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第8章 女王の日常と南の国々
44 地上への脱出
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剣士と魔術士の2人は意識を失っている。
殺さないように手加減こそしているが、それなりの打撃を与えてはいる。目が醒めたところで抵抗は難しいだろう。
それでも念のため、魔封じの腕輪と鎖によって二重に拘束した。
「シリウスに頼んで領兵たちを何人かこちらに送ってもらうようにお願いしたわ。アルキオネは敵の身柄を渡したあと、この商会の中を調査してちょうだい」
「かしこまりました。こちらはお任せください」
アルキオネをこの場に残すには理由があった。無力化していても逃げ出そうとするかもしれない。あるいは口封じのために狙われると言う可能性もある。
敵を確実に捕らえて商会の中を調査するには、アルキオネが1番最適だった。
「わたくしも協力させて下さい」
アルキオネと話しているとコーネリアが話しかけてきた。
その表情にはほんの少しの恐怖と覚悟が見て取れる。顔色を悪くしながらも力強い目をしていた。
「コーネリアは何ができるのかしら?」
「わたくしも魔術は扱えます。ここはグライアス領。わたくしたち領主一族には、皆を守らなければならない責務があります」
「…これは実戦よ?練習のように相手が手加減してくれるわけではないわ。それどころかルールなんて存在しない死と隣り合わせの場所。皆と一緒にいればわたくしが守る事ができる。けれど…皆を守りながら別で戦っている貴方を守ることはできないわ」
元々、私の戦い方は守り向きではない。
私の魔力では障壁を使って広範囲を防御することが難しいため、攻撃を向けられた時は全て斬り伏せることになる。
いくつか奥の手があっても少し離れた2箇所を同時に守ることは難しい。
「わたくしも守る側でいたいと思っています。力及ばないかも知れませんが…敵を倒す事ができなくても、せめて守ることはできるつもりです」
私が相手でも引くつもりは全くないらしい。最悪の場合は不敬と取られる可能性があったとしてもだ。
よく見ると膝が震えていて気力を振り絞っているように見えるが意思は硬そうだ。
「わかったわ。わたくしが前を進むからコーネリアは後ろから支援なさい。エデンは皆とコーネリアの防御に回って」
「かしこまりました」「お願いいたします!」
陣形が決まったことで私たちは地上を目指して歩いていく。
「思ったより静かですね」
「そうね…近くに敵の気配を感じないわ」
廊下を静かに歩いているが誰とも会う気配がない。
先ほどの戦闘からも私たちの事を知っているのは確実。このまま何もないはずがない。
私は探知魔術を行使する。
敵にこちらの存在が露見しているからこそデメリットを気にせずに使うことができる。
「敵は地上部分に集まっているみたいね。数はおよそ100人!」
今回の索敵範囲は建物を覆う程度に絞っている。魔力を探知した場合でも人数を絞り込むことは可能だった。
「了解した…この倉庫の造り上、地上階は吹き抜け上の大きな空間になっているはずだ。可能性としては一番高い…です」
エデンも他の商会の同じ造りの倉庫には足を踏み入れたことがあるらしい。ほぼほぼ確実だろう。
階段を抜けて地下から脱出する。扉を開けて広い空間に出ると多数の人影が見えた。1人だけ杖を持っていて他は短剣などの刃物を持っている。
「まさか地下から潜入されるとは思いませんでしたよ…しかもあの2人を倒すとは流石と言った所でしょうか」
黒髪の壮年の男性は杖を持ったまま話しかけてくる。すると男の言葉にコーネリアが「フィン…」と口にした。
「お嬢様も無事だったようですね」
男…フィンはコーネリアを見て物悲しげに微笑んだ。
その表情からはコーネリアへの敵意は感じることはできない。どちらかというと身を案じているような、けれど敵対する行動は変わらないらしい。
「フィンどうして…長い間仕えてくれたあなたが、どうしてこんなことを!?」
コーネリアが叫ぶように問いかけるがフィンは首を横に振るだけで口を開こうとはしない。
そして問答は終わったかのように杖を構える。
「コーネリア…話は全て終わったあとにしなさい。エデンは皆を外に連れて行ってもらえる?」
