王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第8章 女王の日常と南の国々

39 夜の領都

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 ニコラウスと話をしてしばらく。既に日が落ちて、街中を灯りが照らしている頃。

 今、私とアルキオネは街へと繰り出している。王立学園の時と同じように帽子を被ることで目立たないようにしていた。
 なおシリウスはニコラウスと共に領城の客室に残ってもらっていた。

「お嬢さん方…夜の街は女性だけで歩かない方がいいぞ。他の街に比べて治安が良いといっても最近行方をくらます女、子供が増えているんだ。出来れば昼間も男性と一緒にいたほうが良い」

 繁華街を見ていると近くにいた人から声を掛けられた。声のした方に顔を向けると露店でお酒を売っているおじさんだった。

「今日初めてこの辺りに来たので知りませんでした。行方が分からない人がいると分かっていて、衛兵たちは動かないのですか?」

 アルキオネが尋ねるとおじさんは「どうなんだろうな」と言葉を続けた。

「最近は衛兵たちの巡回が増えているが…いなくなった人たちが帰ってきたって話は聞いてないな」

 おじさんの話では、ここ一月ほどで行方をくらましたといった話が数回あったらしい。客から伝え聞いた話のようだが、行方をくらました人の家族が探しているのを実際に見たことと街を巡回している衛兵の人数が増えていることからも単なる噂話ではないらしい。

「私たちも気をつけるようにします。ありがとう」

「おう。気をつけてな」

 おじさんに手を振って分かれた後、更に街を見てみることにした。
 聞いた話を纏めると誘拐事件が起こっている可能性がある。今回の件に関係しているのかは分からないが、調査するしかないだろう。

「折角掴んだ糸口だから無駄にはしたくないけれど…見た限りでは怪しい人物はいないわよね」

「そうですね…視線も感じませんし不審な動きをしている人物もいません。もう少し人気の少ない場所に移動しますか?」

 アルキオネの言ったとおり人気の少ない路地裏のほうが怪しい人物がいる可能性は高い。もしかしたら私たちを誘拐しようと接触してくれることもあるだろう。

 しかし問題もあるわけで

「下手な行動をして敵に怪しまれたくないわ。まだやめておきましょう」

 わざわざ危険が多いといわれている路地裏に向かう人など、調査しているか好奇心に溢れているかくらいだ。
 私たちをただの平民と思ってくれればいいが、領城に招かれていることを知っている者であれば警戒するだろう。

「了解です。あと半刻もすれば10の鐘が鳴りますし、そうすれば大半の人は帰宅するでしょう。帰りましょうか?」

「そうね。今日はここまでしましょう」

 私たちはそのまま領城へ向けて歩き出した。



 しばらく歩いて繁華街を抜けた頃。
 なんとなくで見ていた王鍵の眼に怪しい影が映る。

「アルキオネ!さっきまでいた場所あたりの路地裏で襲われている子がいるわ。私が向かうから警備隊を呼んできて」

「かしこまりました」

 衛兵の宿舎に向かうアルキオネを確認しつつ、襲われていた場所へと急行する。

 身体強化を行使し屋根の上まで跳躍すると強化した脚力を持って屋根を飛び渡る。

「見つけた…」

 少しの間走り続けた私は、襲っていた人影を見つけた。人影が逃げている先へと先回りして地面へと降り、声をかける。

「あなたたち…その子を離しなさい。警備隊も呼んでいるから観念することね」

 人影は二人。どちらも覆面しているため顔は確認できなかったが、背はそれなりにあって全体的に細めの印象を受ける。
 よく確認すると全身を黒い装束で纏っているが認識阻害の魔術も込められているようだ。

「…」

 二人は少年を抱えたまま無言で佇んでいる。同時に私も動けないでいた。

 少年の身が向こうにある以上は、私にとって人質を取られるも同然。ましてや敵の力量が分からない状態で迂闊に仕掛けるのは得策ではないからだ。

 少しの間睨み合っていると遠くから数人の気配がしてくる。王鍵の眼を使って確認すると、その街の衛兵たちだった。先頭にはアルキオネも居て、ここまで案内してくれている。

 もう少しで膠着状態が崩れる。
 そう考えた私は一つの策を用意することにした。
 敵に悟られないように魔術を行使して、手持ちの小さめの魔石に魔術を刻んでおく。

 あと少しで数人がやってくる。
 その時になって、敵も気配が近づいてくるのに気づいたようだった。衛兵たちがやってくる方向に視線を向けた後、舌打ちする音が聞こえた。

 意識が私から逸れた一瞬。ほんの少しの間だが私にとっては十分な時間でもある。

「なにっ!?」

 身体強化を行使して一息で少年を抱えている人に近づくと、抱えている手に打撃を放つ。同時に少年に捕まえて、私の方は抱き寄せた。更に足払いをかけて敵の体勢を崩し、空いてる手で掌底打ちを放つ。

「面倒な!」

 もう一人の敵が私に魔術を放った。
 下級魔術による魔力の槍。発動速度を重視された槍は、高速で私の顔に目掛けて飛来する。

 私が動くよりもに槍の方が速い。回避は不可能だろう。

 私は小さい魔術障壁を構築した。槍の先端を覆う程度の極小さい障壁。
 しかし槍を防ぐには十分な大きさでもあり完全に防ぐ必要もない。

 魔術障壁と魔術の槍がぶつかり合ってガリガリと削る音がした。少しだけせめぎ合うと障壁がひび割れて、ガラスが割れる音と共に砕け散る。

 けれどその間が大事だ。その一瞬の間に私は少年を抱えたまま後方に跳躍。距離をとった。

「そこまでだ!大人しく投降しなさい!」

 衛兵たちが目に見える距離までやってきた。五人ほどの衛兵が通りを塞ぐように並んで、代表の一人が剣を構えながら呼びかける。

「仕方ないか…お前もしっかりしろ」

「すいません。動けません…」

 先程魔術を放った敵が蹲っている味方を起こして肩に担ぐ。

「逃がさな…なにっ!?」

 衛兵が無理矢理にでも止めようと近づこうとした所で、敵は頭上へと跳躍した。いくつもの建物を飛び越えて遠くへと消えていく。

「逃げられたか…お嬢さん無事かな?その子が誘拐されそうになっていた子なのだろう?」

「ええ。私が見た時には抱えられていたわ。多分だけど眠っているだけだと思う」

 脇に抱えている少年を見て呟くと、衛兵たちはほっとしたように胸を撫で下ろした。

「なるほどな…その子はこちらで保護しよう。お嬢さんにも話を聞きたいが夜も遅い。明日にでも話を聞きたいのだがよろしいだろうか?」

「いえ。このまま説明したほうが都合がいいわ。兵舎に案内してくれないかしら?」

 今の私は変装しているわけではないため正体はばれる。明日にしたところで領城に来てもらうことになるが、流石に衛兵たちに悪いだろう。
 協力してもらいたいこともあるため、このまま兵舎に向かったほうが都合が良かった。

「我々は構いませんが…では向かいましょうか」

 私たちは兵舎へ向かって歩みを進めた。
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