで罪を償うように」
それは実質の無罪宣告。フィンを許し、これからも筆頭魔術士として扱うと言うもの。
グライアス侯爵の裁定にフィンは良く理解できないようだった。何度か瞬きしてようやく言葉の意味を理解する。信じられないとでも言うような表情で口を開いた。
「私は反逆したのですよ。それなのに…」
「構わん。領主として罪を裁くには、全ての事実詳らかにし、関わった者全てを真実を見極なければならない。フィンの行動だけを見れば反逆と言えるだろう。しかしフィンにとっての真実は、領地を傷つけないようにコーネリアの命を守ろうとしたという事。であれば領主として答えなければならない、それだけのことだ」
グライアス侯爵の言葉には重みがある。建国初期から存在し長い歴史を誇るグライアス侯爵家。その領主として侯爵として、貴族社会の荒波を乗り切ってきただけのことはある、そう感じるものだった。
「ありがとうございます。この命、グライアス侯爵領のため、そしてエスペルト王国のために使いたいと思います」
フィンは頭を深く下げた。隷属の呪いから解放された今、組織からも解放されたも同然だ。ようやく自身の意思で歩みを進めることができるだろう。
師として慕っていたコーネリアも言葉にこそしないものの、安心したように笑みを浮かべてほっと息をつく。
「ではフィンの扱いが決まったことで早速本題に入りましょうか。まずは現在判明していることについて、私から申し上げましょう」
ニコラウスが話題を変えると映写の魔術具に手をかざす。調査結果が空中に投影された。
「ノワール商会自体は国外に本店があるため詳細までは掴めませんでした。ですがエスペルト王国内に進出したのは半年ほど前になりますね。侯爵家に潜入していたのはフィンを除いて3人。ただし誰も組織の人間と直接会った事のある者はいないようです」
組織と繋がっていた人間は執事のほかにも侍女と料理人に1人ずつ。ただし組織からは隷属の呪いを経由して言葉が送られてくるため顔も知らないらしい。
「5年以上前からとは、随分と念入りな計画になりますな。我が侯爵領を狙っていたのか、あるいはエスペルト王国自体を狙っているのか…」
「正直なところ目的がよく分からないのよね…ここは大都市だし流通の要所でもあるけれど代替が効かないわけじゃない。国防の要所でもないし、ね」
私はため息を吐きながら口にする。他の皆も怪訝な表情をしているが、そもそも目的が分からない。
少しの間考えていると、ニコラウスが「もしかしたら…」と言葉にした。
「根拠はないですが今回の件も邪教が絡んでいるかも知れませんよ?5年前くらいから度々事件を起こしてますし、大陸の南側は元々邪教信徒が多いらしいですからね」
「邪教ねぇ…」
「怪しい組織ではありますね…」
私と侯爵があり得るかもしれないと考えていると、今まで静かに聞いていたコーネリアが「邪教ってなんなのでしょうか?わたくしも名前は聞いたことがるのですが…」と言う。
「邪教と言うのは生物の本質を邪とする信仰ですね。魔物のように本能のままに生きることを正として欲のために行動する、と言う思想らしいです」
この大陸にある宗教は大きく分けると2つにある。エスペルト王国も含め多数の国家に根付いている精霊教。そしてもう1つが邪教だ。
邪教は精霊教と違い教会のような組織はない。あくまで純粋な思想だけのものだ。
孤児院長の時は邪気による強化を、バルトロスの時は悪獣の復活を目的としていた。思想が同じだとしても目的は人それぞれとなる。
「結局、事が起こってから対応するしかなさそうね。ニコラウスはノーティア公爵家と協力して警戒だけはお願いね」
「かしこまりました。お任せください」
残りの調査をニコラウスに任せることにした。不明な部分は多いがグライアス侯爵領については、事態を解決できたと考えていいだろう。
それから1日ほど滞在して私たちは王都への帰路に着く。今回の事件だけでなく地下鉄道や流通についても話をすることができたため、とても有意義な時間にすることができた。
「グライアス侯爵。此度の話はとても有意義でした。王国貴族として、これからも期待しているわ」
「こちらこそありがとうございました。今後もエスペルト王国のため力を尽くす所存です」
「ええ、あなたの忠誠しかと受け取ったわ」
侯爵と挨拶を交わしているとコーネリアと目が合う。この滞在期間の中で協力を仰いだエデンを除けば1番濃い時間を過ごしたのが彼女だ。
「コーネリアも元気でね」
「ありがとう存じます!」
私たちは王都へと帰還した。
その後、事件についてはエスペルト王国内を隈なく調査した。痕跡こそ見つかるものの正体までは辿り着かない。
目的も正体もわからない以上、警戒を続けるしかないだろう。
そして約3年が経つ。私は17歳になった。
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