「外って言っても敵を突破しないことには…」
エデンは正面にある扉を眺めて呟いた。
見た限り近くにある出入り口は大勢の敵の後ろにある扉のみ。敵がここに集まっていると言う事は、ここを抜ける以外に外への道はないのだろう。
けれど道がなければ作れば良いだけだ。
私は宝石を1つ取り出して砕く。あふれた魔力を純粋に収束させて大きな球状に加工していく。
「させませんよ!」
大勢の人が短剣を片手に襲い掛かってくる。とはいえ敵と私たちの間にはそれなりに距離があった。短剣が届くまでの時間よりも私が攻撃するほうが速い。
「遅い!」
私は魔力弾を敵が誰もいない右側へ放つ。そして壁に着弾すると魔力が炸裂して轟音と衝撃を撒き散らした。
次いで土煙が舞うが外からの風で空気が洗い出されていく。煙が明けた場所には大穴が開いていた。
敵の中から「なっ…」と驚くような呟きが聞こえてくる。驚きのあまり敵の足も止まっているようだった。
「今の内に!」
私の言葉に反応したエデンが皆を連れて大穴のほうへ駆け出す。敵も逃がすまいとエデンたちを追おうとするが、コーネリアの放った雷撃が追ってを沈めた。
「わたくしもいますわ…諦めて投降なさい!」
敵もエデンたちを追っている途中で後ろから堪らないようで足を止めることに成功する。
その隙に身体強化で一気に加速すると敵とエデンたちの間に割り込んだ。
「たった1人くらい早く始末しろ!」
敵が短剣を構えて突撃してくる。
私はそれを1人ずつ斬り伏せることにした。敵の短剣は刃のない部分を拳や蹴りで叩き落していく。
「面倒ね…」
コーネリアと向き合っているフィンの近くに残っているのは10人。残りの90人くらいが私に向かってきていた。
負けることはないが1人ずつ意識を刈り取っていくには想定以上に時間がかかりそうだった。
「ふっ!」
私は身体強化の倍率を上げると膂力に任せて刀の峰を使って薙ぎ払う。遠心力も合わせた全力のフルスイングは、何人かの敵を巻き込みながら吹き飛んでいく。
私の近くにいた敵は、悶絶する声を上げ鈍い音を鳴らしていた。
更に宝石を1つ砕いて雷系統の魔術を行使する。放たれた雷撃がいくつかの稲妻となって敵の中心に着弾。
敵は悲鳴を上げながら体を痺れさせて気を失った。
殺さないように手加減こそしているが、それなりの打撃を与えてはいる。目が醒めたところで抵抗は難しいだろう。
それでも念のため、魔封じの腕輪と鎖によって二重に拘束した。
「シリウスに頼んで領兵たちを何人かこちらに送ってもらうようにお願いしたわ。アルキオネは敵の身柄を渡したあと、この商会の中を調査してちょうだい」
「かしこまりました。こちらはお任せください」
アルキオネをこの場に残すには理由があった。無力化していても逃げ出そうとするかもしれない。あるいは口封じのために狙われると言う可能性もある。
敵を確実に捕らえて商会の中を調査するには、アルキオネが1番最適だった。
「わたくしも協力させて下さい」
アルキオネと話しているとコーネリアが話しかけてきた。
その表情にはほんの少しの恐怖と覚悟が見て取れる。顔色を悪くしながらも力強い目をしていた。
「コーネリアは何ができるのかしら?」
「わたくしも魔術は扱えます。ここはグライアス領。わたくしたち領主一族には、皆を守らなければならない責務があります」
「…これは実戦よ?練習のように相手が手加減してくれるわけではないわ。それどころかルールなんて存在しない死と隣り合わせの場所。皆と一緒にいればわたくしが守る事ができる。けれど…皆を守りながら別で戦っている貴方を守ることはできないわ」
元々、私の戦い方は守り向きではない。
私の魔力では障壁を使って広範囲を防御することが難しいため、攻撃を向けられた時は全て斬り伏せることになる。
いくつか奥の手があっても少し離れた2箇所を同時に守ることは難しい。
「わたくしも守る側でいたいと思っています。力及ばないかも知れませんが…敵を倒す事ができなくても、せめて守ることはできるつもりです」
私が相手でも引くつもりは全くないらしい。最悪の場合は不敬と取られる可能性があったとしてもだ。
よく見ると膝が震えていて気力を振り絞っているように見えるが意思は硬そうだ。
「わかったわ。わたくしが前を進むからコーネリアは後ろから支援なさい。エデンは皆とコーネリアの防御に回って」
「かしこまりました」「お願いいたします!」
陣形が決まったことで私たちは地上を目指して歩いていく。
「思ったより静かですね」
「そうね…近くに敵の気配を感じないわ」
廊下を静かに歩いているが誰とも会う気配がない。
先ほどの戦闘からも私たちの事を知っているのは確実。このまま何もないはずがない。
私は探知魔術を行使する。
敵にこちらの存在が露見しているからこそデメリットを気にせずに使うことができる。
「敵は地上部分に集まっているみたいね。数はおよそ100人!」
今回の索敵範囲は建物を覆う程度に絞っている。魔力を探知した場合でも人数を絞り込むことは可能だった。
「了解した…この倉庫の造り上、地上階は吹き抜け上の大きな空間になっているはずだ。可能性としては一番高い…です」
エデンも他の商会の同じ造りの倉庫には足を踏み入れたことがあるらしい。ほぼほぼ確実だろう。
階段を抜けて地下から脱出する。扉を開けて広い空間に出ると多数の人影が見えた。1人だけ杖を持っていて他は短剣などの刃物を持っている。
「まさか地下から潜入されるとは思いませんでしたよ…しかもあの2人を倒すとは流石と言った所でしょうか」
黒髪の壮年の男性は杖を持ったまま話しかけてくる。すると男の言葉にコーネリアが「フィン…」と口にした。
「お嬢様も無事だったようですね」
男…フィンはコーネリアを見て物悲しげに微笑んだ。
その表情からはコーネリアへの敵意は感じることはできない。どちらかというと身を案じているような、けれど敵対する行動は変わらないらしい。
「フィンどうして…長い間仕えてくれたあなたが、どうしてこんなことを!?」
コーネリアが叫ぶように問いかけるがフィンは首を横に振るだけで口を開こうとはしない。
そして問答は終わったかのように杖を構える。
「コーネリア…話は全て終わったあとにしなさい。エデンは皆を外に連れて行ってもらえる?」
「外って言っても敵を突破しないことには…」
エデンは正面にある扉を眺めて呟いた。
見た限り近くにある出入り口は大勢の敵の後ろにある扉のみ。敵がここに集まっていると言う事は、ここを抜ける以外に外への道はないのだろう。
けれど道がなければ作れば良いだけだ。
私は宝石を1つ取り出して砕く。あふれた魔力を純粋に収束させて大きな球状に加工していく。
「させませんよ!」
大勢の人が短剣を片手に襲い掛かってくる。とはいえ敵と私たちの間にはそれなりに距離があった。短剣が届くまでの時間よりも私が攻撃するほうが速い。
「遅い!」
私は魔力弾を敵が誰もいない右側へ放つ。そして壁に着弾すると魔力が炸裂して轟音と衝撃を撒き散らした。
次いで土煙が舞うが外からの風で空気が洗い出されていく。煙が明けた場所には大穴が開いていた。
敵の中から「なっ…」と驚くような呟きが聞こえてくる。驚きのあまり敵の足も止まっているようだった。
「今の内に!」
私の言葉に反応したエデンが皆を連れて大穴のほうへ駆け出す。敵も逃がすまいとエデンたちを追おうとするが、コーネリアの放った雷撃が追ってを沈めた。
「わたくしもいますわ…諦めて投降なさい!」
敵もエデンたちを追っている途中で後ろから堪らないようで足を止めることに成功する。
その隙に身体強化で一気に加速すると敵とエデンたちの間に割り込んだ。
「たった1人くらい早く始末しろ!」
敵が短剣を構えて突撃してくる。
私はそれを1人ずつ斬り伏せることにした。敵の短剣は刃のない部分を拳や蹴りで叩き落していく。
「面倒ね…」
コーネリアと向き合っているフィンの近くに残っているのは10人。残りの90人くらいが私に向かってきていた。
負けることはないが1人ずつ意識を刈り取っていくには想定以上に時間がかかりそうだった。
「ふっ!」
私は身体強化の倍率を上げると膂力に任せて刀の峰を使って薙ぎ払う。遠心力も合わせた全力のフルスイングは、何人かの敵を巻き込みながら吹き飛んでいく。
私の近くにいた敵は、悶絶する声を上げ鈍い音を鳴らしていた。
更に宝石を1つ砕いて雷系統の魔術を行使する。放たれた雷撃がいくつかの稲妻となって敵の中心に着弾。
敵は悲鳴を上げながら体を痺れさせて気を失った。
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